巻き込まれたおばちゃん、召喚聖女ちゃんのお母さんになる

戌葉

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1章 召喚編

10. 子離れ

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「マサコ殿、聖女様のことで至急話したいことがあるということだったが」
「王太子殿下をお嬢様の担当から外してください」
「何故です!」

 ついてきた王太子が抗議しているけど、ちょっと黙っていてくれないかな。

「パーティーには参加しないと何度も言っているはずです。お嬢様も断っているのにしつこく成人のパーティーを大々的に開こうと仰るなど、何をお考えですか」
「聖女様にお目にかかりたいというのは多くの貴族から要望が上がっている」
「それはそちらの都合であって、こちらの希望ではありません」

 どうしてもと言うから、一度だけという約束でお披露目パーティーに出たのだ。理沙ちゃんは壇上に座って一切しゃべらなかったけど。一回出たから粘ればまた出るとでも思っているのか。

「とても素敵なドレスだと聞いている。その姿を見たいと思う我々の気持ちも汲んでほしい」
「その姿を一番見せたいご両親には見せられないのに、なぜ貴方たちに配慮する必要があるのですか」
「……」
「あのドレスは、お嬢様が着る予定だった衣装をアレンジしたものです。本当の衣装には、もう二度と袖を通すことができないのですから」

 まさか、勝手に連れてこられた恨みはすでに解消されたとでも思っているのだろうか。
 だとしたら、あまりにも想像力が足りないし、無神経だ。

 理沙ちゃんはお姉さんの着た振袖を着る予定だったと言っていた。話の中で出た色と柄を使って、その振袖に近い感じで仕立ててもらったのがあのドレスだ。
 理沙ちゃんはその振袖を着ることは二度とできない。
 そして、理沙ちゃんの晴れ姿を一番見たかっただろうご両親も見ることができない。
 祐也の成人式の日、スーツを着た祐也と家の庭で写真を撮った。その写真を見て、きっと夫もこの姿を見たかっただろうなと涙したものだ。理沙ちゃんのご両親の気持ちを思うとやりきれない。

 なのになんで、ただ聖女様を見たいというだけの全く知らない人に見せなければいけないんだ。そういう状況を作ったのは、誰なんだ。
 さすがに私が何に怒っているのか分かったのか、王様はパーティーは開かないと約束してくれた。

 ただ、窓口は王太子というのは変わらない。王様はいつか退位するので、年齢が近い王太子が対応するということだが、まだ王太子と結婚してほしいというのを諦めてないんだろう。いい加減望みが薄いことに気付けばいいのに。
 今後は、許可もしていないのに勝手に部屋に入ったり、同席しようとするようなことはしないでくれと釘を刺しておいた。

 ちなみにやたらとパーティーを開きたがったのは、パーティーを開いて国内のイケメン貴族を参加させて、理沙ちゃんが誰かに恋をしてくれればという目論見があったということを、後で知った。


 理沙ちゃんと私の肖像画は、私のドレスができてから描いてもらった。同じポーズで座っているのはなかなか大変だった。
 そして出来上がった絵は、それはもう忠実に見たままを再現して描かれていた。最初に見せたスマホの写真がそうだったから、ワザとそうしてくれたらしい。
 つまり、私の肌がね……。そこは気を使ってくれてよかったのよ!

「政子さん、本当に親子みたいで嬉しいです」
「私も娘ができたみたいで嬉しいわ」

 いい子だ。本当にいい子だ。
 だからこそ、これ以上この子にしがみついているのはやめにしよう。

「理沙ちゃん、私、お城を出るわ」
「え、政子さん、なんでですか?私何かしました?!」
「違うわ。せっかく異世界だもの。新しいことしたいの」

 この世界に来てから約半年、理沙ちゃんはちゃんとこの世界で自分の居場所を作った。女性騎士の若い子とも仲良くなったし、いつまでも私が守る必要はない。そろそろ鬱陶しがられてもおかしくない。

「……そうですね。寂しいですけど、政子さんには政子さんの人生がありますよね……」
「理沙ちゃん、私はこの世界での貴女のお母さんよ。だからいつでも頼ってくれていいの。これからだってちょくちょくお城に来るわ。でも、私も子離れしなきゃ」

 お城にはいつでも入れるように、許可をもらっている。例えそれが嘘でお城から締め出されても、浄化の旅に出る理沙ちゃんと会うことはできる。
 だから、私はお城を出て、この世界を見てみよう。

「それでね、理沙ちゃんに一つお願いがあるんだけど」
「なんですか?」
「私に敬語使うのはやめよう。お母さんだからね」

 理沙ちゃんを見捨てる訳じゃない。
 お城の中にいては知ることのできない普通の生活を知りたいのだ。

「お母さん、じゃあ私のことも理沙って呼んで」
「理沙、私はちょっと冒険してくるわね。お仕事頑張ってね」
「いってらっしゃい。でも会いに来てね」
「もちろんよ」

 理沙ちゃんがいたから、こんな訳の分からない状況に巻き込まれても、正気を保っていられた。
 理沙ちゃんを守らなければと思っていたから、偉い人たちにも立ち向かうことができた。
 理沙ちゃんは、理沙は、私の可愛い娘だ。
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