魔法陣に浮かぶ恋

戌葉

文字の大きさ
74 / 77
SIDE ジョフリー2

4. 叔父と甥の会話4

しおりを挟む
 エリサの要望で、森の入り口まで魔物を見に連れていった。
 もうここまできたら、辺境の実態を見せて、その後どうするかエリサに選ばせたほうがいい。
 そこでエリサは、傭兵に魔女と呼びかけられても気軽に応じて、魔法陣を披露した。
 傭兵は、金銭で戦闘力を提供する者だ。つまり、金銭で簡単に寝返る。だから、あまり信用されていないし、中にはスパイもいるから、傭兵とは距離を置く者も多い。ただこの領は傭兵に助けられているので、家臣たちにはなるべく波風を立てないように言ってある。
 そんな中、エリサは相手が傭兵と知りながらも、特に身構えることなく話しかけ、要望に応えて魔法陣を書いた。そのことはあっという間にうわさとして広がるだろう。

 魔女とは、怪しげな術を使う女のことだが、魔物のような女という意味でつかわれることもある。アニエスは、後者の意味でうわさを広げたかったのだろう。
 だが、エリサが城下で子どもたちに小さな照明弾を披露したことで、うわさは落ち着きつつある。今回のことで、さらに下火になるだろう。それを狙って許可を出した。ただ、魔女という呼び方だけは残ってしまいそうだが。

「森では問題なかったか?」
「はい。たくさんの護衛をありがとうございました」
「嬢ちゃんを近くで見たいという奴らが立候補したんだよ」

 襲撃の際の指揮に加え、魔法陣の供給、さらに魔女のうわさで、実物を見たいという兵が続出したらしい。

「森では、魔女と呼びかけられて、魔女を怒らせると魔法陣を渡さないと返事していましたよ」
「あのうわさには怒っていないのか?」
「呼び方は気に入っていますね。侮蔑の意味でも使われることを知らないようです。それよりも、魔法陣のことが外に漏れたことに怒っていました。機密管理がなっていないことが許せないようです。クレッソン男爵家は商会ですから、そのあたりは厳しいでしょう」
「アニエスに任せっぱなしで、私が城内のことに気を配らなかったからだな」
「仕方ありませんよ」

 とはいえ、エリサの能力が城外へ漏れたのは、不味い。王宮や隣国のスパイの目を引いてしまう。王都に帰っても、エリサの身辺には気をつけなければならない。
 そして、その原因を作ったアニエスを許すことはできない。動機がただ娘のクロエを日の当たる場所にいさせるためだとしても、やったことは辺境への裏切りだ。もう少し賢いと思っていたが、子どものためとなると、道を誤るのだろうか。

「ダンカンからアニエスとの離縁の申し出があった。離縁はともかく、城からは出す」
「そうですか。エリサが王都にいる間はどうするのですか?」
「クロエに任せる。クロエは反省して、心を入れ替えるらしい」
「ピエール、そうなのか?」
「魔物襲撃の際、的確に指示を出すエリサ様を見て、敵わないと悟ったそうです」

 権力には責任が伴う。
 あの襲撃で魔物が城に押し掛け、被害が出たなら、エリサが責められることになった。クロエはその責任を負うことまでは考えていなかったのだろう。

「エリサは、クロエに同情的ですよ。辺境伯家の犠牲になったのだと」
「犠牲、か」
「ええ。ピエールが王都にいるのに自分は危険のある辺境に残され、さらに王都から来た小娘に仕事を取られたら、八つ当たりしたくもなると言っていました」
「嬢ちゃんが優しくて助かったな、ピエール」

 どうだろうか。優しさではなく、他の適任者を探すのが面倒なだけのような気もする。
 エリサについて知れば知るほど、エリサは貴族令嬢ではなく、商人だと思う。感情ではなく、自分に利があるかないかで判断していると感じる。

「で、嬢ちゃんは辺境にいてくれそうなのか?」
「はい」
「魔物を見てもまだ揺らがないとは、肝が据わってるな」
「想像していたよりも普通だったそうです」

 正直何を想像していたのかまったく分からないが、無理しているわけでもなかった。
 エリサが辺境にいて、魔法陣を安定的に供給してくれれば、この魔物の増加も乗り切れるだろう。

「叔父上、ここ十年の討伐報酬の記録を見せてください」
「構わんが、不正はないぞ? そこは一番厳しく見張っている」
「魔物がどれくらい増えているのか、討伐報酬から分かるのではないかと、エリサが」
「あの嬢ちゃん、いったい何者だ?」

 今回の訪問で、実際にジョフリーも魔物の増加を実感しており、そこにさらに討伐報酬の増加を数字として見せれば、国も信じざるを得ないだろう。

「王都の兄上にも毎年送っているから、領の管理するものはそちらで調べてくれ。こっちは傭兵に何かそういう変化が分かるものがないか聞いてみる」
「お願いします」

 辺境が魔物の跋扈する地となってしまえば、穀倉地帯である隣の領に影響が出る。それは国として避けたい事態なので、場合によっては騎士団が動くことになるかもしれない。
 どこまで辺境で対応できて、どこから国に助けを求めるのか、冷静に見極めなければならない。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。

パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。 将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。 平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。 根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。 その突然の失踪に、大騒ぎ。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

谷 優
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

処理中です...