92 / 114
メガネスーツ女子とジャガイモとトイレ問題
頁44:伝説級とは 1
しおりを挟む「ひろっさんおはーっス」
「おはようございます。飲み過ぎで体おかしくなったりしてませんか?」
しれっと朝の挨拶を交わす。
「目の前に見えてる物が現実じゃなかったら多分おかしくなってると思うが…お前さん達にも見えてるよな?」
「え? 何が?」
「何の事でしょう?」
「堂々と嘘を吐くんじゃないよぉぉぉぉぉ!!」
ちっ。流石にそこまで騙されてはくれないか。
「私達もさっき起きたばかりでして…。そしたらこんな物が現れてて、彼と何が起きたのかって話していたんですよ」
「お前さん達の国でも分からない現象なのか?」
「『私達の国』と言うか、一晩でこんな樹が育ったり大きな石が現れていたらどこだって大騒ぎですよ…」
「むむ…そりゃそうだな。そうか…こいつは『樹』って言うのか…」
ひろしさんは樹と石をぺたぺた叩いたり触ったりして調べている。ああ、『杉』は登録したけれど『樹』という括りは未登録だったっけ。
「何の変哲も無い『 』と石、だよなぁ…? なんだってこんな…」
さて、どうしようか。すると神々廻さんがそっと私をつつく。無言で彼を見るとなにやら自分を指差し、サムズアップ。
何か策があるという事だろうか?
あまりにも自信満々そうにしているので取り敢えず任せてみる事にした。
「ひろっさん…もしかしたら、なんだケドさ…」
「うん?」
テンション落とし目で切り出す神々廻さん。
「これはウチの国っていうかオレのばっちゃんから聞いた昔話なんだけど…」
「昔話…?」
そう来たか。
「死んだ人達を弔った後にゴクマレに現れるモノってのがあるんだって。なんでそんなモノが現れるのかはハッキリしてないみたいだケド…共通しているのは敵対生物に襲われたり不慮の事故で死んでしまった人の埋葬後らしいヨ…」
「なん…だって…!?」
ひろしさんがゴキュッ!と生唾を飲み込む音が聞こえた。
どれだけ大量に飲み込んだのだろう。音がすごい。
「生前とても幸せだったり未練が大きい人の魂が抱える悲しみや苦しみを吸い込んで浄化する為に、一気に大木に成長する樹の噂をオレも聞いた事があるんだヨね…」
「じゃあ…この樹が…!? 確かに死んだあいつらは毎日そりゃ楽しそうにしてたし…しょういちの奴は息子の事を…」
うん? しょういちさん、という名前には聞き覚えがあった。
確かよしこさんが言っていた、犠牲になった夫婦の旦那さんの名前が確か…。
「なら、隣のこのデカい石は───」
「下手に触らない方がイイよ! それはきっと……集まり集まって固まった… 怨 念 の 結 晶 だと思う…!!」
「ヒィッ!」
…何と言うか、冒涜もいい所だ。本当にごめんなさい。
「ど、どうしたらいい!?」
「祈るのじゃ…! 安らかにお眠り下さい、私達を見守っていて下さい、この村をお守り下さい…と!!」
要求してばっかりか。それとその口調なによ。
「そして、その石は鎮魂と感謝の気持ちを込めて磨くのじゃ…! 邪な気持ちで磨けば災いが降りかかるじゃろう…!!」
「けど磨く為って言っても触っても大丈夫なのか!?」
「ダマらっしゃい!! 言い訳していいワケ!?」
「は、ハイすいません!! 村人全員で毎日の日課にしますッ!!」
私は一体何を見せられているのだろうか。駄洒落まで聞かされて。
「──────ハッ…? お、オレちゃんは一体…? ひろっさん、もしかしてオレ…なんかやっちゃいました?」
「にーちゃん、まさか覚えてないのか…?」
「覚えて…? そういやァ『光り輝く誰か』がオレちゃんの中に入って来たような…ハテ??」
「な…なんてこった…! こりゃあ…お告げだ……! にーちゃんに降臨した『 』のお告げだぁぁぁぁ!!!」
ひろしさんはそう叫びながら走って行ってしまった。
叫びの中に無音が挟まっていたけれど、確か昨日もよしこさんから『 』の思し召し、という言葉を聞いた。恐らくは同一の物だろうか。前後の文章からするに宗教的な匂いがする。現在の世界にも信仰的な概念があるという事だろうか?
ひろしさんの足音が遠のいて、辺りに一時の静寂が舞い戻る。
「へへっ、ドーヨ? オレちゃんの演技は!」
「30点」
「馬鹿な!?」
やり過ぎ。
「大事にしてどうするんですか。収拾付かなくなりますよこれ」
「そんなァ…。ちなみに何点中?」
「2000点」
「赤点以下ジャン!?」
はぁ…。私だって彼に任せてしまった以上は責任がある。ならば虚構を現実にしなければ。
「神々廻さん、【承諾】お願いします。早く本を開いて!」
「え? あ、ハイ!」
言われるがまま【辞典】を開く彼。
システムメッセージの先頭に表示された【提案】の意味を理解してくれるだろうか。
「あ…。えと、承☆諾!」
「うるさいです!」
《 個体名/植物:リバース・ツリー が承諾され、世界に登録されました。》
名を得た樹がギシッと軋んだ気がした。いや、間違いなく揺れ動いている。
ぼやけた輪郭は鮮明さを増し、幹が、枝葉が、その名の意味を現すかの様に柔らかくも力強さを感じる形へと姿を変えていった。
(次頁/44-2へ続く)
0
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説


冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる