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メガネスーツ女子と死後?の世界
頁28:二周目前の検証実験とは 2
しおりを挟む「あの、これって…」
「え?」
言い掛けて、やめた。そうか、後付けなのはそういう理由か。
以前この本に急に検索機能が追加された事があったが、その時は私が『検索機能があればいいのに』と呟いた直後だった。あまりにもタイミングが良すぎるから実は会話を聴かれているのでは?と冗談で思ったが、どうやら冗談ではなかったらしい。
『検索機能が欲しい』も『いざという時は【力】で』も『回転体の体当たりを壁際で封じる』も、我々は声に出して会話していた。
聴かれているのだ、恐らくは。
ならば検証してみる必要がある。もしこの仮説が本当であるなら今後の身の振り方が180度変わる可能性も視野に入れなければならない。
「ねえ、何なのヨ??」
私は猿でも分かるように人差し指を唇の前に立てて、無音で『シー!』とサインを送った。ついでに鋭い視線でダメ押し。
本のチャット機能で話そうとも思ったが、本自体が監視のツールである可能性も高いので。
「───!? …(恐る恐る首をコクコク)」
「ちょっと本に追加して欲しい機能を思い出しまして…」
喋ってはいるが、彼に向けた『喋るな』のサインは解かない。
私は正座のままなるべく音を立てない様に彼の近くへ移動し、虚空の穴を開けると目的の物を召喚する。
所でどうして私が近付くとビクッとするんだろうこの人…?
「???」
彼が混乱するのも無理は無いかもしれない。
私が取り出したのは硯と墨汁のボトル、そして糊を落とした細書きの毛筆だった。『糊を落とした』という詳細まで思うままに呼び出せるのは非常に便利だ。
硯に静かに墨汁を注ぎ、毛筆をひたす。糊を落としてある指定にしたのは無駄な工程を省きたいのと余計な音を立てたくないからだ。
「辞典とはいえ、文字ばかりだと見た目に華が無いですし飽きると思うんです。まあそもそも私達以外にこの辞典を読む人間がいるのかは分かりませんけど…。我々の時代の辞典って電子化が進んでいて調べたい物に対して必ずと言っていい程にアレが付いているじゃないですか。ええと、何でしたっけ…ド忘れしてしまいました…」
勿論、忘れてはいない。喋る文字数をわざと増やして時間を稼いでいるだけだ。文字を書く為の。
喋りつつ、私は真っ白な地面にサラサラと文字を認めていく。内容はこうだ。
◆◆ 私が「何でしたっけ?」とたずねたら、「あ、分かった、カメラ機能か!」と言って下さい。
※ここから先に書く文章は無視して下さい。検証実験ですので。
五千兆円欲しい 有給10年欲しい 社長の奥さん何とかして殴りたい 地上の探索拠点が欲しい。出来れば移動可能なでかいやつ 飛ぶ眼をペットにしたい でも次は勝ちたいので釘バット欲しい エトセトラエトセトラ… ◆◆
書き並べた文章に特に意味は無いが、もしこの中の要望のいずれかが通れば盗聴ではなく盗撮されていると言う事になる。
神々廻さんが青ざめてる気がするけどどうしたのだろうか。まさか実験がバレたか…? でもそれならそれで止まれない。
「ええと…何でしたっけ?」
目でチラッと合図を送る。
ビクッとしてから恐る恐る口を開く。
「『…ひゃ、分きゃった、カメリャ機能りゃ!!?』」
なんだその噛み具合。大根役者も裸足で逃げるわ。
突っ込みたいのを我慢して何事も無いかの様に続ける私。役者もイケるなんて優秀。
「そうでした、カメラ機能。画像付きの辞典だと見た目も素敵ですよね。そういう機能って無いんですかね」
すると私の【本】が虚空から飛び出した。来た…!
《 画像記録機能が追加されました。本に触れた状態で、複写したい風景を四角く切り取るイメージを浮かべ『保存』と唱える事でその瞬間の風景を静止画として保存する事が可能です。》
「あ、最近は静止画だけじゃなくて動画資料とかもありましたっけ。より詳細な説明が出来て便利ですよね~。動画機能も」
《 動画記録機能が追加されました。本に触れた状態で『動画』と唱える事で、その瞬間から唱えた者の視覚に映った映像及び音声の記憶を任意のタイミングまで動画として保存する事が可能です。》
食い気味で追加された。思うままじゃないか。
もうこれでほぼ確定した。我々の音声会話は盗聴されている。
誰に? それは…ちょ、ちょ、【超GOD】さん…とやらにだ。盗聴であって盗撮ではないのは何故だろう。何でもアリならばその方が監視にはもってこいだと思うのだけど…。まあ今は理由を想像しても仕方ないか。
「わぁ、見て下さいよ神々廻さん。カメラ機能が追加されましたって。タイミング良いですね。試しに…本に触れた状態で…『保存』」
カシャッ。
カシャって。カメラじゃないでしょうに。
「保存先は…専用のページが出来てますね」
真っ白い地面とキャンプ仕様の薄暗い空。何て風情もへったくれもない写真だろうか。だけどこの機能自体はいずれ役に立つだろう。追加されたなら有難く使わせて貰おう。
「この画像、神々廻さんの本でも共有出来てます?」
「ひゃ、ひゃい! できてまひゅ!!」
いつまで固まってるんだろうこの人。
「いきなりどうして固まってるんですか? ふざけてるならぶっ飛ばしますよ」
「サーセンしたぁぁぁぁ!!!」
よし戻った。とりあえず検証は終わったので地面の文字と使用した道具を全て【力】で証拠隠滅する。
あとは盗聴に関しての最終確認だ。
私は本をそっと地面に置くと、靴を脱いで音を立てない様にその場から離れる。神々廻さんはまだ実験が続いているのを察してくれた様で今度は黙ってこちらを見ていた。
体感で50m程離れただろうか。ここにいない神々廻さんに向かって話しかけている体で呟く。気持ち声のボリュームを落として。
「そういえば…本をしまい忘れてそのまま放置して、結果的に無くしてしまった場合ってどうなるんでしょうね?」
…周囲に明確な変化が無かったので無音の速足で戻り、本を確認してみる。
予想通りヘルプページに説明文が追加されていた。
《 創造者及び編纂者 が当本を紛失した場合、他生命体もしくは自然現象等によるダメージを与えられなければ一定距離を離れた/一定時間を経過した時点で自動的にインベントリーに格納される。》
また変な空白。意味があっての物だろうか。
「インベントリー?」
「ええと、アイテム欄と言うか、持ち物をしまっておく場所? みたいな? 箱ティッシュ(しっとり触感)を呼び出した穴じゃなくて、本が出入りする時に開く方の穴って言えばいいのかナ? 分かりにくいケド」
ああ、シュウさんが拾った物を放り込んでいた穴か。何となく理解した。
そして───盗聴に使われているのは本ではなく、私自身であるという事も。
本が収音装置であるならばあの距離で口にした音が拾える訳が無い。
「成程、色々と理解出来ました」
下調べが長くなってしまったが…本当に気になっていたのはあのメッセージだった。
《 全滅によるペナルティーが『 』に課されます。》
(次頁/29へ続く)
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