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第六章 芽生えた感情

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――夢の中で洗濯機の音がする。
隣の家の洗濯機は、壊れかけているのか脱水になると騒音レベルの音を立てる。
その音が壁を伝わり我が家に届くのだ。
昼過ぎに起きるのか、洗濯機の音がするのは大体十三時ごろだ。

「……――え?」

目を開ける。まだ意識はぼんやりとしていて、頭が働かない。
体が温かいなにかに包み込まれていて気持ちがいい。ふわっと甘いムスクのような匂いがする。
心地よくて落ち着く匂い。今日はどうせ休みだし、もう少しだけ眠ろうとしたときだった。

「え。なにこれ」

視界にネクタイとYシャツが飛び込んできた。私の体に回るものが何か確かめるために首をひねる。
その時、見覚えのある高級時計が目に映った。

「なんで!?」

私の体に回っているのは伍代さんの腕だった。私はベッドの上で彼に抱きしめられながら眠っていた。
筋肉質な伍代の腕から逃れる様に体を起こそうとすると、「起きた?」という声がした。

「なっ、なっ、なんで伍代さんがうちに!?」
「分からない。ただ、もう少しだけこのままでいさせて」

伍代さんは私の腕を引っ張って再び私の体をベッドに引きずり込んだ。
ギュっと体を抱きしめられて、目を白黒させる。

「実は、昨日の夜タクシーに乗り込んだあとの記憶が曖昧なんだよね。酔ってはいなかったんだけど、相当疲れてたから」
「わ、私も記憶が定かじゃありません。タクシーの中でウトウトしてて……それで気付いたら今の状況だったので」
「まあ、いいか。今日は休みだし、もう少しこのままでいよう」

抱きしめ合いながら言葉を交わす今の状況に頭がついていかない。

「なっ!いや、こんなの無理ですよ!」
「さすがに寝起きの実咲を襲ったりしないよ」
「そうじゃなくて……」

この状況を私が耐えられないんです!!と心の中で絶叫する。
仮にも意識している相手とベッドの中で抱き合っている今の状況はいろいろとありえない。
それに、こうやってまた伍代さんに抱きしめられるとあの日の熱が蘇りそうになってしまう。

「こんな最高な目覚めはないな」
「いえ、昨日からシャワーも浴びずだし、私はメイク崩れてドロドロだし最悪な目覚めですよ」
「そんなの気にしないでいいよ」
「気にするなって言われてもしますから!!」

必死に抵抗してベッドから這い出ると、着替えを用意する。

「シャワーを浴びてくるのでここにいてください。むしろ、このまま帰ってもらっても結構ですので」
「シャワー浴びるなら、俺も一緒に入っていい?」
「なっ、ふざけるのもいい加減にしてください!」

そう叫んだと同時に、ブーッブーッというバイブ音が部屋の中に響いた。

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