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第六章 芽生えた感情
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音は床の上のバッグからしているようだ。
慌てて駆け寄りスマホを取り出すと、画面には奈々子の名前が表示されていた。
「もしもし、奈々子?どうしたの?」
スマホを耳に当てると、「実咲、あたしを助けてぇぇぇ!!」と電話口で奈々子が絶叫した。
「……――ということで、奈々子の娘ちゃんを預かることになりました」
急な仕事の修正依頼に対応するために、娘の春ちゃんを預かってほしいというお願いだった。
ベビーシッターや休日託児所に連絡を入れたものの、どこもいっぱいで受け入れてもらえなかったと奈々子が私にSOSを出したのだ。
春ちゃんとは何度か会ったことがあるし、こうやって預かるのもこれが初めてではない。
奈々子がシングルマザーとして頑張っているのは傍にいて知っているし、協力できることならばしてあげたいと常々思っていた。
ただ、いつもと少し事情が違う。
今回の仕事は数時間だけ春ちゃんを預かったくらいで終わるようなものではないらしい。
「いつまで?今日だけ?」
電話の内容を把握した伍代さんはさっさとベッドから出ると、身支度を整え始めた。
「いえ、明日の夕方までの予定です。ここに連れてきて、お泊りさせます」
隣の部屋の住人の洗濯機がようやく止まった。と思ったら、今度は掃除機をかけ始めた。
壁に掃除機のヘッドが当たっているのか、ドンドンッという音が響く。
こうやって部屋の掃除をし始めた日の夜は、必ず友人などを大人数連れて来てどんちゃん騒ぎをする。
何度かアパートの管理会社に話をしたものの、一向に改善される気配はない。
「新村さんのお子さんは何歳?まだ小さいんだっけ?」
「二歳です」
「二歳か。ママと離れて泣いたりするかもしれないな」
「まあ、それはなんとかなだめて……」
すると、伍代さんがにこりと笑った。
「子供の面倒見るの、得意そうには見えないけど大丈夫?」
「なっ、失礼な……」
言い当てられて顔をしかめる。
確かに私は子供の相手をするのが苦手だ。だからといって嫌いなわけではない。
一人っ子だったせいで兄弟もおらず、どうやって接したらいいのかよくわからないのだ。
「その反応、やっぱりそうなんだ?」
「確かに得意ではありませんけど、しょうがないじゃないですか。奈々子のピンチだし、私にしてあげられることってそれくらいしか……」
奈々子は私にとってかけがえのない親友だ。
その親友が困っているなら、力を貸してあげたいと思うのは当たり前のことだ。
「そうか。じゃあ、俺も一緒に面倒をみるよ」
「……はい?」
「一度、家に帰ってシャワーを浴びて着替えたらまたこのアパートに実咲を迎えに来る。そのあと、新村さんの家に行って春ちゃんを預かろう」
「いやいや、大丈夫です!私だけでもちゃんと責任を持って春ちゃんを預かれるので」
「じゃあ、出来るだけ早く迎えに来るから。実咲も準備して待ってて。家を出るときに電話するね」
「ちょっ、ちょっと伍代さん!私の話聞いてます!?」
「もうタクシーが着いたみたいだから、行くね。また後で」
玄関先へ行き、革靴を履く伍代さん。
話をしている最中に、スマホの配車アプリを利用してタクシーを呼んでいたようだ。
いくらなんでも仕事が早すぎる。
ひらひらと手を振って出ていく伍代さんの背中を唖然と見つめる。
私と伍代さんが二人で春ちゃんの面倒をみることになるなんて……。
できることならば、彼とは距離を置きたかった。
今ならまだ、自分の気持ちにブレーキをかけられると思っていたから。
それなのに……。
「ハァ……」
私は盛大に溜息を吐いたのだった。
慌てて駆け寄りスマホを取り出すと、画面には奈々子の名前が表示されていた。
「もしもし、奈々子?どうしたの?」
スマホを耳に当てると、「実咲、あたしを助けてぇぇぇ!!」と電話口で奈々子が絶叫した。
「……――ということで、奈々子の娘ちゃんを預かることになりました」
急な仕事の修正依頼に対応するために、娘の春ちゃんを預かってほしいというお願いだった。
ベビーシッターや休日託児所に連絡を入れたものの、どこもいっぱいで受け入れてもらえなかったと奈々子が私にSOSを出したのだ。
春ちゃんとは何度か会ったことがあるし、こうやって預かるのもこれが初めてではない。
奈々子がシングルマザーとして頑張っているのは傍にいて知っているし、協力できることならばしてあげたいと常々思っていた。
ただ、いつもと少し事情が違う。
今回の仕事は数時間だけ春ちゃんを預かったくらいで終わるようなものではないらしい。
「いつまで?今日だけ?」
電話の内容を把握した伍代さんはさっさとベッドから出ると、身支度を整え始めた。
「いえ、明日の夕方までの予定です。ここに連れてきて、お泊りさせます」
隣の部屋の住人の洗濯機がようやく止まった。と思ったら、今度は掃除機をかけ始めた。
壁に掃除機のヘッドが当たっているのか、ドンドンッという音が響く。
こうやって部屋の掃除をし始めた日の夜は、必ず友人などを大人数連れて来てどんちゃん騒ぎをする。
何度かアパートの管理会社に話をしたものの、一向に改善される気配はない。
「新村さんのお子さんは何歳?まだ小さいんだっけ?」
「二歳です」
「二歳か。ママと離れて泣いたりするかもしれないな」
「まあ、それはなんとかなだめて……」
すると、伍代さんがにこりと笑った。
「子供の面倒見るの、得意そうには見えないけど大丈夫?」
「なっ、失礼な……」
言い当てられて顔をしかめる。
確かに私は子供の相手をするのが苦手だ。だからといって嫌いなわけではない。
一人っ子だったせいで兄弟もおらず、どうやって接したらいいのかよくわからないのだ。
「その反応、やっぱりそうなんだ?」
「確かに得意ではありませんけど、しょうがないじゃないですか。奈々子のピンチだし、私にしてあげられることってそれくらいしか……」
奈々子は私にとってかけがえのない親友だ。
その親友が困っているなら、力を貸してあげたいと思うのは当たり前のことだ。
「そうか。じゃあ、俺も一緒に面倒をみるよ」
「……はい?」
「一度、家に帰ってシャワーを浴びて着替えたらまたこのアパートに実咲を迎えに来る。そのあと、新村さんの家に行って春ちゃんを預かろう」
「いやいや、大丈夫です!私だけでもちゃんと責任を持って春ちゃんを預かれるので」
「じゃあ、出来るだけ早く迎えに来るから。実咲も準備して待ってて。家を出るときに電話するね」
「ちょっ、ちょっと伍代さん!私の話聞いてます!?」
「もうタクシーが着いたみたいだから、行くね。また後で」
玄関先へ行き、革靴を履く伍代さん。
話をしている最中に、スマホの配車アプリを利用してタクシーを呼んでいたようだ。
いくらなんでも仕事が早すぎる。
ひらひらと手を振って出ていく伍代さんの背中を唖然と見つめる。
私と伍代さんが二人で春ちゃんの面倒をみることになるなんて……。
できることならば、彼とは距離を置きたかった。
今ならまだ、自分の気持ちにブレーキをかけられると思っていたから。
それなのに……。
「ハァ……」
私は盛大に溜息を吐いたのだった。
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