侵入者 誰が彼らを殺したのか?

夜暇

文字の大きさ
12 / 68
第二章 真琴の寝室

しおりを挟む
 若月は暗闇の中、一人息を整えていた。
 危なかった。あの時、志織の部屋の扉をノックしていなければ、どうなっていたか。彼女がすぐに扉を開けてくれなければ、若月は清河に見つかっていただろう。
 志織が扉を開けると同時に、咄嗟に腰をかがめたことで、若月の体は扉の陰にすっぽりと隠れた。そのまま忍び足で、隣の真琴の部屋まで引き返す。足音は聞こえない。廊下にカーペットが敷かれていることが幸いした。
 志織は言っていた。真琴の部屋は、普段から鍵がかけられているという。今日もそうならそれまでだったが、若月は藁にもすがる思いで、ドアノブに手を伸ばし、捻った。
 扉が開いたその瞬間、喜びと焦りで心臓が大きく高鳴った。今でもその余韻が残っている。危機は去ったというのにだ。
 室内は真っ暗闇だった。何も見えない。物音は聞こえない。人気もない。
 電気を点けたい。これでは何も見えない。勝治の部屋の構造から考えると、ベッドの読書灯のスイッチが、入り口横付近にあったはずである。手探りで壁伝いに探すと、数分後にそれらしき突起が手に当たった。若月はそれを押した。
 途端に視界が白く、明るくなる。目が眩んだが、徐々に慣れてくると、室内の状況を知ることができた。勝治の部屋同様、ベッドが二つに大きなクローゼット。幅二、三メートルはある本棚が二列。棚には端から端まで、みっちりと本が敷き詰められている。
 入り口から真っ直ぐ進んだ先には窓があった。今は夜のためか、厚手のカーテンと薄いレースのカーテンが、きちんと閉め切られている。完璧ではないが、室内の灯りが外に漏れることを防いでくれている。窓付近には木のデスク。机上には何も無い。
 ひょんなことから、この部屋に入ることになってしまった。今、ここには用が無い。寄り道している場合では無い…のだが。
 ——彼の部屋に入ると、誰かに見られている気がするのよね。
 志織の言葉が頭の中で蘇る。何者かの視線。それを感じるのはこの場所だという。若月は室内を見回すも、一見して怪しい所は見当たらない。もちろん、視線も感じない。
 志織の勘違いということも考えられる。しかし、若月は何故か心に引っかかっていた。
 少し、調べてみようか。
 ただ、件の視線を確認するため、ここに志織と遠藤がやってくるかもしれない。清河が一階に戻るまでの数分の間だけと、若月は己の中で決め込んだ。
 部屋の中央まで歩く。改めて見ると、部屋の様相はなんと豪華なものだろうか。家具や灯りの装飾は、素人の若月でも高級と分かるくらいに質が良かった。
 痕跡が残らないよう、抜かりのないよう丁寧に調べる。デスクには、本も何もない。引き出しの中も不自然なくらいに空だ。寝室で腰を据えて何か作業をすることはないのだろうか。ベッドは勝治と雛子の部屋にあったものと同じもののようである。隣の部屋に今も横たわっているであろう、彼の無残な遺体を思い出し、背筋がひやりと冷たくなる。
 それから室内をひとしきり調べたが、有紗に関わるものは見当たらなかった。若月はベッドに腰掛ける。思ったよりもふんわりとした感触。それまで張っていた気が抜ける。
 何気なく、目の前の本棚に目を向けた。経営学や経済学…背表紙のタイトルから、どの本も難解な内容だろうものばかり。並んでいるだけで辟易する。仕事で読め、と言われたら読むが、そうじゃないなら到底読む気はしない。
 こんなものを、この部屋の主は読むのか。帝王学というのだったか。やはり、一般人とは違う生活というか、自分とは違う感覚の持ち主なのだろう。
 そのまま、本棚をつらつらと見ていく。そこでふと、ある一冊に目が留まった。紺色で背表紙がなく、やたら厚みがある。それこそ週刊誌といっていいくらいに。他の本よりも大きくて、それは明らかに目立っていた。
 立ち上がり、若月はそれを手に取る。A4サイズ。両手に抱え、またもベッドに座り込んだ。表紙、裏表紙共に何も書かれていない。
 ボール紙程度の厚さはありそうな厚い表紙をめくると、そこには二人の男女の写真が貼られていた。どうやらこれはアルバムのようである。男はパリッとしたスーツ、女は黒のワンピースで、両者ともに正装だった。
 男の方は…この二枚目具合から、藍田真琴に違いない。が、もう一人の美人な女性を見て、若月は思わず本を落としそうになった。髪はショートで、顔が小さくすっきりとした顔立ち。雪のように色白な体は華奢で、隣の真琴と比べると、頭一つ分以上背が低い。
 その女性は、若月が今晩探し求めている有紗だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇 ☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...