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第15章 その力は偉大らしいですよ⁉︎
209話 上位風精霊シルウェストレ
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土の大精霊ゲーブの協力を取り付けたアラヤ達は、浮遊邸の進路をグルケニア帝国に向けて、亜人の国パガヤから出発した。
出発前、コロシアムにてゲーブが加護を与えたという人間のその後が気になったので聞いてみたら、今やパガヤの4将軍の1人に成り上がっているらしい。それってやはり、あの男だよね?まさか、人の姿のまま参加しているとは思わなかったな。
坂東 礼二。
アラヤを虐めていた不良。大罪教からは、憤怒魔王として扱われているんだったな。
『会いたいのか?ならば呼び出しても構わんが?』
「いえ、仲が良い訳ではありませんので!」
丁重に断りを入れてそのまま出て来たが、いくら嫌いな奴でも不思議とその近況が気になるものだなと思った。あと、土産に渡したトロフィーは喜んでくれた。次の加護取得資格者が出た際に渡すと言っていた。
『帝国内に入って、どう調べるつもりだ?』
エアリエルは、管制室にある世界地図で帝国領土を見ている。グルケニア帝国には、帝都を含めた20の都市がある。情報収集するにしても、どの都市から始めるかは悩みどころである。
「先ずは、大気汚染の酷いとされるナーサキから調査を始めるべきではないでしょうか?」
会議に集めた配下代表として、ハウンが提案して来た。
「何故、ナーサキなのかな?」
「それは、汚染具合を調べ、原因が何かを解明してから情報収集すべきかと思いました」
「確かにそうだね。エアリエル様、大丈夫ですか?」
そう、問題はエアリエルの怒りが、現地でも抑えれるかだ。
『うむ、大丈夫だ。我も知りたい事であるからな』
どうしてもダメな場合には手前で浮遊邸を止めて、アラヤ達だけで調査すると決めた。
ナーサキは、アラヤ達が故郷設定した滅亡国。元はムシハ連邦国の一国だったが、帝国により滅亡し、今は帝国領土だ。
パガヤからナーサキまで4日。帝国上空を静かに通過したアラヤ達は、ようやく故郷設定のナーサキに辿り着いた。
「イトウ…怠惰魔王に見せられたナーサキは、緑豊かな国でしたが…」
眼下に広がるその国土は、荒地や岩肌が見える山が多く、僅かな草木は見えるものの、低木ばかりであまり育っていない様だ。
『…命が蝕まれているな…』
エアリエルは哀しそうな表情をしている。風により命を運ぶ彼女の力も、此処では効力が少ないのだろう。
「見て、あそこ!」
サナエが指差した先には、アラヤ達が夢で購入した屋敷と同じ建物が見えた。更にその先に見えたのは、この国に起きた原因と思える、巨大なクレーターだった。
「ま、まさか…原爆⁉︎」
「い、いやいや、それは有り得ないでしょ?だって、この国は10年以上前に滅亡した訳でしょ?私達が召喚されたのは約1年前だし、その前の転移は200年前のはず。当時の転移者が原子力爆弾を知っているとは思えない」
確かにサナエの言う通り、今の転移者ならまだしも、200年以上前にはその知識すら無いはず。
『其方らが言う【げんばく】という物は知らないが、この汚染は…魔力残滓によるものだな…』
1人先に降りたエアリエルは、土を一握り救うと風に乗せた。その風は舞い上がると、西南西に向かって飛んで行った。おそらくはゲーブの下に届けるのだろう。
アラヤ達も地上に降りてみた。辺りには生命体の反応は無い。帝国人達もこの辺りには住んでいないのかもしれない。
「魔力残滓があるという事は、国1つを巻き込む様な広域魔法が使用されたという事ですか?」
魔力残滓は確かに大地にも染み渡り、大気にも微かに舞っている状態だ。こんな状態で痕跡視認をしたところで、映像は乱れた上に余りにも長い月日が過ぎている為に役に立たない。
『そうだとしか思えぬ。しかし、我は魔法には詳しく無い。ここは、魔法に詳しいシルウェストレを呼ぶとしよう』
「シルウェストレ…確か、風属性魔法の中級から詠唱に含まれる上位風精霊の名ね」
カオリだけは分かっているらしいけど、通常、中級魔法を放つ場合には、その威力や形成を確実なものにする為に、詠唱で上位精霊に魔力を与えて協力させているのだとか。それを分かった上で使用している魔術士は少ないだろう。
中位風精霊のシルフィーやモースよりも、更に希少な存在とされるわけだけど、どんな姿なんだろう?
『我が呼びに応え、精霊界より姿を見せよ、シルウェストレ』
エアリエルが空に向かいそう言った途端、沢山の微風精霊達が姿現しで現れ、空間の入り口を開いていく。
「別次元の精霊界って、入り口を広げられるんだ?」
『妙な演出をしおって…』
満を持して現れたのは、エルフに似た美形の男性風精霊で、背中には虫の羽では無く、4つの鳥の翼になっている。頭には花の冠を乗せ、風精霊の王子を気取っている様だ。
『お待たせ致しました、エアリエル様。シルウェストレ、お呼びに預かり只今参上仕りました!』
いちいちリアクションが大きいな。アラヤ達を一瞥したが、何も見なかったかの様に通り過ぎてエアリエルの前で跪いた。
『シルウェストレ、この大気を汚した魔法を其方は特定できるか?』
彼女が、シルウェストレの頭を撫でると、母に認められた子の様な至福の表情を見せる。
『ええ、ええ!特定します、お任せあれ!』
シルウェストレは立ち上がり空を仰ぐ。するとそこに幾つもの魔法陣が展開される。そのどれもが、カオリは見た事が無い魔法陣だと興奮している。
『これは驚いた…』
魔法陣は地面まで広がり、目まぐるしくその色彩と形状を変化させる。風を利用した鑑定だろうか?それに伴い所々で小さな竜巻が発生している。
『何か分かったのか?』
『…はい。これは、3つ以上からなる魔法の合成により作られた創作魔法です。しかも、創造神様達が作った6属性のどれでも無い。無属性魔法の多重合成魔法です』
『無属性…光属性では無かったか。その事が良いか悪いかは分からぬが…。この魔力残滓を取り除く事へ可能か?』
シルウェストレは暫し考えると、舞い上げた砂に風魔法のサクションを使用した。もちろん、そのまま吸い込まれるわけだが、彼はそれを繰り返す。
「まさか、サクションで全ての残滓を吸わせる気?」
『阿呆、これは試験的に飛ばしているだけだ。少量で試し、効果があるやり方を探っている』
サナエの呟きに、そんな事も分からないのかとシルウェストレは鼻で笑う。このキザ男ちょっとムカつくな。
「凄いですね。つまり、サクションの行き先が分かるのですか?」
それでも、アヤコは低姿勢で話を聞く。自分達が知らないのは事実だし、聞くは一時の恥と言うからね。
『フン、当然だろう。サクション発動と同時に送り先を想像するだけの事。サクションの本来の使用法は、新鮮な大気を精霊界へ送る為のものだ。何も考えずに使用すれば、精霊界に吸い込んだものが届く。まぁ今回は、大気や土を汚染している残滓だ。送り先は、氷山、海中、砂漠、溶炎の海、最果ての空。その場所で残滓に影響があるかを調べているのだ』
何も考えずに使用したら、吸い込んだものが届くのは精霊界⁉︎これって、アラヤ達が開発・販売している魔導掃除機のゴミも、全て精霊界に送ってしまってるって事だよね⁉︎精霊界で人間は正気で居られないって、まさかそれが原因じゃないよね?これは後にリコールしないといけないかも…。
「流石です。風魔法の全てを熟知しているシルウェストレ様は、やはり聡明でございますね!それでは既に結果も見えているのですね?」
『当然である!魔力残滓の変化が無いばかりであったが、送った先で唯一、溶炎の海だけが浄化できた。というより焼失だな!つまり、超高温の炎で辺り一面を焼けば、残滓は消えて汚染は止まる!』
『馬鹿者‼︎この土地を丸ごと跡形も無く焼けるか!ゲーブに喧嘩を売る事になるわ!』
突拍子も無い答えに、エアリエルも思わずツッコミを入れた。
「あの、それなら除染をして、その捨てる先をマグマ…溶炎の海にしてはいかがでしょうか?」
その土壌がある限り、残滓による汚染が止まらないので反転耕は向かないし、せっかく運搬がサクションで容易なんだからやらない手はない。
『ふむ。地道だが、それしか無い様だな。ではシルウェストレ、其方に任せるとしよう。この国の汚染土を全て処理するのだ』
『ええっ⁉︎私1人でですか⁈』
『ならば謹慎中のうつけを呼んでやる。役割を分担し、早急に取り掛かれ』
『ううっ、私も忙しい身なのですが、エアリエル様の申し付けならば致し方ありません。微精霊達も使い、期待に応える様頑張りましょう』
こうして、風精霊達によるナーサキ土壌除染工事が開始したのだった。
出発前、コロシアムにてゲーブが加護を与えたという人間のその後が気になったので聞いてみたら、今やパガヤの4将軍の1人に成り上がっているらしい。それってやはり、あの男だよね?まさか、人の姿のまま参加しているとは思わなかったな。
坂東 礼二。
アラヤを虐めていた不良。大罪教からは、憤怒魔王として扱われているんだったな。
『会いたいのか?ならば呼び出しても構わんが?』
「いえ、仲が良い訳ではありませんので!」
丁重に断りを入れてそのまま出て来たが、いくら嫌いな奴でも不思議とその近況が気になるものだなと思った。あと、土産に渡したトロフィーは喜んでくれた。次の加護取得資格者が出た際に渡すと言っていた。
『帝国内に入って、どう調べるつもりだ?』
エアリエルは、管制室にある世界地図で帝国領土を見ている。グルケニア帝国には、帝都を含めた20の都市がある。情報収集するにしても、どの都市から始めるかは悩みどころである。
「先ずは、大気汚染の酷いとされるナーサキから調査を始めるべきではないでしょうか?」
会議に集めた配下代表として、ハウンが提案して来た。
「何故、ナーサキなのかな?」
「それは、汚染具合を調べ、原因が何かを解明してから情報収集すべきかと思いました」
「確かにそうだね。エアリエル様、大丈夫ですか?」
そう、問題はエアリエルの怒りが、現地でも抑えれるかだ。
『うむ、大丈夫だ。我も知りたい事であるからな』
どうしてもダメな場合には手前で浮遊邸を止めて、アラヤ達だけで調査すると決めた。
ナーサキは、アラヤ達が故郷設定した滅亡国。元はムシハ連邦国の一国だったが、帝国により滅亡し、今は帝国領土だ。
パガヤからナーサキまで4日。帝国上空を静かに通過したアラヤ達は、ようやく故郷設定のナーサキに辿り着いた。
「イトウ…怠惰魔王に見せられたナーサキは、緑豊かな国でしたが…」
眼下に広がるその国土は、荒地や岩肌が見える山が多く、僅かな草木は見えるものの、低木ばかりであまり育っていない様だ。
『…命が蝕まれているな…』
エアリエルは哀しそうな表情をしている。風により命を運ぶ彼女の力も、此処では効力が少ないのだろう。
「見て、あそこ!」
サナエが指差した先には、アラヤ達が夢で購入した屋敷と同じ建物が見えた。更にその先に見えたのは、この国に起きた原因と思える、巨大なクレーターだった。
「ま、まさか…原爆⁉︎」
「い、いやいや、それは有り得ないでしょ?だって、この国は10年以上前に滅亡した訳でしょ?私達が召喚されたのは約1年前だし、その前の転移は200年前のはず。当時の転移者が原子力爆弾を知っているとは思えない」
確かにサナエの言う通り、今の転移者ならまだしも、200年以上前にはその知識すら無いはず。
『其方らが言う【げんばく】という物は知らないが、この汚染は…魔力残滓によるものだな…』
1人先に降りたエアリエルは、土を一握り救うと風に乗せた。その風は舞い上がると、西南西に向かって飛んで行った。おそらくはゲーブの下に届けるのだろう。
アラヤ達も地上に降りてみた。辺りには生命体の反応は無い。帝国人達もこの辺りには住んでいないのかもしれない。
「魔力残滓があるという事は、国1つを巻き込む様な広域魔法が使用されたという事ですか?」
魔力残滓は確かに大地にも染み渡り、大気にも微かに舞っている状態だ。こんな状態で痕跡視認をしたところで、映像は乱れた上に余りにも長い月日が過ぎている為に役に立たない。
『そうだとしか思えぬ。しかし、我は魔法には詳しく無い。ここは、魔法に詳しいシルウェストレを呼ぶとしよう』
「シルウェストレ…確か、風属性魔法の中級から詠唱に含まれる上位風精霊の名ね」
カオリだけは分かっているらしいけど、通常、中級魔法を放つ場合には、その威力や形成を確実なものにする為に、詠唱で上位精霊に魔力を与えて協力させているのだとか。それを分かった上で使用している魔術士は少ないだろう。
中位風精霊のシルフィーやモースよりも、更に希少な存在とされるわけだけど、どんな姿なんだろう?
『我が呼びに応え、精霊界より姿を見せよ、シルウェストレ』
エアリエルが空に向かいそう言った途端、沢山の微風精霊達が姿現しで現れ、空間の入り口を開いていく。
「別次元の精霊界って、入り口を広げられるんだ?」
『妙な演出をしおって…』
満を持して現れたのは、エルフに似た美形の男性風精霊で、背中には虫の羽では無く、4つの鳥の翼になっている。頭には花の冠を乗せ、風精霊の王子を気取っている様だ。
『お待たせ致しました、エアリエル様。シルウェストレ、お呼びに預かり只今参上仕りました!』
いちいちリアクションが大きいな。アラヤ達を一瞥したが、何も見なかったかの様に通り過ぎてエアリエルの前で跪いた。
『シルウェストレ、この大気を汚した魔法を其方は特定できるか?』
彼女が、シルウェストレの頭を撫でると、母に認められた子の様な至福の表情を見せる。
『ええ、ええ!特定します、お任せあれ!』
シルウェストレは立ち上がり空を仰ぐ。するとそこに幾つもの魔法陣が展開される。そのどれもが、カオリは見た事が無い魔法陣だと興奮している。
『これは驚いた…』
魔法陣は地面まで広がり、目まぐるしくその色彩と形状を変化させる。風を利用した鑑定だろうか?それに伴い所々で小さな竜巻が発生している。
『何か分かったのか?』
『…はい。これは、3つ以上からなる魔法の合成により作られた創作魔法です。しかも、創造神様達が作った6属性のどれでも無い。無属性魔法の多重合成魔法です』
『無属性…光属性では無かったか。その事が良いか悪いかは分からぬが…。この魔力残滓を取り除く事へ可能か?』
シルウェストレは暫し考えると、舞い上げた砂に風魔法のサクションを使用した。もちろん、そのまま吸い込まれるわけだが、彼はそれを繰り返す。
「まさか、サクションで全ての残滓を吸わせる気?」
『阿呆、これは試験的に飛ばしているだけだ。少量で試し、効果があるやり方を探っている』
サナエの呟きに、そんな事も分からないのかとシルウェストレは鼻で笑う。このキザ男ちょっとムカつくな。
「凄いですね。つまり、サクションの行き先が分かるのですか?」
それでも、アヤコは低姿勢で話を聞く。自分達が知らないのは事実だし、聞くは一時の恥と言うからね。
『フン、当然だろう。サクション発動と同時に送り先を想像するだけの事。サクションの本来の使用法は、新鮮な大気を精霊界へ送る為のものだ。何も考えずに使用すれば、精霊界に吸い込んだものが届く。まぁ今回は、大気や土を汚染している残滓だ。送り先は、氷山、海中、砂漠、溶炎の海、最果ての空。その場所で残滓に影響があるかを調べているのだ』
何も考えずに使用したら、吸い込んだものが届くのは精霊界⁉︎これって、アラヤ達が開発・販売している魔導掃除機のゴミも、全て精霊界に送ってしまってるって事だよね⁉︎精霊界で人間は正気で居られないって、まさかそれが原因じゃないよね?これは後にリコールしないといけないかも…。
「流石です。風魔法の全てを熟知しているシルウェストレ様は、やはり聡明でございますね!それでは既に結果も見えているのですね?」
『当然である!魔力残滓の変化が無いばかりであったが、送った先で唯一、溶炎の海だけが浄化できた。というより焼失だな!つまり、超高温の炎で辺り一面を焼けば、残滓は消えて汚染は止まる!』
『馬鹿者‼︎この土地を丸ごと跡形も無く焼けるか!ゲーブに喧嘩を売る事になるわ!』
突拍子も無い答えに、エアリエルも思わずツッコミを入れた。
「あの、それなら除染をして、その捨てる先をマグマ…溶炎の海にしてはいかがでしょうか?」
その土壌がある限り、残滓による汚染が止まらないので反転耕は向かないし、せっかく運搬がサクションで容易なんだからやらない手はない。
『ふむ。地道だが、それしか無い様だな。ではシルウェストレ、其方に任せるとしよう。この国の汚染土を全て処理するのだ』
『ええっ⁉︎私1人でですか⁈』
『ならば謹慎中のうつけを呼んでやる。役割を分担し、早急に取り掛かれ』
『ううっ、私も忙しい身なのですが、エアリエル様の申し付けならば致し方ありません。微精霊達も使い、期待に応える様頑張りましょう』
こうして、風精霊達によるナーサキ土壌除染工事が開始したのだった。
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