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第6章 勇者候補の修行

ウィルソンの仲間達

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 王都グラハバンはO型状に城下街が栄えていて、中央に向かうと防壁が見えてくる。その防壁は東西南北の各箇所に一つずつ門があり、王城に向かうにはその四箇所の門からしか入れない。つまり、王城は街や外部から隔離されているのだ。
 門での審査を終えて中に入ると目前には平原が広がっていて、その先は小高い台地になっており、そこに王城が聳え立っている。平原のその広さだけでもトーキオ並の広さだというから驚きだ。
 今まさに、その王城へと馬車に揺られながらタケルとウィルソンは向かっていた。
 馬車窓からは、平原で訓練中の兵士達の姿が見える。

「おい、タケル。ちゃんと聞いてるのか?」

「はい、聞いてますよ。枢機卿に会う前に、ギルド長のご友人と落ち合う必要があるんですよね?」

「そうだ。城内にはワシのかつてのパーティメンバーが既に集まっているだろう。その中で会う必要があるのはバンカーという男。その男が枢機卿とのパイプ役となってくれる。あと、今からはギルド長とは呼ばないようにすること。メンバーには他の街のギルド長も居るからな。ウィルソンで構わないから」

「分かりました。じゃあ、ウィルソンさんと呼ぶようにします。それにしても、パーティを組んでいたんですね。当時の事、いろいろ聞きたいです」

「まぁ、そのうちな。今は枢機卿に会うのが先決だろ?ワシの本音としては、勇者になる事を諦めて欲しくは無いのだがな」

 ウィルソンはそう言うと、小さな小包をタケルに手渡した。

「コレは?」

「餞別だ。後で渡す事ができないだろうから、今のうちに渡しておく。今はまだ開けずに締まっておくといい。謁見が終わった後にでも確認すれば良いだろう」

 タケルは何だろうと気にはなったが、言われたとおりに四次元バックパックに収納した。

 「着いたぞ」

 開かれた大きな城門を潜り抜け、石畳の道を進んで城内へと入る。
 塀の上から衛兵達が監視する中、王宮手前の中庭でゆっくりと馬車は止まった。

「お待ちしておりました。ゴールドマン様とハザマ様でございますね?」

 馬車から降りると直ぐに衛兵の一人が迎えてくれる。二人はその衛兵に城内の来賓室へと案内された。

「おお、来たか」

 部屋に入ると既に五人の先客が居て、入って来た二人に視線が集まる。

「ホッホッホ。ウィルソン、御主も信仰心を高めた様だな。頭部に後光が差して見えるぞ」

「脳まで筋肉でできている彼に限って、それは無いと思いますわ、ボルト大司祭」

 いきなり、ウィルソンの頭部を弄って来たのはボルト大司祭と呼ばれたご老人と、彼とは対照的な魔女の姿をした妖艶な女性。

「ボルト大司祭、お久しぶりでございます。ラネットも相変わらず城には似つかわしくない格好だな」

「格好なら貴方もでしょう?今にもボタンが飛びそうよ」

「おいおい、二人共、全員の紹介がまだ終わってないだろ?ハザマ君が戸惑っているではないか」

 笑顔のままいがみ合う二人を、制する形で前に出たのは、室内で唯一鎧を身に纏う優男。その鎧は青の全身鎧フルアーマーだ。しかし、体格はタケルよりふた周り程大きいぐらいである。

「俺の名はオーランド=フィッシャー。青竜騎士団の団長をしている」

 青竜騎士団。王国に仕える数ある騎士団の中で、王国最強と噂される騎士団である。噂では、団長であるオーランド将軍は冷酷無比な大男だと聞いたのだけれど。タケルは、恐る恐る差し出された手を握って握手を交わす。

「タケル=ハザマです。よ、よろしくお願いします」

「ハハハ、緊張しなくていいよ。ここにいる奴等は皆んな、冒険者時代のパーティメンバーでさ。冒険者風に言うと、回復ヒーラー・サポート役の賢者ワイズマンボルト=トランプ大司祭と、攻撃魔法担当の古魔女エインシェントウィッチラネット=メルリヌス。攻撃・支援担当の冒険王ワールドレンジャーのバンカー=ロナウド。攻撃・陽動担当の戦巫女バトルシャーマンカエデ=オザワ。攻撃・盾役担当の拳王ザ・フィンガーウィルソン=ゴールドマン。そして俺、攻撃・指揮担当の聖騎士パラディンオーランド=フィッシャーだよ」

 次々と紹介される伝説の職業ジョブ持ちのメンバー達。

「カエデだよ。グラハバンで一応、総合ギルド長をやってる。イメージと違って、ずいぶんと可愛いじゃないか」

 戦巫女バトルシャーマンと言えば、祈祷や戦闘舞踊を得意とする職業ジョブ
であり、タケルのイメージでは可憐で細っそりとした女性であったが、目の前の女性は肝っ玉母さんというイメージがピッタリの女性である。

「グラハバンにあるリーニエッシ教の司祭を任されているボルトといいます。ふむ、初見では古文書の人物とは判断できませんな」

 大司祭は笑顔でタケルの全身をじっくりと観察している。彼の職業ジョブ賢者ワイズマンは神官、僧侶といった聖職者職業ジョブの最上級職業ジョブで、生涯で一度だけ蘇生魔法を使用可能だとか…。

「ウフフ、そんなお堅い挨拶は置いといて、お姉さんと楽しい話をしましょうよ」

 ラネットと呼ばれていた古魔女エインシェントウィッチの彼女が近付いて来ると、香水の匂いが漂い、全身の力が微力だが抜き取られる感覚がした。

匂いこれは吸魔草?」

「あら?知ってるの?」

「タケルは元鑑定士だからな」

「へぇ~、俄然興味が出て来たわ」

 今回、重要と聞いた人物バンカーは隻眼で強面の男性。彼と話をしなくてはとならないのに、他のメンバーに質問攻めにあって近付けない。

「あの!俺はまだ勇者になりたいとは言ってません!」

 タケルは意を決して大声を上げた。皆んなはキョトンとした表情でタケルを見る。

「ん?覚悟を決めて謁見ここに来たんじゃないのか?ウィルソン、どうなってるんだ?」

 オーランド達は、タケルが勇者になりたくて王との謁見に来たのだと思っていた様だ。

「うむ。実際に魔王と因縁が有り、古文書に書かれているタケルという人物が此奴なのは、ワシも付き添い体験したので間違いない。しかし、本人は荷が重いと言うておるのだ。そこで、バンカーに頼む事にしたのだ」

 ウィルソンは、ようやく早く来た理由を語り始めた。

「俺には勇者になる資格が無いと、枢機卿様から王様に進言して頂く様に、バンカー様に枢機卿様と会わせて頂きたいのです」

 タケルも、時間が無いとバンカーに頭を下げる。

「ああ、そういう事か…」

 オーランドはバンカーを見る。バンカーはゆっくりと重い腰を上げ、タケルの前をそのまま通り過ぎて入り口の扉を開ける。

「付いて来い。会わせてやる」

「え、あ、ハイ!」

 タケルは全員に一礼すると、バンカーの後を追って部屋を出た。

「なぁ~に?枢機卿様に説得させる訳?」

 感心しないわと、カエデはウィルソンに置いてあった林檎を一つ投げやる。

「勇者になるのを辞めたいなら、そうさせれば良いじゃない。大体、本物の勇者になるタケルとは限らない訳だし」

 ラネットは、ウィルソンの言う事だしねと信用していない様だ。

「辞めさせるなら枢機卿に会わせる必要は無いさ。ウィルソンは逆のことを考えているんだろ?」

 オーランドは、ウィルソンの持っていた林檎を奪って一囓りする。

「え?どう言う事?」

「ウィルソンは、本人自ら勇者になりたいと思わせたいのさ」

 もぐもぐと食べながら、半分になった林檎をウィルソンへ返す。

「うむ。ただ押し付けられるのは拒むが、自分で決めた事には懸命になる男なのでな」

「でも枢機卿様には辞めたいって言うんじゃないの?枢機卿様が認めたら彼は勇者にはならないわよ?」

「いや、他地に居る枢機卿ならば無理だが、この王宮に居られるクロエ様ならばその可能性も高い」

 ボルト大司祭の言葉に、ラネットは余計に何で?と首を傾げた。
 ウィルソンは残りの林檎を一口で食べると、後は枢機卿次第だなと勝手に願いを託すのだった。

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