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幕間
悲喜こもごもな人々
しおりを挟む某作者と某編集。
「あーちゃんからのファンレター来なくなりましたけど、どうしたんでしょうね? やっぱり新展開が衝撃すぎて寝込んだとか」
「ん? あー、来ないと思うよ」
「なんで!? くるたびににやにやしていたから先生がラブなのかと思ってたのにっ!」
「は? ラブねぇ?」
「押せばいけましたよっ! きらっきらな目で見られてましたし」
「どこで見たんだよ。あ、サイン会か。あれは、我が推し、作ってくれてありがとうの熱量」
「えー」
「えー、じゃない。あーちゃんは、ちゃんと待ってる人がいる。あれを見せられたら横からかすめる気になんない」
「え? なんですか?」
「別に。便りがないのが良い知らせ。元気いっぱいだよ。別の意味で死ぬとか言ってそうだけど。
っと。これは?」
「ああ、今日の追加のファンレターです。といっても一通ですけど。
今時、メールでもつぶやいたーでもなく、手紙ってところが珍しいですよね。はがきはよく来ますけど」
「んー。コードネームうーちゃん、ねぇ? ええとなになに? 貴作品を熱愛していたあーちゃんは異国へお嫁にいきましたのでこれをご連絡します。
なお、旦那様はクルス様、激似でした。
リアルタイムに観測はできませんが、今後のご活躍をお祈りしておりますと本人からの伝言です。
今度の展開については私、うーちゃんが彼女に伝えていく所存です。
あと私は眼鏡が好きです。あとちゃらい男はひどい目にあえばいい。それから……長い」
「そうですね。この熱量、さすがあーちゃんの推定友達。
じゃなくって! 嫁に行かれてるじゃないですか。しかも日本人じゃない」
「この世界の人かも怪しいんだけど。いいじゃない。
我が幸運の女神に乾杯でもすれば」
「先生?」
「ん?」
「地味にショックでしょ」
「そういうことはそっとしておいてくれ。俺に向けてないと知っていてもくるものがあるんだよ。あの笑顔」
「……意味わかんないですけど。まあ、失恋ですか、そうですか」
「なぜ嬉しそうなんだ」
「なぜでしょうねー」
「……意味が、わからん」
ある領主と執事。
「よかった」
「泣き崩れてぐずぐずですがどうしたんですか? 旦那様」
「僕の死亡フラグ折れた! もう、やつが惨殺しに来ない。やったーっ!」
「……少々落ち着かれては」
「無理!」
「泣くのか笑うのかどちらかにされてはいかがですか? メイドが怯えてましたよ。執事長ぉ~と泣きつかれました」
「一緒に喜んでくれない」
「そのテンションについていけません。旦那様の寝起きがそれで、それに付き合えと」
「うっ。で、でも苦節ええと二十何年かの悪夢が解消したんだ。
現実と夢が一致した。よぉやく、普通の朝が来たんだよ」
「それはおめでとうございます。では、次の案件に取り掛かりましょう?」
「次ってなに?」
「首をかしげないでください。未来予知的悪夢で家族惨殺されるから家族作らないと言っていましたが、もう理由はないのでお嫁さんおよびお子様を作ってください」
「あれ?」
「都合よく、婚約解消されたばかりのご令嬢が山ほどいらっしゃいますので、婚活市場に乗り出しましょう!」
「え。静養したい。自由満喫……」
「そうしているうちにめぼしいところから婚約していくのです。さぁて、腕が鳴りますね」
「ギュンターさん?」
「なんですか? 旦那様」
「ええと優しい人がいいなぁって」
「ご要望はお聞きしました」
「それってきいただけじゃあっ!」
「では、旦那様を磨き上げるところからですね。楽しみです」
「うへぇ」
ある編集部にて。
「……暇なの? 英雄の側近って」
「暇じゃないよ。仕事。出版社に手紙を配る。それもその場で返事をもらってこいって仕事」
「なんの手紙?」
「社長に渡すものだから」
「あいよ。俺っちになんか用? 手紙?」
「至急返答が欲しい」
「んだよ?」
「どうしたんです? 顔色変えて」
「参加する。他はどこが行くんだ」
「めぼしいところには話を持っていくつもりです。
そうそう、来訪者は執事探偵のファンだそうですよ。是非にとファンレターもらってました。文字が下手なのは許してほしいとか」
「な、なんだとっ! 増刷、増刷だっ! お墨付きをもらって」
「社長、商売っ気出しすぎです。とりあえず、愛蔵版作りましょう。化粧箱に入れて進呈してそれも記事にしましょう。まず、伝手があります」
「え。なんで今がしって」
「元婚約者でしょ。私困ってるから、助けて」
「え。さっきまで、暇なのとか嫌味言ってた」
「こぉんな寒いオンボロ本拠地にはおさらばしたいのよっ!」
「……悪かったなオンボロで。売れたら新しい印刷機買うから移転はしねぇぞ」
「くっ。じゃ、じゃあ、床にじゅうたん」
「黒くていいならな。どうせインクで汚れるんだよ」
「……では、俺はこれで」
「連絡するわ」
「いや、うん、まあ、作者に合わせるって言ったら快諾しそうなので段取り……ってなんで黙った」
「あの人見知りをどうやって連れ出すのかという話」
「人見知りっていう状況超えてないか? 安楽椅子探偵も真っ青の引きこもり」
「強襲すれば?」
「掃除しに行きましょうか。社長。これも社運を賭けた戦いです」
「いやだよ。あの魔窟。資料動かすと機嫌損ねるんだぜ」
「ファンレター届けるついでに行きましょうよ」
「仕方ないな。行ってこい」
「えー」
「じゃあ、住所聞けば俺が行ってくるよ。ポストに入れればいいだろ」
「ポストが溢れてる」
「は?」
「家の外に一歩でも出るものかという強固な意志のもと生活してるんだ」
「その作者大丈夫か?」
「男が死ぬほど嫌いなの。むしろ近寄ったら死ぬって」
「社長は?」
「むむ? 俺は女だぞ」
「……ほんと?」
「ほんと、かつてメイドであったと主張している。嘘くさい。詐欺師のほうが似合ってる」
「先輩がガラが悪かった。うん、そうに違いない。煙草も教えられたし、ムチも武闘も」
「それってほんきでメイドだった?」
「できる執事だったな」
「ああ、だれかわかったような……」
某神社にて。
「……おかしいな」
「なにがおかしいっていうわけ?」
「俺がもらい受けると言っておいただろう? なぜ、戻さない」
「それ拒否したよね。嫌だなぁ。ものみたいに言うなんて。あの子もそういうとこ嫌いだったよ」
「あれは俺のものだった。盗まれたものを取り戻すのはおかしいことではあるまい」
「本人の全拒否が伝わらないっていうのが、かわいそうというかなんというか」
「力尽くというのは好まないが、仕方ない」
「つーかさー。これでも神様やってんの。数百年くらいね。修行した天狗くらいいなせなくてどうすんのさ」
「やってみねばわかるまい?」
「ほんと、アリカはモテるなぁ。この間は水神に俺の嫁と言われたし、陰陽師に婚約者返せって言われるし。魂は我のものとか死神に見込まれてるとか知りたくないだろうなぁ」
「……。そいつらもまとめて始末すればいいのか」
「意味がないね。アリカは全部、断ってるんだよ。なのに、話通じない。水神様には絆されてたけど、あれはペットだな。亀でなんで現れるんだお前と突っ込んだ僕は悪くない」
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「下僕を増やすのも悪くないよね。
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さて、名乗ってもらおうか。僕の神域で、抗えると思うなよ」
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