推しの幸せをお願いしたら異世界に飛ばされた件について

あかね

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冬の間

空気が悪いのは我々の責任ではありません

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 撤退できなかったウェスリア王子とお茶会になりました。
 向かい合って座っているのですけど、お互い、気まずいです。
 さすがに遠慮したのか、エリックは席を立って壁際まで移動しています。その際にウェスリア王子に略式の礼をしていたのが意外に思いました。それなりに礼を尽くす相手とは思っているようです。
 ウェスリア王子も目を見張っていたので、彼にとっても意外だったんでしょうね。

 そのエリックはどこから用意したのかフード付きのマント装着済みです。目深にかぶっているので口元くらいしか表情はわかりません。本当にどこからだしてきたのでしょうね? ユウリが持っていた異次元袋とか解析したんでしょうか。

「本日はどのような用件で?」

 現実逃避していても仕方ないので、会話を試みます。人前で言えそうな話題がないのですよね……。手紙では色々書いてたりするのですが、対面ではほとんど会ってないのでお互いの困惑を感じています。

「カリナ嬢がいないかなと思いまして……」

「お留守番なんですよ。最近、教会によく呼ばれているようでお疲れです」

 ぽつぽつと会話してみますけど、途切れがちです。
 それもこれも雰囲気が悪いせいです。たぶん。
 あたしと王子以外の人間関係が最悪です。

 室内に入ってからもシュリーは、エリックに少しも視線を向けてませんでした。露骨すぎるくらいに存在しない扱いですか。この二人の間は完全にこじれましたね。原因、あたし。罪悪感が半端ないですよ。
 ティルスは元々仲が良くないので気にしません。
 エリックは黙って大人しくはしているのですが、ご機嫌斜めですよ……。幸いにして王子に対して苛ついているということはないのですけど。

 それぞれ、別の壁際で大人しくしているのですが無意識でぎすぎす感を出さないでください。元凶が言うなって感じですか、そうですか。

 ウェスリア王子は手持無沙汰なせいかクッキーをつまんで一口で放り込んでいました。そうしている間は、話をしなくても済みます。大き目クッキーにも有用性はあります。

「おいしいですね。どこのお店のものですか?」

「恥ずかしながら自作です」

「え?」

 ウェスリア王子はあたしとクッキーを見比べています。オーブンの癖をつかむために量産してしまったクッキーたちの精鋭です。さすがに焦げたのも形が悪いのも外で食べるのは恥ずかしいので見た目が良いものだけをピックアップしました。
 お客様に出すものでもないのですが、下げるのもどうかと思って出したままにしておきました。

「黙っていたほうが賢明でしょうか」

「以前とは違って、正式な立場があります。嫌なら断るのでお気遣いなく。
 あ、妹姫たちに包みます? でも、出所不明な食べ物はダメですかね?」

「ありがたくいただきますね」

 まだ余ってると絶望しそうになったクッキーたちは行く先も決まり、あたしも嬉しいです。あれらのカロリーが肉にっ! 作るのと消費がセットなのですよね。

 まあ、そのあたりからお転婆な姫君たちの話やら、今まであったことのない弟たちの話を聞いて和やかに過ごせました。
 そして、その次の予定を順調に忘れかけていました。

 ドアをたたく音にはっと思い出しました。

「おい、約束……」

 返事を待たずにガチャリとあけたのが間違いだと思いますよ、ゼータさん。
 室内を見て、黙って一回扉を閉めましたね。

「すみません。魔導車を見に行く約束をしていました。姫君たちによろしくお伝えください」

「いえ、こちらこそ急に押しかけて。
 私もお邪魔してもよいでしょうか」

「……いいんじゃないですか」

 一応、王族なので否はないでしょう。スポンサー大事。
 そういうわけで、ぞろぞろと移動することになりました。ゼータさんが、ふざけるなという表情でいたのが印象的ですねっ! 権力にへりくだることはないでしょうが、予算には弱いのでしょう。

 王子は気を使ってかあたしの隣に並ぶことはなく、ゼータさんに魔導車について質問をしていました。あたしの隣にはエリックがいます。あたしは手をつなごうとしたんですけど、面白そうに見ていたゼータさんを見つけてやめることにしました。
 エリックも少し嫌そうに見えましたし。あとで何か言われるのが面倒なんでしょうね。

 先頭にはシュリーがいて、一番後ろにはティルスがいます。その他護衛がウェスリア王子についているのかと思えば、いないのだそうです。
 近衛の人員を再編纂中で、最低限で回している結果なのだとか。あたしが動かない日はティルスも王子付なのだそうです。
 で、今日は、王子のことをシュリーに押し付けて自由行動をとったと。護衛が少ないと聞けば何気ない風で王子が告げ口してきました。

 ……まあ、お怒りですよね。

 仕事しろと。

 ティルスとシュリーの仲も微妙になってきてるかもしれませんね。元凶、あたしで。

 ……遠い目したくなります。原作クラッシャーしたいわけではないのです。まあ、どちらかと言えばこちらの出来事のほうが原作なんですけどね。

 さて、気を取り直して、魔導車の保管庫までやってきました。
 裏庭の一角に教習コースが出来上がっていましたねっ! 表側からは見えないように巧妙に隠されていたようです。
 隣接施設は兵舎でした。あたしが来るのは事前に告知されていたせいか、見物客が多かったですね。護衛のときに見たことのある顔もちらほら混じっています。
 これで運転するの? 恥ずかしくない?
 知らない間にユウリがよく見えそうなところに陣取っていて気が遠くなりそうでした。現代日本の記憶をもっているならば上手いか下手かくらいは理解できるでしょう。

「鍵はこれな。簡単な操作は一周回る間に教える」

 ゼータさんの超安全運転の元一周してその後、本番です。
 オートマ+自動運転を組み合わせたような感じでした。魔導車自体はオープンカーに近いもので基本的には幌をつけて走るそうです。屋根をつけていると中身をいじりたい時に邪魔なんだそうで。最終形が出来たときにまた外装は検討するとか。

 同乗者は再びゼータさんです。何かあったときに止める人がいないと危ないということでお付き合いいただいています。

「では、軽く」

 魔導車はあまり速度は出ませんでした。60キロくらいが最大速度といったところで、普通に走るなら30~40キロくらいでしょうか。まあ、これでも人をはねたら死にますが。

「確かに、確かにっ! 最大速度を試してもよいと言ったが、そのままカーブ曲がるんじゃねぇよっ! 死ぬかと思った!」

「えー。ふつうですよ、普通」

 ゆるゆるカーブだからいけるか!? と思ったのですが、怖がらせてしまいました。反省します。というかもう二度と乗せてくれない気がしますよ。
 機嫌よくふんふんと鼻歌混じりに降りるあたしとよろよろと降りてくるゼータさんの対比がすごいですね。

「乗らなくて正解だった」

「結構、快適ですよ」

 しれっというあたしにエリックは呆れてましたね。ユウリも苦笑いしてますよ。ちょっと運転が荒いと言われていたあたしなので、その評価は甘んじて受けます。
 それ以外の人たちは唖然としている感じではあります。魔導車の運転って特殊技術に分類されているので、来訪者とはいえ若い娘が簡単に乗り回すなんて半信半疑だったのでしょう。

「心配になるからもう乗らないように」

「心配するの魔導車のほうですよね」

 肩をすくめられたので、それで正解でしょう。ゼータさん他、魔導車関連の人が点検を始めてしまいましたし。
 あたしはお役御免といったところでしょう。

「さて、まだ、時間はあるので兵舎の見学とかしてもよいですか?」

 たまたま見学に来ていた近衛団長を捕まえて、今後の護衛についての要望を出したり、中を見学したりと楽しい時間を過ごしましたよ。
 ただ、ちょっと、エリックをご機嫌斜めにさせてしまいましたけど。
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