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眠り姫
さあ、始めましょう1
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恋人を待つように緩やかな笑みを浮かべ、婚礼衣装を身に着けて。
……というボディを客観的に見させられるのは羞恥の極みでした。まだお会いしたことのない魔導師の女性がいましたが、彼女が衣装係として紹介されました。以前、グレイさん経由で質問をくれたのが彼女だそうですよ。フェリアさんというそうで、今度、教会と組んでブライダルフェアするそうですよ。
うん。ちょっと提案したことがすごい速度で実行されていくとさすがに思うところがあります。フットワークが軽すぎる。
発言は慎重にしましょう。
なお、ドレスは格安で承りますとウィンクされました。ちょっと悩殺されそうでした。だ、だって、色気溢れるお姉さまだったのですもの。大人すぎる。弟子を従えるかなりの実力者だそうです。ちなみにヒューイさんとは同門で姉弟子なのだそうです。
魔導師の年齢って読めない……。
「さて、始めましょう」
リリーさんが宣言しました。
開場は十時くらいでしたね。
見世物の始まりです。
さて、この部屋の現状をお伝えしましょう。中央にベッドがあります。普通は天蓋付きな感じの豪華で大きいベッドですね。そこにあたしが寝ている状態です。その周囲には色とりどりの花が散らされてます。
この花が特別なもので、魔素を取り込んで育ち、花咲くときに魔素を放出するもの。室内の魔素濃度を上げるのに一役買っているというわけです。
最初は魔素濃度をあげるために魔道具を使用していたんですが、魔素切れからの回復不能に陥り植物に頼ることにしたそうです。
花がものすごく増えたわけですね。
あたしは白い衣装を着せられています。気分はコスプレです。この国の今の流行りとは違うエンパイヤドレス風ですね。オフショルダーなので首元が非常に心許ないです。つけたペンダントが目立つのですが、意図的でしょうね。
髪は複雑に編み込まれ花を模したピンが刺さってます。
見てくれだけなら清純派乙女、って感じですね。
室内は広くないと言いながらも十畳は軽く超えてまして、大きなベッドがあっても狭い感じはしないのですが……。
あたしの付き添いとして、魔導協会からはリリーさんが、教会からはカリナさんが、王家からは一番年長の王妃様がいます。私一人場違いとうなだれるカリナさん。諦めてください。おそらく、あたしのお友達認定されてるので今後も同じ扱いになりますよ。
さすがにこうなるとは思ってなかったのでできる限りフォローしたい所存ですが。
この部屋にはさらに護衛としてローゼが控えていて、医者としてヒューイさんがいます。
証人として王様と宰相、教会の偉い人、魔導協会本部の役員がやってきてます。これ以外にも記録係などの役人っぽい人も多数。長時間が予想されているので、給仕する人も控えています。
さすがに狭いと思います。あたしはふよふよ浮いてるだけなので困りはしないのですけど。
上空から俯瞰してみるとなかなかすごい感じで。
偽ざる本音で言えば、うーわー、ないわー、です。もうちょっと軽いものかと思ったら激重です。試す方もプレッシャーが半端ないでしょうね。
そんな中、一番最初にやってきたのはユウリでした。は? と思いましたけど、完全に違う証明をしたいんだそうですよ。
さて、どうやって試すのかといえば、まずどこかに触れられるかから始まるそうです。
ユウリの希望通りに触れる前にばちっと音がして右手を振ってます。
「火傷した」
ほら、ローゼ見て、痛いととても嬉しそうに報告しているのですけど。もちろん仕事中のローゼはそっけなく、そうよかったわねと言ってます。
嬉しいのに素直じゃないですねぇとによによしてしまいます。それを指摘すると全力で否定してユウリを凹ませそうなので、その程度にしておきますけど。
で、その後、ちゃっかりと護衛をするとか言い出してローゼの隣に陣取ったりしてます。まあ、相当無茶な相手でなければ止められるでしょうけどね。
その後、体感的に二十分ごとにひとりくらいのペースでお試ししていきます。挑戦者にとっては残念ながら。あたしにとっては当たり前ですが、誰も触れることさえできません。
英雄であるユウリと国王陛下の前では皆大人しいのかあっさりと引き上げていきます。
ごねたのは二人くらいですかねー。魔導師がずるしてるなんて言われて男性の魔導師を連れてきて試させるとかやりました。被害者はゼータさんです。
お昼もはさみ、妙な和やかささえ生まれてきていますが、未だ本命が来ていないといったところでしょうか。
午後にもなれば空気もゆるゆるで証人として立ち会っている皆様は首脳会談などしているようです。普段こういう風に顔を合わせることはまずないそうなので良い機会だそうで。
……あたしのことはものすごいついで感がします。
気を取り直して、午後も同じ調子でお試しされていますが、怪我を量産しているだけですね。そして、ぱたっと誰も来なくなってあらかた試したかと思っていたのです。
しかし、外が何か騒がしいような……?
「遅くなりました」
来ないかと思っていたティルスがやってきました。相変わらずきらっきらしてますね。着崩してない近衛の制服のせいかこれぞ正統派貴公子って感じです。部屋の外から聞こえてきたきゃーっという声はこれのせいですか。
「どちらにいらっしゃいますか?」
初めてあたしの所在を聞かれましたね。ティルスは今は見えてないということでしょう。周りの視線が、どうする? と問われているようでちょっと悩みます。
「そこ」
が、その空気を読まない感じのヒューイさん、嫌いじゃありませんよ。
ティルスは目をすがめて嬉しそうに笑ったんですよね。
ぞわぞわっとなにかが駆け抜けていきました。悪寒ですね。間違いありません。
「初めて見た時から可愛らしい人だと思っていたのです」
……以下、聞き流しました。要するに、君のことが好きだとそういうやつです。無言で無表情で見下ろしますよね。
「却下」
ためらいもありません。一ミリも誤解を与えないように、冷酷な宣言が必要です。
まあ、無視されて試されましたけどね。
指先が触れて。
手の甲をさらりと撫でられたのです。
え。どういうこと?
ぱかーんと口開いていたと思います。意味が分からない。その場は騒然としますね。今まで誰も触れられなかったのだから。
「アーテル」
呆然としているあたしに小さい呼び声がしました。完全被害者のゼータさんです。用がないから帰れというのもね、ということでいてもらっていましたけど。
「あれはズルしてると思うんだが、詳細はわからない」
「どういうことです?」
「触った一瞬、魔素が動いた。魔道具の起動音もした、と思う。一瞬すぎて確証はない」
さも愛おしそうに手の甲にキスをされていますが、目覚めるわけもありません。
判断保留とされたようですよ……。
「ヒューイさん念入りに除菌してもらっていいですか」
「はいはい。大丈夫?」
キラキラした表情でヒューイさんに見上げられました。
こっそりとサムズアップされましたね。こちらでは一般的なサインではないそうなので採用しています。
この合図が出たということはこの先、あたしの好きにしてよいということです。これまでの茶番は相手への義理の部分。そこで譲歩していれば、あたしの心象も変わっていたでしょうけど。
色々なことが目減りするのは仕方ないと思いますよ?
……というボディを客観的に見させられるのは羞恥の極みでした。まだお会いしたことのない魔導師の女性がいましたが、彼女が衣装係として紹介されました。以前、グレイさん経由で質問をくれたのが彼女だそうですよ。フェリアさんというそうで、今度、教会と組んでブライダルフェアするそうですよ。
うん。ちょっと提案したことがすごい速度で実行されていくとさすがに思うところがあります。フットワークが軽すぎる。
発言は慎重にしましょう。
なお、ドレスは格安で承りますとウィンクされました。ちょっと悩殺されそうでした。だ、だって、色気溢れるお姉さまだったのですもの。大人すぎる。弟子を従えるかなりの実力者だそうです。ちなみにヒューイさんとは同門で姉弟子なのだそうです。
魔導師の年齢って読めない……。
「さて、始めましょう」
リリーさんが宣言しました。
開場は十時くらいでしたね。
見世物の始まりです。
さて、この部屋の現状をお伝えしましょう。中央にベッドがあります。普通は天蓋付きな感じの豪華で大きいベッドですね。そこにあたしが寝ている状態です。その周囲には色とりどりの花が散らされてます。
この花が特別なもので、魔素を取り込んで育ち、花咲くときに魔素を放出するもの。室内の魔素濃度を上げるのに一役買っているというわけです。
最初は魔素濃度をあげるために魔道具を使用していたんですが、魔素切れからの回復不能に陥り植物に頼ることにしたそうです。
花がものすごく増えたわけですね。
あたしは白い衣装を着せられています。気分はコスプレです。この国の今の流行りとは違うエンパイヤドレス風ですね。オフショルダーなので首元が非常に心許ないです。つけたペンダントが目立つのですが、意図的でしょうね。
髪は複雑に編み込まれ花を模したピンが刺さってます。
見てくれだけなら清純派乙女、って感じですね。
室内は広くないと言いながらも十畳は軽く超えてまして、大きなベッドがあっても狭い感じはしないのですが……。
あたしの付き添いとして、魔導協会からはリリーさんが、教会からはカリナさんが、王家からは一番年長の王妃様がいます。私一人場違いとうなだれるカリナさん。諦めてください。おそらく、あたしのお友達認定されてるので今後も同じ扱いになりますよ。
さすがにこうなるとは思ってなかったのでできる限りフォローしたい所存ですが。
この部屋にはさらに護衛としてローゼが控えていて、医者としてヒューイさんがいます。
証人として王様と宰相、教会の偉い人、魔導協会本部の役員がやってきてます。これ以外にも記録係などの役人っぽい人も多数。長時間が予想されているので、給仕する人も控えています。
さすがに狭いと思います。あたしはふよふよ浮いてるだけなので困りはしないのですけど。
上空から俯瞰してみるとなかなかすごい感じで。
偽ざる本音で言えば、うーわー、ないわー、です。もうちょっと軽いものかと思ったら激重です。試す方もプレッシャーが半端ないでしょうね。
そんな中、一番最初にやってきたのはユウリでした。は? と思いましたけど、完全に違う証明をしたいんだそうですよ。
さて、どうやって試すのかといえば、まずどこかに触れられるかから始まるそうです。
ユウリの希望通りに触れる前にばちっと音がして右手を振ってます。
「火傷した」
ほら、ローゼ見て、痛いととても嬉しそうに報告しているのですけど。もちろん仕事中のローゼはそっけなく、そうよかったわねと言ってます。
嬉しいのに素直じゃないですねぇとによによしてしまいます。それを指摘すると全力で否定してユウリを凹ませそうなので、その程度にしておきますけど。
で、その後、ちゃっかりと護衛をするとか言い出してローゼの隣に陣取ったりしてます。まあ、相当無茶な相手でなければ止められるでしょうけどね。
その後、体感的に二十分ごとにひとりくらいのペースでお試ししていきます。挑戦者にとっては残念ながら。あたしにとっては当たり前ですが、誰も触れることさえできません。
英雄であるユウリと国王陛下の前では皆大人しいのかあっさりと引き上げていきます。
ごねたのは二人くらいですかねー。魔導師がずるしてるなんて言われて男性の魔導師を連れてきて試させるとかやりました。被害者はゼータさんです。
お昼もはさみ、妙な和やかささえ生まれてきていますが、未だ本命が来ていないといったところでしょうか。
午後にもなれば空気もゆるゆるで証人として立ち会っている皆様は首脳会談などしているようです。普段こういう風に顔を合わせることはまずないそうなので良い機会だそうで。
……あたしのことはものすごいついで感がします。
気を取り直して、午後も同じ調子でお試しされていますが、怪我を量産しているだけですね。そして、ぱたっと誰も来なくなってあらかた試したかと思っていたのです。
しかし、外が何か騒がしいような……?
「遅くなりました」
来ないかと思っていたティルスがやってきました。相変わらずきらっきらしてますね。着崩してない近衛の制服のせいかこれぞ正統派貴公子って感じです。部屋の外から聞こえてきたきゃーっという声はこれのせいですか。
「どちらにいらっしゃいますか?」
初めてあたしの所在を聞かれましたね。ティルスは今は見えてないということでしょう。周りの視線が、どうする? と問われているようでちょっと悩みます。
「そこ」
が、その空気を読まない感じのヒューイさん、嫌いじゃありませんよ。
ティルスは目をすがめて嬉しそうに笑ったんですよね。
ぞわぞわっとなにかが駆け抜けていきました。悪寒ですね。間違いありません。
「初めて見た時から可愛らしい人だと思っていたのです」
……以下、聞き流しました。要するに、君のことが好きだとそういうやつです。無言で無表情で見下ろしますよね。
「却下」
ためらいもありません。一ミリも誤解を与えないように、冷酷な宣言が必要です。
まあ、無視されて試されましたけどね。
指先が触れて。
手の甲をさらりと撫でられたのです。
え。どういうこと?
ぱかーんと口開いていたと思います。意味が分からない。その場は騒然としますね。今まで誰も触れられなかったのだから。
「アーテル」
呆然としているあたしに小さい呼び声がしました。完全被害者のゼータさんです。用がないから帰れというのもね、ということでいてもらっていましたけど。
「あれはズルしてると思うんだが、詳細はわからない」
「どういうことです?」
「触った一瞬、魔素が動いた。魔道具の起動音もした、と思う。一瞬すぎて確証はない」
さも愛おしそうに手の甲にキスをされていますが、目覚めるわけもありません。
判断保留とされたようですよ……。
「ヒューイさん念入りに除菌してもらっていいですか」
「はいはい。大丈夫?」
キラキラした表情でヒューイさんに見上げられました。
こっそりとサムズアップされましたね。こちらでは一般的なサインではないそうなので採用しています。
この合図が出たということはこの先、あたしの好きにしてよいということです。これまでの茶番は相手への義理の部分。そこで譲歩していれば、あたしの心象も変わっていたでしょうけど。
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