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眠り姫

雨が降る3

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 精神的にくたびれた87日を経過し、88日目に突入しました。もちろん夜中です。
 ……ええ、今日も今日とて、お邪魔しておりまして。なお、エリックは移動したようで王城のどこからしいですよ。
 屋根裏部屋ってどうなんですか。

「庭の全貌と防御結界の構成がよく見えた」

 って言ってましたので、存分に楽しんだようです。なによりです。嫌がらせが嫌がらせにならない。
 構成上、どこを壊せばいいのかわかったとか怖いこと言ってました。もし逃亡する場合には時間稼ぎとして破壊するそうで……。
 心が落ち着きません。え、それ、大丈夫? と聞けば、意味ありげに笑われておしまいでした。絶対、大丈夫じゃないっ!

 そして、今も大丈夫じゃない状況でして……。
 明日は早いんだとか何とか言いながら、帰れじゃなくてベッドに連れ込まれるとか。嫌なら戻ればいいんですけどね。そのままいるということも見透かされてるのが羞恥レベルをあげていきました。
 それでも、あの場所は寂しすぎます。戻りたくありません。

 エリックは眠いと言っていた通り、すぐに寝息が聞こえてきました。お疲れだったんですよね。無防備なそれがなにか信用のようで嬉しくはなってきますけど。
 全く、落ち着きません。

 今日も雨は降っています。窓の外の音で激しい雨音がしていました。
 より、強いそれは異常とも言えるらしいですよ。なぜなら、フェザーの町は普通に一日降ってやんだらしいので。王都だけ土砂降り。やむ気配も感じません。
 気象関係に強いライさんがいつ上がるかわかんないわーなどとぼやきにきましたので。

 なぜ今回の件と無関係そうなライさんに遭遇したかといえば、あたしの体を置いている部屋は気がつけば魔導師のたまり場と化したからです……。建前上、外的要因での傷などを受けない結界を作るとか何とか言ってたんです。そのために魔導師を集めると。

 でもですね、この眠り姫、もとになったおとぎ話通りに対象者以外には拒絶する機能がついているんです。つまり、なにものにも傷つけることは不可能。やったら倍返し! なんですって。

 茨みたいに自動迎撃とかしない仕様が安心できるのでしょうか。

 そんな規格外な魔法だけに要求魔素量は半端なく、この部屋のある一角の魔道具は一切機能を停止中だそうですよ。起動時には本人の魔素を使用し、それを維持するには近くの魔素を吸い上げると。
 そのため、眠ろうと思えば永遠にを地でいくそうです。魔素を遮断するとどうなるかというと死ぬそうで……。

 ご子孫がいるところでいうのもなんですけど、何考えてこんなの作った!と思います。

 原因はこじらせた初恋だそうです。

 知りたくないですよ。そんなのーっ!

 ……。
 ま、まあ、それはいいんです。そっちも精神的にくるものがありましたが、仕方ありません。

 彼女たちの本題はそこにはありませんでした。ホワイトボードみたいなものを出してきて、異世界の知識を系統立てて書かれるとか。曖昧にごまかしたところは容赦なく突っ込まれたり、ぐったりしますよね……。
 チート的、用語集さんがとても活躍しましたが頭が痛くなりましたね。
 どこの一門がそれの専門なのかとか、力関係についての講習が始まったりしてですね。皆さま楽しそうでした。よかったですねー。そこでなんで、どこの一門が一番先に質問状を送るかについて揉めだすのか……。

 ちなみに男性であるゼータさんはこの集まりにハブられました。入口までは来たんですけど、入るのは許可されないと。
 本人はあからさまにほっとした顔してたのでこの展開は想像してたんでしょう。

 精神的に色々削られた気がします。まあ、余計なことを考えずに済んだとも言えます。例えば、エリックが雨の日を嫌がる理由とか。
 聞きたいけど、そこまで踏み込む勇気もないんですよね。そのあたりをぐるぐると考えて煮詰まりそうだったんです。

 ……昨日の現実もなかなかしんどかったですね。現実逃避にもなりません。
 そして、寝れないしどうしよう、と思っていたら、なぜか朝まで時間が進行してました。

 ……いえ、なぜ、ではありませんね。気絶みたいに意識不明、だったらいいんですけど、寝顔を見ながら色々考え事をしていたら、です。
 主に推しが尊いということにすべて落ち着くあたり正気ではありませんねっ!

 大事なものみたいに抱え込まれるとなにかくるものがありまして。え、襲う? いいの? みたいな葛藤がっ! 物理的に不可能な現実がつらい。

「……そ、そろそろ起きられては?」

 早朝ではありますが、起こしてみることにしました。

「もうちょっと」

 寝ぼけた声が聞こえてきますね。気だるそうな色気があふれてますけど、どうしましょうかね? なぜ今あたしは霊体(仮)なのですかっ!

「朝、早いって言ってましたよ?」

「やだ」

 ……。
 子供っぽい言い方がぐさっと刺さっていきましたよ。あれ? あたし、そんな性癖ありましたっけ?

「……ちゅーしちゃいますよー?」

 まあ、返答待たずにしますけどね?
 理性は過労でダウンしてますし、自制心も死にかけなのでしかたないですねっ!

 エリックの無防備な首筋にしたら、ばっちり覚醒されました。ちっ。

「な、なにしてっ」

「起こしましたよ。それにちゃんと言いました」

 しれっと申し述べておきます。返答はいただいておりませんが、まあ、いいじゃないですか。
 それにしても自分からするのは良くてされるのには抵抗があるんでしょうか。

「……あのな」

 さらに続きそうな言葉はドアを叩く音でさえぎられました。
 というか、ですね。叩いてすぐに開けるってのはどうなんでしょう?
 覗いてきたのは美人さんでした。もちろん、見覚えがあります。そういえば、魔導師だというのに会っていませんね。

「起きる。ディレイはお寝坊さんだから」

 フラウのご機嫌な声が聞こえてきました。
 ん。イラっとなんかしませんよ。してないったらしてないんですっ!
 エリックはちょっとあたしに気を使ったように上半身を起こして、フラウに面倒そうな視線を投げてますね。動揺一切なし。逆に怪しいくらいですが。

 うん。なんか、もやもやしたので離れて空中に浮かんでましょう。

「フラウはいつまでも子供だな」

「そんなことはない」

 フラウはあっさりと部屋に入って扉まで閉めちゃったんですけど。この世界的に異性と二人きりのときは扉を開けておくのがマナーとか聞いたような。
 だから、気をつけるようにとリリーさんに何度も言われたんですよ。魔導師は一切気にしないんだけど、あれよくないからと。
 エリックは嫌そうな顔をしてますね。眉間のしわが深い。

「男の部屋に入らない。そのくらい教えられてると思ったんだが」

「ん? 襲う?」

 ……。
 フラウがものすっごいわくわくしたような表情だったんですけどっ!

「そういう対象じゃない」

「がーん」

 今、ショックという顔でフラウが崩れ落ちたんですけど。え? あれ? 彼女ってこんなんでしたっけ?
 天才魔導師、でもその他の生活能力が低いっていう。クール系美女のようで結構抜けてるみたいな……。

 うん。そんなでした。

「私のこと大好きなはず!」

 はっと顔を上げて強く主張してます。
 エリックはそれに呆れたような雰囲気はしますね。なに言ってるんだ? みたいな視線が冷たいというか。

「ユウリはどうした」

「他人の旦那に興味はない」

「俺も婚約者がいるんだが」

「それもいつのこと。ま、まさか、フュリーとか言わない?」

「ありえないだろ。あっちは俺のこと嫌いなんだから」

「……乙女心を理解してない」

 同感です。嫌いだから絡むんじゃないんですよ。あれ。
 フラウは微妙な顔をしていたかと思えばきりっとした表情で宣言しました。

「紹介」

「は?」

「相手を義理の妹として査定する」

 ……予想外のところから査定が来ました。まさかのシスコン枠とか想定してないんですけど。

「そのうちな。まずは迎えにいかないといけない」

「そういえば、今日はどうしてみんな武装推奨?」

「……聞いてないのか」

「うん」

「師匠かリリーに聞け」

 エリックは気まずそうに丸投げしました。
 フラウは不思議そうな顔で首をかしげていましたが、着替えという名目で部屋を追い出されてました。
 一体なにをしにきたのでしょうか? まさかの起こしにきただけ?

 というか武装って。
 昨日聞いたところによると十人ほどすでに城内にいるそうです。居心地の悪い王都に居座るような魔導師が実力者でないわけもなく……。
 え、制圧するの? とか薄っすら思った記憶はあります。通常モードですらそれなのに武装って。
 ……考えるのをやめましょう。胃が痛くなります。ここまでの大事は望んでません。穏便に恋人いるしと広めて色々干渉するのをやめてもらえればいいのです。

 まあ、簡単に諦めるには条件の良すぎる嫁だから無理なんでしょうかね……。

「夕方くらいと言っていたから、退屈だろうが待っているように」

 あちこちふらふらするなと釘を刺されました。
 良い子のお返事をして部屋に戻ることにしましたよ。

 しかし、戻った先がさらに花が増えて、飾り付けられて化粧もされている自分を発見してげんなりすることになるとは思いませんでした。
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