異世界転生した僕、実は悪役お兄様に溺愛されてたようです

野良猫のらん

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第六十四話 拉致

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「う、うぅ……」

 頭にズキンとする痛みを覚えながら僕は目を覚ました。
 僕はどこの廃屋のような古びた埃臭い場所で、嫌らしい笑みを浮かべる男たちに見下ろされていた。
 このような場所、村の中にあっただろうか?

 ごろつきが数人に、僕に魔術をかけた商人風の男が一人。
 自分がこの男らに誘拐されてしまったのだということは明白だった。
 一体、何のために?

 手が動かせない。
 僕は地べたに寝かせられた状態で腕を縛られているらしい。
 白いジャケットは脱がされてしまっていた。どこかに捨てられてしまったのだろうか。

「貴様ら、これは一体何の真似だ!」

 とりあえず彼らのことを睨み付けてみる。

「へへ、こんな別嬪さんを攫ってきてヤることなんて一つだろ……?」
「アルビノの処女とヤると一生病にかからないって言うしな」
「周囲には誰もいませんから、助けを呼んでも誰にも聞こえませんよ」

 男らは下卑た笑みを浮かべる。

「…………」

 大丈夫だ。きっとロベールが助けに来てくれるはず。
 そのためにはなるべく時間を稼がねば。

「それはおかしい」

 僕は口を開いた。
 僕に乱暴するためだけに僕を攫ったという男たちの主張には疑問があった。

「ほう?」

 商人風の身なりの男が面白そうに片眉を上げる。

 わざわざアルビノが珍しいからって教会に忍び込んで花婿を攫うものだろうか。しかも一人は裕福な身なりをしている。短絡的な犯行とそぐわない。
 となれば、彼らは何か他の目的があって僕を拉致してきたはずだ。

 大丈夫だ、大丈夫。
 何なら隙を見て右耳のイヤリングでロベールと連絡を取ることだってできる、とさりげなく耳に触れた。

「……っ!?」

 イヤリングが、なかった。

「ああ。通信ができる装飾具には運んでくる途中で気が付いて捨てておきましたよ」

 口髭を尖らせた男が笑う。

「この……っ!」

 せっかくロベールが買ってくれたイヤリングを……!
 僕は赤い瞳に怒りを滲ませた。
 商人風の男は涼しくその視線を受け流す。

「我らがただの暴漢でないとしたら、何だと言うのです? 他の領地から忍び込んだスパイですかな?」
「まさか……!」

 男の言葉にハッとする。
 僕の頭の中で閃きが駆け巡るのに被せるように、男は言葉を重ねた。

「そう。ワタクシどもナルセンティア家から依頼されたのですよ。思い上がった花婿をこらしめるようにと」

 商人風の男はニヤリとほくそ笑む。

「命までは取らなくとも、心に消えない傷を残すようにとの仰せです」

 そうか、この男らはナルセンティアの手の者だったのか。
 僕をこらしめるために。
 こらしめるために……?

「お前たち、"優しく"してあげるのですよ」
「へへ……」

 男たちがじわりじわりと距離を詰めてくる。
 彼らの腕が届きそうになった瞬間、一か八か僕は叫んだ。

「それは違う……ッ!」
「な……っ!?」

 商人風の男がギクリと顔を強張らせる。

「な、何が違うというのですか。我々は確かに、あなたのにっくき仇であるナルセンティアから……」

 これだ。
 わざわざ自分から印象付けるような自白。

 それに、僕をこらしめるためにナルセンティア家が男たちを雇っただって? 僕の事が気に食わないのであれば結婚を許可しなければいいだけの話のはずだ。

 それにそれが本当だとすればロベールは間違いなくナルセンティアと全面戦争をすると言い出すはずだろう。
 このまま結婚すればこの村がナルセンティアに吸収されるのに、戦争状態に陥ってしまう。

 まるでこの男たちはこの村とナルセンティアとで戦争をして欲しいみたいじゃないか……。

「そうか」

 ハッと閃く。
 この男たちの正体が分かった。

「貴様らは――――ガルテレミの者か!」
「グッ!」

 商人風の裕福な身なりの男は苦しげに顔を歪めた。

「ガルテレミは、ナルセンティアが領土を拡大することを苦々しく思っている。だから……! 花婿を穢すことで、結婚がご破算になればいいと思った!」

 すべてが繋がった。
 ガルテレミは少しでもナルセンティアの力を削げればいいと思っている。だからロベールと僕の結婚の話がなくなればと思ったんだ。そうすればこの村の分だけでもナルセンティアの領土の拡大を防げるから。
 でも調査不足だったな。僕の伴侶はそれくらいのことで僕を捨てたりはしないんだ。

「ナルセンティアの手の者を騙ったのも、あわよくばこの村とナルセンティアが戦争になればいいとでも思ったんだろう。貴様らの思惑はすべてお見通しだ!」
「クソ……かくなる上は口封じだ、口も利けないくらいの廃人にしてしまえ!」

 商人風の男は完全に逆上して男らに命じる。
 しまった、追いつめ過ぎたか。

「いいんですかい?」

 暴漢の一人が流石に気が引けたように商人風の男を振り返る。

「コイツの口から漏れたら我々は全員始末されるんだぞ!」

 商人風の男は暴漢の意見を無理やり封じる。
 そんなリスクを背負わされてるだなんて、よほどの大金を握らされたのだろう。

「仕方ねえ……」

 男らがじわりと包囲網を詰める。
 太い腕が僕に伸ばされる。
 生理的嫌悪感が込み上げてくる。

「ロベール……助けて――――ッ!!!!」

 僕はぎゅっと目を閉じた。
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