71 / 84
第六十四話 拉致
しおりを挟む
「う、うぅ……」
頭にズキンとする痛みを覚えながら僕は目を覚ました。
僕はどこの廃屋のような古びた埃臭い場所で、嫌らしい笑みを浮かべる男たちに見下ろされていた。
このような場所、村の中にあっただろうか?
ごろつきが数人に、僕に魔術をかけた商人風の男が一人。
自分がこの男らに誘拐されてしまったのだということは明白だった。
一体、何のために?
手が動かせない。
僕は地べたに寝かせられた状態で腕を縛られているらしい。
白いジャケットは脱がされてしまっていた。どこかに捨てられてしまったのだろうか。
「貴様ら、これは一体何の真似だ!」
とりあえず彼らのことを睨み付けてみる。
「へへ、こんな別嬪さんを攫ってきてヤることなんて一つだろ……?」
「アルビノの処女とヤると一生病にかからないって言うしな」
「周囲には誰もいませんから、助けを呼んでも誰にも聞こえませんよ」
男らは下卑た笑みを浮かべる。
「…………」
大丈夫だ。きっとロベールが助けに来てくれるはず。
そのためにはなるべく時間を稼がねば。
「それはおかしい」
僕は口を開いた。
僕に乱暴するためだけに僕を攫ったという男たちの主張には疑問があった。
「ほう?」
商人風の身なりの男が面白そうに片眉を上げる。
わざわざアルビノが珍しいからって教会に忍び込んで花婿を攫うものだろうか。しかも一人は裕福な身なりをしている。短絡的な犯行とそぐわない。
となれば、彼らは何か他の目的があって僕を拉致してきたはずだ。
大丈夫だ、大丈夫。
何なら隙を見て右耳のイヤリングでロベールと連絡を取ることだってできる、とさりげなく耳に触れた。
「……っ!?」
イヤリングが、なかった。
「ああ。通信ができる装飾具には運んでくる途中で気が付いて捨てておきましたよ」
口髭を尖らせた男が笑う。
「この……っ!」
せっかくロベールが買ってくれたイヤリングを……!
僕は赤い瞳に怒りを滲ませた。
商人風の男は涼しくその視線を受け流す。
「我らがただの暴漢でないとしたら、何だと言うのです? 他の領地から忍び込んだスパイですかな?」
「まさか……!」
男の言葉にハッとする。
僕の頭の中で閃きが駆け巡るのに被せるように、男は言葉を重ねた。
「そう。ワタクシどもナルセンティア家から依頼されたのですよ。思い上がった花婿をこらしめるようにと」
商人風の男はニヤリとほくそ笑む。
「命までは取らなくとも、心に消えない傷を残すようにとの仰せです」
そうか、この男らはナルセンティアの手の者だったのか。
僕をこらしめるために。
こらしめるために……?
「お前たち、"優しく"してあげるのですよ」
「へへ……」
男たちがじわりじわりと距離を詰めてくる。
彼らの腕が届きそうになった瞬間、一か八か僕は叫んだ。
「それは違う……ッ!」
「な……っ!?」
商人風の男がギクリと顔を強張らせる。
「な、何が違うというのですか。我々は確かに、あなたのにっくき仇であるナルセンティアから……」
これだ。
わざわざ自分から印象付けるような自白。
それに、僕をこらしめるためにナルセンティア家が男たちを雇っただって? 僕の事が気に食わないのであれば結婚を許可しなければいいだけの話のはずだ。
それにそれが本当だとすればロベールは間違いなくナルセンティアと全面戦争をすると言い出すはずだろう。
このまま結婚すればこの村がナルセンティアに吸収されるのに、戦争状態に陥ってしまう。
まるでこの男たちはこの村とナルセンティアとで戦争をして欲しいみたいじゃないか……。
「そうか」
ハッと閃く。
この男たちの正体が分かった。
「貴様らは――――ガルテレミの者か!」
「グッ!」
商人風の裕福な身なりの男は苦しげに顔を歪めた。
「ガルテレミは、ナルセンティアが領土を拡大することを苦々しく思っている。だから……! 花婿を穢すことで、結婚がご破算になればいいと思った!」
すべてが繋がった。
ガルテレミは少しでもナルセンティアの力を削げればいいと思っている。だからロベールと僕の結婚の話がなくなればと思ったんだ。そうすればこの村の分だけでもナルセンティアの領土の拡大を防げるから。
でも調査不足だったな。僕の伴侶はそれくらいのことで僕を捨てたりはしないんだ。
「ナルセンティアの手の者を騙ったのも、あわよくばこの村とナルセンティアが戦争になればいいとでも思ったんだろう。貴様らの思惑はすべてお見通しだ!」
「クソ……かくなる上は口封じだ、口も利けないくらいの廃人にしてしまえ!」
商人風の男は完全に逆上して男らに命じる。
しまった、追いつめ過ぎたか。
「いいんですかい?」
暴漢の一人が流石に気が引けたように商人風の男を振り返る。
「コイツの口から漏れたら我々は全員始末されるんだぞ!」
商人風の男は暴漢の意見を無理やり封じる。
そんなリスクを背負わされてるだなんて、よほどの大金を握らされたのだろう。
「仕方ねえ……」
男らがじわりと包囲網を詰める。
太い腕が僕に伸ばされる。
生理的嫌悪感が込み上げてくる。
「ロベール……助けて――――ッ!!!!」
僕はぎゅっと目を閉じた。
頭にズキンとする痛みを覚えながら僕は目を覚ました。
僕はどこの廃屋のような古びた埃臭い場所で、嫌らしい笑みを浮かべる男たちに見下ろされていた。
このような場所、村の中にあっただろうか?
ごろつきが数人に、僕に魔術をかけた商人風の男が一人。
自分がこの男らに誘拐されてしまったのだということは明白だった。
一体、何のために?
手が動かせない。
僕は地べたに寝かせられた状態で腕を縛られているらしい。
白いジャケットは脱がされてしまっていた。どこかに捨てられてしまったのだろうか。
「貴様ら、これは一体何の真似だ!」
とりあえず彼らのことを睨み付けてみる。
「へへ、こんな別嬪さんを攫ってきてヤることなんて一つだろ……?」
「アルビノの処女とヤると一生病にかからないって言うしな」
「周囲には誰もいませんから、助けを呼んでも誰にも聞こえませんよ」
男らは下卑た笑みを浮かべる。
「…………」
大丈夫だ。きっとロベールが助けに来てくれるはず。
そのためにはなるべく時間を稼がねば。
「それはおかしい」
僕は口を開いた。
僕に乱暴するためだけに僕を攫ったという男たちの主張には疑問があった。
「ほう?」
商人風の身なりの男が面白そうに片眉を上げる。
わざわざアルビノが珍しいからって教会に忍び込んで花婿を攫うものだろうか。しかも一人は裕福な身なりをしている。短絡的な犯行とそぐわない。
となれば、彼らは何か他の目的があって僕を拉致してきたはずだ。
大丈夫だ、大丈夫。
何なら隙を見て右耳のイヤリングでロベールと連絡を取ることだってできる、とさりげなく耳に触れた。
「……っ!?」
イヤリングが、なかった。
「ああ。通信ができる装飾具には運んでくる途中で気が付いて捨てておきましたよ」
口髭を尖らせた男が笑う。
「この……っ!」
せっかくロベールが買ってくれたイヤリングを……!
僕は赤い瞳に怒りを滲ませた。
商人風の男は涼しくその視線を受け流す。
「我らがただの暴漢でないとしたら、何だと言うのです? 他の領地から忍び込んだスパイですかな?」
「まさか……!」
男の言葉にハッとする。
僕の頭の中で閃きが駆け巡るのに被せるように、男は言葉を重ねた。
「そう。ワタクシどもナルセンティア家から依頼されたのですよ。思い上がった花婿をこらしめるようにと」
商人風の男はニヤリとほくそ笑む。
「命までは取らなくとも、心に消えない傷を残すようにとの仰せです」
そうか、この男らはナルセンティアの手の者だったのか。
僕をこらしめるために。
こらしめるために……?
「お前たち、"優しく"してあげるのですよ」
「へへ……」
男たちがじわりじわりと距離を詰めてくる。
彼らの腕が届きそうになった瞬間、一か八か僕は叫んだ。
「それは違う……ッ!」
「な……っ!?」
商人風の男がギクリと顔を強張らせる。
「な、何が違うというのですか。我々は確かに、あなたのにっくき仇であるナルセンティアから……」
これだ。
わざわざ自分から印象付けるような自白。
それに、僕をこらしめるためにナルセンティア家が男たちを雇っただって? 僕の事が気に食わないのであれば結婚を許可しなければいいだけの話のはずだ。
それにそれが本当だとすればロベールは間違いなくナルセンティアと全面戦争をすると言い出すはずだろう。
このまま結婚すればこの村がナルセンティアに吸収されるのに、戦争状態に陥ってしまう。
まるでこの男たちはこの村とナルセンティアとで戦争をして欲しいみたいじゃないか……。
「そうか」
ハッと閃く。
この男たちの正体が分かった。
「貴様らは――――ガルテレミの者か!」
「グッ!」
商人風の裕福な身なりの男は苦しげに顔を歪めた。
「ガルテレミは、ナルセンティアが領土を拡大することを苦々しく思っている。だから……! 花婿を穢すことで、結婚がご破算になればいいと思った!」
すべてが繋がった。
ガルテレミは少しでもナルセンティアの力を削げればいいと思っている。だからロベールと僕の結婚の話がなくなればと思ったんだ。そうすればこの村の分だけでもナルセンティアの領土の拡大を防げるから。
でも調査不足だったな。僕の伴侶はそれくらいのことで僕を捨てたりはしないんだ。
「ナルセンティアの手の者を騙ったのも、あわよくばこの村とナルセンティアが戦争になればいいとでも思ったんだろう。貴様らの思惑はすべてお見通しだ!」
「クソ……かくなる上は口封じだ、口も利けないくらいの廃人にしてしまえ!」
商人風の男は完全に逆上して男らに命じる。
しまった、追いつめ過ぎたか。
「いいんですかい?」
暴漢の一人が流石に気が引けたように商人風の男を振り返る。
「コイツの口から漏れたら我々は全員始末されるんだぞ!」
商人風の男は暴漢の意見を無理やり封じる。
そんなリスクを背負わされてるだなんて、よほどの大金を握らされたのだろう。
「仕方ねえ……」
男らがじわりと包囲網を詰める。
太い腕が僕に伸ばされる。
生理的嫌悪感が込み上げてくる。
「ロベール……助けて――――ッ!!!!」
僕はぎゅっと目を閉じた。
64
お気に入りに追加
2,641
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?
桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。
前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。
ほんの少しの間お付き合い下さい。
【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい
おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。
生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。
地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。
転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。
※含まれる要素
異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛
※小説家になろうに重複投稿しています
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
本編完結しました!
おまけをちょこちょこ更新しています。
第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる