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第六十三話 結婚式当日

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「大変美しゅうございます、アントワーヌ様」

 着付けを終えた僕の姿を見て、爺やはしみじみと呟いた。

「ついにご結婚されるのだと、ようやっと実感が湧いてまいりました」
「爺や、泣かないで」

 爺やはまるで娘を嫁にやる父親のように感極まっているようであった。その姿にくすりと微笑む。
 今日は遂にロベールと僕の結婚式当日であった。

 僕は教会の控室に設置されている姿見の前に立ち、僕も自分の姿を確かめることにした。

 純白のタキシード姿ではあるものの、ロベールのタキシードとはデザインが少し違っている。
 僕のシャツには襟がなく、首元の肌が鎖骨まで見えるデザインになっている。
 さらにボディスという女性用のベストを模したデザインのベストを纏っているので中性的な印象になっている。
 そして……頭からは刺繍をたっぷりと散らしたヴェールを被っている。二人で刺繍したヴェールだ。
 血色よく見えるように唇には紅を引き、頬には朱をさしている。右耳に光るのはロベールの瞳と同じ色をした石をあしらったイヤリング。

「……うん」

 我ながら立派な見た目だと思う。きっとロベールも綺麗だと言ってくれるだろう。
 ちなみに衣装合わせの時に既にロベールのタキシード姿は目にした。これが存外似合っていて思わずきゅんと来てしまい、その晩はベッドの上で大いに盛り上がってしまった。その時のことはまた機会があったら語るとしよう。

 ロベールと僕はそれぞれ別の控室に待機している。
 顔を合わせるのは式本番までお預けだ。

「それでは皆様にアントワーヌ様の準備が整いましたことを報せてきましょう」

 爺やが控室から出ていく。
 それから少しして、控室に入ってくる者があった。
 最初は爺やが戻ってきたのかと思ったが、それは知らない男だった。

「誰だ……?」

 裕福な商人風の装いをした男であった。
 口髭がしっかりと卵白で固められて尖っている。

「ワタクシ、通りすがりの商人でございまして。この村の領主様が本日ご結婚なさると聞いてご挨拶に伺おうかと」

 確かに人口が増えたこの村には商機を求めて直接ダンジョンに関係しない商品も含めてありとあらゆる物を扱う商人が集う。
 この男もそういった商人の一人なのだろうか……?

「……それにしても本当に領主様は護衛を付けていらっしゃらないのですね」

 男は呟く。
 普段はロベールの護衛が僕の護衛もしてくれているのだが、今日は美しく着飾った花婿の傍に正式な護衛でもない男が付いているのはどうだろうかということで爺やだけが付いていたのだった。

 ……爺やが戻ってくるのが妙に遅い。どうしたのだろう、途中で誰かに用事でも言いつけられたのだろうか。
 僕は急にこの場にこの男と二人きりなってしまっているこの状況が怖く思えてきた。

「いや、護衛ならいるんだ。少し席を外しているところで。今呼びに行こう」

 主人の方が護衛を呼びに行くなんてあり得ない話だ。
 だが支離滅裂なことを口にしてでもこの場から逃れたかった。

「お待ちください」

 ハシッと男に腕を掴まれる。

「こちらをご覧ください」

 眼前に杖を突きつけられた。
 ただの杖ではなく、先端に魔石を取り付けた魔術師用の杖である。
 そこから波動のようなものが放たれる。もろに食らってしまった僕は頭がくらりとする。

「魔術……ッ!!」

 強烈な睡魔が襲ってくる。睡眠魔術をかけられてしまったのだろう。
 恐らく爺やがなかなか戻って来ないのもこの男が何かしたのだろうが、気が付くのが遅かった。

「お前たち、入ってこい」

 男の合図でいかにも粗暴そうな男たちが控室に入ってくる。
 抵抗しなければ、と思うが睡魔が急速に意識を刈り取った。
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