8 / 32
私とあの子の違い
しおりを挟む
桃香から話があると声を掛けられ会社の近くのカフェへと向かった。ランチタイムで店内は混雑していた。これぐらい賑やかな方が話がしやすい。注文が済むと桃香が頭を下げた。
「すみませんでした……本当にすみません。謝って済む問題じゃないんですけど……」
開口一番に桃香の謝罪から始まった。注文した飲み物も到着していない。
桃香の泣きそうな顔を見て千紘は意外と冷静だった。
桃香はあれから偶然琢磨と会ってどうしても繋がりを持ちたかったと言っていた。一目惚れをして、玉砕覚悟で告白をしたのだと──。
その表情は本当につらそうだった。桃香は泣くのを堪えて瞬きを繰り返している。
「先輩──すみません……言わなきゃって思ってたのにずっと言えなくて……私、先輩の事分かってたのに琢磨くんの事……好きになっちゃって……」
千紘は背もたれにもたれ掛かると話を聞きながら相槌を打つ。
「いいの──大丈夫よ。良かったじゃない……桃香ちゃんの勇気が実を結んだし」
千紘はふわりと笑った。その笑顔に桃香が押し黙る。千紘は入社してから何かあると助けてくれた先輩だ。ミスをしても、時に厳しく叱り、時に優しく微笑んで助けてくれた。桃香は自分のした事の大きさに気付いた。
桃香は怖かった。千紘が笑っているのに泣いていると思った。いつも優しく撫でてくれた手にもう触れられないような気がした。
「怒ってください……先輩、そうでないと私──」
千紘が首を横に振る。その仕草に桃香は目を細めた。千紘の表情はなぜか穏やかだった。
「怒る立場じゃないもの。琢磨は、いい奴よ……子供っぽいところもあるけれど、温かい男だと思う」
桃香は黙って頷いていた。
もっと怒鳴られて、責められて、口も聞いてくれなくなると思っていた。
先輩はなぜ全てを受け入れて、私のことを許そうとするのだろう。許してもらえないと思っていたのに……。
「どうして、そんなに優しいんですかっ! 私……先輩の好きな人を──」
「私じゃダメだから」
「……え?」
「私はね、桃香ちゃんとは違うの。そんな風に琢磨に寄り添える場所にいないから。だから、怒ったって、責めたって意味ないの。最初から、勝負になんて、ならない。私はただの友達だから……」
千紘は到着したカフェラテを桃香へと手渡す。前のめりになると頬杖をつく……アイスコーヒーに黒のストローを挿すと縁に沿って回した……。
「幸せに、してあげてね。私はもういいから。強がりじゃない……本当にいいの。最初から決まってたのを足掻いただけ」
「先輩……」
「桃香ちゃんでよかった。幸せになってね」
あの時に何かが切れた感覚はなんだったんだろう。こうして桃香の謝罪や想いを聞いても怒りの気持ちはなかった。桃香への友情は変わらずある。誰よりも琢磨を好きな気持ちは理解できる。
言葉では説明できないが──とにかく何かが切れた。
桃香ちゃんは出会って二週間で琢磨の横に並び、私は五年も想いながらじっと同じ場所に立ち続けていた。
無理な事が分かっているのに、どうしてこんなにも意固地になって琢磨のそばに居続けたのだろう。
今となっては……馬鹿らしく思えた。
全然違う。私はもう随分と前に刻印を押され ていたじゃないの……。私と桃香ちゃんは、全然違う……。
琢磨と出会ったあの時に叩きつけられた刻印は……消えなかった。
友達の肩書きを──拭えない。
「じゃ、先戻るね」
「……はい」
席を立つと桃香に別れを告げた。
これからも同僚として顔を合わせる。その度に琢磨と笑い合う姿を想像するのだろう。
千紘は帰り道を歩きながら笑えてきた。その視線はまっすぐ前を見ていた。
「すみませんでした……本当にすみません。謝って済む問題じゃないんですけど……」
開口一番に桃香の謝罪から始まった。注文した飲み物も到着していない。
桃香の泣きそうな顔を見て千紘は意外と冷静だった。
桃香はあれから偶然琢磨と会ってどうしても繋がりを持ちたかったと言っていた。一目惚れをして、玉砕覚悟で告白をしたのだと──。
その表情は本当につらそうだった。桃香は泣くのを堪えて瞬きを繰り返している。
「先輩──すみません……言わなきゃって思ってたのにずっと言えなくて……私、先輩の事分かってたのに琢磨くんの事……好きになっちゃって……」
千紘は背もたれにもたれ掛かると話を聞きながら相槌を打つ。
「いいの──大丈夫よ。良かったじゃない……桃香ちゃんの勇気が実を結んだし」
千紘はふわりと笑った。その笑顔に桃香が押し黙る。千紘は入社してから何かあると助けてくれた先輩だ。ミスをしても、時に厳しく叱り、時に優しく微笑んで助けてくれた。桃香は自分のした事の大きさに気付いた。
桃香は怖かった。千紘が笑っているのに泣いていると思った。いつも優しく撫でてくれた手にもう触れられないような気がした。
「怒ってください……先輩、そうでないと私──」
千紘が首を横に振る。その仕草に桃香は目を細めた。千紘の表情はなぜか穏やかだった。
「怒る立場じゃないもの。琢磨は、いい奴よ……子供っぽいところもあるけれど、温かい男だと思う」
桃香は黙って頷いていた。
もっと怒鳴られて、責められて、口も聞いてくれなくなると思っていた。
先輩はなぜ全てを受け入れて、私のことを許そうとするのだろう。許してもらえないと思っていたのに……。
「どうして、そんなに優しいんですかっ! 私……先輩の好きな人を──」
「私じゃダメだから」
「……え?」
「私はね、桃香ちゃんとは違うの。そんな風に琢磨に寄り添える場所にいないから。だから、怒ったって、責めたって意味ないの。最初から、勝負になんて、ならない。私はただの友達だから……」
千紘は到着したカフェラテを桃香へと手渡す。前のめりになると頬杖をつく……アイスコーヒーに黒のストローを挿すと縁に沿って回した……。
「幸せに、してあげてね。私はもういいから。強がりじゃない……本当にいいの。最初から決まってたのを足掻いただけ」
「先輩……」
「桃香ちゃんでよかった。幸せになってね」
あの時に何かが切れた感覚はなんだったんだろう。こうして桃香の謝罪や想いを聞いても怒りの気持ちはなかった。桃香への友情は変わらずある。誰よりも琢磨を好きな気持ちは理解できる。
言葉では説明できないが──とにかく何かが切れた。
桃香ちゃんは出会って二週間で琢磨の横に並び、私は五年も想いながらじっと同じ場所に立ち続けていた。
無理な事が分かっているのに、どうしてこんなにも意固地になって琢磨のそばに居続けたのだろう。
今となっては……馬鹿らしく思えた。
全然違う。私はもう随分と前に刻印を押され ていたじゃないの……。私と桃香ちゃんは、全然違う……。
琢磨と出会ったあの時に叩きつけられた刻印は……消えなかった。
友達の肩書きを──拭えない。
「じゃ、先戻るね」
「……はい」
席を立つと桃香に別れを告げた。
これからも同僚として顔を合わせる。その度に琢磨と笑い合う姿を想像するのだろう。
千紘は帰り道を歩きながら笑えてきた。その視線はまっすぐ前を見ていた。
27
あなたにおすすめの小説
いい加減こっち見ろよ!〜見た目だけだとフラれ続ける私は、どうやら幼馴染の執着愛に気づいていなかったようです。〜
こころ ゆい
恋愛
保育士の八重と外科医の一生は、小学生の頃からの幼馴染。
傍から見れば、儚く清楚に見えるらしい八重は、実は外見にそぐわぬ性格をしていた。
そのせいで、見た目につられて告白してくる男性たちは、ことごとく彼女の中身を知って離れていく。
フラれる度に、やけ食いややけ酒に付き合ってもらっている一生は優しいが、懲りずに同じような恋愛を繰り返す八重に呆れている....と思っていたら?
「....八重の可愛さは、そんなもんじゃないんです。....誰も気付かなくていい。俺だけが知ってればいい」
ーーどうやら、かなり愛されていたようです?
※じれじれ・執着・溺愛 ラブストーリー。🌱
※この物語は、全て作者の想像で描かれたフィクションです。実際の場所・建物・人物とは関係ありません。🌱
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
【短編】ちゃんと好きになる前に、終わっただけ
月下花音
恋愛
曖昧な関係を続けていたユウトとの恋は、彼のインスタ投稿によって一方的に終わりを告げた。
泣くのも違う。怒るのも違う。
ただ静かに消えよう。
そう決意してトーク履歴を消そうとした瞬間、指が滑った。
画面に表示されたのは、間の抜けたクマのスタンプ。
相手に気付かれた? 見られた?
「未練ある」って思われる!?
恐怖でブロックボタンを連打した夜。
カモメのフンより、失恋より、最後の誤爆が一番のトラウマになった女子大生の叫び。
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
ひみつの姫君 ~男爵令嬢なのにくじ引きで王子のいる生徒会の役員になりました!~
らな
恋愛
男爵令嬢のリアはアルノー王国の貴族の子女が通う王立学院の1年生だ。
高位貴族しか入れない生徒会に、なぜかくじ引きで役員になることになってしまい、慌てふためいた。今年の生徒会にはアルノーの第2王子クリスだけではなく、大国リンドブルムの第2王子ジークフェルドまで在籍しているのだ。
冷徹な公爵令息のルーファスと、リアと同じくくじ引きで選ばれた優しい子爵令息のヘンドリックの5人の生徒会メンバーで繰り広げる学園ラブコメ開演!
リアには本人の知らない大きな秘密があります!
初恋だったお兄様から好きだと言われ失恋した私の出会いがあるまでの日
クロユキ
恋愛
隣に住む私より一つ年上のお兄さんは、優しくて肩まで伸ばした金色の髪の毛を結ぶその姿は王子様のようで私には初恋の人でもあった。
いつも学園が休みの日には、お茶をしてお喋りをして…勉強を教えてくれるお兄さんから好きだと言われて信じられない私は泣きながら喜んだ…でもその好きは恋人の好きではなかった……
誤字脱字がありますが、読んでもらえたら嬉しいです。
更新が不定期ですが、よろしくお願いします。
【書籍化】番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました
降魔 鬼灯
恋愛
コミカライズ化決定しました。
ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。
幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。
月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。
お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。
しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。
よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう!
誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は?
全十話。一日2回更新 完結済
コミカライズ化に伴いタイトルを『憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜』から『番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました』に変更しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる