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居心地の良さ
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カチカチカチカチカチ……
バン! ダダダダダダダダ……
部屋の中でコントローラーの操作音とテレビから流れる音響だけが部屋を支配している。画面の中の自分がどこからか飛んできた爆弾によって飛ばされた。画面が白黒になりゲームオーバーの文字が表示された。真剣な表情でコントローラーを握っていた琢磨の表情がみるみる般若のように変化した。
「な、ななな何しやがる! 千紘お前だろ今の手榴弾!」
「ぼうっとしているからよ」
隣で無表情のままテレビ画面の敵をなぎ倒して行くのは俺の友達の水原千紘だ。今日は随分と機嫌が悪い……。今日の千紘を止められる者はいないだろう。
急遽二人でゲームをすることになった。彼女とのデートが無くなり千紘に電話した。千紘は彼女に悪いからやめとくと言い張ったが俺の必死の説得によりコンビニのお菓子を買い込んで千紘は俺の部屋にやって来た。買い物袋には俺の好きなお菓子がちゃんと入っている。さすが千紘だ。
一人ゲームオーバーになり不貞腐れながらも千尋の超絶テクニックが光る画面を見つめる。このゲームは俺が最初に見つけたのにいつのまにか千紘の方が上手くなっている……このゲームだけじゃない。将棋もそう、オセロもそう……全て俺よりも強い。天賦の才というやつだろう。
黒髪のショートボブで少し切れ長の瞳は俗にクールビューティというやつだろう。現に、大学時代から千紘は女にモテた。剣道をしていたからか姿勢も良い。
俺には女友達はいるが、ここまで親友と呼べる存在は珍しい。凛花よりも千紘と二人きりでこうして会うことが圧倒的に多い。だが、千紘とは恋愛関係ではない。それはあり得ない。
大学の時、親友の浩介の彼女として出会った。二人はしばらくして別れてしまったが最初の出会いから俺にとって千紘は恋愛対象外だ。
俺は絶対に友達の彼女や元カノ、そして友達の好きな女には手を出さない。それは絶対に守っている。長年その事を公言しているからか意識せずとも脳が勝手に処理をしているようだ。
「はい、終わり」
千紘の声でテレビの画面を見るとどうやら最後の一人になりサバイバルは終了したようだ。恐るべし……ゲーマーの血……。
コントローラーを置いた千紘が首を回して背伸びをする。千紘はなぜか男と付き合っても長続きしない。まぁ、人の事を言えた義理ではないのだが、千紘も俗に言う良い年頃だ……結婚したいと思っているはずだ。良い奴なのに世間の男は何してるんだ……。
「千紘、彼氏できたか?」
「は? 何よ突然……今のところ会社の仕事で手一杯よ」
「おかしいよな……千紘モテないはずないと思うんだけど……」
「……そう? そう思う?」
千紘はテーブルの上に置かれたお菓子を手に取ると嬉しそうに笑った。
ほら、その笑顔……切れ長の目が優しくなって、口角がクッと上がって白い歯が見える。
絶対モテる──千紘の笑顔は輝いている。
よし、出会いがないのか? 俺の出番か? 千紘は良い奴だ。幸せになってほしい。
「千紘、紹介してやろうか? 千紘好みな奴紹介してやる」
俺の言葉に千紘の笑顔が曇った。何かを言おうとして口が開いたがそのまま唇を結んだ。俺の背中を思いっきり叩くと豪快に笑った。
「ありがとうね、心配してくれて……自分が彼女とラブラブだからって私の世話しなくて良いよ」
千紘が俺を見て笑う。その笑顔に少し違和感を感じた。
「え? ちひ──」
千紘がコントローラーを琢磨に投げると指の関節をバキバキと鳴らす。
「さ、もう一戦しましょうか?」
「お、おう、望むところだ……やってやるぜ!」
俺たちは次の戦いに移った。
バン! ダダダダダダダダ……
部屋の中でコントローラーの操作音とテレビから流れる音響だけが部屋を支配している。画面の中の自分がどこからか飛んできた爆弾によって飛ばされた。画面が白黒になりゲームオーバーの文字が表示された。真剣な表情でコントローラーを握っていた琢磨の表情がみるみる般若のように変化した。
「な、ななな何しやがる! 千紘お前だろ今の手榴弾!」
「ぼうっとしているからよ」
隣で無表情のままテレビ画面の敵をなぎ倒して行くのは俺の友達の水原千紘だ。今日は随分と機嫌が悪い……。今日の千紘を止められる者はいないだろう。
急遽二人でゲームをすることになった。彼女とのデートが無くなり千紘に電話した。千紘は彼女に悪いからやめとくと言い張ったが俺の必死の説得によりコンビニのお菓子を買い込んで千紘は俺の部屋にやって来た。買い物袋には俺の好きなお菓子がちゃんと入っている。さすが千紘だ。
一人ゲームオーバーになり不貞腐れながらも千尋の超絶テクニックが光る画面を見つめる。このゲームは俺が最初に見つけたのにいつのまにか千紘の方が上手くなっている……このゲームだけじゃない。将棋もそう、オセロもそう……全て俺よりも強い。天賦の才というやつだろう。
黒髪のショートボブで少し切れ長の瞳は俗にクールビューティというやつだろう。現に、大学時代から千紘は女にモテた。剣道をしていたからか姿勢も良い。
俺には女友達はいるが、ここまで親友と呼べる存在は珍しい。凛花よりも千紘と二人きりでこうして会うことが圧倒的に多い。だが、千紘とは恋愛関係ではない。それはあり得ない。
大学の時、親友の浩介の彼女として出会った。二人はしばらくして別れてしまったが最初の出会いから俺にとって千紘は恋愛対象外だ。
俺は絶対に友達の彼女や元カノ、そして友達の好きな女には手を出さない。それは絶対に守っている。長年その事を公言しているからか意識せずとも脳が勝手に処理をしているようだ。
「はい、終わり」
千紘の声でテレビの画面を見るとどうやら最後の一人になりサバイバルは終了したようだ。恐るべし……ゲーマーの血……。
コントローラーを置いた千紘が首を回して背伸びをする。千紘はなぜか男と付き合っても長続きしない。まぁ、人の事を言えた義理ではないのだが、千紘も俗に言う良い年頃だ……結婚したいと思っているはずだ。良い奴なのに世間の男は何してるんだ……。
「千紘、彼氏できたか?」
「は? 何よ突然……今のところ会社の仕事で手一杯よ」
「おかしいよな……千紘モテないはずないと思うんだけど……」
「……そう? そう思う?」
千紘はテーブルの上に置かれたお菓子を手に取ると嬉しそうに笑った。
ほら、その笑顔……切れ長の目が優しくなって、口角がクッと上がって白い歯が見える。
絶対モテる──千紘の笑顔は輝いている。
よし、出会いがないのか? 俺の出番か? 千紘は良い奴だ。幸せになってほしい。
「千紘、紹介してやろうか? 千紘好みな奴紹介してやる」
俺の言葉に千紘の笑顔が曇った。何かを言おうとして口が開いたがそのまま唇を結んだ。俺の背中を思いっきり叩くと豪快に笑った。
「ありがとうね、心配してくれて……自分が彼女とラブラブだからって私の世話しなくて良いよ」
千紘が俺を見て笑う。その笑顔に少し違和感を感じた。
「え? ちひ──」
千紘がコントローラーを琢磨に投げると指の関節をバキバキと鳴らす。
「さ、もう一戦しましょうか?」
「お、おう、望むところだ……やってやるぜ!」
俺たちは次の戦いに移った。
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