友達の肩書き

菅井群青

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友情と恋情

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 平日の夜、久しぶりに集まろうと浩介から連絡があった。大学時代に一時付き合っていた浩介とは今でも交流がある。
 今までの彼氏とは付き合いがなくなったがなぜか浩介とはこうして仲間として縁を結び直せた。今では良き友、そして良き理解者だ。

 いつもの居酒屋に入ると浩介が手を上げて千紘を呼ぶ。

「おい! こっちだぞ」

「お疲れ様、みんなまだ?」

「凛花はちょっと遅れるみたいだ。琢磨はもうすぐじゃないか?」

 千紘はそのまま浩介の前の席に座る。早速ネクタイの紐を緩めた浩介はメニューを見て吟味中らしい。茶色の長めの前髪の隙間から真剣な眼差しが見える。浩介はメニューを見ながら千紘に質問をする。

「……で? まだ絶賛片思い中?」

「現状維持です、隊長」

 千紘が即答し浩介が呆れたように笑う。浩介は千紘が琢磨に想いを寄せていることを知っている。そして何度も琢磨を諦めるために他の男と付き合ったことも全て知っている。

「しつこいねぇ、ばかだねぇ……」

「うるさい。で? 何頼む?」

 千紘が浩介の手にあったメニューを二人の中央に置く。千紘が前のめりになりメニューに目を通す。その様子を浩介は黙って見つめていた。

「ま、頑張れ」

 浩介が千紘の頭に触れるとポンっと叩いた。二人きりの時、浩介はいつもこうして慰めてくれる。  
 別れたのは喧嘩が原因だったと思うが、きっと若かったからだろう。大人になって浩介の良さがわかる。私たちは恋人同士より、友達でいるべき関係だったのだとお互い分かっていた。

湊人みなとちゃんは元気?」

「あぁ、やんちゃ坊主だよ……見てくれよ、このアザ。おもちゃでやられたんだ」

 シャツの袖を捲り赤いアザを千紘に見せる。それでもその表情は綻んでいる。


「あ、これ明希さんに渡してくれる? 今年の秋の新作マスカラ」

 千紘は広告会社に勤めているので色々と頂く事が多い。こうして時々皆にお裾分けをしている。

「お、いつも悪いな。これを詫びの品に帰るとするか……」

 浩介は若い時に年上の彼女と結婚した。今では一児の立派なパパだ。姉御肌の明希さんは理解のある人でこうして大学メンバーで集まることを認めてくれている。浩介も以前私と付き合っていた事があると明希さんに正直に話してくれた。今は私の片思いを応援してくるお姉さん的存在だ。

 居酒屋のドアが開くと琢磨と凛花が同時に入ってきた。

「悪い、遅くなった」

「ごめんねぇ」

 二人はそのまま空いている席へと座る。琢磨がいつものように私の横に座った。
 この四人がいつものメンバーだ。

 私の斜め向かいに座った茶髪のロングヘアーの人物が大学時代からの親友の丸山凛花だ。見た目は少し派手だが勤務態度もいたって真面目らしい。建設会社の事務をしているがおじさまキラーとして大活躍らしい。あくまで本人談だが──。

 グラスを傾けて四人は声を上げる。

「「かんぱーい」」

 全員ビールなので飲んだ後上唇に細かな泡が付く。それからいつものように近況を報告し合った。浩介は病院の事務に勤務しているのだが、女の園らしくいつも至る所で行われる小さな火花の連鎖にヒヤヒヤしていると愚痴をこぼしていた。

「私だって男ばっかりの中で頑張ってるんだよ」

「凛花はおじさまキラーだからいいじゃないか! 俺なんか戦う武器持ってないんだぞ! 俺も可愛かったらよかった……」

 二人の会話に琢磨と千紘は笑いながら聞いていた。凛花がチラッと千紘の方を見た後に琢磨に微笑みかける。

「で? 琢磨は彼女とはどうなの? ん?」

「ちゃんと続いてますよ。すぐ別れると思ってるんだろ?」

「本当のことだろ?」

 浩介がすかさずツッコむ。
 浩介は千紘を一瞬見た後、たこわさに手を伸ばす。千紘は凛花と浩介を見て苦笑いを浮かべた。

 二人とも、心配性なんだから──。

 もちろん凛花も千紘の気持ちを知っている。二人とも千紘の気持ちを知っているがそれを琢磨に伝えるほど幼くはない。特に琢磨のを知っているだけに下手に手出しできない。

「最高の彼女だ。今度は長く続くぞ! 見てろ! 結婚まで行くからな!」

 琢磨の言葉に三人は何度も頷きながら聞き流す。何度も聞いた言葉だ。千紘も最初は内心傷付いたがもう何とも思わなくなった。

 琢磨は付き合っても長続きしない。

 遊び人というわけではないが、背も高く爽やかで笑顔がいい。大学時代からモテる方だと思う。大学時代、浩介が琢磨のカバンに入った多くのチョコを見て少し凹んでいた。

「それよりも、千紘だろ! お前最近彼氏作ってないだろ? どっちが早く結婚するか勝負するか?」

 琢磨の思わぬ言葉に千紘が固まる。

「お、おい──」

 浩介が止めに入ろうとするがすぐに千紘が琢磨の肩を叩く。

「はは、何言ってんの? 勝負事で琢磨が私に勝てると思う? 甘い!」

 千紘は笑って琢磨を指差す。琢磨は悔しそうに首を絞めるふりをして千紘の体を左右に揺さぶる。

「結婚式呼んでくれよな!」

「当たり前でしょ! お祝儀弾んでね」

 千紘の満面の笑みに凛花と浩介は目配せをした。
 何年もこうして友達としての接し方をしてきた。どんなに辛く、心に冷たいものが降りてこようとも、呼吸をするたびに胸が暴れ続けても、私はこうして琢磨の隣に居続けた……。

 琢磨は悪くない。
 琢磨は本当に私のことを大切な友達と思ってくれている。

 悪いのは私だ。恋を、してしまった私が悪い。勝手に傷ついて、泣いているだけだ。

 それでも琢磨のそばにいたいと思う私は重症だ。浩介も、凛花も早く私にいい人が現れたらと思っているのを知っている。
有難い……でも、簡単に忘れられたら、苦労しない──。

「さ、飲もっか」

 千紘が凛花と浩介にグラスを傾けた。二人は頷き腕を伸ばすと軽快な音が響いた。

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