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第十二章 有りし世界

第122話 チュートリアル:親善試合

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灼焔家臣フレイムヴァッサルシュバリエ』

 視界の端に出ているメッセージ画面。三人いる内の一人。そこには灼焔君主フレイムルーラーであるフリードさんの家臣の名前が記されていた。

 赤い鎧を身に纏い、兜の先を合わせると高さが二メートル強。俺よりも素の身長が大きい人で、真田家の甲冑が赤いのは大きく見せるために倣ってか、マントをなびかせ細身の鎧であっても黄龍仙の巨体にも劣らない風に見える。

 その瞳は燃えるような赤。

 それはシュバリエさん本来の瞳の色なのか知らないけど、フリードさんたちは全員瞳が赤い。

 得物は一振りのソード。炎を纏った腕から出現したソレは見るからに鋭利――ではない。一目でわかるほど明らかに刃を丸めたソードだ。

 身体を斜めにしソードを見せるような構え。

 漫画やアニメでよく見る強者の佇まいに違いなかった。

 方や炎の体現者。

 方や幻霊の武人。

 レフェリーや制限時間も無いこの親善試合。勝敗はどちらかの家臣が降伏するので決まる。

 そして――

『チュートリアル:親善試合に家臣が勝つ』

 これまた自分勝手なチュートリアル。いつもと違うのは俺の力ではなく、家臣であるリャンリャンが勝たなければクリアできない物だった。

 ならば兄貴として応援せざるを得ない。チュートリアル抜きにしてもだ。それと俺は負けず嫌いだ。根っからの負けず嫌い。だから黄龍仙には勝利と言う名の有終の美を飾ってもらい、例え親善試合でも小さなマウントを取る。それが承認欲求マシマシでスマホに操られた現代人だ。

 黄龍仙が拳を作り機仙拳の構え。

 シュバリエさんは片脚を少し浮かせた構え。

 しかし双方動かず。

 白鎧や宰相を含む君主たちと家臣たち。俺含め全員が固唾を飲んだ。

 しかし、時きたる。

「――ゲッフ」

 溜りに溜まった濃縮された酒のスメルを醸し出すクソデカげっぷしたエルドラド。
 マジかコイツと強張った顔をエルドラドに向けた瞬間――――

「「ッ!!」」

 げっぷを皮切りに静止していた両者が衝撃波を生む激突をした。

 貴様見ているなッ! でお馴染みの野球中継のカメラの存在に気付き一切目を離さないクソガキみたいな速度で首を振る俺。

 黄龍仙の大きな拳と拮抗するシュバリエさんのソード。押しつけ合う両者の攻撃で火花が散る。

「――」

 大振りの拳が唸る。

 ソードが狂瀾に怪しく輝く。

 何度も何度も打ち付け合う両者。

 肌に感じる衝撃波。かん高くも低く重い音。飛び散る火花。

 余りにも、余りにも滑稽。

 それは殺陣の様で見栄えは良いがまるで背中が凍るような質は無い。

 それもそうだろう。これは親善試合なのだから。

 お互い本気じゃない。誰がどう見ても隙だらけの攻撃。それを分かりつつも同じように隙を見せて攻撃。

 傍観している者は盛り上がるどころか白けてしまう。

「破々々!!」

「ッッ!!」

 威勢がいいだけのバトル。日本が衰退する様な配慮しかしない杜撰なバトル。政治家の遊び。

 ――俺はふと、フリードさんを見た。

 目が合ったのは当然だっただろう。彼はジッと俺を見ていたのだから。

 家臣の攻撃がぶつかり合う数秒の後、フリードさんは俺に聞こえないのを承知で口を動かした。

 ――ぬるいよなぁ?

 読唇術の覚えが無い俺でも分かる口の動き。

 フリードさんがニヘラと笑った瞬間だった。

「ッッ不流!?」

「――――」

 甲高い音の中に空気を焦がす音。それを黄龍仙の小さな悲鳴と共に俺の鼓膜を揺さぶる。

 少し動揺する俺。

 すぐに視線をフリードさんから外した俺が見たものは。

「ッッ!!」

 胸部の装甲を溶かしたような一撃。手で押さえるその跡がしっかりとその身に刻まれていた。

 驚きながらも距離をとる黄龍仙。しかしシュバリエさんそれを許さず、先ほどまでとは違い猛スピードかつしなやかな動きで詰め寄る。

「フレイムッ」

 深く被った兜の奥に睨むような眼。己の鎧と同じく赤く燃える炎をその刀身に纏わせ、一切の躊躇なく黄龍仙に斬り掛かる。

「……こうなる事は頭に合ったけど、みんな止めようとしない辺りまだ親善試合の範疇ってことか」

「そりゃそうだろ。おままごとやってるんじゃないんだ」

 骨をも溶かすソードの攻撃。それを淡々と避ける黄龍仙。

「親善試合って建て前はあるにしろ、己のプライド、そして君主に捧ぐ試合でもある。っま! フリードのぼっちゃんは元々戦闘狂だしな」

「そ、そうだったか……」

 足さばき、行動の速さ、躊躇ない攻撃。どれをとっても常人の速さじゃない。正直シュバリエさんの動きに着いて行ける実力者は、優星さんや西田メンバー並の実力者じゃないと厳しいだろう。

「おいおい! 避けてばっかいないで反撃しろよオラァ!!」

 熱くなったフリードさんの野次が飛ぶ。

 確かに、先に仕掛けたのはフリードさんたちだ。なのに黄龍仙は避けるばかり。これでは観客の俺たちおろか、シュバリエさんに失礼にあたる。

 となると。

 俺はリャンリャンに念じた。

 ――仕掛けろ、黄龍仙。

 ギュピンッ!

 ツインアイが光る。

「フレイムッ!!」

「破ッ!!」

 振り下ろされたソード。

 振り上げる拳。

 双方一切の手加減ない攻撃により、ぶつかり合った目に見える衝撃波が俺たちを突き抜ける。

「ッ」

 距離を置いたシュバリエさん。焔を鎧に纏ったと思うと、纏った焔がソードに転移。轟々と燃える一振りの剣が誕生した。

「ッ」

 それに応えるべく猛禽類に酷似した脚を踏みしめる黄龍仙。腕を前にした構え。

 そして。

「フレイム・アシュタルト!!」

 一つの突きから繰り出される焔の無数の突き。

 対するは。

「機仙・連弾拳ッ!!」

 拳による無数の突き。

 焔を拳で破るとまた隣で焔の強襲。それをまた拳が掻き消し、端の方で拳が迫ると焔が押し返す。

「オオオオオオ!!」

 それを何度も何度も。

「破々々々々々々!!」

 何度も何度も。

「「破々々々々々々おおおおおおお!!!!」」

 まるで度胸試しの様に何度も続いた攻撃は、焔に包まれる両者が見えなくなった。

 ッガキン!!

 甲高い音が鳴り響いた途端、両者を包んでいた焔が四散。攻撃を振り切った二人の位置が入れ替わっていて、両者を勝敗を決める様に銀色の刃が上から床に突き刺さった。

「ック」

 膝を着いたシュバリエさん。

「……」

 黄龍仙の両腕には斬られた跡が残っていた。

 一秒二秒。シュバリエさんは立ち上がり、黄龍仙も歩み寄る。

「ッフ」

「……」

 バシッとお互いに強く握手。

 両者痛み分けで今回の親善試合は終わった。

 ただチュートリアルがクリアできなかったのが悔やまれる。


 月曜日。

「――来週から期末試験だからなー。攻略者の卵だからって一定の共通知識がないと大人になったら苦労するからなー」

 HRの時間にそう言った阿久津先生のお言葉。

 そう。俺は学生だから普通に試験があるわけで。しかもトーナメントが先週なのに、一週間挟んで期末試験とかあまりにも濃密すぎる……。

 正直に言うと、まったく自信がない。もう補講まっしぐらしか道はない。

「って事で大吾さん。要領の悪い俺に勉強を教えてください……!!」

 場所は放課後の俺ん家。

 イケメンで運動もできて勉強もできるクソ野郎こと梶 大吾に対して渾身の土下座ッ!!

 前にも同じように土下座して教えて貰ったけど、今回も大吾だよりだッ!

「焼肉な!」

「もちろんです大吾さん!!」

 交渉成立。

 真ゲッ○ーロボ対ネオゲッ○ーロボの表紙みたいに握手。

「ってかさ、瀬那は大吾先生にご教授受けなくていいのかよ」

「ん? 私は問題ないかなぁ」

「え、そうなん……」

 成績優秀な部類でもバカな俺に近かったはず……。その瀬那が大丈夫だと? 諦めたか!

「仙気習得してからさ、何だか授業の内容がスッと入ってきて頭の回転が速くなったんだよねー。イェーイ!」

「マジかよ! それが本当ならズルくね!? 俺も仙気習う! そっちの方が早い気がして来た!」

「……そっちの方がムズイ様な気が」

 笑顔の瀬那。眉毛をハノ字にして意見する進太郎。もう俺は仙気を習得するしか楽な道はない!!

「でも萌って仙気を習得する才能無いってリャンリャン師匠が言ってたよ?」

「Nooooooo!! そうだったああああああ!!」

 思ず頭を抱える。そう、機仙拳の真似事はできても仙気をゲットする才能が無いってうちの仙人が言ってた!!

「まぁ無いものをねだっても仕方ないってこった。少しずつ勉強していくしかないって萌ちゃん」

「そうそう! 私だって試験勉強一緒に頑張るからさ!」

「無論、俺もだ」

「……それしか道は無いかぁ。よろしくお願いします……」

 来週に期末試験。

 でも俺の一大イベントはそれだけじゃない。

 今週の土曜日。

 国連とも和平交渉が待ち受けている。
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