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第十二章 有りし世界

第121話 チュートリアル:和平に向けて

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「――と言う訳で、国連との対話の場は先ほど述べた通りだ」

 黄金の杯を手に取り、中の液体をクルクルと器用に回すエルドラド。兜越しの赤い点の様な眼は杯を見ず、俺たちを見渡す様に右から左へ向いていた。

 簡単ではあった俺の挨拶。大腕を振って歓迎された訳じゃ無い。完全にエルドラドと白鎧の独断みたいな感じにもなり、実はエルドラドがヘタこいただったりと、別に歓迎はしないとは言わないニュアンス。表面上だけど、確かに歓迎はされた。

 そして続くエルドラドと宰相が俺の知らない所で動いていた交渉のお話に移る。

 事前に聞かされていない事柄。宰相とエルドラドが中心になって話す内容を聞いて見ると、なんと俺の世界の大組織、国連との和平交渉だったという驚き。

 世間では泡沫事件やマーメイドレイドと未だに事件の爪痕を残していて、ルーラーズは敵か味方か世論も半々と言ったところ。でも裏ではちゃんと動いていた様子。

「……全面的に国連の条件を飲む形となる。エルドラドと宰相だけが赴く事は避けたい」

 白鎧の呟いた言葉から急に静かになった。

 空気を壊すつもりはないけど、ここで俺が一つ。

「……あのー。俺ぜんぜん話について行けないんですけどぉ、簡単でいいので説明してくれると助かると言うか……」

 そう。国連と和平交渉するってのはわかるけど、国連が提示してきた交渉の場を設ける条件に加え、そもそもどうやって接触できたかも俺は知らない。

「それもそうだな。宰相」

「はい。では皆様もおさらいという事で聞いていただけると幸いです」

 白鎧と同じ色の鎧を着た宰相が一歩前へ進む。

「時期的にはそう、故人であるウルアーラ様が暴走した事件である泡沫事件辺りです」

 楽しいビーチだったはずが魚型のモンスターが現れ、人が連れ去られ、そして解決に向かった事件。忘れもしない。身近な人も連れ去られたからな。

「それまで先行していたエルドラド様とウルアーラ様は地球の文明文化を調べていました。しかし、泡沫事件の後、私がエルドラド様と連携したタイミングで国連からアクションがありました」

 静かに耳を傾けるルーラーとヴァッサル。

「暗躍……秘密裏に動いていた我々でしたが、そこは流石の国連。実力者を揃えての邂逅。国連が抱える施設に侵入したところで相まみえました」

 淡々と宰相が説明してくれてるけど、それメッチャ不法侵入だろ……。

「一触即発でしたが、なんとかその場を落ち着かせたのは間違いなくエルドラド様のご手腕です」

「へぇー。想像するに、マジでヤバかったけどエルドラドのおかげで今があるのか。やるじゃん」

 俺の視線と言葉でエルドラドは点の眼をパチクリと動かした。

「休憩がてら京都で買った生八つ橋並べて食ってなかったらどうなっていたか……」

「何ちゃっかり観光してんだよ」

「それで交渉のテーブルを設けれたんだ。多少のお茶目は許されるだろ?」

 観光してんのかと生八つ橋でどう転んだか分からない状況。俺のツッコミは二つの意味を含んでいる。

 つかエルドラドの事だから酒飲んで八つ橋食ってそうだな。合うのかそれ……。

「世間ではティアーウロング様の顕現から始まった疑心。泡沫事件で国連との溝が深まった時もありましたが、マーメイドレイドでのお三方さんがたによる人命救助と事態の収束が功を成し、和平の道へと繋がったのです」

「そうだったんですねぇ……」

 マーメイドレイドの黒幕は悪の君主である傀儡君主マリオネットルーラーカルーディだった……。
 ウルアーラさんを操り、さらに殺害、さらには慰み者にしようとしたカルーディを思い出すだけで怒りが湧いてくる。

「……あの、カルーディの事を国連には?」

「亡きウルアーラ様含む一部の内容を除いて、交渉のカードとして使いました。文字通りカルーディが裏で糸を引いていたと伝えると、国連側は騒然としていましたね。……正直、彼らの境遇を考えると、悪手で時期尚早だったと反省しています」

「……そうですか」

 あの邪知暴虐の汚れ好きの男の事は伝えてあるのか。そりゃ津波がバッサンでレイドボスも出て暴れて、さらに俺たちと違って話が通じないルーラーが出て来たならビビるはな。

 ……でも境遇? 悪手で時期尚早? もちろんそれは国連――

「――でだ!」

 ッパン!

「!?」

 突然エルドラドがクソデカ手鳴らしで注目を仰いだ。俺も自然とエルドラドに眼を向ける。

「幾星霜津々浦々! 正直俺たちみたいに一枚岩じゃないあいつ等の思惑は地球生物由来のサガだ! 故にあいつらの機嫌を伺い、俺と宰相がふんぞり返ってる国連の靴を舐めて交渉した結果! ついに和平への一歩が現実にさしかかってる!」

「ちなみに舐めてませんよ」

「あとは交渉妥結をするだけだが、白鎧が憂いている程に向こうも警戒している。だからもう一人連れて行きたい人がいます!」

 エルドラドが自分の主張を大きく言った。

「それはお前だ!」

 ビシッと黄金の鎧の指先が示した方向をみんなが見た。

「やっぱ俺かよ!?」

「当たり前だろ! 自分が君主になった世界の命運! つまり分岐点だぞ! 萌くんがその場に居なくて誰が居るんだよ!」

 自分のケツは自分で拭く。グヌヌと言いたいところだけど、自分の世界の分岐点だと大きく言うなら頷く他ないのも事実……。

 でも右も左も知らない新人がそんな大きな場に行っても足手まといでは? 普通に肝の据わってる人選とか、それこそフリードさんとかでもいいんじゃ――

「あれ萌くん」

「?」

「ビビってんの?」

「!?」

「ビビってんだ」

「!?!?」

 こ、こいつ……!?

「はぁーマジ萎えるわー」

「!?」

「モンハンで三乙されるくらい萎えるわー」

「!?!?」

「スマブラで低パーセンテージで崖狩りされるくらい萎えるわー」

「!?!?!?」

 お、俺の、俺がされたら萎える事をつらつらと並べやがって……!!

 このド畜生が!!

「行けばいいんだろう行けば!! やってやろうじゃん!? おぉお!?」ピキピキ

 煽り耐性が皆無なところは俺の弱点! それを十二分に分かってるエルドラドに対して憤りと自分への虚しさが同時に湧き上がる。

「はい決まりー」

 点の赤い眼を平たくしたエルドラド。それが笑っている目だと今わかる。

「あ、ちなみに交渉決裂したら絶対に生きる覚悟で逃げ切れよ。国連が指定した条件の一つである場所は冗談抜きで君主おれたちを消滅する事ができる場所だからー」

「」

 ノリみたいに軽く言われたエルドラドの脅し。俺は自分の言動を悔いた。


 場所は変わってこれまた白の場所。

 和平交渉の話はその後も続き、結局はエルドラドと宰相、そして俺の三人で挑む事に落ち着いた。

 そして一応の話は終わり、フリードさんが提案した催し。

 家臣ヴァッサルVS家臣ヴァッサルの親善試合。

「大哥、ここは私にお任せください! 私に力がある事を証明させてください!!」

 そう言い放ったリャンリャン。の肩に居るデカい雀――紅《ホン》さん。

「萌くんは面白いねぇー。珍妙な仲間がいつの間に増えてるし」

「エルドラドうるさい」

 広い広い広場。天井も高く白一辺。多目的な用途で使えるホールらしく、親善試合みたいなドンパチでも耐えるところらしい。

 そこで白鎧を始めとしたルーラーに、仕えてるヴァッサル全員が顔を出している。西と東に分れ、俺とフリードさんは自分のヴァッサルと相談。

 フリードさんの家臣は三人いて、みんな強そうな顔をしている。

 なんかセコンド面したエルドラドが隣にいるけど、まさかのホンさんが名乗り出るとは……。

「あのホンさん、一応ヴァッサルの親善試合なんで……」

「しかしッ!! ……出すぎたマネをしました」

 シュンとする雀姿のホンさん。なんとか俺に認められたいのはわかるけど、流石に家臣でもないホンさんを出すのは相手方に失礼だ。

「ま、まぁホンさんの実力を見るのはまた今度で……」

「是!」

 元気がいいな。

「って事でリャンリャン」

「是!☆」

 いつもの調子で返事をしたかと思ったら、跪いて拳を握った。キングダムごっこかよと思ったけど、俺の背中に向けられる視線の数々。どうやらリャンリャンは他の君主の手前、俺の顔を立てる様だ。

 雀のホンさんが俺の肩に乗り移った。

 普段はエルドラドと酒飲んだりはしゃいだりしてうるさいけど、たまに見せる気遣いは今でもむず痒い。

「親善試合だからな。熱くなって本気だすなよ?」

「……ンク、それはフリか?」

「フリじゃねえよ!?」

 冷静なリャンリャンの事だから本気を出さないとは思うけど、本気出されたら後が大変だ。普段手合わせしてる俺だから分かる。
 つかボケてきたエルドラドが既に酒飲んでるのがヤバイ。マジでアル中だろ。

「ヨシ! 向こうも程々にしてくるだろうし、こっちも程々の力加減でよろ!」

「好☆!」

 立ち上がったリャンリャンの背中をパシっと叩きエールを贈った。
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