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第4章「聖母誕生」
第98話「敗北する明けの明星」
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自分の想像を超える出来事が起きていることを頭の中で整理できずに混乱する高き館の主は唖然として明けの明星の高笑いを見つめることしかできなかった。
そんな高き館の主に対して明けの明星は追い打ちをかけるように言った。
「見てみぃ。俺達の戦いの巻き添えを食らわんように逃げ出したお前の眷属どもが逃げ出したおかげで形勢逆転して行くで。
お前の眷属どもは既に数の有利を失った。
個別の戦いになればシェーン・シェーン・クーに勝る手ごまをお前は持っていない。
さらにヴァレリオほどの軍略家の手ごまもお前は持っていない。この体たらくが何よりの証拠だ。
もはや勝敗は決したな。」
それは勝利宣言だった。
互いの眷属同士の戦争は明けの明星に軍配が上がったのだと、明けの明星は堂々と宣言したのだ。
そして数分のうちに高き館の主の眷属の神々は、もうどうしようもないところまで追い込まれ、中には降伏する者たちまで現れる始末だった。
「うううっ・・・。お、おのれ~っ!!」
ぐうの音も出ないほどの敗戦を見せつけられて高き館の主は悔しそうに唸るしかない。
しかし・・・それでも。・・・それでも彼の戦いはこれだけではない。
その事に気が付いた高き館の主は言い返した。
「さ、さすがだな。ルーちゃん・・・。
さすがに良い手ごまを揃えている。
認めよう。神々の戦いは俺の負けだ。・・・だけど・・・。」
高き館の主は敗北を認めつつも『だけど』という。そして下界を指差して言うのだった。
「あのラーマとかいう女を見ろっ!!」
高き館の主がそう言った時、ラーマは最悪の状況を迎えていた。
攻城戦の要である城門があろうことか鬼族の寝返りによって解放され、城の奥へ奥へと逃げのびたと言うのに最も信頼する家臣であるフェデリコまで失ってしまったその時だった。
高き館の主と明けの明星はその様子を天空から見ていた。
そして、絶望に打ちひしがれたラーマが放った一言を聞くのだった。
『ああっ!! 神よっ!! お救いくださいっ!!』と。その一声を聞いた高き館の主が今度は勝利宣言をする。
「よく見ろっ!! 最も信頼する家臣が死に、追い詰められて王城の庭で叫んでいる声がルーちゃんにも聞こえるだろっ?
『神様助けてっ! 神様助けてっ!!』ってね。」
「わかるかい? あの女は魔王のルーちゃんに助けを求めてるんじゃないんだよ?
神に助けを求めているっ!!
・・・ははははっ!! 惨めすぎるよ、ルーちゃん。
とんだ三枚目じゃないかっ!! 君がどれだけ目をかけてあげても、あの魔族の娘は君なんか眼中にないんだってさ!!」
「さっきルーちゃんは言ったね? 勝負がついたって。
その通りだよルーちゃん。君の負けだよ
君の本丸であるラーマは俺の軍隊に殺される。
ラーマとの恋も成就していない。
・・・あはははっ・・・。こんなに惨めな敗北があるのかいっ!?」
高笑いをするその姿を明けの明星は呆れた目で見ていた。
その冷静な姿に違和感を覚えた高き館の主は怪訝な表情を浮かべて尋ねた。
「・・・なんだい? なぜ、そんなに落ち着いていられるんだ?
あの女は死ぬんだよ? それで何故落ち着いていられる?」
当然の疑問だった。それほど明けの明星はラーマに固執しているように見えたからだ。
だからラーマの窮地の状態に陥っているのに落ち着いていることは、不思議に見えたのだ。
明けの明星は答えた。
「お前な・・・。俺が何の意味もなくあの女に固執していると思ったんか?
あの女はな、俺の試練に何度も何度も耐えた女やぞ。
いや、耐えたどころの騒ぎやない。あの女は常に俺を驚かせてきた。この俺をだぞ?」
「あの女はどんな窮地に陥っても自分が救われることではなく、他人を救う事を選択してきたのだ。
その力によって多くの心穢れた者達が啓蒙され、やがてあの女の理想のために命を捧げるようになった。
よう、思い出してみぃ。あの女がこの状況に陥っても何を願ったのか?」
「あの女はな、この期に及んでも敵を恨むことなく、救われることを望んだんやぞ?
それがどれほどの奇跡を起こすか、あの女を知らぬお前には見通すことは出来ん。」
明けの明星の説明を受けても理解及ばぬといった感じで高き館の主が「・・・なに?」と、問い返した時の事だった。
高き館の主は天空から奇跡を見た。
ラーマが一柱の魔神が起こした自己犠牲の善行の助けによって世界を救う様を・・・。
その時、ラーマが死霊術で救った魂は明けの明星の言う通り味方の無念な思いだけではなかった。その地にいる全ての生きとし生ける者達の無念の思いをラーマは救おうと全てを受け入れた。その魂の力が新しい世界を生み出す。
その奇跡を見て高き館の主は恐れ驚いた。
「ば、バカなっ!! バカなっ!!
ありえないっ!! ありえないっ!! こんなこと、ありえないっ!!
全ての魂を救うだと? その無念を受け止めて新たな世界を作り出すだとっ!?
そんなことがあの矮小な生物に出来るはずがないっ!!」
「こんなことができるのは、こんな魂のエネルギーに耐えられることができるのは、大天使クラスの善性と神格を持ったものでしかできぬ奇跡のはずだっ!!」
高き館の主は驚き叫んだ後、自ら発した言葉にハッとなった。
「・・・大天使・・・だと?」
その驚くさまを見て明けの明星は説教を始めた。
「かつて神の子は言った。
『見ないのに信じる者は幸いである。』と。
神の子は死ぬ前に自分の復活を預言した。だが、弟子たちは信じることができなかった。
そして、その疑念は神の子が復活の奇跡を目のあたりにしても消えることが無かった。
弟子たちの一人が言った。
『あの方の手に釘の後を見、この指を釘穴に入れてみなければ、また、この手をその脇腹に入れてみなければ私は決して信じない』と。(※キリストの12使徒の一人トマスが放った言葉。磔刑にされたキリストの掌と脇腹に出来た傷跡に手を入れて確かめないと復活を信じないと他の弟子たちに語ったという。)」
「お前は奇跡をその眼で見てもまだ疑うのか。
だから、お前は所詮、魔王なのだ。」
高き館の主はその言葉に狼狽えた。
「どういうことだっ!? おかしいじゃないかっ!!
あの女には大天使ほどの神格はないっ!! いや、それどころか魔族としても平々凡々の小娘じゃないかっ!
それに・・・あの小娘が大天使だとして、一体、誰だっ!?」
明けの明星は答えた。
「よく考えよ。
俺は何故、100分の1の復活を研げたのか。
この俺が封禁されたこの地はいわば冥界である。いや、冥界でなければならない。
では、この異界の王として統べるべき大天使は一体、誰なのか。
哀れな魔王よ、よく考えてみるがいい。」
そう話した時の明けの明星の姿はあまりにも高貴だった。粗暴とは無縁な姿でより高みから下位の存在に諭すかのような憐れみさえ感じさせた
高き館の主はしばし、明けの明星の豹変とその言動に呆然としていた。そして、明けの明星が話した言葉の端々に散りばめられたヒントを整理して答えを導き出した・・・。
「まさか・・冥界の王にして大地母神・・・
大天使・・・ガブリエルだというのかっ!!」
明けの明星は全てを見透かした目で愛おし気にラーマを見つめながらいつも通りに言った。。
「ラーマとは異端の神が人間に転生した姿の時の名前だという。
あのガキ、粋なことをしやがって・・・。
そりゃ、タヴァエルをはじめ異界の王を任されていた俺の妹たちがガブリエルを探し回っても見当たらんはずや。
あの女は転生の奇跡を起こすために姿を消していたんやからな。
一体、いくつもの輪廻を乗り越えてこの道筋を作ったのか・・・」
「じゃぁ、ルーちゃん。本当にあの女が大天使ガブリエルだというのかっ!?
でも・・・でも、なんのためにそんなことをっ!?」
その質問を聞いて明けの明星は照れ臭そうな笑顔を浮かべながら嬉しそうに語った。
「そんなもん、決まっとるやないかっ!! 愛やがなっ!! 愛っ!!」
「あ・・・あい? あいって・・・。
ルーちゃん。頭おかしくなったのか?」
「失礼なことを抜かすな。アホたれ。
あいつはな、何度も妹を孕ませようとする淫蕩な俺の願いをかなえるためにこうしてくれたんや。
精を交えず、子を成した。
新たに生まれたあの異界こそが俺とガブリエルの子供。」
誇らしげにそう言った明けの明星は、説明を受けても尚もまだ理解できない高き館の主に対して冷たく見下したかのように禁断の言葉を吐くのだった。
「まだ、我が妹の愛の深さがお前には分からぬのか?
哀れなハエの王よ。」
その一言でその場の空気が一瞬で変わった。
高き館の主が殺意の塊に変貌したのだった。その時のオドはすさまじく、その場にいた異界の王たちの目には暗黒のオドに包まれた高き館の主の姿をまるで見通せぬほどだった。
それはまるで永久に壊れぬはずの氷河が決壊する瞬間にも似ていて、一瞬の事なのにゆっくりとした変化に見えた。異界の王の一柱は、その不思議な感覚を覚えた時、「ああ、死ぬ瞬間とは時が止まったかのようにこういう現象が起きると聞いたことがあるが、これがそのことなのか・・・。」と絶望するほどだった。
圧倒的な殺意の塊。そして異界を統べるほどの神格に昇華した魂を持つ異界の王をして常識を超えるほどの魔力量。
その魔力が生み出す恐怖の念は一瞬にして彼らがいるこの異界。混沌と炎の国を包み込んだのだった。
「な、なんて魔力なのっ!!
土と光の国を消滅させたという噂は本当だったのねっ!?」
「と・・・とてもかなわぬ。
我らだけでは・・・全ての異界の王がこの場に来ぬ限り、この男には歯が立たん。」
異界の王たちはその姿に恐怖し、怯えた。
明けの明星は、そんな彼らを叱ることなく優しく許した。
「ええ。お前らはもう逃げろ。
これは元々、俺の身から出た錆・・・。俺が復活を果たしたことをきっかけにこの男の封禁も揺らいだんや。
その責任は俺がとる。
お前らは俺に任せて逃げろ。そして、異界の王を招集して全員で必ずこの男を殺せ。」
言われた異界の王たちは恐れおののき異界の門を開いて逃げようとするが、高き館の主はそれを許さなかった。
とんでもないサイズの雷撃を放って異界の門を破壊したのだった。
「どこへいく。
魔王であるこの俺の蔑称を聞いたお前たちを俺が生かしておくとでも思ったのか?
既にこの異界は閉じた。もう誰も俺の邪魔をする者はいない。
お前たちともども、そこの薄汚い魔王を殺す。」
高き館の主はそういうと異空間から出現させた槍と棍棒を両手に握って構えた。
その両腕に持った神兵器はそれだけで異界の一つのエネルギーに匹敵するだけの魔力を秘めていて、土と光の国の全ての空気を振動させた。
明けの明星はその姿を見て懐かしそうに言った。
「ほう・・・。数億年ぶりにその武器を見た。
なるほどなるほど。お前もこれでやっと本気になったというわけか。」
明けの明星がそう言った瞬間、明けの明星の右腕が雷撃によって吹き飛ばされた。
あまりに一瞬の事で明けの明星は吹き飛ばされた右腕が焼けこげながら落下するまで右腕を失ったことに気が付かなかった。
「・・・あ?」
明けの明星が己の体の異変に気が付いた時、さらなる雷撃がその肢を襲い、明けの明星の体は燃えながら落下していく。
「許さんっ!!
いかに貴様が俺の親友の分霊であっても、今の暴言を決して許さぬっ!!
おれを何と呼んだ? 決してその薄汚い名で俺を読んではならぬっ!!」
燃えながら落下する明けの明星はどうにか体を再生させながら、宙にとどまったが、二人の実力差は圧倒的だった。
100分の1の分霊の明けの明星に万全の状態の高き館の主はあまりにも巨大な敵だったのだ。
「そうやって落下する姿・・・惨めだな。明けの明星・・・。まるでお前が先ほど引用した聖書の一節の通りだ。
『黎明の子、明けの明星よ。
お前は天から落ちてしまった。
もろもろの国を倒した者よ、お前は切られて地に倒れてしまった。』
まさに神話の再現だな・・・。」
高き館の主は、ゆっくりとした口調で、それでいて殺気の籠った恐ろしい声で言うのだった。
「命乞いをしろ。
いや、しなくてもよい。貴様が悲鳴を上げて命乞いをするまで俺は貴様をいたぶり続ける。
そして俺はお前の命乞いを決して認めず、永劫に痛めつけてやる。
・・・もうこの世界などどうでもよい。
お前の魂が恐怖ですり潰れて尊厳を失うまでお前をいたぶってやる。」
そんな高き館の主に対して明けの明星は追い打ちをかけるように言った。
「見てみぃ。俺達の戦いの巻き添えを食らわんように逃げ出したお前の眷属どもが逃げ出したおかげで形勢逆転して行くで。
お前の眷属どもは既に数の有利を失った。
個別の戦いになればシェーン・シェーン・クーに勝る手ごまをお前は持っていない。
さらにヴァレリオほどの軍略家の手ごまもお前は持っていない。この体たらくが何よりの証拠だ。
もはや勝敗は決したな。」
それは勝利宣言だった。
互いの眷属同士の戦争は明けの明星に軍配が上がったのだと、明けの明星は堂々と宣言したのだ。
そして数分のうちに高き館の主の眷属の神々は、もうどうしようもないところまで追い込まれ、中には降伏する者たちまで現れる始末だった。
「うううっ・・・。お、おのれ~っ!!」
ぐうの音も出ないほどの敗戦を見せつけられて高き館の主は悔しそうに唸るしかない。
しかし・・・それでも。・・・それでも彼の戦いはこれだけではない。
その事に気が付いた高き館の主は言い返した。
「さ、さすがだな。ルーちゃん・・・。
さすがに良い手ごまを揃えている。
認めよう。神々の戦いは俺の負けだ。・・・だけど・・・。」
高き館の主は敗北を認めつつも『だけど』という。そして下界を指差して言うのだった。
「あのラーマとかいう女を見ろっ!!」
高き館の主がそう言った時、ラーマは最悪の状況を迎えていた。
攻城戦の要である城門があろうことか鬼族の寝返りによって解放され、城の奥へ奥へと逃げのびたと言うのに最も信頼する家臣であるフェデリコまで失ってしまったその時だった。
高き館の主と明けの明星はその様子を天空から見ていた。
そして、絶望に打ちひしがれたラーマが放った一言を聞くのだった。
『ああっ!! 神よっ!! お救いくださいっ!!』と。その一声を聞いた高き館の主が今度は勝利宣言をする。
「よく見ろっ!! 最も信頼する家臣が死に、追い詰められて王城の庭で叫んでいる声がルーちゃんにも聞こえるだろっ?
『神様助けてっ! 神様助けてっ!!』ってね。」
「わかるかい? あの女は魔王のルーちゃんに助けを求めてるんじゃないんだよ?
神に助けを求めているっ!!
・・・ははははっ!! 惨めすぎるよ、ルーちゃん。
とんだ三枚目じゃないかっ!! 君がどれだけ目をかけてあげても、あの魔族の娘は君なんか眼中にないんだってさ!!」
「さっきルーちゃんは言ったね? 勝負がついたって。
その通りだよルーちゃん。君の負けだよ
君の本丸であるラーマは俺の軍隊に殺される。
ラーマとの恋も成就していない。
・・・あはははっ・・・。こんなに惨めな敗北があるのかいっ!?」
高笑いをするその姿を明けの明星は呆れた目で見ていた。
その冷静な姿に違和感を覚えた高き館の主は怪訝な表情を浮かべて尋ねた。
「・・・なんだい? なぜ、そんなに落ち着いていられるんだ?
あの女は死ぬんだよ? それで何故落ち着いていられる?」
当然の疑問だった。それほど明けの明星はラーマに固執しているように見えたからだ。
だからラーマの窮地の状態に陥っているのに落ち着いていることは、不思議に見えたのだ。
明けの明星は答えた。
「お前な・・・。俺が何の意味もなくあの女に固執していると思ったんか?
あの女はな、俺の試練に何度も何度も耐えた女やぞ。
いや、耐えたどころの騒ぎやない。あの女は常に俺を驚かせてきた。この俺をだぞ?」
「あの女はどんな窮地に陥っても自分が救われることではなく、他人を救う事を選択してきたのだ。
その力によって多くの心穢れた者達が啓蒙され、やがてあの女の理想のために命を捧げるようになった。
よう、思い出してみぃ。あの女がこの状況に陥っても何を願ったのか?」
「あの女はな、この期に及んでも敵を恨むことなく、救われることを望んだんやぞ?
それがどれほどの奇跡を起こすか、あの女を知らぬお前には見通すことは出来ん。」
明けの明星の説明を受けても理解及ばぬといった感じで高き館の主が「・・・なに?」と、問い返した時の事だった。
高き館の主は天空から奇跡を見た。
ラーマが一柱の魔神が起こした自己犠牲の善行の助けによって世界を救う様を・・・。
その時、ラーマが死霊術で救った魂は明けの明星の言う通り味方の無念な思いだけではなかった。その地にいる全ての生きとし生ける者達の無念の思いをラーマは救おうと全てを受け入れた。その魂の力が新しい世界を生み出す。
その奇跡を見て高き館の主は恐れ驚いた。
「ば、バカなっ!! バカなっ!!
ありえないっ!! ありえないっ!! こんなこと、ありえないっ!!
全ての魂を救うだと? その無念を受け止めて新たな世界を作り出すだとっ!?
そんなことがあの矮小な生物に出来るはずがないっ!!」
「こんなことができるのは、こんな魂のエネルギーに耐えられることができるのは、大天使クラスの善性と神格を持ったものでしかできぬ奇跡のはずだっ!!」
高き館の主は驚き叫んだ後、自ら発した言葉にハッとなった。
「・・・大天使・・・だと?」
その驚くさまを見て明けの明星は説教を始めた。
「かつて神の子は言った。
『見ないのに信じる者は幸いである。』と。
神の子は死ぬ前に自分の復活を預言した。だが、弟子たちは信じることができなかった。
そして、その疑念は神の子が復活の奇跡を目のあたりにしても消えることが無かった。
弟子たちの一人が言った。
『あの方の手に釘の後を見、この指を釘穴に入れてみなければ、また、この手をその脇腹に入れてみなければ私は決して信じない』と。(※キリストの12使徒の一人トマスが放った言葉。磔刑にされたキリストの掌と脇腹に出来た傷跡に手を入れて確かめないと復活を信じないと他の弟子たちに語ったという。)」
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だから、お前は所詮、魔王なのだ。」
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「どういうことだっ!? おかしいじゃないかっ!!
あの女には大天使ほどの神格はないっ!! いや、それどころか魔族としても平々凡々の小娘じゃないかっ!
それに・・・あの小娘が大天使だとして、一体、誰だっ!?」
明けの明星は答えた。
「よく考えよ。
俺は何故、100分の1の復活を研げたのか。
この俺が封禁されたこの地はいわば冥界である。いや、冥界でなければならない。
では、この異界の王として統べるべき大天使は一体、誰なのか。
哀れな魔王よ、よく考えてみるがいい。」
そう話した時の明けの明星の姿はあまりにも高貴だった。粗暴とは無縁な姿でより高みから下位の存在に諭すかのような憐れみさえ感じさせた
高き館の主はしばし、明けの明星の豹変とその言動に呆然としていた。そして、明けの明星が話した言葉の端々に散りばめられたヒントを整理して答えを導き出した・・・。
「まさか・・冥界の王にして大地母神・・・
大天使・・・ガブリエルだというのかっ!!」
明けの明星は全てを見透かした目で愛おし気にラーマを見つめながらいつも通りに言った。。
「ラーマとは異端の神が人間に転生した姿の時の名前だという。
あのガキ、粋なことをしやがって・・・。
そりゃ、タヴァエルをはじめ異界の王を任されていた俺の妹たちがガブリエルを探し回っても見当たらんはずや。
あの女は転生の奇跡を起こすために姿を消していたんやからな。
一体、いくつもの輪廻を乗り越えてこの道筋を作ったのか・・・」
「じゃぁ、ルーちゃん。本当にあの女が大天使ガブリエルだというのかっ!?
でも・・・でも、なんのためにそんなことをっ!?」
その質問を聞いて明けの明星は照れ臭そうな笑顔を浮かべながら嬉しそうに語った。
「そんなもん、決まっとるやないかっ!! 愛やがなっ!! 愛っ!!」
「あ・・・あい? あいって・・・。
ルーちゃん。頭おかしくなったのか?」
「失礼なことを抜かすな。アホたれ。
あいつはな、何度も妹を孕ませようとする淫蕩な俺の願いをかなえるためにこうしてくれたんや。
精を交えず、子を成した。
新たに生まれたあの異界こそが俺とガブリエルの子供。」
誇らしげにそう言った明けの明星は、説明を受けても尚もまだ理解できない高き館の主に対して冷たく見下したかのように禁断の言葉を吐くのだった。
「まだ、我が妹の愛の深さがお前には分からぬのか?
哀れなハエの王よ。」
その一言でその場の空気が一瞬で変わった。
高き館の主が殺意の塊に変貌したのだった。その時のオドはすさまじく、その場にいた異界の王たちの目には暗黒のオドに包まれた高き館の主の姿をまるで見通せぬほどだった。
それはまるで永久に壊れぬはずの氷河が決壊する瞬間にも似ていて、一瞬の事なのにゆっくりとした変化に見えた。異界の王の一柱は、その不思議な感覚を覚えた時、「ああ、死ぬ瞬間とは時が止まったかのようにこういう現象が起きると聞いたことがあるが、これがそのことなのか・・・。」と絶望するほどだった。
圧倒的な殺意の塊。そして異界を統べるほどの神格に昇華した魂を持つ異界の王をして常識を超えるほどの魔力量。
その魔力が生み出す恐怖の念は一瞬にして彼らがいるこの異界。混沌と炎の国を包み込んだのだった。
「な、なんて魔力なのっ!!
土と光の国を消滅させたという噂は本当だったのねっ!?」
「と・・・とてもかなわぬ。
我らだけでは・・・全ての異界の王がこの場に来ぬ限り、この男には歯が立たん。」
異界の王たちはその姿に恐怖し、怯えた。
明けの明星は、そんな彼らを叱ることなく優しく許した。
「ええ。お前らはもう逃げろ。
これは元々、俺の身から出た錆・・・。俺が復活を果たしたことをきっかけにこの男の封禁も揺らいだんや。
その責任は俺がとる。
お前らは俺に任せて逃げろ。そして、異界の王を招集して全員で必ずこの男を殺せ。」
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とんでもないサイズの雷撃を放って異界の門を破壊したのだった。
「どこへいく。
魔王であるこの俺の蔑称を聞いたお前たちを俺が生かしておくとでも思ったのか?
既にこの異界は閉じた。もう誰も俺の邪魔をする者はいない。
お前たちともども、そこの薄汚い魔王を殺す。」
高き館の主はそういうと異空間から出現させた槍と棍棒を両手に握って構えた。
その両腕に持った神兵器はそれだけで異界の一つのエネルギーに匹敵するだけの魔力を秘めていて、土と光の国の全ての空気を振動させた。
明けの明星はその姿を見て懐かしそうに言った。
「ほう・・・。数億年ぶりにその武器を見た。
なるほどなるほど。お前もこれでやっと本気になったというわけか。」
明けの明星がそう言った瞬間、明けの明星の右腕が雷撃によって吹き飛ばされた。
あまりに一瞬の事で明けの明星は吹き飛ばされた右腕が焼けこげながら落下するまで右腕を失ったことに気が付かなかった。
「・・・あ?」
明けの明星が己の体の異変に気が付いた時、さらなる雷撃がその肢を襲い、明けの明星の体は燃えながら落下していく。
「許さんっ!!
いかに貴様が俺の親友の分霊であっても、今の暴言を決して許さぬっ!!
おれを何と呼んだ? 決してその薄汚い名で俺を読んではならぬっ!!」
燃えながら落下する明けの明星はどうにか体を再生させながら、宙にとどまったが、二人の実力差は圧倒的だった。
100分の1の分霊の明けの明星に万全の状態の高き館の主はあまりにも巨大な敵だったのだ。
「そうやって落下する姿・・・惨めだな。明けの明星・・・。まるでお前が先ほど引用した聖書の一節の通りだ。
『黎明の子、明けの明星よ。
お前は天から落ちてしまった。
もろもろの国を倒した者よ、お前は切られて地に倒れてしまった。』
まさに神話の再現だな・・・。」
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「命乞いをしろ。
いや、しなくてもよい。貴様が悲鳴を上げて命乞いをするまで俺は貴様をいたぶり続ける。
そして俺はお前の命乞いを決して認めず、永劫に痛めつけてやる。
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