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視察旅行〜ロジャース国〜 アンソニーside
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「トニー様はどのくらいロジャースの事をご存知ですか?」
翌日、遂にロジャース入りするというタイミングでマーガレットが聞いてきた。今は辺境伯のカントリーハウスで世話になっている。
隣国とは言えロジャースについてアンソニーが知っている事は少ない。
「スタークより歴史が長い事、国土はスタークと同じくらいの広さだが半島にあるため、うちとの国境以外を海に囲まれているという事、独特の食文化があり生肉や生魚を食べる事、国民性は苛烈で感情豊かだという事、農地政策が先進的だという事、紙の製法が素晴らしいこと、あと、言葉はロジャース語を使っているという事、ロジャース語は難しいという事、そのくらいかな?」
「そうですか。トニー様はロジャースのことを蛮族だとお思いですか?」
マーガレットが聞いてくるが、答えられずにいると
「お思いですよね?」
グッと詰められて眼線を逸らす。
「どうかお願いです。ロジャースを回っている間、その事を隠して下さい。ロジャースの民はスタークの民に蛮族と言われる事にとても敏感です。ロジャースの民は祖国に誇りを持っております。確かに、ロジャースは歴史が古く、そこに誇りがあるためなかなか新しい事が受け入れられません。だから、スタークから見ると古いやり方だと思われる事もあるのでしょう。しかし、それは文化が進んでいない故ではないのです。」
マーガレットが必死に訴えてくる。
「今、ロジャースの国民感情はスタークに戦争を仕掛けかねない、危機的状況にあると伺っています。だから、スタークの王太子であるトニー様の言動は常に見られていると考えてください。そして、その言動次第では本当に戦争が起きます。前回の戦争は王家が白旗を挙げて終えましたが、次、そうなった時はもう止めるものはおりません。ロジャース国民はスタークが白旗をあげるか、ロジャース国民が子供だけになるまで戦争を終えられないでしょう。そういう国民性なのです。だから何卒、彼らの命を救うと思ってロジャースを下に見るのは心の底にしまっていて欲しいのです。」
「わかった。」
マーガレットの必死さにそう答えるしか無かった。
「よろしくお願いします。」
そう言って再び、深々とお辞儀をし、自分の部屋に戻った。
彼女は自分なんかよりよほど国民のことを考え、国の為を思って行動している。十五にして為政者として世の中を見ている。
それに比べて自分はどうだろうか。二国間の関係や国民のことなど考えず、自分のちっぽけな感情だけでマーガレットを蔑ろにしてきた。
かつての敵国からやってきて、味方も一人もいない王宮で彼女はどれだけ心細かっただろうか。そんな少女に俺は何をした?何もしないどころか、あえて傷つけるような事を言った。
学園で娼婦などという噂が流れたのも俺のせいだ。
マーガレットは何故俺に微笑むことが出来るのだろうか。それとも心の中では俺のことを恨んでいるのに演技をしているのだろうか。
アンソニーはマーガレットの心の内を思い遣った。彼女は国のため、民のためならば死も厭わない。きっとアンソニーの事は憎んでいるだろうが、本当の心を隠して自分と結婚する事にも否はないだろう。しかし、それで彼女は幸せになれるのだろうか。
アンソニーはいつの間にか幸せを願うほどマーガレットの事を思っていた。
翌日、馬車に揺られて国境まで来た。
国境の関所は石造りの立派な建物だった。
王家の者と言っても手続きしなくてはいけない。馬車を降り建物の中に入ると見慣れない民族衣装を着た一団がいくつか見られる。ロジャースの民なのだろう。
スタークの服とは全く異なるものだった。
国境を越えて見られる景色はガラッと変わった。
ロジャースでは建物の作りもスタークとは異なっている。
辺境の街は栄えているらしく、人も多く賑やかだった。
今日は旧辺境伯邸で寝泊まりする事になった。ロジャースがスタークに併合されロジャースの貴族は全て爵位を剥奪されていたため、辺境伯の家も長い間使われていなかったようで、ところどころ煤けていた。
出された食事もスタークとは味付けがかなり違い、アンソニーにとってそれはとても薄味のように感じられた。薄味で食べられるのはロジャースの食糧事情が豊かでいつでも新鮮なものを口にすることができるためだと説明された。
同じ理論で生の肉も食せるらしい。
確かにスタークでは肉の臭みなを消すために香辛料を使ったピリッとした味付けのものが多いし、生で肉を食べるとなるとお腹を壊す印象しかない。
スタークでロジャース蛮族論の槍玉に挙げられることの多い食事事情だが、アンソニーの目から見て、それは决して文化が進んでいないためではない、ということが理解できた。
また、ロジャースでは食事の時に使う食器もスタークとは違っていた。
アンソニー用にフォークとナイフも出されたが、マーガレットは箸という2本の棒を器用に使って食べていた。
「あの、もし良ければトニー様もこちらで食べてみませんか?そうすればトニー様がロジャースを蔑ろにしているわけではないと伝わると思うのです。」
マーガレットに声をかけられてチャレンジしてみたがとても難しい。やっと掴んだ煮物が口に入れる前に落ちてしまった。
「もう少しでしたね。でも初めてにしては凄いです!」
マーガレットが手を叩く。
「箸をいかに綺麗に使うことができるか、というのがロジャースでは教養のひとつなんです。私も幼い頃は上手く使えず何度も手を叩かれました。スタークに帰国するころには上手く使えるようになっていると良いですね。」
マーガレットは年下の弟に言い聞かせるようにアンソニーに言った。
翌日、遂にロジャース入りするというタイミングでマーガレットが聞いてきた。今は辺境伯のカントリーハウスで世話になっている。
隣国とは言えロジャースについてアンソニーが知っている事は少ない。
「スタークより歴史が長い事、国土はスタークと同じくらいの広さだが半島にあるため、うちとの国境以外を海に囲まれているという事、独特の食文化があり生肉や生魚を食べる事、国民性は苛烈で感情豊かだという事、農地政策が先進的だという事、紙の製法が素晴らしいこと、あと、言葉はロジャース語を使っているという事、ロジャース語は難しいという事、そのくらいかな?」
「そうですか。トニー様はロジャースのことを蛮族だとお思いですか?」
マーガレットが聞いてくるが、答えられずにいると
「お思いですよね?」
グッと詰められて眼線を逸らす。
「どうかお願いです。ロジャースを回っている間、その事を隠して下さい。ロジャースの民はスタークの民に蛮族と言われる事にとても敏感です。ロジャースの民は祖国に誇りを持っております。確かに、ロジャースは歴史が古く、そこに誇りがあるためなかなか新しい事が受け入れられません。だから、スタークから見ると古いやり方だと思われる事もあるのでしょう。しかし、それは文化が進んでいない故ではないのです。」
マーガレットが必死に訴えてくる。
「今、ロジャースの国民感情はスタークに戦争を仕掛けかねない、危機的状況にあると伺っています。だから、スタークの王太子であるトニー様の言動は常に見られていると考えてください。そして、その言動次第では本当に戦争が起きます。前回の戦争は王家が白旗を挙げて終えましたが、次、そうなった時はもう止めるものはおりません。ロジャース国民はスタークが白旗をあげるか、ロジャース国民が子供だけになるまで戦争を終えられないでしょう。そういう国民性なのです。だから何卒、彼らの命を救うと思ってロジャースを下に見るのは心の底にしまっていて欲しいのです。」
「わかった。」
マーガレットの必死さにそう答えるしか無かった。
「よろしくお願いします。」
そう言って再び、深々とお辞儀をし、自分の部屋に戻った。
彼女は自分なんかよりよほど国民のことを考え、国の為を思って行動している。十五にして為政者として世の中を見ている。
それに比べて自分はどうだろうか。二国間の関係や国民のことなど考えず、自分のちっぽけな感情だけでマーガレットを蔑ろにしてきた。
かつての敵国からやってきて、味方も一人もいない王宮で彼女はどれだけ心細かっただろうか。そんな少女に俺は何をした?何もしないどころか、あえて傷つけるような事を言った。
学園で娼婦などという噂が流れたのも俺のせいだ。
マーガレットは何故俺に微笑むことが出来るのだろうか。それとも心の中では俺のことを恨んでいるのに演技をしているのだろうか。
アンソニーはマーガレットの心の内を思い遣った。彼女は国のため、民のためならば死も厭わない。きっとアンソニーの事は憎んでいるだろうが、本当の心を隠して自分と結婚する事にも否はないだろう。しかし、それで彼女は幸せになれるのだろうか。
アンソニーはいつの間にか幸せを願うほどマーガレットの事を思っていた。
翌日、馬車に揺られて国境まで来た。
国境の関所は石造りの立派な建物だった。
王家の者と言っても手続きしなくてはいけない。馬車を降り建物の中に入ると見慣れない民族衣装を着た一団がいくつか見られる。ロジャースの民なのだろう。
スタークの服とは全く異なるものだった。
国境を越えて見られる景色はガラッと変わった。
ロジャースでは建物の作りもスタークとは異なっている。
辺境の街は栄えているらしく、人も多く賑やかだった。
今日は旧辺境伯邸で寝泊まりする事になった。ロジャースがスタークに併合されロジャースの貴族は全て爵位を剥奪されていたため、辺境伯の家も長い間使われていなかったようで、ところどころ煤けていた。
出された食事もスタークとは味付けがかなり違い、アンソニーにとってそれはとても薄味のように感じられた。薄味で食べられるのはロジャースの食糧事情が豊かでいつでも新鮮なものを口にすることができるためだと説明された。
同じ理論で生の肉も食せるらしい。
確かにスタークでは肉の臭みなを消すために香辛料を使ったピリッとした味付けのものが多いし、生で肉を食べるとなるとお腹を壊す印象しかない。
スタークでロジャース蛮族論の槍玉に挙げられることの多い食事事情だが、アンソニーの目から見て、それは决して文化が進んでいないためではない、ということが理解できた。
また、ロジャースでは食事の時に使う食器もスタークとは違っていた。
アンソニー用にフォークとナイフも出されたが、マーガレットは箸という2本の棒を器用に使って食べていた。
「あの、もし良ければトニー様もこちらで食べてみませんか?そうすればトニー様がロジャースを蔑ろにしているわけではないと伝わると思うのです。」
マーガレットに声をかけられてチャレンジしてみたがとても難しい。やっと掴んだ煮物が口に入れる前に落ちてしまった。
「もう少しでしたね。でも初めてにしては凄いです!」
マーガレットが手を叩く。
「箸をいかに綺麗に使うことができるか、というのがロジャースでは教養のひとつなんです。私も幼い頃は上手く使えず何度も手を叩かれました。スタークに帰国するころには上手く使えるようになっていると良いですね。」
マーガレットは年下の弟に言い聞かせるようにアンソニーに言った。
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