裸足の花嫁~日陰の王女は愛に惑う~

めぐみ

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裸足の花嫁~日陰の王女は愛に惑う~⑫

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 結果は壮元及第、つまり首席での合格であった。また、その年の受験者の中では最年少での十七歳での合格だ。祖父は殊の外歓んだ。このまま都にとどまり、任官してはどうかと勧められ、孫ではなく養子とならないかとまで言われた。
 チュソンは祖父の申し出を丁重に辞退した。祖父が自分を本家の跡取りにしたがっているのは容易に知れた。けれども、本家の跡取りは次男坊の伯父に決まっている。伯父にはたくさんの息子もいるし、何より王妃の同母弟だ。
 祖父はつくづく女運のない人で、先妻を失った後、娶った後妻にも先立たれた。その後妻はチュソンの血の繋がった祖母である。王妃は先妻の生んだ一番上の娘で、後妻に入った祖母とは五歳しか違わない。母娘というよりは、姉妹といった方がしっくりくる関係だ。
 王妃が若い後妻を敬遠していたのは明らかで、従って、領議政が末弟ーチュソンの父を溺愛するのも快くは思っていない。チュソンの父は無欲な人だし、自分が兄の代わりに本家当主に収まろうなどという野心は欠片もないだろう。チュソンは更に父より出世には興味がない。
 野心のない父でさえ呆れるほど、チュソンは政にも立身にも関心はなかった。ただ日がな、自室で難しげな書物に埋もれていられれば幸せという、実に変わった青年に成長していた。
 祖父の勧めに乗り、養子になろうものなら、王妃に痛くもない腹を探られるのは判っている。チュソンは一旦、全州に戻った。今年、父が朝廷に復帰することが本決まりとなり、チュソンも晴れて一家で都に帰還できたというわけだ。
 領議政の孫であり、科挙の首席合格者であるチュソンは、いきなり吏曹正郎の要職に就くことができた。吏曹は人事を行う部署でもあり、正郎は若い官吏が憧れる花形ポストだ。そこを起点として出世街道を邁進する者は多い。加えて、家柄と血筋を考えれば、チュソンはもうエリートコースに乗ったも同然だ。
 ナ・チュソンの出世を疑う者は誰一人としていなかった。
 年若いチュソンの出世を嫉む者もまた、一定数は存在した。そんな者たちは、チュソンの任官、科挙での快挙すら、
ーどうせ領議政の思惑に決まっている。
 と、陰口を叩くのだ。
 だが、もとよりチュソンは平然としていた。自分が替え玉受験をしたわけではなく、答案採点時に不正が行われたのでもないことは、チュソン自身がよく知っている。
 事前に過去問題を解いた際、チュソンはほぼ全回を通じて満点を取っていた。自信過剰と思われるのが嫌で他人には話していないけれど、自分でも首席合格はともかく、合格はほぼ確実だと判っていたのだ。
 その日はチュソンの初出仕だった。父と共に王宮正門をくぐり歩いていると、所々で他の官吏たちと遭遇する。大概は年配の官吏であり、チュソンよりは年上ばかりの顔触れだ。
 紅い官服を着た父と並んで歩きながらも、蒼い官服のチュソンは真横に並ばず、やや右後方を歩く。父は知己とすれ違う度、立ち止まり、鷹揚に挨拶を交わした。その際、初出仕の息子を紹介するのも忘れない。
「これが英才の誉れも高いご子息ですか」
 ある官吏は父と同様、高官であるのを示す紅い官服を纏っていた。その官吏は心底羨ましげに言った。
「我が家には、どういうものか、娘ばかりしか生まれませんでな。年頃の娘も何人かおります。本妻の娘のいずれかに婿を取って家門を継がせようと考えているのですが、兵判大監のご子息を頂くわけには参りませんかのう」
 父は頷きつつも、笑顔で断っている。
「生憎と当家には、この愚息しかおりませんので、婿に差し上げるわけには参りませんで」
「何とも惜しいことですな」
 官吏は未練たっぷりという様子でチュソンを見ていた。
 確かに飛ぶ鳥落とす勢いの領議政の孫であり、王妃の甥、更には次代の王となる世子の従兄ーそれがチュソンの立場であった。また本人自身が将来を嘱望されている俊才とくれば、若い娘を持つ父親としては最高の婿がねになるはずだ。
 似たような会話が飽きるくらい何度も交わされ、チュソンは吏曹の建物の前で漸く解放されたのだった。
 初出仕の日は、次官の参判から一通りの説明を受けた。関連資料の置いてある場所、更には吏曹での毎日の主立った業務などを事細かに指導される。
 実務は明日からということで、その日は昼過ぎには帰宅許可が出た。意気込んでいたチュソンはいささか拍子抜けだった。昼を回った頃、彼は吏曹を出て来るときは父と共に辿った道を今度は一人で辿った。
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