40 / 57
兄編 次期当主の罪
次期当主の罪 6
しおりを挟む
一綺を危機一髪で助けたのは南だった。
三条家の分家である南家の現当主の次男。
一族中から、嗜虐趣味で、SMクラブに通い詰めている変態と噂される。
かつて、一綺を脅し、手酷い調教を施し、監禁までした男。
南は冷たい瞳で、突き飛ばした男を蔑み、言った。
「私の恋人に手を出さないでもらえるかな。」
「そそそ、そいつが誘ってきたんだ!合意だぞ!」
「あいにく彼は未成年だ。犯罪者になりたいのか。」
その言葉を聞くと、男は顔を歪ませたまま、小走りで逃げていった。
その場に呆然と立ち尽くす一綺、その横まで歩いてくる南。
路地裏で、壁にもたれかかりながら、南は煙草に火を点ける。
明らかに不快感をにじませた顔をしながら、一綺は尋ねた。
「……誰の恋人だって?」
「噓も方便だ。」
「嘘しかつかねえくせに。今は18歳から成年、俺は19だ。」
「そうだったっけ?法律なんか知らないね。」
南は煙草を一服し、ふぅと煙を吐き出した。
南は一綺を見下ろし、馬鹿にしたようにわずかに口角を上げる。
「生娘みたいに震えてたから、てっきり未成年なのかと。」
「……なんだと。」
「夜遊びも程々にって、言っておいたはずだけど。」
「てめえこそ、個人的接触はしねえと言ったはずだ。」
「緊急事態、だろ?」
「……余計なお世話なんだよ。」
「せっかくだから、ホテルでも行く?」
「てめえとは一生ヤんねえよ。」
「顔色が悪いから休憩しようって話なんだけど、余計なお世話だったかな?」
肩をわずかに震わせ、キッと南を睨みつけた。
自身の精神状態を見抜かれたようで、むず痒い。
顔色が悪いのは、暴漢に襲われただけではなく、日頃の悩みも原因だろう。
自分をいたわる言葉を、誘っていると勘違いしてしまい、バツが悪い。
忘れかけていた悩みのタネを思い出してしまい、吐き気が襲う。
う”っ、と嘔吐いた一綺に、南は再び煙を吸い込みながら言った。
「まあ、三条家も今は何かと混乱中だしね。カフェに入って少し休憩しようか。コーヒーでも奢るよ。」
体調が悪いのは事実で、カフェならいいかと一綺は大人しく南についていった。
しかし、一向にカフェにはつかなかった。
代わりにたどり着いた先は、件のSMバー。
「おい!なんでここ!」
「いいから入れよ。」
南が促す。
階段を降りて地下の店内に進むと、マスターのトモヤはもちろん、久留米や常連客のkeiもいた。
「あっらぁどうしたのライオンちゃん!!」
「駅のところで体調を崩して座り込んでいたので、見知った場所で休憩するのが良いかと。」
「あら南さんありがとねぇ~!ちょっとアンタ大丈夫?」
また南が一綺に乱暴を強いたのではないかと、南に詰め寄ろうとする久留米。
そのすそを、一綺が掴んで制止する。
「一綺ちゃん、緑茶でいいわね。南さんは何飲む?」
「私はこれで。マスターの可愛い顔が見れただけで十分です。」
「あらもう南さんったらぁもお~。お世辞が上手いんだからぁ♡」
「痛いたいたいたい…。」
トモヤに背中をバシバシ叩かれたkeiが苦笑いを浮かべながら痛がっている。
南はそのまま店を出ようとするが、その前に一綺の耳元に口を寄せて囁いた。
「次からはのこのこついてきちゃダメだよ。」
カッとなり、拳を震わせた一綺を意にも介さず店を出ようとする南を引き止めたのは久留米だった。
「南さん、せっかくです。一杯くらいいかがですか?」
静かに、しかし明確に敵意を示しながら、久留米はそう言った。
南は、久留米が嫌がると思って立ち去ろうとしたのに、その本人に引き止められたことに、少々面食らった顔をした。
久留米は、南が本当に一綺に手を出していないのか、確認したいようだった。
久留米や一綺のある種の「子どもらしさ」に南は苦笑した。
「……じゃあ、一杯頂いていこうかな?」
大人らしく振舞って、南はカウンターに座った。
ショートカクテルに口をつけながら、南はトモヤに言う。
「そうだマスター、これからはあまり店に来れなくなるかもしれない。」
「あら何かあったの南さん。」
「私の家、そこそこ名門だって話はしたよね。」
「えぇ、お金持ちなんでしょう?」
「実は先日、次期当主に指名されてね。忙しくなるから。」
一綺がグイッと南の方を見た。
思わず声を出しそうになるのを堪えた。
ーーこのだらしない男が、南家の次期当主だと……?
トモヤが手を挙げて、大きなリアクションをとる。
「えええ!!!当主って、家を継ぐ一番偉い人ってこと!?すごいじゃない!」
keiが訝しげな顔をして、南に尋ねる。
「あれ?ここ初めてきた時は、『次男だからふらふら遊んでられるんだ』とか言ってませんでした?」
「そうなんだけど、なぜか長男が辞退してね、私が指名されることになったんだ。」
ーー長男が、辞退だ?そんな訳が……。
南もちらりと一綺の方を見返すと、挑発的に笑った。
「なんにせよ、おめでたいことよ!高いの一本空けちゃいましょう!!」
マスターはカウンターの背後の棚から、大きな酒瓶を手に取った。
三条家の分家である南家の現当主の次男。
一族中から、嗜虐趣味で、SMクラブに通い詰めている変態と噂される。
かつて、一綺を脅し、手酷い調教を施し、監禁までした男。
南は冷たい瞳で、突き飛ばした男を蔑み、言った。
「私の恋人に手を出さないでもらえるかな。」
「そそそ、そいつが誘ってきたんだ!合意だぞ!」
「あいにく彼は未成年だ。犯罪者になりたいのか。」
その言葉を聞くと、男は顔を歪ませたまま、小走りで逃げていった。
その場に呆然と立ち尽くす一綺、その横まで歩いてくる南。
路地裏で、壁にもたれかかりながら、南は煙草に火を点ける。
明らかに不快感をにじませた顔をしながら、一綺は尋ねた。
「……誰の恋人だって?」
「噓も方便だ。」
「嘘しかつかねえくせに。今は18歳から成年、俺は19だ。」
「そうだったっけ?法律なんか知らないね。」
南は煙草を一服し、ふぅと煙を吐き出した。
南は一綺を見下ろし、馬鹿にしたようにわずかに口角を上げる。
「生娘みたいに震えてたから、てっきり未成年なのかと。」
「……なんだと。」
「夜遊びも程々にって、言っておいたはずだけど。」
「てめえこそ、個人的接触はしねえと言ったはずだ。」
「緊急事態、だろ?」
「……余計なお世話なんだよ。」
「せっかくだから、ホテルでも行く?」
「てめえとは一生ヤんねえよ。」
「顔色が悪いから休憩しようって話なんだけど、余計なお世話だったかな?」
肩をわずかに震わせ、キッと南を睨みつけた。
自身の精神状態を見抜かれたようで、むず痒い。
顔色が悪いのは、暴漢に襲われただけではなく、日頃の悩みも原因だろう。
自分をいたわる言葉を、誘っていると勘違いしてしまい、バツが悪い。
忘れかけていた悩みのタネを思い出してしまい、吐き気が襲う。
う”っ、と嘔吐いた一綺に、南は再び煙を吸い込みながら言った。
「まあ、三条家も今は何かと混乱中だしね。カフェに入って少し休憩しようか。コーヒーでも奢るよ。」
体調が悪いのは事実で、カフェならいいかと一綺は大人しく南についていった。
しかし、一向にカフェにはつかなかった。
代わりにたどり着いた先は、件のSMバー。
「おい!なんでここ!」
「いいから入れよ。」
南が促す。
階段を降りて地下の店内に進むと、マスターのトモヤはもちろん、久留米や常連客のkeiもいた。
「あっらぁどうしたのライオンちゃん!!」
「駅のところで体調を崩して座り込んでいたので、見知った場所で休憩するのが良いかと。」
「あら南さんありがとねぇ~!ちょっとアンタ大丈夫?」
また南が一綺に乱暴を強いたのではないかと、南に詰め寄ろうとする久留米。
そのすそを、一綺が掴んで制止する。
「一綺ちゃん、緑茶でいいわね。南さんは何飲む?」
「私はこれで。マスターの可愛い顔が見れただけで十分です。」
「あらもう南さんったらぁもお~。お世辞が上手いんだからぁ♡」
「痛いたいたいたい…。」
トモヤに背中をバシバシ叩かれたkeiが苦笑いを浮かべながら痛がっている。
南はそのまま店を出ようとするが、その前に一綺の耳元に口を寄せて囁いた。
「次からはのこのこついてきちゃダメだよ。」
カッとなり、拳を震わせた一綺を意にも介さず店を出ようとする南を引き止めたのは久留米だった。
「南さん、せっかくです。一杯くらいいかがですか?」
静かに、しかし明確に敵意を示しながら、久留米はそう言った。
南は、久留米が嫌がると思って立ち去ろうとしたのに、その本人に引き止められたことに、少々面食らった顔をした。
久留米は、南が本当に一綺に手を出していないのか、確認したいようだった。
久留米や一綺のある種の「子どもらしさ」に南は苦笑した。
「……じゃあ、一杯頂いていこうかな?」
大人らしく振舞って、南はカウンターに座った。
ショートカクテルに口をつけながら、南はトモヤに言う。
「そうだマスター、これからはあまり店に来れなくなるかもしれない。」
「あら何かあったの南さん。」
「私の家、そこそこ名門だって話はしたよね。」
「えぇ、お金持ちなんでしょう?」
「実は先日、次期当主に指名されてね。忙しくなるから。」
一綺がグイッと南の方を見た。
思わず声を出しそうになるのを堪えた。
ーーこのだらしない男が、南家の次期当主だと……?
トモヤが手を挙げて、大きなリアクションをとる。
「えええ!!!当主って、家を継ぐ一番偉い人ってこと!?すごいじゃない!」
keiが訝しげな顔をして、南に尋ねる。
「あれ?ここ初めてきた時は、『次男だからふらふら遊んでられるんだ』とか言ってませんでした?」
「そうなんだけど、なぜか長男が辞退してね、私が指名されることになったんだ。」
ーー長男が、辞退だ?そんな訳が……。
南もちらりと一綺の方を見返すと、挑発的に笑った。
「なんにせよ、おめでたいことよ!高いの一本空けちゃいましょう!!」
マスターはカウンターの背後の棚から、大きな酒瓶を手に取った。
17
お気に入りに追加
394
あなたにおすすめの小説


【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる