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コツコツコツコツ、ギルベルトの爪が机を叩く音がずっと続いている。その目の前にいるのはオリヴ。指揮官室に呼び出されたのだ。イラついた様子でギルベルトは話を切り出した。
「……最近アールの様子がおかしくないか?」
「そうか?」
「一度テオバルトに切りつけられて逃げ帰ってきたことがあっただろう。あの時もひどくおびえて、感情制御の力で恐怖感がある可能性もあるが。あの時からだ。アールの感情の変化が薄くなったように思える。」
「感情を持っているからこそ、心が壊れるっていう可能性もあるだろうな。」
「…それじゃ困る。壊れない心で悩む必要がある。そうでなければ、心を持つ意味がない。」
「そんなこと…。」
「電気羊っていうのはどんな動物だ?オリヴ。」
「……それを俺に聞いてどう答えて欲しい。『そんな動物はいない』って言えばいいのか。」
「なんだ、知っていたか。つまらない。」
お互いに沈黙した後、オリヴが口を開いた。
「今のあいつは心が不感症になってる、いや、義務的に不感症にしてる、といったほうが正しい。文字通り殺戮マシーン。その引き金を引いたものがあるはずだ。」
ギルベルトは一瞬無言になったかと思うと、不敵な笑みを浮かべた。
「ククク、では考えることを放棄したアールにもう一度考えてもらおうか。ハハハ。」
「……?(ご乱心か?)」
「ここにアールを呼べ。」
ドアが開く音がした。
「いるよ、ここに。」
アールとカミルが立っていた。
「お前ら、いつから。」
ギルベルトが何ともないように尋ねたがオリヴには少しの動揺が感じられた。
「心配しなくていいよ。ほんとに今来たところ。盗み聞きとかしてない。で、何の用?」
「…次の任務を伝える。」
空気が一瞬にしてピリリと変わる。
「A国の傭兵、シュテファンを誘拐しろ!無傷でここまで連れてこい!」
「…え。」
アールの視線がふらつく。カミルは狼狽して思わず口を開く。
「待てよギル!そんなことして何の意味があんだよ!」
「何だってできるだろ。敵戦力を減らし、拷問したり人質にしたり洗脳したり。」
「不用意にA国の恨みを買うことになる!得策じゃない!」
「スパイにしたり。」
「……。」
カミルもオリヴも黙ってしまう。
「了解。」
「おいアール!」
カミルが叫ぶ。
「僕の生まれた意味はギルの任務を遂行すること。」
そう呟いてヒュンッと外へ飛んで行った。
そのアールの目は誰も見たことがないような冷酷なものだった。
「また来たなアール!今度こそぶっ殺してやる!」
「……。」
「ザックなんかいなくても俺一人で十分だ!」
A国の庭、そこではシュテファンとアールが対峙していた。他には誰にもいない。
「アール、お前。なんか、変わった?」
「……。」
「改造手術?それとも、プログラムの改変?」
「……。」
「なんか言えよ!」
おかしい。何かおかしい。アールの態度もいつもと違う。いや、それだけじゃない。いつもは、ウーヴェを殺しに来たはずだ。それが目的のはずだ。なのになぜ、わざわざウーヴェのいない庭に来た?おかしい。なぜ俺と一対一で戦ってるんだ。目的は、俺。
「……もしかして、俺を殺しに来た?」
「……。」
自分を殺しに来たのであれば間違いなく誰かの助けを、第三者の助けを呼んだほうがいい。テオか、ザック。だけど、俺を殺しに来たのは、俺を恐れているから。傭兵として、ザックよりも!
「だったら、俺が相手してやらないとな。」
シュテファンが剣を構え直して容赦なくアールに斬りかかった。
命をかけた戦闘は始まったはずだ。なのに、アールに殺意は見えない。
シュテファンがアールの間合いに入った。アールはこのまま俺の首を狙おうとしている、即座にかわすことはできない。そうすればアールの脇腹に刃を食い込ませることができる。そう思った瞬間、
「え…?」
シュテファンの想定を逸脱して、アールは剣を投げ捨てた。初めからシュテファンの首を斬ろうとはしていなかった、そのためシュテファンの剣は空を切った。華麗に身を翻したかと思うと、アールはシュテファンのうなじに注射を突き立てた。
「うっ…!?」
頭が朦朧としてシュテファンはその場に倒れこんだ。アールは静かに落とした剣を拾い上げた。そこでシュテファンの意識は途切れた。
小さな体でシュテファンを抱えあげると、アールは紙を投げ捨てて、森の中へ消えた。
「ふああ、今日もいい天気だなあ。シュティ~、訓練しようぜ~!あれ?」
庭で剣の訓練をしていたはずのシュテファンを迎えにくるザカリアス。しかしそこにシュテファンの姿はない。落ちている剣と、その側にある一枚の紙。
「シュティ?」
その紙を拾い上げる。
「…っ!?」
「……最近アールの様子がおかしくないか?」
「そうか?」
「一度テオバルトに切りつけられて逃げ帰ってきたことがあっただろう。あの時もひどくおびえて、感情制御の力で恐怖感がある可能性もあるが。あの時からだ。アールの感情の変化が薄くなったように思える。」
「感情を持っているからこそ、心が壊れるっていう可能性もあるだろうな。」
「…それじゃ困る。壊れない心で悩む必要がある。そうでなければ、心を持つ意味がない。」
「そんなこと…。」
「電気羊っていうのはどんな動物だ?オリヴ。」
「……それを俺に聞いてどう答えて欲しい。『そんな動物はいない』って言えばいいのか。」
「なんだ、知っていたか。つまらない。」
お互いに沈黙した後、オリヴが口を開いた。
「今のあいつは心が不感症になってる、いや、義務的に不感症にしてる、といったほうが正しい。文字通り殺戮マシーン。その引き金を引いたものがあるはずだ。」
ギルベルトは一瞬無言になったかと思うと、不敵な笑みを浮かべた。
「ククク、では考えることを放棄したアールにもう一度考えてもらおうか。ハハハ。」
「……?(ご乱心か?)」
「ここにアールを呼べ。」
ドアが開く音がした。
「いるよ、ここに。」
アールとカミルが立っていた。
「お前ら、いつから。」
ギルベルトが何ともないように尋ねたがオリヴには少しの動揺が感じられた。
「心配しなくていいよ。ほんとに今来たところ。盗み聞きとかしてない。で、何の用?」
「…次の任務を伝える。」
空気が一瞬にしてピリリと変わる。
「A国の傭兵、シュテファンを誘拐しろ!無傷でここまで連れてこい!」
「…え。」
アールの視線がふらつく。カミルは狼狽して思わず口を開く。
「待てよギル!そんなことして何の意味があんだよ!」
「何だってできるだろ。敵戦力を減らし、拷問したり人質にしたり洗脳したり。」
「不用意にA国の恨みを買うことになる!得策じゃない!」
「スパイにしたり。」
「……。」
カミルもオリヴも黙ってしまう。
「了解。」
「おいアール!」
カミルが叫ぶ。
「僕の生まれた意味はギルの任務を遂行すること。」
そう呟いてヒュンッと外へ飛んで行った。
そのアールの目は誰も見たことがないような冷酷なものだった。
「また来たなアール!今度こそぶっ殺してやる!」
「……。」
「ザックなんかいなくても俺一人で十分だ!」
A国の庭、そこではシュテファンとアールが対峙していた。他には誰にもいない。
「アール、お前。なんか、変わった?」
「……。」
「改造手術?それとも、プログラムの改変?」
「……。」
「なんか言えよ!」
おかしい。何かおかしい。アールの態度もいつもと違う。いや、それだけじゃない。いつもは、ウーヴェを殺しに来たはずだ。それが目的のはずだ。なのになぜ、わざわざウーヴェのいない庭に来た?おかしい。なぜ俺と一対一で戦ってるんだ。目的は、俺。
「……もしかして、俺を殺しに来た?」
「……。」
自分を殺しに来たのであれば間違いなく誰かの助けを、第三者の助けを呼んだほうがいい。テオか、ザック。だけど、俺を殺しに来たのは、俺を恐れているから。傭兵として、ザックよりも!
「だったら、俺が相手してやらないとな。」
シュテファンが剣を構え直して容赦なくアールに斬りかかった。
命をかけた戦闘は始まったはずだ。なのに、アールに殺意は見えない。
シュテファンがアールの間合いに入った。アールはこのまま俺の首を狙おうとしている、即座にかわすことはできない。そうすればアールの脇腹に刃を食い込ませることができる。そう思った瞬間、
「え…?」
シュテファンの想定を逸脱して、アールは剣を投げ捨てた。初めからシュテファンの首を斬ろうとはしていなかった、そのためシュテファンの剣は空を切った。華麗に身を翻したかと思うと、アールはシュテファンのうなじに注射を突き立てた。
「うっ…!?」
頭が朦朧としてシュテファンはその場に倒れこんだ。アールは静かに落とした剣を拾い上げた。そこでシュテファンの意識は途切れた。
小さな体でシュテファンを抱えあげると、アールは紙を投げ捨てて、森の中へ消えた。
「ふああ、今日もいい天気だなあ。シュティ~、訓練しようぜ~!あれ?」
庭で剣の訓練をしていたはずのシュテファンを迎えにくるザカリアス。しかしそこにシュテファンの姿はない。落ちている剣と、その側にある一枚の紙。
「シュティ?」
その紙を拾い上げる。
「…っ!?」
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