【完結】殺人兵器は愛情の夢を見るか

劣情祝詞

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「なんだその傷は。」

ギルベルトの口調が心なしか冷酷だった。一方アールは敵陣での恐怖がまだ冷めやらなくて、小刻みな震えを抑えられないでいる。

「テ、テオバルトに、切りつけられて。」
「…残念だ。」

アールが下を向いたままビクッと反応する。

「人知では考えられないほどの成長を見せるのを期待していたのに、まさか負傷して帰ってくるとは。」
「す、いませ、」
「お前は何のために生まれたんだ。」
「……。」


ギルベルトとの話が終わって、アールは一人でいた。まだ震えがおさまらなくて、部屋の隅っこで丸くなっていた。

僕はなぜ恐怖を感じた?なぜ逃げた?

戦って、殺すことが任務なのに、僕は。


『生きててほしいから殺さないの。』

『心を持ってんだったら自分でちゃんと考えろ。』

『お前は何のために生まれたんだ。』


黙れ、黙れ。もう自分がよくわからない。僕に生きる意味があるのか。というか僕って生きてるのか。頭痛くなってきた。プラグラムが、壊れちゃう、かも。意、識、が…。


「あー、ヒート起こしちゃったかなー。」

ゼイゼイと荒い呼吸を繰り返しながら部屋の隅で丸くなって倒れているアール。その部屋に入ってきてオリヴが呟いた。

「『治して』やらないとな。」

小柄なアールをいとも簡単にひょいっと持ち上げ、お姫様抱っこのように抱えながら部屋を出て、自身の研究室へと向かった。



「それで、収穫は?」

ウーヴェが煙草の灰を灰皿に落としながら目の前の男に尋ねた。

「アールは急成長を遂げている。『対要人用感情制御型殺人兵器』のプロトタイプで、完成形ができたら量産して戦士として使う。いわば実験段階だと。」

「ふぅ~ん。あっちは完全に戦争したいわけね。」
「みたいだな。」
「で、お前はどう思う、カミル?」

カミル、ギルベルトの付き人、右腕。

「俺は……わからない。」

その正体はA国からの

「そっかー。指揮官の付き人として現地に赴いてるスパイの意見を聞きたかったんだけどな。」
「それを考えるのが軍隊長の仕事だろうが。」
「確かに。」

カミルはテオバルトと同じくウーヴェを昔から知る数少ない友人。ウーヴェとテオバルトとカミルの3人は旧知の腐れ縁として絶大なる信頼を置き合う3人だった。

「あとスパイとかいうな。」
「事実だろ?」
「……。」
「それとも何?」

敵にほだされた?そう続けようとしたがやめた。

「いや、何でもない。…これからも潜入を続けてくれ。信用してるよ。」
「イエス、サー。」

そう言って部屋を出ようとしたカミルだったが、ふと足を止めた。振り返らないまま、カミルは口を開いた。

「だけど、アールは苦しんでる。人間じゃないけど、確実に苦しんでるんだ。」

アールはしばらく考え込んだが、煙草の火をもみ消して、ニコッと笑って言った。


「…カミルくん知ってる?アールはさ、」
「アールは人間だったんだよ。」

その笑顔は、酷く退廃的だった。


カミルは足早にオリヴの研究室へと向かっていた。

「おいオリヴ!」
「何だ、騒がしい。」

椅子に座るオリヴの横ではうなされているアールがベッドで寝ていた。

「おいお前アールに何してんだよ!」
「頭のパーツがヒート起こしてたから修理してただけだ。今冷まし途中だからじきに容体も落ち着く。落ち着け、心配するな。」

カミルはホッとした様子で近くの椅子に座った。

「んで、何の用だ。そんなに慌てて。」
「今日は落ち着いて話をしよう思ってたのに。まあいい、本題に入る。正直に答えろ。」
「それはこっちの自由だ。」
「アールは何者なんだ。」

オリヴの表情がわずかにこわばった。

「何者って、俺の開発した殺人兵器だが。」
「嘘だ、アールは元人間だ。何がどうなってこうなったのか説明しろ。」
「……確信があるってことは隠し通せないって訳か。」
「認めるのか。」
「俺はこの秘密をギルベルトに知られたら困る。だから秘密の交換をしよう。カミルがギルベルトに知られては困ることを教えてくれれば、アールの秘密を教えよう。」

カミルの目が一瞬泳いだ。迷ったが背に腹は変えられない。

「いいだろう、何が聞きたい。」
「お前が何者か。」
「……俺はA国の人間だ。アールについて調べるためにギルベルトの元に差し向けられた。」
「スパイってわけだな。」

カミルは静かにうなづいた。

「てっきり独断で何か企んでんのか思ったが、まさかA国の人間とは。」
「アールは何なんだ。」
「わかったわかった、そう焦んな。アールが元人間なのは正しい。アールの脳には俺が開発したAIが埋め込まれている。言うなればアールはサイボーグ、だな。」
「サイボーグ、…どういう経緯で」

カミルの問いを遮るかのように、アールが目を覚ました。

「ふああ、カミル?オリヴ?あれ、僕何して。」
「お前のこと修理してたんだ。カミル、この話はもう終わりだな。」
「…ああ。互いに他言無用だ。」
「じゃあ修理の続きがあるから、席外してくれるか?」

カミルは黙って退室した。

カミルはオリヴの研究室を出て、焦燥感をにじませながらつかつかと廊下を歩いていた。

言ってしまってよかったのだろうか。もし失敗したら、殺されるかもしれない。ギルベルトは理由なき暴君ではない。しかし理由があればなんだってする男だ。裏切り者には粛清を。そうやって消えていった者を大勢知っている。俺だって、例外ではない。

「はー。もうここまできたら俺が調べ尽くすしかないよなぁ。」

対要人用感情制御型殺人兵器誕生の秘密を。
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