アラフォーの悪役令嬢~婚約破棄って何ですか?~

七々瀬 咲蘭

文字の大きさ
上 下
112 / 150
番外編〈第一部 終了ボーナストラック〉

番外編 メイドズ☆ブラスト episode15

しおりを挟む
「本当にワンパターンね! 生憎だけどマリンと違ってこのモニカに海蛇の毒は効かないよ!」
   飛んできた毒の粉をモニカは顔をしかめて手にした半月刀で払いのけた。

 それでも大量の紫色の粉は空気中に舞い上がり、モニカの周囲に毒々しい紫色の空間が立ち込める。

「ちっ!」
 モニカは後方に飛びすさってその毒煙幕から脱出した。

「ふん、お前──毒耐性があるのか!」
 バルレッタは憎らしそうにいった。

「そうよ。カルゾ邸の使用人はあんた達のおかげで殆んど耐性訓練を受けてるんだから!」
 身体についた粉を払いながらモニカは言った。

 モニカの言うとおり、カルゾ邸に勤める者は海蛇の襲撃に備えて毒の耐性訓練を受けている者が殆んどだ。

 私、マリン・ハーランドに耐性がないのは、私が極度のアレルギー体質でどうにも薬品の類いに反応し過ぎてしまい、耐性訓練にドクターストップがかかってしまったためである。

「くそっ……」
 バルレッタはいまいましそうにモニカを睨みつけた。

 そして、ゆっくりと立ち上がると、
「ダリャッ! キェェェッ!!」
 奇声を発しながら、両腕に仕込んであった巨大な針のような暗器をモニカに向かって繰り出した。

 まともに当たれば、内臓まで串刺しにされてしまっただろう。
 そんな怒濤の早業だ。

 しかし、モニカは軽く飛びすさってそれをすべて避けていく。

「臆病者!」
 そんなモニカに向かって、バルレッタは歯を剥き出しにして叫んだ。
 そして、モニカに向かって突進し、一気に距離をつめる。

 モニカは、先ほどバルレッタが地面に突き刺していった半月刀でそれをイヤイヤ受け止めた。

 キィン!
 ギュイン!

 シュパッ!

 繰り出される、紫色にてらてらと光る物騒な針が突然、伸びてモニカの顔面を襲う。

「……!」
 モニカは器用に上体を反らし、ヌンチャクのように伸びた暗器を紙一重でよけた。しかし、暗器から液体のようなものが発射され、モニカのアーマーの胸部にドロッとふりかかる。

 ジュッ!

 嫌な匂いが立ち込め、毒液に浸食されたモニカの体操服アーマーの胸ゼッケン部分だけがドロリと溶け落ちた。

 ゼッケン部分だけが不自然にくり抜かれたように穴が開き、そこからモニカの肌色の上気したピンクの肌がのぞく。そして谷間のない、ツルッペタの胸がペロン、と殆んど露出した。

 辛うじて溶け残った布がニプレスのように先っぽを隠していたが、逆にその模様がペタンコ胸なだけに卑猥にうつる。

「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁっっ!」
 モニカの絶叫が会場にコダマした。  

「「モニカ──っ!」」
 目を凝らして見つめていた私とダルバが悲鳴をあげる。

「……!?」
 毒でダメージを受けてしまったのだろうか。
 うつむいて胸を両手でおおったモニカの全身がブルブルと震えていた。

「おや、そんなヤワなアーマーじゃあたしの毒液を防げなかったようだねぇ。それにしても貧相な洗濯板だこと。その辺の太った男の方がまだ胸があるんじゃないか? アハハハ──」
 勝ち誇ったようにバルレッタが自らの胸をブルンブルンと揺らしながらバカにしたような笑い声をあげる。


「許せない──! 絶対に許せないわ……」
 尋常ではない殺気がモニカの全身から膨れ上がった。


 その時。
「わぁ、うまくいったみたいねぇ」
 観覧席でやきもきしていた私とダルバの背後から嬉しそうな声があがる。

「「パロマ──!」」
 昼寝から復活した変態娘は、私たちを押しのけるとバルコニーから身を乗り出し、目を輝かせた。

「ほらほら、上手くゼッケンだけ溶けてるじゃないの!  計画通りだわ。本当に私って天才よねぇ……」
 パロマは浮き浮きとした声をあげながら、オペラグラスを取り出すとモニカの身体を舐めるように見た。

「え?」
「パロマあんた、まさか……!」
 私とダルバに詰め寄られたパロマはニヤリと嫌な笑いを浮かべた。
「当たり前でしょ、あんな綺麗に胸だけ溶けるわけがないじゃない! 
 私が作ったものなのよ?そんな簡単に溶けてたまりますか。演出よ、演出。
 胸だけ溶けるなんて、またブロマイドの売り上げを煽るわよねぇ~。グフグフフフフ……」
「あんたねぇ……」

 この大会で公式ショップで取り扱われている選手のブロマイドの売上金の半分は当日に参加チームに還元されている。
 アーマーの製作費を削られているパロマには、この還元金が喉から手が出るほど欲しいのは分かっていたが、まさかこんな方法をとってくるとは──!

「なによぉ。ほら、ブルマーは無事なんだからさ。別にスッポンポンになった訳じゃないんだから、いいじゃないの……」
「そういう問題じゃないし!」
「本当にサイテー!」

 私たちの非難をスルーしたパロマは、
「ほらほら。おかげでモニカがキレたわよ。これで初戦は勝ったも当然ね。私のおかげじゃないのよ!」
 これまたムダに大きい胸をぷるるん、と得意気に震わせ、バルレッタより邪悪な高笑いをあげたのだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

悪役令嬢は毒を食べた。

桜夢 柚枝*さくらむ ゆえ
恋愛
婚約者が本当に好きだった 悪役令嬢のその後

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。

黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。 差出人は幼馴染。 手紙には絶縁状と書かれている。 手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。 いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。 そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……? そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。 しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。 どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。

【完結】美しい人。

❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」 「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」 「ねえ、返事は。」 「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」 彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。

不倫をしている私ですが、妻を愛しています。

ふまさ
恋愛
「──それをあなたが言うの?」

処理中です...