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番外編〈第一部 終了ボーナストラック〉
番外編 メイドズ☆ブラスト episode14
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「完全に見世物よね……」
男たちの闘技大会の時には組まれないやぐらが闘技場の中央に組まれ、観客がよく見えるように闘いの舞台が設営されていた。
「今回はビキニアーマー大会だから仕方ないでしょ」
私のぼやきにダルバが答えた。
舞台の上は、ちょうど前座の芸人たちが先ほどまで行っていた建国劇の小道具を片付けて引っ込んだところだった。
観衆たちは今か今かと試合がはじまるのが待ちきれない様子で足を踏み鳴らす。
「イスキア! イスキア!」
東のモニカと反対側からイスキアのバルレッタが登場すると、ひと際大きな拍手と喝采が起きた。
「うぉぉぉぉぉぉぉ! 待ってました!」
「バルレッタ! バルレッタ!」
「カルゾのメイドなぞ、叩き潰してしまえっ!」
「わぉ! さすが地元……すごい人気だこと」
私はダルバと顔を見合わせる。モニカに声援を送る観客は皆無だ。
「あの胸で点数を稼いでるのかしら。あのキツいご面相じゃ、ブロマイドがそう売れるとは思えないけどねぇ──」
ダルバの正直な感想に私は頷いた。
バルレッタの顔はともかく、体格はとてもたくましかったので彼女の胸は見事に盛り上がっていた。
その豊かな胸を包み隠すにはあまりにも小さな紫色の毒々しい蛇皮のビキニアーマーから胸の谷間がふんだんにこぼれていて、観客たち、特に酒が入った男たちの喝采を浴びていた。
「いつまで待たせるんだい、カルゾのクソアマが! それとも闘う前からこのあたしに怖じ気づいて逃げちまったのかい?」
バルレッタは出てくるなり、三白眼をギョロつかせ、歯を剥き出して吠えたてる。
その禍々しい色合いの衣装とあいまって、すっかり悪役ヒールか悪の幹部といった雰囲気だ。
「うるさいわねぇ。誰が逃げたって? ここに居るわよ……」
モニカはきっちりとマントの前を合わせると、嫌そうにやぐらの前に進み出た。
「カルゾのモニカ! マントを取れっ!」
審判から声がかかる。
モニカは観念したようにギュッと目をつぶり、ヤケクソといった様子でマントをバサッと投げ捨てるとクルリ、と舞台の上にあがった。
「うわぁぁぁぁぁ─────っ!」
「おぉぉぉぉぉぉ─────っ!」
途端に大歓声が会場内で爆発した。
濃い緑のキャンバス地の上に降り立ったモニカの格好は、イスキアの男たちの度肝を抜いたのだった。
モニカのアーマーは、まるで闘うことを想定していないかのようなデザインだったのだ──。
彼女は紺色の臀部を包み込む、この世界でも「ブルマー」と言われる女児の体操着を身につけていた。
そしてそのサイズが微妙に小さいがゆえに、両腿サイドのゴム状になっている場所がモニカの形のいい尻に食い込んでいる。
しかも、そのブルマーの下にはいている白いレースのショーツがちょろっとサイドからはみ出していた。
これは、いわゆる「はみパン」というヤツである。
足元はニーハイの白いソックスにバレーシューズ。
上半身は、サイズの合わないピチピチの白い体操着を着ましたというようなデザインで、へそ回りから素肌がのぞいていた。
髪はツインテールに結われ、何故か紅白のハチマキをしている。
「ほぼ、コスプレよね……アレ」
盛り上がる観客の歓声に、ダルバは無表情に言った。
「まぁ、透けてないだけよくない?」
私は気休めの言葉を吐いた。
全く、パロマのヤツ……!
モニカが着せられたのはビキニアーマーというより、これじゃまるっきりエチエチの体操着コスプレだ。
ユッカの首都、エストにある九番街という歓楽街で夜に店に出れば話題の売れっ子になることは間違いない……。
お尻に食い込むブルマーをしきりに両手でモゾモゾとなおしながら、恥ずかしさで真っ赤になっているモニカに私たちは同情の視線を送った。
……ごめん、モニカ。
私たちじゃ、どうもしてやれないや。
でも、間違いなく今日のブロマイドの売り上げはバルレッタよりもあんたが上よ。
それを着てそこに立っている地点で、すでにあんたの勝ちだわ──。
「それにしてもモニカの体型の欠点を見事にカバーして、ロリロリに煽ってるわね……あのアーマーは」
本当にそれはモニカのムッチリとした太ももを強調し、お尻の食い込みが男どもの下半身を直撃する、妖しい色香を秘めた仕様のアーマーだった。
えぐれ胸はゼッケン状のものでへそ上まで見事にカバーされており、それほど残念な感じは与えない。
それでもよく見るとペタンコ感は多少残っていた。しかし、逆にそれがイケない幼女の着替えをのぞいているような背徳感を煽りたてていたのだった。
「なるほど。見事なマニア受け……パロマおそるべし!」
熱狂する観客にダルバが唸り声をあげる。
「いいぞ! いいぞ! モニカ!」
「ロリータアーマー、最高~!」
一気にボルテージの上がった声援がイスキア一色だった観客席から乱れ飛ぶ。
「えぇっ!?」
自分に向けられる声援に恥ずかしがってモニカが身をくねらすと、それがかえってなまめかしく、色っぽく見えた。
あえて白色をチョイスしたパロマの変態的センスの勝利である。
「なんだい。そんなふざけたアーマーでこのバルレッタ様に勝つつもりかい!」
相手を故意には殺さないこと、というルールの宣誓が終わり、試合開始の銅鑼が大きく打ち鳴らされたと同時にバルレッタは大きく曲がっている刃の薄い三日月刀を両手に持ち、モニカ目がけて突っ込んできた。
ぶん、と大振りしながらモニカの目前にあっという間に迫る。
みっちり筋肉がついたバルレッタの太い腕から繰り出されるだけあって、まともにくらったら骨も砕けて大ダメージを食らってしまうほどの威力のある攻撃ではあった。
が、モニカはあっさり右に左に身をかわしながらよけた。
「くたばれ!」
バルレッタが絶叫もろとも再び三日月刀を振り下ろす。
それをモニカはまた、紙一重のところでパッとかわした。
バルレッタは上から体重をかけて振り下ろしたため、剣は深々と緑地のキャンパスに二本とも深々と突き刺さった。
慌ててバルレッタは刺さった剣に足をかけ、必死に引き抜こうとする。
が、半分以上埋まったそれは簡単には引き抜けない。
「くっ!」
その隙に、モニカはパッと背後へ回り込むと、右足でバルレッタの手を素早く蹴りあげた。
「はっ!」
バルレッタが怯んだ隙にさらに足を払い、地面に引きずり倒す。
ドッ! と無様に仰向けに転がるバルレッタ。
モニカは素早く床に刺さったもう1つの剣を軽々と抜くと、それをバルレッタの喉元に突きつけた。
「さっさと降参しなさい!」
この本選でも予選と同様、降参は認められていた。
「参った」と相手に言わせればそれで試合は終了だ。
武器に関しても自由に認められており、各部門のチャンピオンが一堂に対戦するこの大会ではそれぞれが得意な得物で参戦できるところがお互いに同じ武器を選ぶ予選と異なるところだった。
他に予選と大きく違うところは、試合上、不可抗力であったと審判に認められた時は相手を殺しても失格にはならないという事。
つまり、どの試合でも海蛇達はカルゾメイドの息を止めようと全力で襲いかかってくるだろうという予測がつく。どんな手を使ってでも勝ちに来るだろう。
……モニカとの実力の差があるにしろ、こんなアッサリ決着がつくとは思えない。
「モニカ! 気をつけてっ!」
私は精一杯、声をはりあげて叫んだ。
私の脳裏に四年前の悪夢が蘇る。
あの時も序盤は私が優勢だったのだ……!
「誰が降参なぞするか!」
ニヤリ、と嫌な笑いを浮かべるとバルレッタは手にした何かをモニカに投げつけた──!
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「今回はビキニアーマー大会だから仕方ないでしょ」
私のぼやきにダルバが答えた。
舞台の上は、ちょうど前座の芸人たちが先ほどまで行っていた建国劇の小道具を片付けて引っ込んだところだった。
観衆たちは今か今かと試合がはじまるのが待ちきれない様子で足を踏み鳴らす。
「イスキア! イスキア!」
東のモニカと反対側からイスキアのバルレッタが登場すると、ひと際大きな拍手と喝采が起きた。
「うぉぉぉぉぉぉぉ! 待ってました!」
「バルレッタ! バルレッタ!」
「カルゾのメイドなぞ、叩き潰してしまえっ!」
「わぉ! さすが地元……すごい人気だこと」
私はダルバと顔を見合わせる。モニカに声援を送る観客は皆無だ。
「あの胸で点数を稼いでるのかしら。あのキツいご面相じゃ、ブロマイドがそう売れるとは思えないけどねぇ──」
ダルバの正直な感想に私は頷いた。
バルレッタの顔はともかく、体格はとてもたくましかったので彼女の胸は見事に盛り上がっていた。
その豊かな胸を包み隠すにはあまりにも小さな紫色の毒々しい蛇皮のビキニアーマーから胸の谷間がふんだんにこぼれていて、観客たち、特に酒が入った男たちの喝采を浴びていた。
「いつまで待たせるんだい、カルゾのクソアマが! それとも闘う前からこのあたしに怖じ気づいて逃げちまったのかい?」
バルレッタは出てくるなり、三白眼をギョロつかせ、歯を剥き出して吠えたてる。
その禍々しい色合いの衣装とあいまって、すっかり悪役ヒールか悪の幹部といった雰囲気だ。
「うるさいわねぇ。誰が逃げたって? ここに居るわよ……」
モニカはきっちりとマントの前を合わせると、嫌そうにやぐらの前に進み出た。
「カルゾのモニカ! マントを取れっ!」
審判から声がかかる。
モニカは観念したようにギュッと目をつぶり、ヤケクソといった様子でマントをバサッと投げ捨てるとクルリ、と舞台の上にあがった。
「うわぁぁぁぁぁ─────っ!」
「おぉぉぉぉぉぉ─────っ!」
途端に大歓声が会場内で爆発した。
濃い緑のキャンバス地の上に降り立ったモニカの格好は、イスキアの男たちの度肝を抜いたのだった。
モニカのアーマーは、まるで闘うことを想定していないかのようなデザインだったのだ──。
彼女は紺色の臀部を包み込む、この世界でも「ブルマー」と言われる女児の体操着を身につけていた。
そしてそのサイズが微妙に小さいがゆえに、両腿サイドのゴム状になっている場所がモニカの形のいい尻に食い込んでいる。
しかも、そのブルマーの下にはいている白いレースのショーツがちょろっとサイドからはみ出していた。
これは、いわゆる「はみパン」というヤツである。
足元はニーハイの白いソックスにバレーシューズ。
上半身は、サイズの合わないピチピチの白い体操着を着ましたというようなデザインで、へそ回りから素肌がのぞいていた。
髪はツインテールに結われ、何故か紅白のハチマキをしている。
「ほぼ、コスプレよね……アレ」
盛り上がる観客の歓声に、ダルバは無表情に言った。
「まぁ、透けてないだけよくない?」
私は気休めの言葉を吐いた。
全く、パロマのヤツ……!
モニカが着せられたのはビキニアーマーというより、これじゃまるっきりエチエチの体操着コスプレだ。
ユッカの首都、エストにある九番街という歓楽街で夜に店に出れば話題の売れっ子になることは間違いない……。
お尻に食い込むブルマーをしきりに両手でモゾモゾとなおしながら、恥ずかしさで真っ赤になっているモニカに私たちは同情の視線を送った。
……ごめん、モニカ。
私たちじゃ、どうもしてやれないや。
でも、間違いなく今日のブロマイドの売り上げはバルレッタよりもあんたが上よ。
それを着てそこに立っている地点で、すでにあんたの勝ちだわ──。
「それにしてもモニカの体型の欠点を見事にカバーして、ロリロリに煽ってるわね……あのアーマーは」
本当にそれはモニカのムッチリとした太ももを強調し、お尻の食い込みが男どもの下半身を直撃する、妖しい色香を秘めた仕様のアーマーだった。
えぐれ胸はゼッケン状のものでへそ上まで見事にカバーされており、それほど残念な感じは与えない。
それでもよく見るとペタンコ感は多少残っていた。しかし、逆にそれがイケない幼女の着替えをのぞいているような背徳感を煽りたてていたのだった。
「なるほど。見事なマニア受け……パロマおそるべし!」
熱狂する観客にダルバが唸り声をあげる。
「いいぞ! いいぞ! モニカ!」
「ロリータアーマー、最高~!」
一気にボルテージの上がった声援がイスキア一色だった観客席から乱れ飛ぶ。
「えぇっ!?」
自分に向けられる声援に恥ずかしがってモニカが身をくねらすと、それがかえってなまめかしく、色っぽく見えた。
あえて白色をチョイスしたパロマの変態的センスの勝利である。
「なんだい。そんなふざけたアーマーでこのバルレッタ様に勝つつもりかい!」
相手を故意には殺さないこと、というルールの宣誓が終わり、試合開始の銅鑼が大きく打ち鳴らされたと同時にバルレッタは大きく曲がっている刃の薄い三日月刀を両手に持ち、モニカ目がけて突っ込んできた。
ぶん、と大振りしながらモニカの目前にあっという間に迫る。
みっちり筋肉がついたバルレッタの太い腕から繰り出されるだけあって、まともにくらったら骨も砕けて大ダメージを食らってしまうほどの威力のある攻撃ではあった。
が、モニカはあっさり右に左に身をかわしながらよけた。
「くたばれ!」
バルレッタが絶叫もろとも再び三日月刀を振り下ろす。
それをモニカはまた、紙一重のところでパッとかわした。
バルレッタは上から体重をかけて振り下ろしたため、剣は深々と緑地のキャンパスに二本とも深々と突き刺さった。
慌ててバルレッタは刺さった剣に足をかけ、必死に引き抜こうとする。
が、半分以上埋まったそれは簡単には引き抜けない。
「くっ!」
その隙に、モニカはパッと背後へ回り込むと、右足でバルレッタの手を素早く蹴りあげた。
「はっ!」
バルレッタが怯んだ隙にさらに足を払い、地面に引きずり倒す。
ドッ! と無様に仰向けに転がるバルレッタ。
モニカは素早く床に刺さったもう1つの剣を軽々と抜くと、それをバルレッタの喉元に突きつけた。
「さっさと降参しなさい!」
この本選でも予選と同様、降参は認められていた。
「参った」と相手に言わせればそれで試合は終了だ。
武器に関しても自由に認められており、各部門のチャンピオンが一堂に対戦するこの大会ではそれぞれが得意な得物で参戦できるところがお互いに同じ武器を選ぶ予選と異なるところだった。
他に予選と大きく違うところは、試合上、不可抗力であったと審判に認められた時は相手を殺しても失格にはならないという事。
つまり、どの試合でも海蛇達はカルゾメイドの息を止めようと全力で襲いかかってくるだろうという予測がつく。どんな手を使ってでも勝ちに来るだろう。
……モニカとの実力の差があるにしろ、こんなアッサリ決着がつくとは思えない。
「モニカ! 気をつけてっ!」
私は精一杯、声をはりあげて叫んだ。
私の脳裏に四年前の悪夢が蘇る。
あの時も序盤は私が優勢だったのだ……!
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