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番外編〈第一部 終了ボーナストラック〉
番外編 メイドズ☆ブラスト episode12
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「……で、コレをなぜ持ち帰ってきたんです?」
カルゾ大使館の公邸の一室で。
黒髪をオールバックに撫でつけた長身の執事長──ナルドさんは呆れたような口調でそう言った。
心配して、というよりもおそらくパロマが何かしでかさないように、と私たちのお目付け役をカルゾ公主ソーヴェ様より言いつかってきたらしい。
ナルドさんが来てくれたことは個人的に私は嬉しいけど、主人に心配される私たちメイドって一体!?
「……すみません。コレ、どこに捨てればいいかわからなくて──」
担いで持ち帰ってきたモニカが申し訳そうに答えた。
「その辺の下水か用水路にでも流してしまえばよかったでしょう?」
執事長の冷たい視線の先には、ごみ袋のように黒いマントに包まれて縛られた物体が転がっていた。
「……ぁあん……ぁぁぁはっん……」
そこからやたらと妖しげな吐息や喘ぎ声が聞こえるけど、それはまぁ、気にしてはいけないのだ……ハハハ。
「そうはおっしゃいますけど、イスキアの下水道って妙に狭いんですよ。詰まってしまったら近隣の住民に迷惑がかかるじゃないですか──?」
真剣な顔でダルバが腕を組む。
「捨てたのを誰かに見られて、これの関係者だと思われるのも困りますし……」
モニカがさも嫌そうに足先で黒マントを蹴りつけた。
「……ぅふん……ひっ……ぁっあああ~!」
蹴られたことが刺激になったのか、マントの中から漏れ聞こえる嬌声が一際高くなり、ナルドさんも思わず身を引いた。
「──ったく。着いた早々からこれですか。まだ大会が始まっていないというのに先が思いやられますね。くれぐれも『海蛇』とは関わるなと伝えるつもりだったのですが……」
ナルドさんはこめかみを押さえ、私達を見回した。
「お言葉ですが、執事長。ふっかけてきたのは向こうからですよ」
パロマが眉をひそめて口を挟んだ。
「そうです。メイドを寄こせ、とこの蛇魔女がいきなり襲ってきたんですから」
「本当にいきなり、ですか?」
ジロリ、とナルドさんは私を見た。
わーん、そんな顔で私を見ないでよっ!
こういう時のナルドさんは、冷徹お仕事モード。
何を言っても誤魔化せないことは一緒に事務仕事をしている私が一番よく知っている……。
「えっと、着いた日に蛇姫に会ったからだと思います──」
しどろもどろに答える私。
「蛇姫……カルドンヌですか。また、一番厄介なところに───それで?」
クイッと長い指を曲げて続きを催促するナルドさん。
いやぁ、今日もカッコいいなぁ──なんて端正な横顔に見惚れてる場合じゃなかった!
「スッ転んだマリンを助けた奴隷が蛇姫に鞭打たれて、マリンがそれを邪魔したから目をつけられたんですよ」
パロマが私の代わりにさらりと言い放つ。
「……蛇姫の邪魔をしたと。また面倒な──で、その結果、この蛇魔女がやって来たという訳ですか」
「あ、変な声をあげてるのは……」
ナルドさんは手をあげて説明しようとする私を遮った。
「パロマですね。聞かなくてもわかりますよ……」
ため息まじりに答えるナルドさん。
何故に遠い目をしているのかしら──?
「あら? 追跡スライムぶるぶるくんはまだ執事長で試したことなかったはずなのに……御存知でしたっけ?」
「試さなくていいです!」
ギッ! と眼光鋭くナルドさんはパロマを睨みつけた。
ナルドさんも今まで相当パロマの実験台にされてきてるもんね。
──心中はお察しいたしますわ。
「さて。ではどうやってこれを始末しましょうか──」
ナルドさんの言葉に、みんなの顔にめんどくさそうな色が浮かぶ。
「よし! 証拠隠滅でこのまま溶かしちゃえ!」
ポン! と突然両手を打ち鳴らしたパロマがニコニコ笑って言った。
……はい? 何ですと!?
──溶かす?
「ダメです」
即座にナルドさんは否定した。
「何故? 跡形もなく風呂場かどこかで骨まで溶かして流しちゃえば証拠は残らないですよ?」
パロマはまた、ニィっと笑った。
「──うわぁ、あのカオ。ヤバいヤツじゃん ……!」
「風呂場で何を溶かすって──?」
モニカとダルバも青い顔を見合わせた。
「カルゾのメイドを狙っていて、この邸から出てこないとなったら、いくら刻もうが溶かそうがここが怪しいと海蛇が疑念を抱くのは間違いないでしょう。
蛇魔女リゾンといえばこの国では有名人です。そんな人物が突如いなくなれば海蛇を刺激しますよ。
無闇に我がカルゾとイスキアとの間に争いの火種を投下するのは避けなければいけません……」
ナルドさんは冷静に腕を組んでそう言った。
止めてくれて良かった。
しばらく怖くて風呂に入れなくなっちゃうところだったわ……。
「えー」
不満そうな顔で唸るパロマ。
「……えーじゃないわよ、あんた! 頭の回路壊れてるにも程があるわ!」
私のツッコミに、
「あんたたちだと文句言われるんだもん。『海蛇』なら文句言われないかと思ったのにぃ……」
未練がましくパロマは熱い視線をマントにくるまれたリゾンに注ぐ。
「……!?」
マント越しに何かを感じたのか、リゾンは必死にもがきはじめた。
「……んんん……っ!」
「……とりあえず、執事長。コレはどうするんです?」
パロマに溶かされる恐怖からか──ジタバタと芋虫のように身体をくねらせるリゾンをモニカは遠慮なく踏みつけ、静かにさせる。
「──フギャッ!」
「仕方ありませんね──」
ナルドさんは深いため息をつくと、懐から小瓶を取り出した。
「げ……」
私は小さく息をのんだ。
「やった!」
パロマが目を輝かせて飛び上がる。
「ANA―HIじゃないですか! それ、返してもらえるんですか?」
ウキウキと両手を差し出すパロマに渋い表情でナルドさんは赤い小瓶を渡した。
「今回限りですよ。そいつの記憶を消したらまた返してもらいますから」
あ~、渡しちゃった……。
あの毒々しい瓶は見覚えがある。以前、パロマがソーヴェ様に使用を禁止された薬のうちの一つだ。
パロマがANA―HIと名づけたこの薬。
カルゾ公邸でパロマが例によって実験をし、大混乱に陥らせた挙げ句、ソーヴェ様にとりあげられたものだった。
確かに。
この薬は近々の記憶を失う効果があったけど──。
不安げな私の視線に気づき、ナルドさんは肩をすくめた。
「大丈夫ですよ。私たちに使う分までは渡していませんから」
「うふふふ♪」
あっという間にマントにくるまれた蛇魔女リゾンをパロマはあてがわれた自室に引きずり込んでいく。
「うわぁ。あれじゃどっちが魔女かわからないわぁ──」
その様子をみてダルバが呟いた。
「ちょっとあの蛇魔女が気の毒になってきちゃった……」
モニカもさっきまで蹴りつけていたリゾンに同情的な視線を送る。
「……まぁ、ナメクジみたいに溶かされるよりはマシかもね?」
「──さて。果たしてそうでしょうか……」
身震いをして言う私にナルドさんはそう小さく呟いた。
「もう寝よっか」
「そうね、明日も早いし……」
「大会初日だもんね……」
私たちはそれぞれ、パロマの部屋を見ないようにして割り当てられた自室に引き上げた。
明日は全国闘技大会の開会日。
大会が始まれば、目の前に集中して一つ一つ勝ち上がっていかなくては──。
ナルドさんの言う通り、カルゾメイドの看板を背負った私たちは、海蛇とトラブってる場合じゃないのだ。
その夜。
「……ぅふん! ぁああああああ────ん!」
壁越しにパロマの部屋から聞こえてくる艶声に耳を塞ぎながら、私たちはそれぞれ慣れないベッドに潜り込んだのだった。
カルゾ大使館の公邸の一室で。
黒髪をオールバックに撫でつけた長身の執事長──ナルドさんは呆れたような口調でそう言った。
心配して、というよりもおそらくパロマが何かしでかさないように、と私たちのお目付け役をカルゾ公主ソーヴェ様より言いつかってきたらしい。
ナルドさんが来てくれたことは個人的に私は嬉しいけど、主人に心配される私たちメイドって一体!?
「……すみません。コレ、どこに捨てればいいかわからなくて──」
担いで持ち帰ってきたモニカが申し訳そうに答えた。
「その辺の下水か用水路にでも流してしまえばよかったでしょう?」
執事長の冷たい視線の先には、ごみ袋のように黒いマントに包まれて縛られた物体が転がっていた。
「……ぁあん……ぁぁぁはっん……」
そこからやたらと妖しげな吐息や喘ぎ声が聞こえるけど、それはまぁ、気にしてはいけないのだ……ハハハ。
「そうはおっしゃいますけど、イスキアの下水道って妙に狭いんですよ。詰まってしまったら近隣の住民に迷惑がかかるじゃないですか──?」
真剣な顔でダルバが腕を組む。
「捨てたのを誰かに見られて、これの関係者だと思われるのも困りますし……」
モニカがさも嫌そうに足先で黒マントを蹴りつけた。
「……ぅふん……ひっ……ぁっあああ~!」
蹴られたことが刺激になったのか、マントの中から漏れ聞こえる嬌声が一際高くなり、ナルドさんも思わず身を引いた。
「──ったく。着いた早々からこれですか。まだ大会が始まっていないというのに先が思いやられますね。くれぐれも『海蛇』とは関わるなと伝えるつもりだったのですが……」
ナルドさんはこめかみを押さえ、私達を見回した。
「お言葉ですが、執事長。ふっかけてきたのは向こうからですよ」
パロマが眉をひそめて口を挟んだ。
「そうです。メイドを寄こせ、とこの蛇魔女がいきなり襲ってきたんですから」
「本当にいきなり、ですか?」
ジロリ、とナルドさんは私を見た。
わーん、そんな顔で私を見ないでよっ!
こういう時のナルドさんは、冷徹お仕事モード。
何を言っても誤魔化せないことは一緒に事務仕事をしている私が一番よく知っている……。
「えっと、着いた日に蛇姫に会ったからだと思います──」
しどろもどろに答える私。
「蛇姫……カルドンヌですか。また、一番厄介なところに───それで?」
クイッと長い指を曲げて続きを催促するナルドさん。
いやぁ、今日もカッコいいなぁ──なんて端正な横顔に見惚れてる場合じゃなかった!
「スッ転んだマリンを助けた奴隷が蛇姫に鞭打たれて、マリンがそれを邪魔したから目をつけられたんですよ」
パロマが私の代わりにさらりと言い放つ。
「……蛇姫の邪魔をしたと。また面倒な──で、その結果、この蛇魔女がやって来たという訳ですか」
「あ、変な声をあげてるのは……」
ナルドさんは手をあげて説明しようとする私を遮った。
「パロマですね。聞かなくてもわかりますよ……」
ため息まじりに答えるナルドさん。
何故に遠い目をしているのかしら──?
「あら? 追跡スライムぶるぶるくんはまだ執事長で試したことなかったはずなのに……御存知でしたっけ?」
「試さなくていいです!」
ギッ! と眼光鋭くナルドさんはパロマを睨みつけた。
ナルドさんも今まで相当パロマの実験台にされてきてるもんね。
──心中はお察しいたしますわ。
「さて。ではどうやってこれを始末しましょうか──」
ナルドさんの言葉に、みんなの顔にめんどくさそうな色が浮かぶ。
「よし! 証拠隠滅でこのまま溶かしちゃえ!」
ポン! と突然両手を打ち鳴らしたパロマがニコニコ笑って言った。
……はい? 何ですと!?
──溶かす?
「ダメです」
即座にナルドさんは否定した。
「何故? 跡形もなく風呂場かどこかで骨まで溶かして流しちゃえば証拠は残らないですよ?」
パロマはまた、ニィっと笑った。
「──うわぁ、あのカオ。ヤバいヤツじゃん ……!」
「風呂場で何を溶かすって──?」
モニカとダルバも青い顔を見合わせた。
「カルゾのメイドを狙っていて、この邸から出てこないとなったら、いくら刻もうが溶かそうがここが怪しいと海蛇が疑念を抱くのは間違いないでしょう。
蛇魔女リゾンといえばこの国では有名人です。そんな人物が突如いなくなれば海蛇を刺激しますよ。
無闇に我がカルゾとイスキアとの間に争いの火種を投下するのは避けなければいけません……」
ナルドさんは冷静に腕を組んでそう言った。
止めてくれて良かった。
しばらく怖くて風呂に入れなくなっちゃうところだったわ……。
「えー」
不満そうな顔で唸るパロマ。
「……えーじゃないわよ、あんた! 頭の回路壊れてるにも程があるわ!」
私のツッコミに、
「あんたたちだと文句言われるんだもん。『海蛇』なら文句言われないかと思ったのにぃ……」
未練がましくパロマは熱い視線をマントにくるまれたリゾンに注ぐ。
「……!?」
マント越しに何かを感じたのか、リゾンは必死にもがきはじめた。
「……んんん……っ!」
「……とりあえず、執事長。コレはどうするんです?」
パロマに溶かされる恐怖からか──ジタバタと芋虫のように身体をくねらせるリゾンをモニカは遠慮なく踏みつけ、静かにさせる。
「──フギャッ!」
「仕方ありませんね──」
ナルドさんは深いため息をつくと、懐から小瓶を取り出した。
「げ……」
私は小さく息をのんだ。
「やった!」
パロマが目を輝かせて飛び上がる。
「ANA―HIじゃないですか! それ、返してもらえるんですか?」
ウキウキと両手を差し出すパロマに渋い表情でナルドさんは赤い小瓶を渡した。
「今回限りですよ。そいつの記憶を消したらまた返してもらいますから」
あ~、渡しちゃった……。
あの毒々しい瓶は見覚えがある。以前、パロマがソーヴェ様に使用を禁止された薬のうちの一つだ。
パロマがANA―HIと名づけたこの薬。
カルゾ公邸でパロマが例によって実験をし、大混乱に陥らせた挙げ句、ソーヴェ様にとりあげられたものだった。
確かに。
この薬は近々の記憶を失う効果があったけど──。
不安げな私の視線に気づき、ナルドさんは肩をすくめた。
「大丈夫ですよ。私たちに使う分までは渡していませんから」
「うふふふ♪」
あっという間にマントにくるまれた蛇魔女リゾンをパロマはあてがわれた自室に引きずり込んでいく。
「うわぁ。あれじゃどっちが魔女かわからないわぁ──」
その様子をみてダルバが呟いた。
「ちょっとあの蛇魔女が気の毒になってきちゃった……」
モニカもさっきまで蹴りつけていたリゾンに同情的な視線を送る。
「……まぁ、ナメクジみたいに溶かされるよりはマシかもね?」
「──さて。果たしてそうでしょうか……」
身震いをして言う私にナルドさんはそう小さく呟いた。
「もう寝よっか」
「そうね、明日も早いし……」
「大会初日だもんね……」
私たちはそれぞれ、パロマの部屋を見ないようにして割り当てられた自室に引き上げた。
明日は全国闘技大会の開会日。
大会が始まれば、目の前に集中して一つ一つ勝ち上がっていかなくては──。
ナルドさんの言う通り、カルゾメイドの看板を背負った私たちは、海蛇とトラブってる場合じゃないのだ。
その夜。
「……ぅふん! ぁああああああ────ん!」
壁越しにパロマの部屋から聞こえてくる艶声に耳を塞ぎながら、私たちはそれぞれ慣れないベッドに潜り込んだのだった。
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