アラフォーの悪役令嬢~婚約破棄って何ですか?~

七々瀬 咲蘭

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番外編〈第一部 終了ボーナストラック〉

番外編 メイドズ☆ブラスト episode11

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「──相変わらず海蛇の毒に弱いわねぇ、マリン」
 大通りとテラス席をつなぐお洒落な木戸から聞き慣れた声がした。


「……?」
 高笑いをしていた蛇魔女リゾンは苦々しい顔で振り向く。

 彼女の視線の先──その木戸から現れたのは、パロマ・アルバーニ。
 私たちの同僚。宿で一人寝ていたはずの変態メイドだ。

「ホーッホッホッホホッホッホッホッホッ……」
 突然、腰に手をあてて高笑いをはじめるパロマ。

「ホッホッホ───おぇ~、ぎもぢ悪~」
 そしてえずいて、その場でしゃがみこ。

「「何しにきたのよ! あんたはっ!」」
 一言も口が聞けない私のかわりにダルバとモニカが全力で突っ込む。


「いい?  蛇女! 高笑いはこうやって、両手は腰! そこから上体反らし、斜め二百十度! 全力で腹筋を駆使して吐くまで続けるのが王道なのよ!」
「……? 」
 リゾンは嫌そうな表情を浮かべ、思わず一歩後じさった。

 どうやらパロマは彼女の苦手なタイプらしい……すっかり気勢を削がれてしまったようだ。
 まぁ、私たちもパロマは得意なわけじゃないんだけど──。


「──お前、新手か? そこにいた海蛇たちはどうした!?」
 やや怯みながらもリゾンは果敢にパロマを誰何した。

 問われてパロマは、
「え~、ちょっと実験に協力してもらったの。そしたらみんなお尻押さえて何処かへ半泣きで走っていったわよぉ~。職場放棄、ってやつじゃない?」
 ニヤニヤしながらパロマは右手に持ったスプレー缶をふってみせた。

 うわ……!
 アレ、使ったのか──。

 私たちは見覚えのあるスプレー缶に思わず顔を見合わせた。

「ねぇ、パロマそれって……」
「あー、これ? タマリマセンワー三号よ。ソーヴェ様に怒られたから射程効果は1メートル以内に改良済。まぁ、私って本当に天才!」
 相変わらずのネーミングセンスと自画自賛を披露するパロマ。

 しばらく前、カルゾ邸に運悪く押し入ってきた賊へ、パロマが大量にそれを振りかけた時のことを思い出して私たちはげんなりした。

 あのスプレー。
 振りかけられると──猛烈にお腹が下るのだ。
 それはもう、我慢できずその場に垂れ流すほどに。

 あの日。
 同じ階で働く使用人たちがもれなくトイレに缶詰めになり、終日全く仕事にならなかった。
 それに侵入者たちの排泄物で邸内に悪臭が漂い、私たちがそれを片づける羽目に……。

 それでソーヴェ様にパロマはスプレーの使用禁止をきつく言い渡されたのよね。防犯スプレーとして大量に配布されてたから回収も大変だったわ……。
 って、苦い思い出がよみがえる代物である。

「訳のわからんことを!」
 と吐き捨てるようにリゾンは言った。

 ごもっとも!
 私も本当にそう思うわ。きっとモニカたちも同意見よ。

「で? あんた。ウチのマリンに何の用? 私達は全員闘技大会、本選出場者よ。
 いかにイスキア王家であっても、大会中は規約で手出しできないはず。
 規約を破るからには、我がカルゾとイスキアで戦争させる覚悟があるんでしょうねぇ……」
 眼鏡をくいっとあげながらパロマらしく理屈でリゾンを追い詰める。

「くっ……」
 顔色を赤から青へかえるリゾン。あら、どキツい魔女ルックしている割に意外に小心者ねぇ。
「どうせそんな根性もなく、秘密裏に連れて来いと言われたってとこかな──」
 ため息をついてパロマが言うと、
「ここは、いったん引いてあげるわ……覚えてなさいよ!」
 リゾンは何だか慌てた様子でおざなりなセリフを吐き捨て、両手の鞭を素早く振り上げた。


「逃がすかっ!」
 パロマは懐から袋を取り出すと、何やらピンク色の物体をリゾンに投げつけた。

 鞭をテラスデッキに巻きつけ、生垣を越えようとしていたリゾンの背中にベタン! とそれは粘着質な音をたてて命中する。

「うっひゃあ!」
 リゾンはその衝撃と感触にカン高い悲鳴を上げてのけぞった。

「いやぁぁぁぁ! ヤダヤダッ! ナニコレ! 早くとってぇぇぇぇぇぇ!」
 地面に背中をつけて狂ったように転がり回るリゾン。
 ……ちょっと気の毒かも。さぞかし気持ち悪いんだろうなぁ。

「……パロマ、何投げたのよ?」
 リゾンをまだ警戒しつつ、ダルバが聞いた。
 対するパロマは小さく肩をすくめ、
「大したものじゃないわよ。追跡スライムぶるぶる君の試作品を使ってみたんだけど」
「追跡? センサーみたいなもの?」
「そうね。簡単にはがれないようにスライム状にしてみたんだぁ──」
 パロマが何やら得意気に言いかけた時、
 
「あ……やん…っ……」
 何やら艶めかしい声が盛大に聞こえてきた。

 声のする方に私たちが視線を向けると、そこには肌をピンク色に染め、妖しげに身体をくねらすリゾンの姿。
 大きくあいた背中にピンク色のスライムを乗せた彼女の口からは──明らかに恍惚の声が漏れていた。

「ちょっと、パロマ! これのどこが追跡グッズなのよ!?」
「──絶対何か変なモノ、混ぜたわよね?」
 モニカとダルバの追及にパロマはあっさり白状した。

「うん。媚薬入りジェルでスライムを作っちゃってさ。肌に一回貼りつくと性感を刺激して絶対に宿主から離れない仕組みになってて──」
「……ひゃう! ああん!……はッ……あぁぁぁ」
 まるで閨事の最中のような派手な嬌声をあげるリゾンに初心うぶなモニカは真っ赤になった。
  
「ねぇ。これ……あんた、絶対使ったらダメよ?」
 ダルバの冷たい言葉にパロマは不満の声を上げる。
「何でよぉ」
「だってこんなに悶えちゃったら、追跡スライムつけてることバレバレじゃん。そんなの意味ないでしょ?」
「そっかぁ。──もうちょっと遅効性の方が良いってことね。わかった。また、あんたたちで実験してみるか……」
 頭をポリポリ掻きながらしれっと言うパロマに、
「「「絶対やめて!」」」

 痺れがとれ、ようやく口がきけるようになった私とダルバ、モニカの声が見事にハモった──。
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