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番外編〈第一部 終了ボーナストラック〉
番外編 メイドズ☆ブラスト episode7
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「はぁ~! 何かケバケバしい建物がたくさんあるわねぇ」
イスキアの中心地、イスキア城がある公都ヴェネトの城下町で。
私の隣を歩くダルバはキョロキョロ辺りを見回しながら言った。
「まぁ、この色彩もだんだん見慣れてくると気にならなくなるわよ」
私は四年前にも大会に参加をしてここを歩いていた。
当時と景色はそれほど変わっていない。
蛇王と呼ばれ、人々に畏怖されているイスキア公ラマンドロとその妹、蛇姫カルドンヌが治めるこの国は、主の趣味か蛇を連想させる極彩色のデザインが街に溢れている。
「あれ? ダルバはイスキア初めて?」
パロマは名物の串焼きを頬張りつつ、ダルバに尋ねた。
「え?パロマは来たことがあふほ?」
モニカもトロピカルフルーツを凍らせたキャンディを頬張りつつ聞き返す。
「まさか。この国がこんな大会以外にカルゾの人間を簡単に入れるわけないじゃない。入ろうとしたけど止められたのよ」
「……入ろうとはしたのね」
「なんで捕まらなかったのかしら」
つめたく言い放つ私とモニカ。
「……二人ともどういう意味よ?」
ぴくん。
パロマの細い眉が跳ね上がる。
「「別に」」
「まぁまぁ」
その場をとりつくろうようにダルバが私に話題をふった。
「そうそう。マリンは前の時もここを通ったの?」
「うん、この大通りはメイン通りだからね。四年前の大会の時も同じ中央公園の闘技場だから私は下見がいらなくて助かるわ。ふぁ~ぁあ……」
私はのんびりとアクビをしながら答える。
眠い。
昨夜、あんまりよく眠れなかったのだ。
陸路でカルゾからイスキアへ向かうと険しい山越えになるため、時間がかかる。
なので定期船が出ている海路を選んでこの国にやってきたのだが 揺れが凄くて……酔い止めを飲んでおいたがそれでも気持ち悪くて全然眠れなかった。
「四年前かぁ───あぁ、あんた確か、イスキアのバルレッタとかいう奴にボロボロに負けたのよね」
モニカが面白そうに言った。
「そうそう。ルーチェに助けてもらったんでしょ。もう耳タコだわ。ルーチェの武勇伝なんか聞きたくない……」
つまらなさそうに抑揚のない口調で言うパロマ。
「何回聞いてもいいじゃない! ルーチェさんは本当にカッコいいんだから」
私の反論に頷くダルバ。
「確かにルーチェはオニ強いわよね。あのキレッキレの技! マリンが憧れる気持ちはわからないでもないわ……」
「マリン、あんたの場合は憧れなんてレベルじゃなくて『抱いて欲しい』ぐらいの勢いだから見ていて気持ち悪いのよ。ハッキリ口説くなら口説く! 押し倒すなら押し倒しなさい……」
「いつも何事もそういう目で見てるパロマの方が、私は余程気持ち悪いと思うわ……」
パロマに生ぬるい視線を投げる私。
そんなこんなで。
大騒ぎをしながら。
私たち四人のメイドは道々の屋台をのぞき、色々なものを食べ歩きながら、しばらく滞在予定のカルゾ大使館に向かった。
カルゾ国内予選で本選代表が決まってちょうど一週間後。
イスキアの伝統的な祭り、オレンジフェスティバルの時期とも重なり、イスキア国内は闘技大会だけでなく祭り一色。この国には珍しく、大通りは観光客でごった返していた。
通りの両端には色とりどりの物売りのテントや珍しい食べ物の屋台がひしめいて私たちを足止めする。
特に大食漢モニカはの歩みは遅々として進まない。
「今日中に宿に着くかしら?」
私は昔から変わらないイスキア城の城壁を見上げた。
町の中心にそびえ立つ、赤と黒、紫でごてごてと飾り立てられた趣味のよくないイスキア城は外観から見る限り、それほど大きくなく、でも小さいわけでもなく……普通サイズの城である。
ただ、城門の守りは強固で石造りの壁は遥か高く、窓が少ないつくりな為、城というよりはなんだか牢獄のような陰気な印象だ。
「まさに蛇の住まう城、よね」
私は緑の苔がびっしりと鱗のように生えた高い壁を見上げて思わず呟いた。
明るく清潔感に溢れた本国のカルゾ城と同じ四公の城とは、とても思えない。
「……ねぇねぇ、こんなところでいつまでも食べ歩きしてて大丈夫なの?」
モニカが屋台の肉巻きに三回も並んだところで不安げにダルバが言った。
「エントリー済まさないと棄権になるんじゃなかったっけ?」
「エントリーって二十日までじゃなかった? まだ明日までだから大丈夫よ──」
「ちょっと! マリン。あんたボケてるの!? 二十日っていったら今日じゃないの!」
ダルバが必死に私の襟首をつかんだ。
「えぇっ~!」
「早く! 大会事務局へ急ぐわよ!」
麺をすするパロマと肉巻きに後ろ髪をひかれるモニカを引っ張って、大会事務局が設置されている中央公園近くの神殿まで私たちはひたすら人混みの中を駆けた。
「あ、コイン見っけ!」
「はわわっ!」
急にしゃがみこんだパロマを避けて、神殿に向かう階段の入り口で私は盛大につんのめった。
「おっと……」
反対側を歩く人物に間一髪、支えられる。
「ありがとうございますぅ」
支えてくれたのは、赤や茶髪が多いイスキアでは珍しく、黒髪の男。
(……あら? この黒髪。北国ゲンメの──?)
男にしては大きい瞳。小さな涙黒子が印象的だった。
「何をしている、ラクリマ!」
突如、鋭い叱責とともに鞭がその男の背中に容赦なく浴びせかけられた。
「……!?」
長い舌で紫色の唇をなめながら、鞭を片手に突然そこに現れたのは───蛇姫ことカルドンヌ。
このイスキアの公女だった。
イスキアの中心地、イスキア城がある公都ヴェネトの城下町で。
私の隣を歩くダルバはキョロキョロ辺りを見回しながら言った。
「まぁ、この色彩もだんだん見慣れてくると気にならなくなるわよ」
私は四年前にも大会に参加をしてここを歩いていた。
当時と景色はそれほど変わっていない。
蛇王と呼ばれ、人々に畏怖されているイスキア公ラマンドロとその妹、蛇姫カルドンヌが治めるこの国は、主の趣味か蛇を連想させる極彩色のデザインが街に溢れている。
「あれ? ダルバはイスキア初めて?」
パロマは名物の串焼きを頬張りつつ、ダルバに尋ねた。
「え?パロマは来たことがあふほ?」
モニカもトロピカルフルーツを凍らせたキャンディを頬張りつつ聞き返す。
「まさか。この国がこんな大会以外にカルゾの人間を簡単に入れるわけないじゃない。入ろうとしたけど止められたのよ」
「……入ろうとはしたのね」
「なんで捕まらなかったのかしら」
つめたく言い放つ私とモニカ。
「……二人ともどういう意味よ?」
ぴくん。
パロマの細い眉が跳ね上がる。
「「別に」」
「まぁまぁ」
その場をとりつくろうようにダルバが私に話題をふった。
「そうそう。マリンは前の時もここを通ったの?」
「うん、この大通りはメイン通りだからね。四年前の大会の時も同じ中央公園の闘技場だから私は下見がいらなくて助かるわ。ふぁ~ぁあ……」
私はのんびりとアクビをしながら答える。
眠い。
昨夜、あんまりよく眠れなかったのだ。
陸路でカルゾからイスキアへ向かうと険しい山越えになるため、時間がかかる。
なので定期船が出ている海路を選んでこの国にやってきたのだが 揺れが凄くて……酔い止めを飲んでおいたがそれでも気持ち悪くて全然眠れなかった。
「四年前かぁ───あぁ、あんた確か、イスキアのバルレッタとかいう奴にボロボロに負けたのよね」
モニカが面白そうに言った。
「そうそう。ルーチェに助けてもらったんでしょ。もう耳タコだわ。ルーチェの武勇伝なんか聞きたくない……」
つまらなさそうに抑揚のない口調で言うパロマ。
「何回聞いてもいいじゃない! ルーチェさんは本当にカッコいいんだから」
私の反論に頷くダルバ。
「確かにルーチェはオニ強いわよね。あのキレッキレの技! マリンが憧れる気持ちはわからないでもないわ……」
「マリン、あんたの場合は憧れなんてレベルじゃなくて『抱いて欲しい』ぐらいの勢いだから見ていて気持ち悪いのよ。ハッキリ口説くなら口説く! 押し倒すなら押し倒しなさい……」
「いつも何事もそういう目で見てるパロマの方が、私は余程気持ち悪いと思うわ……」
パロマに生ぬるい視線を投げる私。
そんなこんなで。
大騒ぎをしながら。
私たち四人のメイドは道々の屋台をのぞき、色々なものを食べ歩きながら、しばらく滞在予定のカルゾ大使館に向かった。
カルゾ国内予選で本選代表が決まってちょうど一週間後。
イスキアの伝統的な祭り、オレンジフェスティバルの時期とも重なり、イスキア国内は闘技大会だけでなく祭り一色。この国には珍しく、大通りは観光客でごった返していた。
通りの両端には色とりどりの物売りのテントや珍しい食べ物の屋台がひしめいて私たちを足止めする。
特に大食漢モニカはの歩みは遅々として進まない。
「今日中に宿に着くかしら?」
私は昔から変わらないイスキア城の城壁を見上げた。
町の中心にそびえ立つ、赤と黒、紫でごてごてと飾り立てられた趣味のよくないイスキア城は外観から見る限り、それほど大きくなく、でも小さいわけでもなく……普通サイズの城である。
ただ、城門の守りは強固で石造りの壁は遥か高く、窓が少ないつくりな為、城というよりはなんだか牢獄のような陰気な印象だ。
「まさに蛇の住まう城、よね」
私は緑の苔がびっしりと鱗のように生えた高い壁を見上げて思わず呟いた。
明るく清潔感に溢れた本国のカルゾ城と同じ四公の城とは、とても思えない。
「……ねぇねぇ、こんなところでいつまでも食べ歩きしてて大丈夫なの?」
モニカが屋台の肉巻きに三回も並んだところで不安げにダルバが言った。
「エントリー済まさないと棄権になるんじゃなかったっけ?」
「エントリーって二十日までじゃなかった? まだ明日までだから大丈夫よ──」
「ちょっと! マリン。あんたボケてるの!? 二十日っていったら今日じゃないの!」
ダルバが必死に私の襟首をつかんだ。
「えぇっ~!」
「早く! 大会事務局へ急ぐわよ!」
麺をすするパロマと肉巻きに後ろ髪をひかれるモニカを引っ張って、大会事務局が設置されている中央公園近くの神殿まで私たちはひたすら人混みの中を駆けた。
「あ、コイン見っけ!」
「はわわっ!」
急にしゃがみこんだパロマを避けて、神殿に向かう階段の入り口で私は盛大につんのめった。
「おっと……」
反対側を歩く人物に間一髪、支えられる。
「ありがとうございますぅ」
支えてくれたのは、赤や茶髪が多いイスキアでは珍しく、黒髪の男。
(……あら? この黒髪。北国ゲンメの──?)
男にしては大きい瞳。小さな涙黒子が印象的だった。
「何をしている、ラクリマ!」
突如、鋭い叱責とともに鞭がその男の背中に容赦なく浴びせかけられた。
「……!?」
長い舌で紫色の唇をなめながら、鞭を片手に突然そこに現れたのは───蛇姫ことカルドンヌ。
このイスキアの公女だった。
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