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第一部
第31話 標的は私?
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「……!」
カン!カツン!カンカン!!
何かを弾くような鋭い音がして、思わず反射的に私は両手で頭を庇い、しゃがみこむ。
「大丈夫か?」
気がつくと、広くて温かい胸に私はしっかりと抱きしめられていた。
「え……!」
サラック様の温かい腕の中で、どうしようもない私は大好きな低音と男らしい良い匂いにうっとりする。
あぁ、もう死んでもいいかも……。
夢みたい……てか、夢じゃないのかな?これ。
ギュッと瞑っていた目をうっすらと開けると、ヴィンセント様とソーヴェ様、さっきのカルゾの執事が私達の周りを囲って懐剣を手に立ち塞がっていた。
夢じゃなさそう。一体何が起こったの?
シュッシャッ! シュシャシャッ!!
また何かを切り裂くような音がして、斜め上の天井から雨のように飛来してくる黒いモノが見えた。
「まだ来るわよ!マルサネを狙ってる!」
「お任せを」
瞬時に懐剣でヴィンセント様と黒服のカルゾの執事が舞うような優美な動きで、大量に飛んできた何かを凪ぎ払うように床に叩き落とす。
カン!ガラン!カカッ!
「キャァァ~!!」
「クセ者だ~!?」
「大公様達が狙われてるぞ!」
主達が襲撃されたことに気づき、楽団の陽気な音楽が止まる。
騒ぎに気づいた群衆がパニック状態になって、入り口の方へ殺到しはじめた。
パニックになった群衆にソーヴェ様の気迫に満ちた声が響き渡る。
「動くな!今動いたものは賊と見なして即、討つ」
ソーヴェ様は大公の椅子の下から取り出した大剣を振りかざして、群衆を睨みつけ、仁王立ちした。
迫力満点のその姿に群衆はあれほどパニック状態だったのが、嘘のように凍りついて止まる。
彼女なら、容赦なく本当に動いたら切りかかってくるだろう、とこの国の住民なら誰もが認識している所以だ。
ヒュヒュヒュッ!
空気をつんざくような音がして、まだ矢尻のようなモノが飛来してくる。
「しつっこいわね。さすがイスキア海蛇!」
まるで剣舞のような艶やかさで、大剣を振り回し、全て一人で跳ね返すソーヴェ様。
ドガガガッ……!!
「力み過ぎです。こちらに飛ばさないで下さい。人に当たりますよ」
ヴィンセント様が、流れ弾をガードする。
「それぐらいカバーしてよ!」
矢尻状のもの以外に、床には鋭いトゲが仕込まれた手投剣が散乱していた。どうやら、小さな手裏剣なども大量に飛んできたようだ。
「マルサネ、それに絶対に触っちゃダメ!」
ソーヴェ様の鋭い声が飛ぶ。
「猛毒が仕込まれているおそれがあります。大公様もお下がり下さい」
カルゾの執事が私達を背に庇うようにしながら、頑丈な衝立の隅に誘導する。
「曲者は庭に逃げた!衛兵、取り押さえよ。行け!」
ソーヴェ様のよく通る声で、公宮の警備兵が大広間の外へ走っていく。
「タウラージ!」
今度はソーヴェ様がハゲ狸を振り返る。
「わかってる、お前ら一人も逃がすな!可能なら捕縛して吐かせろ。無理なら仕留めて構わん」
別人のような低い声でゲンメ公が、自分の背後の窓の外…暗闇に向かって鋭く命じた。
「やれやれ、娘の婚約をダシにイスキアの私兵狩りに儂の手足を使われるとは……これはソーヴェにやられたな」
「チマチマ追うより効率良いもの。おかげで、これでやっと片付くわ」
「まぁ、イスキアの海蛇達にエストの衛兵では追いつくまい。我が手足も多少はヤられるだろう。ゲンメとイスキアの共倒れ効果も狙ったか?ソーヴェ」
「まぁ、物騒なものは少しでも減っていただかないと。煩くてゆっくり眠れないと肌が荒れるのよ」
「ふん、眠ったら滅多なことでは起きないクセによく言う……」
「この金属を腐食させる海蛇の毒。浅慮なチョイスはカルドンヌね。まだまだ若いから詰めの本当に甘いこと。ずっと張りついてこちらを伺ってたのに、今回の婚約破棄は彼らにも想定外だったのか惑って固まってたわ。挙げ句、私と視線があったら焦って襲ってくるなんて。折角捕まえても、使い捨てレベルの駒かもよ?」
ソーヴェ様は手にした大剣を黒ずんでいる刃の向きに注意を払いながら鞘におさめる。
その間、ヴィンセント様が会場の人々を落ち着かせ、襲撃された現場から人々を隣の広間に誘導を指示していた。毒剣の散らばる大公席の周囲は会場の使用人に指示を出し、素早くカルゾの執事が封鎖する。
「最初から海蛇達に気づいていたのに、放置したのか。相変わらず、大した自信だな。
カルドンヌは今回も前回も襲撃計画は穴だらけだ。まぁ、イスキアの裏についてる奴が荒いのかもしれんが……」
「裏について、何処までご存知?」
「ゲンメは婚約破棄されたからな。教えたくても教えられなくなったぞ」
「あら、それは残念」
ちっとも残念そうではない口振りで、ソーヴェ様が肩をすくめた。
「で、どうする?当の本人はもうイスキアに逃げてると思うが?」
「そこまで追う気はないわ。とりあえず、実行犯を根絶やしに出来たら目標達成ね」
「ふん、甘いのはどっちだ」
「さぁね。舞踏会にいつもの倍、闇の者たちをゾロゾロ連れてきてた誰かさんには言われたくないわ」
「裏があるとは思ってたからな。何事も用心に越したことはない」
「さすがタウラージ。それはさておき、サラック。貴方、いつまでそうやってるつもり?」
私を未だ抱きしめているサラック様に呆れたように声をかけるソーヴェ様。
「え、いや……これは……」
「身体は正直ねぇ、サラック。つい、動いちゃったのよね~」
ソーヴェ様の追及にモゴモゴ言いながらも、腕の中から私を解放しないまま、立ち尽くすサラック様。
「驚いたな。サングリア、お前本気か?」
ドングリ眼を見開いて、狸オヤジがサラック様を見た。
「本気だと言ったらどうする?」
「儂より若いのに呆けたのか」
「何とでも言え。私は何も言える立場ではない」
「カフェで余程変なもの食ったんだな。お前、ゲテモノ食いだったか?」
娘に対して、このハゲ狸。なんという言い草……。
変なものって何よ!仮にも娘でしょうよ……大体食われてないし!
「カフェで会ったのは間違いないが……食事をしただけだ。彼女には、神に誓って何もやましいことはしていない」
(「キャー!!」
「なぜ大公様が?」
「どういう展開?!」)
カン!カツン!カンカン!!
何かを弾くような鋭い音がして、思わず反射的に私は両手で頭を庇い、しゃがみこむ。
「大丈夫か?」
気がつくと、広くて温かい胸に私はしっかりと抱きしめられていた。
「え……!」
サラック様の温かい腕の中で、どうしようもない私は大好きな低音と男らしい良い匂いにうっとりする。
あぁ、もう死んでもいいかも……。
夢みたい……てか、夢じゃないのかな?これ。
ギュッと瞑っていた目をうっすらと開けると、ヴィンセント様とソーヴェ様、さっきのカルゾの執事が私達の周りを囲って懐剣を手に立ち塞がっていた。
夢じゃなさそう。一体何が起こったの?
シュッシャッ! シュシャシャッ!!
また何かを切り裂くような音がして、斜め上の天井から雨のように飛来してくる黒いモノが見えた。
「まだ来るわよ!マルサネを狙ってる!」
「お任せを」
瞬時に懐剣でヴィンセント様と黒服のカルゾの執事が舞うような優美な動きで、大量に飛んできた何かを凪ぎ払うように床に叩き落とす。
カン!ガラン!カカッ!
「キャァァ~!!」
「クセ者だ~!?」
「大公様達が狙われてるぞ!」
主達が襲撃されたことに気づき、楽団の陽気な音楽が止まる。
騒ぎに気づいた群衆がパニック状態になって、入り口の方へ殺到しはじめた。
パニックになった群衆にソーヴェ様の気迫に満ちた声が響き渡る。
「動くな!今動いたものは賊と見なして即、討つ」
ソーヴェ様は大公の椅子の下から取り出した大剣を振りかざして、群衆を睨みつけ、仁王立ちした。
迫力満点のその姿に群衆はあれほどパニック状態だったのが、嘘のように凍りついて止まる。
彼女なら、容赦なく本当に動いたら切りかかってくるだろう、とこの国の住民なら誰もが認識している所以だ。
ヒュヒュヒュッ!
空気をつんざくような音がして、まだ矢尻のようなモノが飛来してくる。
「しつっこいわね。さすがイスキア海蛇!」
まるで剣舞のような艶やかさで、大剣を振り回し、全て一人で跳ね返すソーヴェ様。
ドガガガッ……!!
「力み過ぎです。こちらに飛ばさないで下さい。人に当たりますよ」
ヴィンセント様が、流れ弾をガードする。
「それぐらいカバーしてよ!」
矢尻状のもの以外に、床には鋭いトゲが仕込まれた手投剣が散乱していた。どうやら、小さな手裏剣なども大量に飛んできたようだ。
「マルサネ、それに絶対に触っちゃダメ!」
ソーヴェ様の鋭い声が飛ぶ。
「猛毒が仕込まれているおそれがあります。大公様もお下がり下さい」
カルゾの執事が私達を背に庇うようにしながら、頑丈な衝立の隅に誘導する。
「曲者は庭に逃げた!衛兵、取り押さえよ。行け!」
ソーヴェ様のよく通る声で、公宮の警備兵が大広間の外へ走っていく。
「タウラージ!」
今度はソーヴェ様がハゲ狸を振り返る。
「わかってる、お前ら一人も逃がすな!可能なら捕縛して吐かせろ。無理なら仕留めて構わん」
別人のような低い声でゲンメ公が、自分の背後の窓の外…暗闇に向かって鋭く命じた。
「やれやれ、娘の婚約をダシにイスキアの私兵狩りに儂の手足を使われるとは……これはソーヴェにやられたな」
「チマチマ追うより効率良いもの。おかげで、これでやっと片付くわ」
「まぁ、イスキアの海蛇達にエストの衛兵では追いつくまい。我が手足も多少はヤられるだろう。ゲンメとイスキアの共倒れ効果も狙ったか?ソーヴェ」
「まぁ、物騒なものは少しでも減っていただかないと。煩くてゆっくり眠れないと肌が荒れるのよ」
「ふん、眠ったら滅多なことでは起きないクセによく言う……」
「この金属を腐食させる海蛇の毒。浅慮なチョイスはカルドンヌね。まだまだ若いから詰めの本当に甘いこと。ずっと張りついてこちらを伺ってたのに、今回の婚約破棄は彼らにも想定外だったのか惑って固まってたわ。挙げ句、私と視線があったら焦って襲ってくるなんて。折角捕まえても、使い捨てレベルの駒かもよ?」
ソーヴェ様は手にした大剣を黒ずんでいる刃の向きに注意を払いながら鞘におさめる。
その間、ヴィンセント様が会場の人々を落ち着かせ、襲撃された現場から人々を隣の広間に誘導を指示していた。毒剣の散らばる大公席の周囲は会場の使用人に指示を出し、素早くカルゾの執事が封鎖する。
「最初から海蛇達に気づいていたのに、放置したのか。相変わらず、大した自信だな。
カルドンヌは今回も前回も襲撃計画は穴だらけだ。まぁ、イスキアの裏についてる奴が荒いのかもしれんが……」
「裏について、何処までご存知?」
「ゲンメは婚約破棄されたからな。教えたくても教えられなくなったぞ」
「あら、それは残念」
ちっとも残念そうではない口振りで、ソーヴェ様が肩をすくめた。
「で、どうする?当の本人はもうイスキアに逃げてると思うが?」
「そこまで追う気はないわ。とりあえず、実行犯を根絶やしに出来たら目標達成ね」
「ふん、甘いのはどっちだ」
「さぁね。舞踏会にいつもの倍、闇の者たちをゾロゾロ連れてきてた誰かさんには言われたくないわ」
「裏があるとは思ってたからな。何事も用心に越したことはない」
「さすがタウラージ。それはさておき、サラック。貴方、いつまでそうやってるつもり?」
私を未だ抱きしめているサラック様に呆れたように声をかけるソーヴェ様。
「え、いや……これは……」
「身体は正直ねぇ、サラック。つい、動いちゃったのよね~」
ソーヴェ様の追及にモゴモゴ言いながらも、腕の中から私を解放しないまま、立ち尽くすサラック様。
「驚いたな。サングリア、お前本気か?」
ドングリ眼を見開いて、狸オヤジがサラック様を見た。
「本気だと言ったらどうする?」
「儂より若いのに呆けたのか」
「何とでも言え。私は何も言える立場ではない」
「カフェで余程変なもの食ったんだな。お前、ゲテモノ食いだったか?」
娘に対して、このハゲ狸。なんという言い草……。
変なものって何よ!仮にも娘でしょうよ……大体食われてないし!
「カフェで会ったのは間違いないが……食事をしただけだ。彼女には、神に誓って何もやましいことはしていない」
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