アラフォーの悪役令嬢~婚約破棄って何ですか?~

七々瀬 咲蘭

文字の大きさ
上 下
8 / 150
第一部

第7話 カフェでオフ会?☆

しおりを挟む
「はぁぁ~っ、アルルちゃん、可愛かったねぇ……」
「いつまで惚けてるんですか?お嬢様……さっさと食べて出ますよ」

  ルーチェは私の感動の余韻にはとりあわず、ユッカ名物のフルーツフレーバーのお茶を飲みながら私を急き立てた。

  ルーチェに引っ張られ、街をキョロキョロしながら歩く、握手会からの帰り道。
  途中でユッカナウに掲載されていた「カフェ リエージュ」を見つけ、絶対にフードをとらないことと、長居はしない約束でルーチェに一緒に店に入ってもらった。


 くぅぅ~!やったぁ。ここの日替わりパンケーキ、食べてみたかったのよね~。

 お目当ての本日のパンケーキは、ブルーベリーに似たフルーツソースがかけられ、クリームが添えられたシンプルなものだった。

 う~ん。名前はよくわからないけどこの果物のソース、さっぱりして美味しいわ。どうやって焼いてるのかわからないけど、生地も厚くてフワッフワ。口の中に入れるとじゅわっと蕩けていく感じ。ソースとクリームがまた合うのよ…。

「ん~、幸せぇ」
  
 フードがでかいので口に運ぶのが一苦労だ。

 本当に邪魔だわ。フードとってもいいかなぁ……一応個室仕立ての客席だし。

「ダメです。混んできたら相席お願いします、って書いてありましたよ」
 しっかり者のルーチェの許可はおりませんでした。残念。


「すみませ~ん。店内混みあってきましたので、相席お願いしま~す」
 ちょうどその時、店員が個室ブースにやってきた。

 ほらきたじゃないですか、と言わんばかりのルーチェの表情にあわててフードを深く被りなおす。

 不便だわ~。
 でも、私の場合有名人で騒がれるというより、露骨に怯えられるみたいだから、仕方ない。我慢します。


「すみません」
 相席にやってきた男も、私に負けず劣らず怪しく帽子を目深にかぶっていた。
 
「お一人ですか?お連れ様もみえますの?」
 ルーチェが私の隣に移り、席を空ける。
「一人です」

 おおっ、なかなか渋い声ですね。そんなに若くはない落ち着いた声。
 ん~、声は超好み。ほら、洋画の吹き替えでもう亡くなってしまった声優さんの…誰か名前は出てこないけど、低い伸びやかな美声。

 声ばっかだって?
 特に声フェチってわけじゃないんだけど、前がみえてる?っていうぐらい帽子を深く被ってて、つばもひろいし、口元ぐらいしか全然顔が見えないもん。

 女性客やカップルが多い客層の店で一人でやってくるなんて、よほどのスイーツ男子なんだろうか。
 そして、この帽子は訳ありさん?
 なんで個室なのに被りっぱなしなのかしらん。
 もしかして男性特有の加齢による、アレ?バーコード的になってると恥ずかしいのかな?


 「あ、それ日替わりですか?」
 私が食べているパンケーキを見て、浮き浮きした口調で向かい側に座った男が尋ねてきた。

「はひ……」
 口の中いっぱいに頬張ってるのと、フードに隠れて食べてることもあってモゴモゴと答える私。

「私も頼みました。それ、食べたかったんですよね~」
「私も今月の特集で見て、どうしても一度は食べてみたくて……」
「おっ、ユッカナウですね?」
「まぁ、あなたも読んでみえるのですか?」
 同じ読者という立場に親近感が湧いて、私は思わず身をのり出してしまった。

「構成も記事もなかなか面白いですよね。毎号チェックしてます」
「私は特に連載のコラムがお気に入りで」
「ほぅ、ミスターユッカの呟き、ですね」
「さすが!知ってみえるんですね~。私、大好きなんですよ、あの感覚。
 この国のことも子どもさんのことも、大好きで美味しいものも楽しいことも何でもポジティブに楽しんじゃう感じ。
 特に子どもが成長して手を離れてからのなんとなく、寂しいくてモノ悲しい感じは半端なく頷いちゃう」
 私は律子全開で思わず興奮してまくしたててしまった。

……ルーチェの冷たい視線が痛い。
 ハイ、スミマセン。

「そんなに手放しで誉められたら、ミスターユッカもさぞかし嬉しいでしょうね」
「そうですか~?、あっ、パンケーキ来ましたよ」
「ありがとうございます。お、これは美味しそうだ」
 
  私は綺麗にフォークを使い、食べはじめた男の手元に見惚れてしまった。
 年齢のある程度いった大きい手って色気があるわよね。

「帽子をお取りにならないのですか?」
「そちらこそ、フードは食べにくくありませんかな」
「えっとぉ……人前ではとってはいけないことになっていますの。そう、そういう病気なのですわ」
「え?そんな病気があるんですか…?」
「フードをとると世にも恐ろしいことが起こりますの。だからこのままで失礼いたしますわ」
「はぁ……」
  我ながらイタい答えだが、間違ったことはいってない。フードをとってまたモンスター襲撃騒ぎになったらやだもん。

「では私も帽子をとると厄災が降りかかるということで、お許し下さい」
 茶目っ気たっぷりな声で目の前の男は深く、帽子を被りなおした。
 口元しか見えないけど、なかなかステキな顎のラインがみえる。まばらな無精髭はちょっと白いものが混じりかけているようだ。

 マルサネからみたら、父親世代だけど律子からみたら同級生ぐらいかしらん。
 バーコードだろうが、ピカピカだろうが若い頃は人柄的なところも良さそうだし、結構モテていたんじゃないだろうか。

「ごちそうさまでした」
 私が手をあわせてフォークを置くと、
「そのポーズは何ですか?」
 と聞かれてしまった。しまった、つい習慣で…。

「ええと、遠い異国の風習なんですが食べ物や作ってくれた方に感謝をして手をあわせる、というものなんですのよ」
 遠いっていうか、異世界の日本ですけどね。

「へぇ、それは素敵な風習ですね。貴方はどこでそれをお知りになったのですか?」
「え?!えっと、本です、本。私、本が大好きなんです」
「それは私たち、気が合いそうですね。私も本には目がなくて……よろしければお名前を伺っても?」
「ええぇ?!名前ですか…」

 どうしよう。マルサネ、も律子もダメよね?
 なんか、偽名……うわー、思いつかない~!!

 目の前のロゴを見て、苦し紛れに答える。
「リエージュ……ですわ」
 思いっきりナプキンに刺繍された店名を読みあげたのにも関わらず、
「リエージュさんですか?」
 とかえされてしまった。

 そんなわけないでしょう……お願いだから、察してよ。
「あなたは?」
「私、ですか?では、私はサラックと」
「はぁ……」
 ルーチェが飲んでる特産のお茶って、サラック茶よね。ドリンクメニューの一番上だわ。アップルティーに近いフレーバーの爽やかな風味。
 あなたも私と同類ね……。

「お嬢様。帰る時間です」
 ナイス、ルーチェ。これ以上の会話は私もギブアップ。

 ルーチェに促されて、私は席をたった。
「ではサラック様、お先に失礼いたしますわ。同じ雑誌の読者ということで、お話できてとても楽しかったです」
「こちらこそ、楽しい時間をありがとうございました。リエージュさん、またどこかでお会いしましょう」
 大きな手を差し出された。
「はい」
 思わず、反射でアルルのように両手でしっかりと包み込むように握ってしまう。
 あ、温かい手。こんな男っぽいがっしりとした手になでなでされたいわ~。

「……あ~、リエージュさん?」
 サラック、と名乗った男が困惑したような声をあげた。

 しまった、またやっちゃった!?
 アイドルの握手会じゃないんだから、これはまずかったわよね。
 ガラス窓に目を向けると、すっぽりフードを被った体格の良い怪しい人物が、これまたどこで売ってるの?というぐらい大きな帽子を被った怪しい大男の手を握りしめている姿が写っていた。
 
 傍目にめちゃめちゃ怪しい。何かの宗教の儀式みたいだわ。
 ルーチェも固まっている。
 
「さ、さよならで~す!」
 私はパッと振り払うように手を放し、ダッシュで店を出た。もちろん、支払いはルーチェ。
 
 ルーチェが居なかったら食い逃げって騒がれるところだったわ。猿姫食い逃げって、すぐにニュースになりそうじゃない?
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。

黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。 差出人は幼馴染。 手紙には絶縁状と書かれている。 手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。 いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。 そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……? そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。 しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。 どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

処理中です...