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父上の側近の一人。
ガルザスに、男たちの聴取を頼んだが、少し痛めつけただけで口を割ったそうだ。
『国境まで連れて行けば後は好きにしていい』と依頼人に大金を渡されたこと・・・
依頼者はフードを被った女だったと。
国境が近付いたので、乱暴目的で街道から少し離れた森に無理やり引き摺って行ったと。
抵抗するミラが隠し持っていた護身用ナイフで自分で胸を刺したところへちょうど俺たちが現れたと・・・
悔しさと、後悔を繰り返し眠れぬまま夜が明けた。
俺と両親は先触れを出さず、ミラの実家ボイル侯爵家を訪ねた。
驚く執事に知らせは不要と伝え、ミラの義妹と義母の場所まで案内させた。
父親の方は領地の視察で留守にしていた。
奥から甲高い笑い声と会話が聞こえてきた。
『あの子が居なくなって清々したわ』
『あんな傷だらけの身体が王家にバレる前に婚約破棄できてよかったわね』
『本当にね。どんなに痛めつけても泣きもしないなんて可愛げがないったら!』
『でも、お母様のストレス発散にはなったでしょう?』
『ええ、それにわたくしの娘が王子の婚約者になれるだなんて・・・夢のようだわ』
『当然でしょう?誰だって無表情な女より、愛想が良くて可愛い子の方がいいに決まっているわ』
『王家なら贅沢し放題ね!』
『そうそう、お母様はデューク様をご存知ですか?とても綺麗な男の人なの』
『デューク・・・ああ、ミラの従兄弟よ』
『そっか~。エルザはオズワルド様よりデューク様の方が好みだな~』
『やめなさい!あの家とは距離を置いているの。ミラへの仕打ちがバレたら、わたくし達は終わりよ。だから理由を付けて会わせないようにしてきたのだから』
「へえ~俺たちがミラに会えなかったのはお前のせいだったのか」
「それにミラを痛めつけていたですって?」
「おい、執事!ミラの部屋へ案内しろ!」
突然部屋に入ってきた俺たちの顔を見て、義母は固まったまま顔色だけが青くなっていった。
義妹の方は俺を見て満面の笑みを浮かべると、擦り寄ろうと近付いてきた。
動き出した義母もミラの部屋を見られるのは都合が悪いのか引き留めようとしてきたが、それを振り切って案内させた。
もう、ここは部屋でもなんでもない。
小屋だ。
あるのは机と小さなタンス。
それと部屋の隅に薄い毛布があるだけだ。
ベッドもない。
ミラは床で寝ていたのか?
いや、この部屋が本当にミラの部屋ならそこで寝るしかなかったのだろう。
隣で呆然としていた両親から怒りの魔力が溢れてきた。
俺だって同じだ。
俺たちの怒りをどこに向ければいい?
一緒に連れて来ていた騎士にこの邸で起こった全ての事を調べるようにと指示を出した。
俺たちが幼い頃、母上とライラ叔母上が親友だったことで、俺とミラも会う機会が多く、""デュークと上手く発せなかった1歳年下のミラは俺をリューと呼んではポテポテとあとを追いかけてきていた。
ミラはライラ叔母上の教育が上手かったのか、同じ年頃の令嬢と比べると断トツで礼儀作法が身に付いていた。
元々読書も好きで、だからといって外で走り回ることも好きなお転婆な女の子だった。
たった1歳しか違わないミラをいつの間にか俺が守ってあげたいと思うようになっていた。
泣いて、怒って、拗ねて、笑って、どんなミラも可愛くて、どうせならずっと笑っている顔が見ていたいと・・・この時に俺にとってミラは特別な存在だと気付いたんだ。
ミラが5歳の頃ライラ叔母上が亡くなった。
忙しい父親は留守が多く、広い邸で泣いていないかと俺たち家族はよくボイル侯爵家を訪ねていた。
俺たちの訪問をいつも笑顔で迎えてくれるミラは『今まで泣いていたんだろ』って幼い俺ですら分かる涙のあとが毎回残っていた。
その1年後、喪が開けてすぐボイル侯爵が連れ子のいる後妻を迎えると言い出した。
陛下もウチの両親も、それならミラを引き取ると申し出たが『ライラの忘れ形見を取り上げないで下さい』と涙ながらに訴えるボイル侯爵を信じて一旦身を引いたそうだ。
それが、こんな結果になるなんて・・・
ガルザスに、男たちの聴取を頼んだが、少し痛めつけただけで口を割ったそうだ。
『国境まで連れて行けば後は好きにしていい』と依頼人に大金を渡されたこと・・・
依頼者はフードを被った女だったと。
国境が近付いたので、乱暴目的で街道から少し離れた森に無理やり引き摺って行ったと。
抵抗するミラが隠し持っていた護身用ナイフで自分で胸を刺したところへちょうど俺たちが現れたと・・・
悔しさと、後悔を繰り返し眠れぬまま夜が明けた。
俺と両親は先触れを出さず、ミラの実家ボイル侯爵家を訪ねた。
驚く執事に知らせは不要と伝え、ミラの義妹と義母の場所まで案内させた。
父親の方は領地の視察で留守にしていた。
奥から甲高い笑い声と会話が聞こえてきた。
『あの子が居なくなって清々したわ』
『あんな傷だらけの身体が王家にバレる前に婚約破棄できてよかったわね』
『本当にね。どんなに痛めつけても泣きもしないなんて可愛げがないったら!』
『でも、お母様のストレス発散にはなったでしょう?』
『ええ、それにわたくしの娘が王子の婚約者になれるだなんて・・・夢のようだわ』
『当然でしょう?誰だって無表情な女より、愛想が良くて可愛い子の方がいいに決まっているわ』
『王家なら贅沢し放題ね!』
『そうそう、お母様はデューク様をご存知ですか?とても綺麗な男の人なの』
『デューク・・・ああ、ミラの従兄弟よ』
『そっか~。エルザはオズワルド様よりデューク様の方が好みだな~』
『やめなさい!あの家とは距離を置いているの。ミラへの仕打ちがバレたら、わたくし達は終わりよ。だから理由を付けて会わせないようにしてきたのだから』
「へえ~俺たちがミラに会えなかったのはお前のせいだったのか」
「それにミラを痛めつけていたですって?」
「おい、執事!ミラの部屋へ案内しろ!」
突然部屋に入ってきた俺たちの顔を見て、義母は固まったまま顔色だけが青くなっていった。
義妹の方は俺を見て満面の笑みを浮かべると、擦り寄ろうと近付いてきた。
動き出した義母もミラの部屋を見られるのは都合が悪いのか引き留めようとしてきたが、それを振り切って案内させた。
もう、ここは部屋でもなんでもない。
小屋だ。
あるのは机と小さなタンス。
それと部屋の隅に薄い毛布があるだけだ。
ベッドもない。
ミラは床で寝ていたのか?
いや、この部屋が本当にミラの部屋ならそこで寝るしかなかったのだろう。
隣で呆然としていた両親から怒りの魔力が溢れてきた。
俺だって同じだ。
俺たちの怒りをどこに向ければいい?
一緒に連れて来ていた騎士にこの邸で起こった全ての事を調べるようにと指示を出した。
俺たちが幼い頃、母上とライラ叔母上が親友だったことで、俺とミラも会う機会が多く、""デュークと上手く発せなかった1歳年下のミラは俺をリューと呼んではポテポテとあとを追いかけてきていた。
ミラはライラ叔母上の教育が上手かったのか、同じ年頃の令嬢と比べると断トツで礼儀作法が身に付いていた。
元々読書も好きで、だからといって外で走り回ることも好きなお転婆な女の子だった。
たった1歳しか違わないミラをいつの間にか俺が守ってあげたいと思うようになっていた。
泣いて、怒って、拗ねて、笑って、どんなミラも可愛くて、どうせならずっと笑っている顔が見ていたいと・・・この時に俺にとってミラは特別な存在だと気付いたんだ。
ミラが5歳の頃ライラ叔母上が亡くなった。
忙しい父親は留守が多く、広い邸で泣いていないかと俺たち家族はよくボイル侯爵家を訪ねていた。
俺たちの訪問をいつも笑顔で迎えてくれるミラは『今まで泣いていたんだろ』って幼い俺ですら分かる涙のあとが毎回残っていた。
その1年後、喪が開けてすぐボイル侯爵が連れ子のいる後妻を迎えると言い出した。
陛下もウチの両親も、それならミラを引き取ると申し出たが『ライラの忘れ形見を取り上げないで下さい』と涙ながらに訴えるボイル侯爵を信じて一旦身を引いたそうだ。
それが、こんな結果になるなんて・・・
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