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~フォネス伯爵視点~
「エリザベスの言っていた通りですわね」
「ああ」
「でも、本当にあれがフローラなら今ごろわたくし達は裁かれていますわよ?王弟殿下の娘を雑に扱っていたことになるのですから⋯⋯ですからあれはただ似ているだけの令嬢ですわ」
私には分かる。あの瞳の色⋯⋯あれはフローラだ。
「あれが本物だろうが⋯⋯私の娘は死亡届を出してしまっている。今さらあれを娘だと言えば私たちのしていたことが公になってしまう」
今さら何が言える?
王弟の娘の顔を何度叩いた?
痩せてガリガリの体を何度蹴った?
最後には顔も体も痣だらけになるまで暴力を振るった。そのまま道端で野垂れ死ぬことを望んで⋯⋯
クソっ!こんな事になるなら確実にトドメを刺しておくべきだった。
王弟が相手だったとは⋯⋯シルフィーナは何も言わなかった。
いや、何も聞かないこと、手を出さないことを条件に毎年多額の金をスティアート公爵家からいただく契約になっていたからだ。
それは当然とも言えた。
学園を中途半端に退学して、腹に子を宿していた女の子を私の実子として何も言わずフォネス伯爵家の籍に入れる事までが条件だったからだ。
世間では美しく儚げな見た目のシルフィーナは女神だ天使だと評判だったが、私の知る限り男との噂など一つもなかった。
それが蓋を開けてみれば誰の子かも分からない子を宿すようなふしだらな女だったとは。
私がシルフィーナとの契約結婚を受け入れたのは金のためもあるが、学園を卒業してから市井で知り合った今の妻、ヨルダを妻に望んだことで前伯爵の父に『あの平民と添い遂げたいのなら廃嫡する』と告げられたことが大きかった。
この時には既にヨルダの腹には私の子が宿っていた。
この契約はお互いにとってもとても都合が良かった。
シルフィーナを受け入れ金だけを毎年受け取り、ヨルダには邸を与え贅沢な暮らしをさせればヨルダ自身も貴族の世界に憧れはあるものの、マナーや礼儀作法を身に付けるよりも愛人としての気楽な生活を気に入ったようだった。
確かに平民として生きてきたヨルダに貴族の夫人のようなマナーや礼儀作法を求めてしまえば、私が惹かれた元気で無邪気な姿が見られなくなる。
ヨルダは良い。
貴族の女相手に出来ないこともヨルダが相手なら何でも思いのままに抱くことが出来た。
普段は無邪気なヨルダがベッドの中では妖艶で、豊満な身体つきは正に私好みだった。
(今は身体はともかく、中身は変わってしまったが⋯⋯)
スティアート公爵家から毎年振り込まれる金額は王家からロイド王子の婚約者になったエリザベスに支給される支度金よりも遥かに多かった。
領地からの税収しかない我が家フォネス伯爵家程度では、妻やエリザベスが毎月のように買う派手なドレスや高価な宝石など買えるはずもなかった。
スティアート公爵家からいただく金はシルフィーナやフローラに何不自由のない生活を約束したからこそだった。
それをすっかり忘れてしまっていた⋯⋯
その二人が居なくなれば我が家に金が入ってこなくなるのは当然のことだったのに⋯⋯
使っても使っても常に金があるのが我がフォネス伯爵家で、他家からは家族に潤いのある生活を与えられる私の評価は高かった。
その生活が崩れたのはまず、シルフィーナが流行病で亡くなり、続けて父が亡くなったことだろう。
それまで私はシルフィーナやその子供フローラを虐げたりはしていない。
ただ、二人の住む邸に帰らなかっただけだ。
衣食住は困らないだけの金は与えていた。
煩い父が亡くなり私が当主になり、シルフィーナが亡くなった。
なら、愛する妻と娘を我が家に迎えたくなるのは当然だ。
やっと堂々と家族三人で暮らせるようになったのに、血の繋がりもない赤の他人のフローラの存在が疎ましく、一度手を上げると止まらなくなった。
他人だ思えばこそ加減もしなかった。
今となっては放っておけばよかったんだ。
私たちが相手にせずともアイツにも使用人をつけ、普通に衣食住ぐらい与えていれば⋯⋯
私たちのしたことは言い訳もできない。
先程から私を見る王弟殿下の目が、スティアート公爵の目が⋯⋯『覚悟しろ』と訴えているような気がする。これは錯覚なんかじゃない。彼らは私がフローラにしたことを知っているのだ。
金の成る木⋯⋯フローラを追い出してしまえばスティアート公爵家からの金が入らなくなるのは当然で、すっかりスティアート公爵家との契約が頭から抜けていた。
金があるのが当たり前過ぎて、いつの間にかフローラの存在は私の中で邪魔なだけになっていた。
贅沢に慣れてしまった私たちはエリザベスがロイド王子の婚約者になったからよかったものの、この生活を維持し続けることは出来なかったはずだ。それでも生活の質は落ちてしまったが⋯⋯
甘やかせ過ぎたエリザベスは、王子妃教育を受けているのにも関わらず知識もマナーも何もかもが身についてない。
王家からもこのままでは王家に迎えられないと苦情まできてる。
今のままのエリザベスだとせっかくの婚約が解消されるのは時間の問題だ。
もしエリザベスがロイド王子の婚約者から外されたら?元の貧乏伯爵家に逆戻りになってしまう。贅沢に慣れてしまった私たちがそんな生活に耐えられるか?
せめてフローラの『死亡届』さえ出していなければ⋯⋯
フローラを追い出しさえしなければ⋯⋯
病弱を理由に我が家に閉じ込めてさえいれば⋯⋯
だが⋯⋯あいつを連れ戻すことが出来たら?
いや、無理か⋯⋯今さら戻ってくる理由がない。
だとしたら、何としてもエリザベスにはロイド王子に嫁いで貰わなくてはならない。王家の婚約者の立場があるからこそ、まだ私たちが生きていられるのだろう。
どんな手を使ってでもエリザベスにはロイド王子の婚約者でいてもらわなければ⋯⋯私たちは終わりだ。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
明日からルナフローラ視点に戻ります。
「エリザベスの言っていた通りですわね」
「ああ」
「でも、本当にあれがフローラなら今ごろわたくし達は裁かれていますわよ?王弟殿下の娘を雑に扱っていたことになるのですから⋯⋯ですからあれはただ似ているだけの令嬢ですわ」
私には分かる。あの瞳の色⋯⋯あれはフローラだ。
「あれが本物だろうが⋯⋯私の娘は死亡届を出してしまっている。今さらあれを娘だと言えば私たちのしていたことが公になってしまう」
今さら何が言える?
王弟の娘の顔を何度叩いた?
痩せてガリガリの体を何度蹴った?
最後には顔も体も痣だらけになるまで暴力を振るった。そのまま道端で野垂れ死ぬことを望んで⋯⋯
クソっ!こんな事になるなら確実にトドメを刺しておくべきだった。
王弟が相手だったとは⋯⋯シルフィーナは何も言わなかった。
いや、何も聞かないこと、手を出さないことを条件に毎年多額の金をスティアート公爵家からいただく契約になっていたからだ。
それは当然とも言えた。
学園を中途半端に退学して、腹に子を宿していた女の子を私の実子として何も言わずフォネス伯爵家の籍に入れる事までが条件だったからだ。
世間では美しく儚げな見た目のシルフィーナは女神だ天使だと評判だったが、私の知る限り男との噂など一つもなかった。
それが蓋を開けてみれば誰の子かも分からない子を宿すようなふしだらな女だったとは。
私がシルフィーナとの契約結婚を受け入れたのは金のためもあるが、学園を卒業してから市井で知り合った今の妻、ヨルダを妻に望んだことで前伯爵の父に『あの平民と添い遂げたいのなら廃嫡する』と告げられたことが大きかった。
この時には既にヨルダの腹には私の子が宿っていた。
この契約はお互いにとってもとても都合が良かった。
シルフィーナを受け入れ金だけを毎年受け取り、ヨルダには邸を与え贅沢な暮らしをさせればヨルダ自身も貴族の世界に憧れはあるものの、マナーや礼儀作法を身に付けるよりも愛人としての気楽な生活を気に入ったようだった。
確かに平民として生きてきたヨルダに貴族の夫人のようなマナーや礼儀作法を求めてしまえば、私が惹かれた元気で無邪気な姿が見られなくなる。
ヨルダは良い。
貴族の女相手に出来ないこともヨルダが相手なら何でも思いのままに抱くことが出来た。
普段は無邪気なヨルダがベッドの中では妖艶で、豊満な身体つきは正に私好みだった。
(今は身体はともかく、中身は変わってしまったが⋯⋯)
スティアート公爵家から毎年振り込まれる金額は王家からロイド王子の婚約者になったエリザベスに支給される支度金よりも遥かに多かった。
領地からの税収しかない我が家フォネス伯爵家程度では、妻やエリザベスが毎月のように買う派手なドレスや高価な宝石など買えるはずもなかった。
スティアート公爵家からいただく金はシルフィーナやフローラに何不自由のない生活を約束したからこそだった。
それをすっかり忘れてしまっていた⋯⋯
その二人が居なくなれば我が家に金が入ってこなくなるのは当然のことだったのに⋯⋯
使っても使っても常に金があるのが我がフォネス伯爵家で、他家からは家族に潤いのある生活を与えられる私の評価は高かった。
その生活が崩れたのはまず、シルフィーナが流行病で亡くなり、続けて父が亡くなったことだろう。
それまで私はシルフィーナやその子供フローラを虐げたりはしていない。
ただ、二人の住む邸に帰らなかっただけだ。
衣食住は困らないだけの金は与えていた。
煩い父が亡くなり私が当主になり、シルフィーナが亡くなった。
なら、愛する妻と娘を我が家に迎えたくなるのは当然だ。
やっと堂々と家族三人で暮らせるようになったのに、血の繋がりもない赤の他人のフローラの存在が疎ましく、一度手を上げると止まらなくなった。
他人だ思えばこそ加減もしなかった。
今となっては放っておけばよかったんだ。
私たちが相手にせずともアイツにも使用人をつけ、普通に衣食住ぐらい与えていれば⋯⋯
私たちのしたことは言い訳もできない。
先程から私を見る王弟殿下の目が、スティアート公爵の目が⋯⋯『覚悟しろ』と訴えているような気がする。これは錯覚なんかじゃない。彼らは私がフローラにしたことを知っているのだ。
金の成る木⋯⋯フローラを追い出してしまえばスティアート公爵家からの金が入らなくなるのは当然で、すっかりスティアート公爵家との契約が頭から抜けていた。
金があるのが当たり前過ぎて、いつの間にかフローラの存在は私の中で邪魔なだけになっていた。
贅沢に慣れてしまった私たちはエリザベスがロイド王子の婚約者になったからよかったものの、この生活を維持し続けることは出来なかったはずだ。それでも生活の質は落ちてしまったが⋯⋯
甘やかせ過ぎたエリザベスは、王子妃教育を受けているのにも関わらず知識もマナーも何もかもが身についてない。
王家からもこのままでは王家に迎えられないと苦情まできてる。
今のままのエリザベスだとせっかくの婚約が解消されるのは時間の問題だ。
もしエリザベスがロイド王子の婚約者から外されたら?元の貧乏伯爵家に逆戻りになってしまう。贅沢に慣れてしまった私たちがそんな生活に耐えられるか?
せめてフローラの『死亡届』さえ出していなければ⋯⋯
フローラを追い出しさえしなければ⋯⋯
病弱を理由に我が家に閉じ込めてさえいれば⋯⋯
だが⋯⋯あいつを連れ戻すことが出来たら?
いや、無理か⋯⋯今さら戻ってくる理由がない。
だとしたら、何としてもエリザベスにはロイド王子に嫁いで貰わなくてはならない。王家の婚約者の立場があるからこそ、まだ私たちが生きていられるのだろう。
どんな手を使ってでもエリザベスにはロイド王子の婚約者でいてもらわなければ⋯⋯私たちは終わりだ。
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明日からルナフローラ視点に戻ります。
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