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龍王候補②風合瀬リューク
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瑛は、しげしげと、その少年を見た。
ひよこみたいにふわふわとした金茶色の短髪と、くりくりとした若草色の目。書生風の、橙色の派手な着物に立ち襟のシャツと袴。年は瑛と同じくらいだろうか。身長は指三本分ほど高い。かと思えば、歯の高い下駄を履いていたので、実際はそう変わらないみたいである。
七姓かな?
それを瑛が尋ねるより、少年の方が先に口を開いていた。しかも。
「トキ。お前さー、龍姫にゲロ、ぶっかけられたんだってなー!」
そう言って、ゲラゲラと笑うものだから、ちょっと気まずい。さすがに『私がやりました』とも、言い出しにくい。
瑛はそろりとトキに目をやったが、彼は何も言わなかった。なので、しばらく瑛も黙っていることにした。
「んで、現物の龍姫ってさ、どーなんだよ?」
「どうとは?」
「そりゃ、見た目だよ」
トキと話しながら、彼は一度、ちらっと瑛の顔を見た。
「……つーか、マジで、三国一の美少女なわけ? じっちゃんの『お可愛いらしー』って、いまいち、信用できないっていうかさー。ノボルのじっちゃんもガリュウのじっちゃんも、何でもかんでも、かわいーかわいー言うじゃん。あの、おかっぱ頭のブッサイクな人形もさ、……あれ? おかっぱ?」
そこまで言って、彼は再び瑛を見る。今度はじろじろと。そんなに眺められては、瑛も黙ったままでいるわけにもいかない。
「えーっと、こんにちは」
瑛は笑う。笑顔はあいさつの基本。しかし彼の方は、いきなり瑛の顔面に指先を突きつけてきた。
「なー、トキ。もしかして、マサカリ担いで、熊と相撲取ってそうな、このちんちくりんって、」
「ちんちくりん?」
思わず顔をしかめた瑛だが、トキはうなずく。
「うっそだぁー。こいつが龍姫? てかさー、あのブッサイクな人形、そっくりなんだけど! マジかよ?」
「マジだ」
「マジかー! やっぱ、じっちゃんのかわいーって、……あー、いや、でも、そーか……うん。そーだな。こいつ、御前と同じ気配してる。マジで、龍姫か!」
ずいっと瑛に顔を寄せると、一転、彼はにぱっと笑った。案外、人懐っこい。
「瑛だろ? マナシのじっちゃんに育てられた」
「うん。で、あなたは?」
瑛が聞き返すと、少年はしてやったりという顔で胸を張る。
「ふっふっふー。聞いて驚けっ! 見て崇めっ! なにを隠そう、この、俺様がっ、風合瀬リュークだ!」
「風合瀬?」
瑛は小さく繰り返して、もう一度、彼にざっと目をやった。
七姓を与えられるのは、龍族の中でも特に力の強い者だという。そこだけをとれば、リュークみたいな少年が七姓だというのもうなずける。
「すごいねぇ。リュークって、いくつ?」
「十五!」
「へぇ。すごい」
「どーだ、恐れ入ったか。わーはっはっはー! ひざまずくがいいっ!」
「龍姫を前にひざまずくのは、お前だ。バカ」
得意げに高笑いするリュークの頭を、トキが小突いた。
「いってーな!」
大げさに叫んで、しゃがみ込んだリュークだが、
「それで、何か用か?」
トキに聞かれると、勢い良くピョンと立ち上がった。その顔は、もうケロリとしている。
「あ、そーそー。メグムがトキ、探して来いって」
「メグムが?」
「御前に、おめ……おめで、とー? とかってヤツ」
「お目通り」
「そーそー、それそれ。そろそろ時間だろ?」
「あぁ」
「てかさー、瑛。お前も何で、こんなトコにいんだよ? お前だって、おめでとーりだろ。メグ厶に超ぉー怒られるぞ?」
「えーっと、メグムって、誰?」
瑛は尋ねた。
「月奈瀬メグム。七姓の一人だ」
まず答えたのは、トキ。そのあとでリュークが続ける。
「髪がすんげえー長くってさー、あれだよ。振り返り美人ってヤツ? メグムって、顔がキレイだから。仕事の鬼畜だけど。でもって、基本的に引きこもり。今年は特に、なんかすっごい厄年で、タイヤキ?」
たっぷりとあんこの入ったやつを思い浮かべた瑛の隣から、「大厄」と、トキが言い直す。
「そーそー。そのタイヤクで、ますます引きこもってっから。女官たちの間では、なかなかお目にかかれない珍獣みたいになってんだよ」
「ふうん」
「あ、そうだ。瑛にも教えといてやるよ。龍宮で生き残りたければ、マジ、メグムは怒らせんな! いいか。トキを怒らせても、メグムだけはダメだぞ。マジでヤバイ。顔が美人のクセに、アイツ、ホントーにえげつないから!」
「そうなの?」
トキにその真偽を確かめてみれば、「否定はしない」と、答えがあった。
ひよこみたいにふわふわとした金茶色の短髪と、くりくりとした若草色の目。書生風の、橙色の派手な着物に立ち襟のシャツと袴。年は瑛と同じくらいだろうか。身長は指三本分ほど高い。かと思えば、歯の高い下駄を履いていたので、実際はそう変わらないみたいである。
七姓かな?
それを瑛が尋ねるより、少年の方が先に口を開いていた。しかも。
「トキ。お前さー、龍姫にゲロ、ぶっかけられたんだってなー!」
そう言って、ゲラゲラと笑うものだから、ちょっと気まずい。さすがに『私がやりました』とも、言い出しにくい。
瑛はそろりとトキに目をやったが、彼は何も言わなかった。なので、しばらく瑛も黙っていることにした。
「んで、現物の龍姫ってさ、どーなんだよ?」
「どうとは?」
「そりゃ、見た目だよ」
トキと話しながら、彼は一度、ちらっと瑛の顔を見た。
「……つーか、マジで、三国一の美少女なわけ? じっちゃんの『お可愛いらしー』って、いまいち、信用できないっていうかさー。ノボルのじっちゃんもガリュウのじっちゃんも、何でもかんでも、かわいーかわいー言うじゃん。あの、おかっぱ頭のブッサイクな人形もさ、……あれ? おかっぱ?」
そこまで言って、彼は再び瑛を見る。今度はじろじろと。そんなに眺められては、瑛も黙ったままでいるわけにもいかない。
「えーっと、こんにちは」
瑛は笑う。笑顔はあいさつの基本。しかし彼の方は、いきなり瑛の顔面に指先を突きつけてきた。
「なー、トキ。もしかして、マサカリ担いで、熊と相撲取ってそうな、このちんちくりんって、」
「ちんちくりん?」
思わず顔をしかめた瑛だが、トキはうなずく。
「うっそだぁー。こいつが龍姫? てかさー、あのブッサイクな人形、そっくりなんだけど! マジかよ?」
「マジだ」
「マジかー! やっぱ、じっちゃんのかわいーって、……あー、いや、でも、そーか……うん。そーだな。こいつ、御前と同じ気配してる。マジで、龍姫か!」
ずいっと瑛に顔を寄せると、一転、彼はにぱっと笑った。案外、人懐っこい。
「瑛だろ? マナシのじっちゃんに育てられた」
「うん。で、あなたは?」
瑛が聞き返すと、少年はしてやったりという顔で胸を張る。
「ふっふっふー。聞いて驚けっ! 見て崇めっ! なにを隠そう、この、俺様がっ、風合瀬リュークだ!」
「風合瀬?」
瑛は小さく繰り返して、もう一度、彼にざっと目をやった。
七姓を与えられるのは、龍族の中でも特に力の強い者だという。そこだけをとれば、リュークみたいな少年が七姓だというのもうなずける。
「すごいねぇ。リュークって、いくつ?」
「十五!」
「へぇ。すごい」
「どーだ、恐れ入ったか。わーはっはっはー! ひざまずくがいいっ!」
「龍姫を前にひざまずくのは、お前だ。バカ」
得意げに高笑いするリュークの頭を、トキが小突いた。
「いってーな!」
大げさに叫んで、しゃがみ込んだリュークだが、
「それで、何か用か?」
トキに聞かれると、勢い良くピョンと立ち上がった。その顔は、もうケロリとしている。
「あ、そーそー。メグムがトキ、探して来いって」
「メグムが?」
「御前に、おめ……おめで、とー? とかってヤツ」
「お目通り」
「そーそー、それそれ。そろそろ時間だろ?」
「あぁ」
「てかさー、瑛。お前も何で、こんなトコにいんだよ? お前だって、おめでとーりだろ。メグ厶に超ぉー怒られるぞ?」
「えーっと、メグムって、誰?」
瑛は尋ねた。
「月奈瀬メグム。七姓の一人だ」
まず答えたのは、トキ。そのあとでリュークが続ける。
「髪がすんげえー長くってさー、あれだよ。振り返り美人ってヤツ? メグムって、顔がキレイだから。仕事の鬼畜だけど。でもって、基本的に引きこもり。今年は特に、なんかすっごい厄年で、タイヤキ?」
たっぷりとあんこの入ったやつを思い浮かべた瑛の隣から、「大厄」と、トキが言い直す。
「そーそー。そのタイヤクで、ますます引きこもってっから。女官たちの間では、なかなかお目にかかれない珍獣みたいになってんだよ」
「ふうん」
「あ、そうだ。瑛にも教えといてやるよ。龍宮で生き残りたければ、マジ、メグムは怒らせんな! いいか。トキを怒らせても、メグムだけはダメだぞ。マジでヤバイ。顔が美人のクセに、アイツ、ホントーにえげつないから!」
「そうなの?」
トキにその真偽を確かめてみれば、「否定はしない」と、答えがあった。
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