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春
春の肆 うすいえんどうのかき揚げと天ぷら
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「え?うすいえんどうの『うすい』って地名なんですか?」
「そうなの、『薄い』とか『雨水』だと思ってる人も多いみたいんだけどね。大阪の碓井ってところが由来らしいよ。外国から輸入して日本では碓井で初めて育てたえんどう豆だから、そういう和名になったらしいのよ」
「へーー」
「これが本当の豆知識よね!」
「ははは……」
うすいえんどうを育てている農家の奥さんにそんな豆知識を披露してもらいながら、ビクターはうすいえんどうを直売所で購入した。
直売所では暇な時だと、こういった豆知識を雑談がてら語ってくれる時がある。
育てている商品だけに、実に詳しく、面白いのでビクターは目を輝かせて聞いてしまうのだった。
ちょっとした寒いオバサンギャグが入るくらいは許容範囲だ。
その雑談のおかげで、えんどう豆がツタンカーメンとかいう王様の墓の中からも発見されたという豆知識も知っていたりする。
しかし、そのツタンカーメンというのがどんな王様なのか、異世界から来て知識が偏っているビクターにはいまいち分からないのだった。
帰宅後。
「うーん、豆ご飯もいいけど、揚げ物食べたい気分だしかき揚げかなぁ」
買ってきたうすいえんどうのサヤを割って豆を取り出しながらビクターは考える。
うすいえんどうはグリンピースよりも甘みが弱いが、その代わりに青臭さがあまりない。
皮も薄くて、口に残る感じがないのでビクターは好きだった。
色もグリンピースより淡くて、これが『薄い』えんどうだと思い込む原因にもなっているらしい。
料理方法の中でビクターのレパートリーからだと、真っ先に浮かぶのは豆ご飯で、次がタケノコなど合わせた煮物だ。タケノコが終わった後の淡竹と合わせた煮物は美味いが、今は時期ではない。
そして先ほど候補に出た、かき揚げだった。
「よし!かき揚げにしよう。他にも何か天ぷらを……あ!タラの芽も売ってたよな。買って来ればよかった……。うーん、買いに行くか!」
そういって、再び出かける準備を始めた。
こんな感じで好き勝手に動ける自由さを、ビクターは愛していた。
そして、再び買い物から帰宅した後。
「いい時間だから、さっそく揚げるか」
準備したのはうすいえんどう、タラの芽、蓮根、サツマイモ。
蓮根を丁寧に洗って皮を剥いて適当な大きさに切って、一旦水に浸けておく。
サツマイモも洗って皮を剥くが、皮を剥くといっても全部は剥かない。
口に残る感じが嫌なのだが、ビクターは皮の風味も好きなので、食べやすいように途切れ途切れに剥いていくだけだ。
縞模様に皮が残ったサツマイモを厚切りにすると、皮が点線状に残っていて、ちょっとかわいい感じになる。
サツマイモも水に浸けてから、油の準備を始めた。
油はあっさりとした菜種油。
最初は火が通りにくいサツマイモを揚げるので、低めの百七十度くらい。
油の温度が上がるまでに、タラの芽の準備だ。
さっと洗って付け根の堅い部分を切り落としていく。
うすいえんどうもさっと洗い、ザルで水を切る。
「冷凍なら小エビを入れるところだけど、今日はうすいえんどうだけを楽しみたいから入れないでおこう」
ビクターはうすいえんどうを冷凍保存しているのだが、それを使う場合は小エビと合わせてかき揚げにしていた。
だが、今回はせっかくの新物なので、うすいえんどうだけのかき揚げだ。
天ぷらの衣は市販の天ぷら粉を袋に書いてあるレシピ通りに。
ビクターは実は天ぷらを作るのはあまり得意ではない。べったりした仕上がりになったりよくする。そのため失敗の確率を減らすために、頼れるものは頼るのだった。
そうこうしていると油の温度が上がったので、揚げ始める。
水に浸けていたサツマイモを、キッチンペーパーで水気をしっかり切ってから小麦粉を付ける。
「ふんふんふーーん♪」
小麦粉を付けるときはビニール袋に入れて食材とともに振るのがまんべんなく付いて楽なのだが、その時に思わず鼻歌交じりで身体を揺らしてリズムをとってしまうのだった。
余分についた粉を叩き落としたら、衣をつけて油の中へ。
ジュワーーーという心地よい音が響く。
サツマイモはじっくりと、中に火が通るまで揚げる。
目安は沈んでいたサツマイモが浮かんでくるまで。
不安なら爪楊枝を刺してすっと通るまで揚げればいい。
サツマイモが揚がったら、天かすを掬い取って油の温度を百八十度以上に上げた。
蓮根はサツマイモと同じく低温で揚げてホッコリした感じにしてもいいが、ビクターはシャッキリとした食感の方が好きなので高温だ。
蓮根、タラの芽と揚げていき、最後にかき揚げだ。
うすいえんどうにも小麦粉を付け、天ぷら衣に入れていく。
「あ、衣が濃い感じに……まあいいか」
うすいえんどうに付けた小麦粉が多すぎたようで、ちょっと衣がもったりした感じになってしまったが、今更調整もできないのでそのまま行くことにする。
サクッとした感じは減りそうだが、まとまりやすいので問題ないだろう。
お玉を使ってゆっくりと油に入れた。
散らばらずにまとまってくれたので、ホッと胸を撫で下ろした。
このタイミングでよく失敗するのだ。苦手意識がある。
「よし!揚がった!そっこう食う!」
天ぷらはやはり揚げたてだ。
自分で揚げているのでどうしても最初に揚げたのは時間が経つが、それでもすぐに食べたい。
塩と天つゆは準備してある。
天つゆは出汁に醤油と味醂を入れてひと煮立ちさせたものだ。そのまま味を見ると醤油の味と味醂の甘みが少し主張するくらいに調整してある。
「いただきます、と」
食卓に着くと、間を開けずに揚げたてのうすいえんどうのかき揚げに塩を付けてかぶりつく。
衣と豆の外側はサクッと、中は瑞々しくもホクホク。うすいえんどうの淡い甘みが嬉しい。
「よかった。成功!」
満面の笑みを浮かべ、満足げに頷くビクターだった。
「そうなの、『薄い』とか『雨水』だと思ってる人も多いみたいんだけどね。大阪の碓井ってところが由来らしいよ。外国から輸入して日本では碓井で初めて育てたえんどう豆だから、そういう和名になったらしいのよ」
「へーー」
「これが本当の豆知識よね!」
「ははは……」
うすいえんどうを育てている農家の奥さんにそんな豆知識を披露してもらいながら、ビクターはうすいえんどうを直売所で購入した。
直売所では暇な時だと、こういった豆知識を雑談がてら語ってくれる時がある。
育てている商品だけに、実に詳しく、面白いのでビクターは目を輝かせて聞いてしまうのだった。
ちょっとした寒いオバサンギャグが入るくらいは許容範囲だ。
その雑談のおかげで、えんどう豆がツタンカーメンとかいう王様の墓の中からも発見されたという豆知識も知っていたりする。
しかし、そのツタンカーメンというのがどんな王様なのか、異世界から来て知識が偏っているビクターにはいまいち分からないのだった。
帰宅後。
「うーん、豆ご飯もいいけど、揚げ物食べたい気分だしかき揚げかなぁ」
買ってきたうすいえんどうのサヤを割って豆を取り出しながらビクターは考える。
うすいえんどうはグリンピースよりも甘みが弱いが、その代わりに青臭さがあまりない。
皮も薄くて、口に残る感じがないのでビクターは好きだった。
色もグリンピースより淡くて、これが『薄い』えんどうだと思い込む原因にもなっているらしい。
料理方法の中でビクターのレパートリーからだと、真っ先に浮かぶのは豆ご飯で、次がタケノコなど合わせた煮物だ。タケノコが終わった後の淡竹と合わせた煮物は美味いが、今は時期ではない。
そして先ほど候補に出た、かき揚げだった。
「よし!かき揚げにしよう。他にも何か天ぷらを……あ!タラの芽も売ってたよな。買って来ればよかった……。うーん、買いに行くか!」
そういって、再び出かける準備を始めた。
こんな感じで好き勝手に動ける自由さを、ビクターは愛していた。
そして、再び買い物から帰宅した後。
「いい時間だから、さっそく揚げるか」
準備したのはうすいえんどう、タラの芽、蓮根、サツマイモ。
蓮根を丁寧に洗って皮を剥いて適当な大きさに切って、一旦水に浸けておく。
サツマイモも洗って皮を剥くが、皮を剥くといっても全部は剥かない。
口に残る感じが嫌なのだが、ビクターは皮の風味も好きなので、食べやすいように途切れ途切れに剥いていくだけだ。
縞模様に皮が残ったサツマイモを厚切りにすると、皮が点線状に残っていて、ちょっとかわいい感じになる。
サツマイモも水に浸けてから、油の準備を始めた。
油はあっさりとした菜種油。
最初は火が通りにくいサツマイモを揚げるので、低めの百七十度くらい。
油の温度が上がるまでに、タラの芽の準備だ。
さっと洗って付け根の堅い部分を切り落としていく。
うすいえんどうもさっと洗い、ザルで水を切る。
「冷凍なら小エビを入れるところだけど、今日はうすいえんどうだけを楽しみたいから入れないでおこう」
ビクターはうすいえんどうを冷凍保存しているのだが、それを使う場合は小エビと合わせてかき揚げにしていた。
だが、今回はせっかくの新物なので、うすいえんどうだけのかき揚げだ。
天ぷらの衣は市販の天ぷら粉を袋に書いてあるレシピ通りに。
ビクターは実は天ぷらを作るのはあまり得意ではない。べったりした仕上がりになったりよくする。そのため失敗の確率を減らすために、頼れるものは頼るのだった。
そうこうしていると油の温度が上がったので、揚げ始める。
水に浸けていたサツマイモを、キッチンペーパーで水気をしっかり切ってから小麦粉を付ける。
「ふんふんふーーん♪」
小麦粉を付けるときはビニール袋に入れて食材とともに振るのがまんべんなく付いて楽なのだが、その時に思わず鼻歌交じりで身体を揺らしてリズムをとってしまうのだった。
余分についた粉を叩き落としたら、衣をつけて油の中へ。
ジュワーーーという心地よい音が響く。
サツマイモはじっくりと、中に火が通るまで揚げる。
目安は沈んでいたサツマイモが浮かんでくるまで。
不安なら爪楊枝を刺してすっと通るまで揚げればいい。
サツマイモが揚がったら、天かすを掬い取って油の温度を百八十度以上に上げた。
蓮根はサツマイモと同じく低温で揚げてホッコリした感じにしてもいいが、ビクターはシャッキリとした食感の方が好きなので高温だ。
蓮根、タラの芽と揚げていき、最後にかき揚げだ。
うすいえんどうにも小麦粉を付け、天ぷら衣に入れていく。
「あ、衣が濃い感じに……まあいいか」
うすいえんどうに付けた小麦粉が多すぎたようで、ちょっと衣がもったりした感じになってしまったが、今更調整もできないのでそのまま行くことにする。
サクッとした感じは減りそうだが、まとまりやすいので問題ないだろう。
お玉を使ってゆっくりと油に入れた。
散らばらずにまとまってくれたので、ホッと胸を撫で下ろした。
このタイミングでよく失敗するのだ。苦手意識がある。
「よし!揚がった!そっこう食う!」
天ぷらはやはり揚げたてだ。
自分で揚げているのでどうしても最初に揚げたのは時間が経つが、それでもすぐに食べたい。
塩と天つゆは準備してある。
天つゆは出汁に醤油と味醂を入れてひと煮立ちさせたものだ。そのまま味を見ると醤油の味と味醂の甘みが少し主張するくらいに調整してある。
「いただきます、と」
食卓に着くと、間を開けずに揚げたてのうすいえんどうのかき揚げに塩を付けてかぶりつく。
衣と豆の外側はサクッと、中は瑞々しくもホクホク。うすいえんどうの淡い甘みが嬉しい。
「よかった。成功!」
満面の笑みを浮かべ、満足げに頷くビクターだった。
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