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春
春の参 タケノコ色々
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ビクターが竹という植物を知ったのはこちらの世界に落ちてきてからだった。
前の世界には竹はなかった。
前の世界とこちらの世界は意外と似ているところが多い。
こちらに落ちてきて保護されから最初に受けた研修では、こちらとあちらは近い存在であり、時々接触するために穴が開いてビクターたちのような者たちが落ちてきているのではないかと言っていた。
まあ、ビクターにはそういった難しいことは分からないので、頭のいい人たちがそう言っているなら、そういうものなんだと納得して済ませただけだ。
ビクターからしてみれば、そんな世界よりも竹の方が不思議に思えた。
植物というより、どことなく巨大なキノコのように思える。
種ではなく地下に張った根で増え、普通の木のような幹がなくて、よくわからない中空のものが生えてくる。普通の植物よりはるかに成長が早く、芽が出たら見る見る間に成長して巨大になる。
竹という存在を知らなかったビクターには、その性質はキノコに近いように思えた。
「お!タケノコ出てる!!」
もちろん、ビクターはキノコもタケノコも好きだ。
どんなものでも、美味しければ正義なのである。
ビクターは農協の直売所で働いているが、タケノコもシーズンになれば入荷してくる。
しかし、ビクターが買うのは働いている直売所ではなく、ちょっと離れた山が並ぶ土地の直売所だった。
働いている直売所の担当地域は大きな山がなく、出てくるタケノコは里山や河川敷などのちょっとした竹藪のものだ。
収穫量もすくなく、専門に育てているわけでないので品質にばらつきが大きい。
それに比べて山が並ぶ土地の直売所には、山の竹林をちゃんと手入れして育てている農家があるのである。
「どれがいいかなー」
タケノコは数本まとめてミカンなどが入っている収縮ネットに入れて売られていた。茹でるときに使う糠もちゃんと一緒に付けられている親切仕様だ。
朝掘りで、切り口もまだ白く瑞々しく、皮に生えた毛もピンと張っていた。
まだシーズン初めということもあって高めの値段だが、十分価値があるだろう。
ビクターはできるだけ短く太い、どっしりした形の重い物を選んで購入した。
帰宅して急いで茹で始める。
タケノコは採ってから茹でるまでの時間が短ければ短いほど美味しい。採ってから時間が経ったものはえぐみが強く出る。
まずタケノコを洗う。
土がついているので、タワシを使ってできるだけ丁寧に。
たまに泥だらけのタケノコを泥付き新鮮みたいな感じで売っているのを見るが、採れたてのタケノコのすべてが泥だらけなわけではない。しかし、地下から出てくるものなので、どうしても汚れている。
めったにないが、切り口にヒビがあったりして中に土が入り込んでいる場合は、切り落とす。
それから皮の穂先部分を切り落とす。
茹でるときの糠の成分が中に入ってあく抜きされやすいように、中身を傷つけないように気を付けながら皮に縦に切り目を入れる。
付け根の部分に根が出るための赤茶色のポツポツしたものがある場合は、軽く包丁でそぎ落としておく。
そして大なべに入れ、あく抜きのための一掴みの糠を入れてからひたひたになるまで水を入れた。
あれば鷹の爪をいれるのだが、切らしているので今回は糠だけだ。それでも十分あく抜きはできる。
タケノコは浮いてくるので、落し蓋をして抑え込む。
そして火にかけてふつふつと沸騰してきたら弱火で一時間ほど。
「クッキングヒーターは便利だなー」
こういう長時間火にかけるようなときはつくづく思う。
火力も安定するし、時間が来たら切れてくれる。
串がすっと通るくらいまで茹であがったら、火を止めてそのまま完全に冷めるまで放置だ。
冷める時間もあく抜きには重要らしい。
「さて……冷めるまでの間に酒を買いに行くかぁ。タケノコといえば日本酒だよな。うん。仕方ない。仕方がないんだ」
自分に言い訳しつつ、出かける準備をする。
ビクターの腹はまだプヨっとしており、晩酌は蒸留酒中心にしているがここは譲れない。
和風のタケノコ料理を作る予定なので、日本酒は外せない。
若干の罪悪感を感じつつ、ビクターは酒屋まで出かけて行った。
そして数時間後。
完全に冷めたタケノコを鍋から取り出す。
糠まみれなのでまずは水洗い。
皮に縦に入れた切り目の左右に指をあて、力をかけると簡単に皮を剥くことができる。
皮をむいたら、中まで入り込んだ糠があるので再び軽く洗う。
皮はまだ使うので、捨てずに残しておく。
「まずはタケノコご飯の準備だな」
米を洗い、ザルで水を切る。
炊飯器に入れ、出汁をご飯を炊く時の水の量より少なめに入れる。
味醂、酒、薄口醤油を入れてから、出汁を追加して炊く時の水の量と同じ量に合わせる。
タケノコの根に近い部分を刻んで入れ、軽く湯をかけて油抜きした油揚げを入れたら炊飯器のスイッチオンだ。
「さて、姫皮煮だな」
姫皮というのは、タケノコの皮の部分で柔らかい食べられる部分だ。皮の付け根にある茶色くなっていないところのことだ。
残しておいた皮から、包丁を軽く当てるだけで切れる柔らかい部分だけ切り落とした。
小鍋に出汁を少し入れ、味醂、酒、薄口醤油で味を濃いめに付ける。好みで醤油多めで砂糖を入れて甘辛くして佃煮風にしてもいい。
「えーと、山椒は……」
冷凍庫から実山椒を取り出す。
これは佃煮などを作るために夏に茹でて軽く水に晒してあく抜きし、冷凍保存しておいたものだ。
ビクターは時々実山椒を料理に使うため、一年分を収穫時期に保存して使っていた。
実山椒を好みの量入れ、タケノコの姫皮を入れて煮込んでいく。
沸騰して火が通る程度に煮込んだらそれで完成だ。実山椒から刺激的な香りが漂っている。
「次は土佐煮だな」
茹でたタケノコの先の部分を切り取り、食べやすい大きさに切ったら、味醂、酒、薄口醤油、塩で飲める程度に味を付けた出汁で煮込んでいく。
仕上げに鰹節をひとつまみ。
「それから、木の芽和え」
山椒の葉はまだ時期が早いため、こちらも昨年の冷凍しておいたものだ。まったく売ってないわけではないが、やたら高い。とても気楽に料理には使えない。
山椒の葉は、すり鉢ですり潰した状態で冷凍してあった。
風味は落ちるが、仕方ない。
それを使う分だけ袋に入れ流水で解凍し、色付けにほうれん草の葉を一枚軽く茹でたものを足して、すり鉢でもう一度すり潰す。
そこに西京味噌を入れる。
すり鉢ですり潰しながら混ぜ、少しの酢と味醂を加えて和えやすい柔らかさに調整する。
最後に好みの甘さまで砂糖を加える。
木の芽和えの和え衣の完成だ。
「独活を切って、と」
独活は皮を剥いて、食べやすい大きさに切って酢水に晒しておく。
タケノコは堅めの根に近い方を使う。独活と同じくらいの大きさに。
どちらもキッチンペーパーでしっかり水気をきり、和え衣と和えていく。
「よし!完成!!」
「ふふふ……。思わずタケノコご飯炊いたけど、まずは地酒で食わないとな!」
日本酒の地酒で喉を湿らしてから食べ始める。
山椒の香りやタケノコと独活の軽く癖のある味。それを楽しんだら、日本酒を流し込む。
「ああ、美味い……」
しみじみと呟く。
春の味を堪能するビクターだった。
前の世界には竹はなかった。
前の世界とこちらの世界は意外と似ているところが多い。
こちらに落ちてきて保護されから最初に受けた研修では、こちらとあちらは近い存在であり、時々接触するために穴が開いてビクターたちのような者たちが落ちてきているのではないかと言っていた。
まあ、ビクターにはそういった難しいことは分からないので、頭のいい人たちがそう言っているなら、そういうものなんだと納得して済ませただけだ。
ビクターからしてみれば、そんな世界よりも竹の方が不思議に思えた。
植物というより、どことなく巨大なキノコのように思える。
種ではなく地下に張った根で増え、普通の木のような幹がなくて、よくわからない中空のものが生えてくる。普通の植物よりはるかに成長が早く、芽が出たら見る見る間に成長して巨大になる。
竹という存在を知らなかったビクターには、その性質はキノコに近いように思えた。
「お!タケノコ出てる!!」
もちろん、ビクターはキノコもタケノコも好きだ。
どんなものでも、美味しければ正義なのである。
ビクターは農協の直売所で働いているが、タケノコもシーズンになれば入荷してくる。
しかし、ビクターが買うのは働いている直売所ではなく、ちょっと離れた山が並ぶ土地の直売所だった。
働いている直売所の担当地域は大きな山がなく、出てくるタケノコは里山や河川敷などのちょっとした竹藪のものだ。
収穫量もすくなく、専門に育てているわけでないので品質にばらつきが大きい。
それに比べて山が並ぶ土地の直売所には、山の竹林をちゃんと手入れして育てている農家があるのである。
「どれがいいかなー」
タケノコは数本まとめてミカンなどが入っている収縮ネットに入れて売られていた。茹でるときに使う糠もちゃんと一緒に付けられている親切仕様だ。
朝掘りで、切り口もまだ白く瑞々しく、皮に生えた毛もピンと張っていた。
まだシーズン初めということもあって高めの値段だが、十分価値があるだろう。
ビクターはできるだけ短く太い、どっしりした形の重い物を選んで購入した。
帰宅して急いで茹で始める。
タケノコは採ってから茹でるまでの時間が短ければ短いほど美味しい。採ってから時間が経ったものはえぐみが強く出る。
まずタケノコを洗う。
土がついているので、タワシを使ってできるだけ丁寧に。
たまに泥だらけのタケノコを泥付き新鮮みたいな感じで売っているのを見るが、採れたてのタケノコのすべてが泥だらけなわけではない。しかし、地下から出てくるものなので、どうしても汚れている。
めったにないが、切り口にヒビがあったりして中に土が入り込んでいる場合は、切り落とす。
それから皮の穂先部分を切り落とす。
茹でるときの糠の成分が中に入ってあく抜きされやすいように、中身を傷つけないように気を付けながら皮に縦に切り目を入れる。
付け根の部分に根が出るための赤茶色のポツポツしたものがある場合は、軽く包丁でそぎ落としておく。
そして大なべに入れ、あく抜きのための一掴みの糠を入れてからひたひたになるまで水を入れた。
あれば鷹の爪をいれるのだが、切らしているので今回は糠だけだ。それでも十分あく抜きはできる。
タケノコは浮いてくるので、落し蓋をして抑え込む。
そして火にかけてふつふつと沸騰してきたら弱火で一時間ほど。
「クッキングヒーターは便利だなー」
こういう長時間火にかけるようなときはつくづく思う。
火力も安定するし、時間が来たら切れてくれる。
串がすっと通るくらいまで茹であがったら、火を止めてそのまま完全に冷めるまで放置だ。
冷める時間もあく抜きには重要らしい。
「さて……冷めるまでの間に酒を買いに行くかぁ。タケノコといえば日本酒だよな。うん。仕方ない。仕方がないんだ」
自分に言い訳しつつ、出かける準備をする。
ビクターの腹はまだプヨっとしており、晩酌は蒸留酒中心にしているがここは譲れない。
和風のタケノコ料理を作る予定なので、日本酒は外せない。
若干の罪悪感を感じつつ、ビクターは酒屋まで出かけて行った。
そして数時間後。
完全に冷めたタケノコを鍋から取り出す。
糠まみれなのでまずは水洗い。
皮に縦に入れた切り目の左右に指をあて、力をかけると簡単に皮を剥くことができる。
皮をむいたら、中まで入り込んだ糠があるので再び軽く洗う。
皮はまだ使うので、捨てずに残しておく。
「まずはタケノコご飯の準備だな」
米を洗い、ザルで水を切る。
炊飯器に入れ、出汁をご飯を炊く時の水の量より少なめに入れる。
味醂、酒、薄口醤油を入れてから、出汁を追加して炊く時の水の量と同じ量に合わせる。
タケノコの根に近い部分を刻んで入れ、軽く湯をかけて油抜きした油揚げを入れたら炊飯器のスイッチオンだ。
「さて、姫皮煮だな」
姫皮というのは、タケノコの皮の部分で柔らかい食べられる部分だ。皮の付け根にある茶色くなっていないところのことだ。
残しておいた皮から、包丁を軽く当てるだけで切れる柔らかい部分だけ切り落とした。
小鍋に出汁を少し入れ、味醂、酒、薄口醤油で味を濃いめに付ける。好みで醤油多めで砂糖を入れて甘辛くして佃煮風にしてもいい。
「えーと、山椒は……」
冷凍庫から実山椒を取り出す。
これは佃煮などを作るために夏に茹でて軽く水に晒してあく抜きし、冷凍保存しておいたものだ。
ビクターは時々実山椒を料理に使うため、一年分を収穫時期に保存して使っていた。
実山椒を好みの量入れ、タケノコの姫皮を入れて煮込んでいく。
沸騰して火が通る程度に煮込んだらそれで完成だ。実山椒から刺激的な香りが漂っている。
「次は土佐煮だな」
茹でたタケノコの先の部分を切り取り、食べやすい大きさに切ったら、味醂、酒、薄口醤油、塩で飲める程度に味を付けた出汁で煮込んでいく。
仕上げに鰹節をひとつまみ。
「それから、木の芽和え」
山椒の葉はまだ時期が早いため、こちらも昨年の冷凍しておいたものだ。まったく売ってないわけではないが、やたら高い。とても気楽に料理には使えない。
山椒の葉は、すり鉢ですり潰した状態で冷凍してあった。
風味は落ちるが、仕方ない。
それを使う分だけ袋に入れ流水で解凍し、色付けにほうれん草の葉を一枚軽く茹でたものを足して、すり鉢でもう一度すり潰す。
そこに西京味噌を入れる。
すり鉢ですり潰しながら混ぜ、少しの酢と味醂を加えて和えやすい柔らかさに調整する。
最後に好みの甘さまで砂糖を加える。
木の芽和えの和え衣の完成だ。
「独活を切って、と」
独活は皮を剥いて、食べやすい大きさに切って酢水に晒しておく。
タケノコは堅めの根に近い方を使う。独活と同じくらいの大きさに。
どちらもキッチンペーパーでしっかり水気をきり、和え衣と和えていく。
「よし!完成!!」
「ふふふ……。思わずタケノコご飯炊いたけど、まずは地酒で食わないとな!」
日本酒の地酒で喉を湿らしてから食べ始める。
山椒の香りやタケノコと独活の軽く癖のある味。それを楽しんだら、日本酒を流し込む。
「ああ、美味い……」
しみじみと呟く。
春の味を堪能するビクターだった。
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