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序章
はじまり(前)
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魔法と言えば、何を思い浮かべるだろうか?
呪文を唱えると飛び出す火の玉?
杖を振れば、咲き乱れる花々だろうか?
けれど、それを思い浮かべる時は、きっとその心は、夢見る心地がしているのではないだろうか?
そんな、夢の中でしか――空想上の産物でしかないはずの、『魔法』。
その『魔法』が、この世界には存在する。
それは何処かの次元の、名もなき世界。
その世界には、誰かが見た『夢』が存在する。
地を走るユニコーン。
空を舞うドラゴン。
海を泳ぐクラーケン。
波間で歌う人魚。
樹上で眠るカーバンクル。
冒険者は剣を振り、魔物を斃して糧とする。
魔法は日々の生活から、戦闘まで幅広く使われ、研究者たちは日夜議論を交わす。
錬金術師はフラスコから奇跡を生み、人々は当たり前のようにそれらを享受する。
それが、この名も無き世界の日常である。
そんな世界に、ネモフィラ・ペンタスと呼ばれる少女は生まれた。
ネモフィラことネモには、前世の記憶があった。
この世界に当たり前のように存在する魔法や、生物が空想上のものとして扱われていた世界での記憶だ。
そんな記憶を持っていたものだから、ネモにはこの世界が殊更美しく、不思議に映った。
呪文を唱えると、本当に火を灯せて。
召喚陣から、本当に幻獣が飛び出してきて。
ワイバーンに乗った騎士が、遠い空を横切って。
全てが魅力的だった。
中でも、最も魅力的に思ったのが、『錬金術』だった。
フラスコに入った鈍色の鉱石が、入れられた青い薬剤によって溶け、更に入れられた赤い薬剤によって再び結晶化し、取り出したそれは何故か美しい緑と紫の混ざる不思議な結晶となった。
庭に撒いた栄養剤は劇的で、植えた種は一週間後には花を咲かせた。
何気なく作られた傷薬は、一瞬で傷口を再生させ、作られたポーションは魔力を取り戻させた。
それは、不思議でたまらない学問だった。
何故、そんな反応になるの?
どうして、そんな物が生まれるの?
興味に導かれるまま、ネモは『錬金術』に夢中になった。
そうしていつしか一人前と認められ、『錬金術師』を名乗れるようになった。
その時、ネモは改めてこの素晴らしい世界を見渡し、思う。
もっと、この世界のことが知りたい。
そして、ネモは白銀の髪を風になびかせ、瑠璃色の瞳を輝かせて走り出した。
――それが、『不老の秘薬』を飲み、不老となった流浪の野良錬金術師、ネモフィラ・ペンタスの始まりの記憶である。
***
この世界には、ランタナ王国という赤道より北西に位置する国があった。
その国は隣国との小競り合いが稀に起きるものの、長く平和で、豊かな国だった。
そんなランタナ王国には、世界的に有名な国立魔法学園が存在する。
名門校であるその学園は、広く門戸を開いており、世界中から学生が集めてきた。
その国立魔法学園では、九月に入学式が開かれ、新たな学生達を迎えた。
新入生達は真新しい制服に身を包み、瞳をキラキラさせて、これから始まる学園生活に胸を躍らせている。
そんな、まだまだ未熟な青い果実に混じり、白銀の髪に、瑠璃色の瞳を持つ少女が居た。
「ここに、奴が居るのね……」
ニヤリ、とほくそ笑む姿は、とても十代の少女とは思えぬような貫禄があった。
「まさか、ここに条件に合う人間が生まれるとはね……。錬金術師になって結構経つけど、長く生きてみるものよね」
鼻歌でも歌い出しそうな彼女の名は、ネモフィラ・ペンタス。
『不老の秘薬』を飲み、不老の身となった世界を放浪する野良錬金術師である。
『錬金術』とは、特殊な学問だ。
植物学、薬学、自然科学、魔道学、精霊学――様々な分野を内包し、深淵なる世界を覗き見る学問だ。
故に、それらを修める『錬金術師』は多くの者達から尊敬を集める。
そんな『錬金術師』だが、正式に『錬金術師』と名乗るには、条件がある。
それは、『不老の秘薬』を自らの手で作り、飲む事である。
その条件は、覚悟の証だとも言われている。
不老となり、永久の命を手に入れて、世界の神秘の解明に、新たなものの創造に、未知への探求に、その長き生涯を捧げると言うのだから。
そんな、賢者とも呼ばれる『錬金術師』であるネモは、ランタナ王国にある魔法学園へ入学した。
ネモほど長く生き、錬金術師として身を立てられているのであれば、既に新たな学びなど必要ない。むしろ、教える立場に回れるほどだ。
それが何故、わざわざ学園に入学したかというと、それには訳があった。
「これで、長年の夢が叶う……!」
それは、ネモの長年の夢を叶えるため、ある人物と接触するためであった。
「待ってなさいよ、第三王子……!」
そして、ネモは行動を開始したのだった。
***
入学式から一週間。
学園の廊下や中庭では、クラブや同好会の勧誘が行われていた。
「『錬金術部』では、プロの錬金術師を外部から特別講師に迎えて活動しています!」
「『幻獣騎乗部』で、幻獣と触れ合いませんか?」
「『魔法剣士養成部』で共に汗を流さないか!」
キラキラとした笑顔を浮かべ、生徒達は声を張り上げて新入生たちに声を掛けていた。
そんな勧誘合戦が行われている中庭の、その端。ちょっと人目から外れた場所で、一人の少女が業務用の大きな寸動鍋をかき回していた。
少女は白銀の長髪を雑に結い、割烹着という東方のエプロンを身に着けて真剣に鍋の様子を見ている。そして、その鍋に茶色いチョコレートのようなキューブ状の何かを入れた。
すると、爆発的に得も言われぬスパイシーな香りが辺りに漂い始めた。
人々は何の香りかと足を止め、辺りを見回す。
少女が鍋をかき回す度に広がる香り。
食欲をそそるそれに、いつだってハラペコな少年達は腹を鳴らし、少女達は匂いの正体を突き止めるべく記憶を探る。
次第に人々はその香りの発生源を突き止め、二つの簡易竈に置かれた業務用寸動鍋と、大きな飯炊き釜に視線が集まる。
遠巻きに人だかりができ始め――その時が来た。
「よし!――はい、それじゃあ、『台所錬金術同好会』の勧誘を始めます! この料理は試食! 無料です! 料理の名前を当てられたら、料理のレシピとスパイスをプレゼント! ふるってご参加くださ~い!」
瑠璃色の瞳を持つ、活発な印象を受ける少女の声に、腹を鳴らした人々は、一斉に群がった。
***
「は? 中庭のクラブ勧誘で騒ぎが起きている?」
「はい、そうなんです!」
ランタナ王国の第三王子、ヘンリー・ランタナがそれを聞いたのは、講師と話を終え、帰り支度をしていた時だった。
王族に媚びを売る講師の長い自慢話を聞き終え、ようやく帰れると息をついた時、見覚えのある貴族の令息が慌ててこちらに駆け寄ってきたのだ。
彼が言うには、クラブ勧誘で異国の料理を振舞っていた少女に、貴族の青年が居丈高にレシピを要求したのだとか。
「けど、その子は料理の名前を当てられたら渡すの一点張りで……」
そもそも、彼女は最初からそう言って料理を振舞っており、権力でレシピを取り上げるような真似をせずとも、料理の名前さえ当てればいいのだ。実際、何名もそのクイズに挑戦し、撃沈していた。
しかし、それに業を煮やして、貴族の青年がそんなことを言い出し、少女と睨み合っているらしい。
ヘンリーはそれを聞き、何で俺に言うのかな、教員に言えよ、と思いながらも、「それは大変だ、止めなくては」と嘯いて中庭へ足を向けた。
内心、面倒だと思いつつも、この問題を知らせに来た令息が、教員に知らせずにヘンリーに知らせたのも仕方がないと思っていた。貴族の青年の身分が高ければ、教員によっては仲裁が難しい場合があるのだ。
学内では身分を問わず、平等に学問の徒であれ、という理念はあれど、それを実際に
実行できるかと言えば、難しいのが現実である。
そうしてヘンリーは小さく溜息をつきながら、中庭へと出た。
そして、気付く。
中庭に漂う、懐かしい匂いに――
「これは……」
匂いの発生源に近づくにつれ、男女の言い争う声が聞こえてくる。
「この方を誰だと思っているんだ! ハルブレイド伯爵家の第二子、クライド様だぞ!」
「そんなの、知った事じゃないわよ! そんな立派なお家の出なら、それに見合う礼儀を身に着けて来なさいよ!」
「貴様! 平民のくせに、生意気な!」
「平民が何だってのよ! 知ったことじゃないのよ、ボンボンのワガママなんて! だいたい、アンタのワガママで何をしようっていうの? パパに何て言うわけ? クイズの景品が欲しいから、新入生をやっつけて、って? 馬鹿言うんじゃないわよ、アンタ、親に恥かかせる気!?」
とんでもねぇ舌戦が繰り広げられていた。
頬が引きつるのを感じつつ、現場に近づき、咳払いをする。
「あー、ちょっとすまない。双方、落ち着いてくれ」
貴族の子弟らしき青年三人は、割って入ったヘンリーを一瞬睨み付けるものの、自国の第三王子である事に気付き、即座に姿勢を正した。
そして、彼等に難癖付けられていた白銀の髪の少女は、パチリと瞳を瞬かせて、ヘンリーを見つめた。
「何やら争いごとが起きていると聞いて――」
ヘンリーはそこまで言い、ふと、視界の端に飛び込んできたそれを見て、呟いた。
「うわっ、カレーライスじゃないか! やっぱり、あの匂いはカレーだったか!」
その言葉に、その場に居た誰もが目を剥いた。
そして、人々の視線は次第に白銀の髪の少女へ向かう。
視線の先の少女はヘンリーの顔を凝視し、次の瞬間破顔した。
そして徐に割烹着のポケットに手を突っ込んで、取り出したクラッカーを鳴らした。
ヘンリーはクラッカーから飛び出した紙吹雪に濡れながら、それを聞いた。
「大正解~! 同郷人様、一名ご案内~!」
少女――ネモフィラ・ペンタスの、浮かれたような、上機嫌の声が中庭に響き渡った。
呪文を唱えると飛び出す火の玉?
杖を振れば、咲き乱れる花々だろうか?
けれど、それを思い浮かべる時は、きっとその心は、夢見る心地がしているのではないだろうか?
そんな、夢の中でしか――空想上の産物でしかないはずの、『魔法』。
その『魔法』が、この世界には存在する。
それは何処かの次元の、名もなき世界。
その世界には、誰かが見た『夢』が存在する。
地を走るユニコーン。
空を舞うドラゴン。
海を泳ぐクラーケン。
波間で歌う人魚。
樹上で眠るカーバンクル。
冒険者は剣を振り、魔物を斃して糧とする。
魔法は日々の生活から、戦闘まで幅広く使われ、研究者たちは日夜議論を交わす。
錬金術師はフラスコから奇跡を生み、人々は当たり前のようにそれらを享受する。
それが、この名も無き世界の日常である。
そんな世界に、ネモフィラ・ペンタスと呼ばれる少女は生まれた。
ネモフィラことネモには、前世の記憶があった。
この世界に当たり前のように存在する魔法や、生物が空想上のものとして扱われていた世界での記憶だ。
そんな記憶を持っていたものだから、ネモにはこの世界が殊更美しく、不思議に映った。
呪文を唱えると、本当に火を灯せて。
召喚陣から、本当に幻獣が飛び出してきて。
ワイバーンに乗った騎士が、遠い空を横切って。
全てが魅力的だった。
中でも、最も魅力的に思ったのが、『錬金術』だった。
フラスコに入った鈍色の鉱石が、入れられた青い薬剤によって溶け、更に入れられた赤い薬剤によって再び結晶化し、取り出したそれは何故か美しい緑と紫の混ざる不思議な結晶となった。
庭に撒いた栄養剤は劇的で、植えた種は一週間後には花を咲かせた。
何気なく作られた傷薬は、一瞬で傷口を再生させ、作られたポーションは魔力を取り戻させた。
それは、不思議でたまらない学問だった。
何故、そんな反応になるの?
どうして、そんな物が生まれるの?
興味に導かれるまま、ネモは『錬金術』に夢中になった。
そうしていつしか一人前と認められ、『錬金術師』を名乗れるようになった。
その時、ネモは改めてこの素晴らしい世界を見渡し、思う。
もっと、この世界のことが知りたい。
そして、ネモは白銀の髪を風になびかせ、瑠璃色の瞳を輝かせて走り出した。
――それが、『不老の秘薬』を飲み、不老となった流浪の野良錬金術師、ネモフィラ・ペンタスの始まりの記憶である。
***
この世界には、ランタナ王国という赤道より北西に位置する国があった。
その国は隣国との小競り合いが稀に起きるものの、長く平和で、豊かな国だった。
そんなランタナ王国には、世界的に有名な国立魔法学園が存在する。
名門校であるその学園は、広く門戸を開いており、世界中から学生が集めてきた。
その国立魔法学園では、九月に入学式が開かれ、新たな学生達を迎えた。
新入生達は真新しい制服に身を包み、瞳をキラキラさせて、これから始まる学園生活に胸を躍らせている。
そんな、まだまだ未熟な青い果実に混じり、白銀の髪に、瑠璃色の瞳を持つ少女が居た。
「ここに、奴が居るのね……」
ニヤリ、とほくそ笑む姿は、とても十代の少女とは思えぬような貫禄があった。
「まさか、ここに条件に合う人間が生まれるとはね……。錬金術師になって結構経つけど、長く生きてみるものよね」
鼻歌でも歌い出しそうな彼女の名は、ネモフィラ・ペンタス。
『不老の秘薬』を飲み、不老の身となった世界を放浪する野良錬金術師である。
『錬金術』とは、特殊な学問だ。
植物学、薬学、自然科学、魔道学、精霊学――様々な分野を内包し、深淵なる世界を覗き見る学問だ。
故に、それらを修める『錬金術師』は多くの者達から尊敬を集める。
そんな『錬金術師』だが、正式に『錬金術師』と名乗るには、条件がある。
それは、『不老の秘薬』を自らの手で作り、飲む事である。
その条件は、覚悟の証だとも言われている。
不老となり、永久の命を手に入れて、世界の神秘の解明に、新たなものの創造に、未知への探求に、その長き生涯を捧げると言うのだから。
そんな、賢者とも呼ばれる『錬金術師』であるネモは、ランタナ王国にある魔法学園へ入学した。
ネモほど長く生き、錬金術師として身を立てられているのであれば、既に新たな学びなど必要ない。むしろ、教える立場に回れるほどだ。
それが何故、わざわざ学園に入学したかというと、それには訳があった。
「これで、長年の夢が叶う……!」
それは、ネモの長年の夢を叶えるため、ある人物と接触するためであった。
「待ってなさいよ、第三王子……!」
そして、ネモは行動を開始したのだった。
***
入学式から一週間。
学園の廊下や中庭では、クラブや同好会の勧誘が行われていた。
「『錬金術部』では、プロの錬金術師を外部から特別講師に迎えて活動しています!」
「『幻獣騎乗部』で、幻獣と触れ合いませんか?」
「『魔法剣士養成部』で共に汗を流さないか!」
キラキラとした笑顔を浮かべ、生徒達は声を張り上げて新入生たちに声を掛けていた。
そんな勧誘合戦が行われている中庭の、その端。ちょっと人目から外れた場所で、一人の少女が業務用の大きな寸動鍋をかき回していた。
少女は白銀の長髪を雑に結い、割烹着という東方のエプロンを身に着けて真剣に鍋の様子を見ている。そして、その鍋に茶色いチョコレートのようなキューブ状の何かを入れた。
すると、爆発的に得も言われぬスパイシーな香りが辺りに漂い始めた。
人々は何の香りかと足を止め、辺りを見回す。
少女が鍋をかき回す度に広がる香り。
食欲をそそるそれに、いつだってハラペコな少年達は腹を鳴らし、少女達は匂いの正体を突き止めるべく記憶を探る。
次第に人々はその香りの発生源を突き止め、二つの簡易竈に置かれた業務用寸動鍋と、大きな飯炊き釜に視線が集まる。
遠巻きに人だかりができ始め――その時が来た。
「よし!――はい、それじゃあ、『台所錬金術同好会』の勧誘を始めます! この料理は試食! 無料です! 料理の名前を当てられたら、料理のレシピとスパイスをプレゼント! ふるってご参加くださ~い!」
瑠璃色の瞳を持つ、活発な印象を受ける少女の声に、腹を鳴らした人々は、一斉に群がった。
***
「は? 中庭のクラブ勧誘で騒ぎが起きている?」
「はい、そうなんです!」
ランタナ王国の第三王子、ヘンリー・ランタナがそれを聞いたのは、講師と話を終え、帰り支度をしていた時だった。
王族に媚びを売る講師の長い自慢話を聞き終え、ようやく帰れると息をついた時、見覚えのある貴族の令息が慌ててこちらに駆け寄ってきたのだ。
彼が言うには、クラブ勧誘で異国の料理を振舞っていた少女に、貴族の青年が居丈高にレシピを要求したのだとか。
「けど、その子は料理の名前を当てられたら渡すの一点張りで……」
そもそも、彼女は最初からそう言って料理を振舞っており、権力でレシピを取り上げるような真似をせずとも、料理の名前さえ当てればいいのだ。実際、何名もそのクイズに挑戦し、撃沈していた。
しかし、それに業を煮やして、貴族の青年がそんなことを言い出し、少女と睨み合っているらしい。
ヘンリーはそれを聞き、何で俺に言うのかな、教員に言えよ、と思いながらも、「それは大変だ、止めなくては」と嘯いて中庭へ足を向けた。
内心、面倒だと思いつつも、この問題を知らせに来た令息が、教員に知らせずにヘンリーに知らせたのも仕方がないと思っていた。貴族の青年の身分が高ければ、教員によっては仲裁が難しい場合があるのだ。
学内では身分を問わず、平等に学問の徒であれ、という理念はあれど、それを実際に
実行できるかと言えば、難しいのが現実である。
そうしてヘンリーは小さく溜息をつきながら、中庭へと出た。
そして、気付く。
中庭に漂う、懐かしい匂いに――
「これは……」
匂いの発生源に近づくにつれ、男女の言い争う声が聞こえてくる。
「この方を誰だと思っているんだ! ハルブレイド伯爵家の第二子、クライド様だぞ!」
「そんなの、知った事じゃないわよ! そんな立派なお家の出なら、それに見合う礼儀を身に着けて来なさいよ!」
「貴様! 平民のくせに、生意気な!」
「平民が何だってのよ! 知ったことじゃないのよ、ボンボンのワガママなんて! だいたい、アンタのワガママで何をしようっていうの? パパに何て言うわけ? クイズの景品が欲しいから、新入生をやっつけて、って? 馬鹿言うんじゃないわよ、アンタ、親に恥かかせる気!?」
とんでもねぇ舌戦が繰り広げられていた。
頬が引きつるのを感じつつ、現場に近づき、咳払いをする。
「あー、ちょっとすまない。双方、落ち着いてくれ」
貴族の子弟らしき青年三人は、割って入ったヘンリーを一瞬睨み付けるものの、自国の第三王子である事に気付き、即座に姿勢を正した。
そして、彼等に難癖付けられていた白銀の髪の少女は、パチリと瞳を瞬かせて、ヘンリーを見つめた。
「何やら争いごとが起きていると聞いて――」
ヘンリーはそこまで言い、ふと、視界の端に飛び込んできたそれを見て、呟いた。
「うわっ、カレーライスじゃないか! やっぱり、あの匂いはカレーだったか!」
その言葉に、その場に居た誰もが目を剥いた。
そして、人々の視線は次第に白銀の髪の少女へ向かう。
視線の先の少女はヘンリーの顔を凝視し、次の瞬間破顔した。
そして徐に割烹着のポケットに手を突っ込んで、取り出したクラッカーを鳴らした。
ヘンリーはクラッカーから飛び出した紙吹雪に濡れながら、それを聞いた。
「大正解~! 同郷人様、一名ご案内~!」
少女――ネモフィラ・ペンタスの、浮かれたような、上機嫌の声が中庭に響き渡った。
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