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2章『転生×オメガ=当て馬になる』

03※

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そりゃそうだ。だって在昌さんには桃ちゃんが居るのだもの。分かっていた事だ。何度も繰り返した事実、だ。

きっと、在昌さんは桃ちゃんと付き合うのだろう。例え今、在昌さんに桃ちゃんへと矢印が向いていなくても、毎日のように傍に居るのなら人の気持ちはたやすく変わるだろう。

私とは何もかも違う、圧倒的なオメガ。

分かっていた事なのに。覚悟していた事なのに。好き、という気持ちを気のせいだと思うことを決めたのに。

現実はこんなにもうまくいかない。

まるで在昌さんと桃ちゃんの関係を認めたくないと言うかのように、胸が苦しくなる。

当て馬。

その通り、なのに。

「…真緒ちゃん」
「………」

有沢先生が私の肩に手を置く。

――その時、だった。

「――ぁっ!?」

有沢先生が肩に手を置いたところから電流が身体中を駆け巡る。それは、下半身へと向かっていき、自身でもわかる程の情欲が私を襲った。

溢れた愛液は壊れてしまった蛇口のように太腿までも濡らしていく。

「ぁ…あ……」

有沢先生に縋りながら、床へと崩れ落ちる私を真っ赤な顔をした有沢先生が私を見下ろしていて。

欲しい。
欲しい。
埋め込んで、欲しい。

そうすれば、この熱が収まると思った。

「有沢、せんせぇ…っ」

雌が縋る声だった。くらくらする。有沢先生のアルファの香りが余計に私の頭を犯していった。

「真緒、ちゃ…」
「苦しぃ、です…お願い…助けて、せんせぇ…っ…」

床が愛液で濡れていく。ああ、まるでエッチな本みたいだな、と頭の片隅で思いながら、微かに腰を揺らせば、迸る快楽。

「ぁあ…!」

気持ち良い。
気持ち良い!

無我夢中で有沢先生の足にしがみ付きながら、腰を揺らす。その度にぬちぬちと音を鳴らしながら得られる快楽は、在昌さんに与えられた快楽には程遠くて。

在昌さん。
在昌さん。

「ぁ、りまさ…さ、ぁ…お願い、…っ……ぅ…」

頭がぐちゃぐちゃだった。目の前に居るのは有沢先生なのに、目を瞑れば確かに在昌さんが居て。

「真緒ちゃん、ごめんね」

誰かが私の首を撫でる。
ひんやりとした掌が気持ち良い。でも、この掌は私の知っているあの掌では無かった。

「ふ…ん、ぅ…」

涙が溢れる。身体の苦しさと胸の苦しさで張り裂けてしまいそう。

「在昌さ、……っ?」

チクリ、と首筋に何かが刺さった。それが注射針だと理解した時には私の意識は途切れ始めていて。

「危な…っ」

息を乱した有沢先生が汗を拭いながら私を抱きかかえる姿をぼやけた視界に映しながら、私の意識は闇に包まれた。



*****



――危なかった。
本気で危なかった。まさかいきなりヒートするとは思ってもみなかった。多分発情期では無いだろう。

真緒ちゃんの身体をベッドに横たえながら、顔色を覗き込めば真っ赤だった頬が元通りの色に戻っていく。

もしも発情期なら、下手したらこの強力な抑制剤ですら効かない。咄嗟に打ってしまったが、顔色と脈を診たところ大丈夫だろう。

「それにしても…」

久々に強烈な匂いだった。
恐らく在昌の事を想っていたのだろう。オメガの匂いは持ち主の状況で匂いが僅かに変わる。勿論、普通のアルファだと気付かないだろう。俺のような医者や、特別な存在である番ならわかる。

アルファの匂いに慣れた俺ですらクラッときた。もしも抑制剤が近くになければ、あのまま無我夢中で抱いていたかも知れない。

「…在昌に殺されたくないしー」

独りごちながら、俺は電話を取り真緒ちゃんの主へと電話を掛ける。在昌は仕事中だ。出ない可能性もあるが、それは杞憂に終わった。

『…佑司か?珍しいな。真緒ちゃんに何かあったのか?』

挨拶も無しに真緒ちゃんの心配かい。本当、なんだかねぇ。

「んー、そう。何かあった。真緒ちゃんが倒れたんだけど」
『今すぐ行く』

即答して、こっちの話を聞く前に電話を切りやがった。特に問題はなさそうだから大丈夫、と言おうとしたのだけれど、ね。

「本当…おもろー」

在昌とは小学生の時からずっと一緒で、在昌の性格をわかりきっているつもりだけれど、真緒ちゃんに接する在昌は初めてみる。

在昌はモテる。アルファ抜きにしても凄くモテるのだ。それも、全バース性にだ。羨ましいを越えて、可哀想になってくる程だ。まぁ、中には僻んでいる奴もいるみたいだけれどね。
そして、奴は非常に冷たい。何度、男女達が泣いている所をみた事か。…気まぐれで付き合ったとしても、長く続かない。

理由は、愛されているかわからない。だそうだ。元恋人達は泣きながら在昌にそういう。
そして在昌は表情一つ変えずに、そう。で終わるのだ。

そんな在昌が…。

正直、在昌が心配だった。確かに在昌にはトラウマがある。けれど、医者としても親友としてもそれを乗り越えて幸せになってほしかった。

そんな在昌がニヤけながらオメガと一緒に居るのだ。ずっと傍で見ていた俺としては親の気持ちだ。
けれど、この真緒ちゃんは鈍感なのか、気付かない。寧ろ、こんな私が…、と否定しているようにも見える。

確かに在昌を知らない者からしたらそう思ってしまうのも仕方がない。ましてや真緒ちゃんは異例の存在だ。
彼女が言う、おめみつとやらの在昌の存在もあるのだろう。

おめみつとやらの在昌は優しくて、何でも出来る桃ちゃんとやらにぞっこんなスパダリ溺愛在昌様らしい。
正直、何を言っているか早口過ぎて全部は分からなかったが、何となく理解はした。

そんな在昌と、この現実の在昌。

全然違うのだ。だが、真緒ちゃんにとって在昌はおめみつの在昌なのだ。

「うーん…」

正直、うさんくさい話なのかもしれない。けれど、俺は信じた。
真緒ちゃんが嘘を吐いているとは思えないし、俺には知らない世界が沢山あるしね。

取りあえずは静観しておこう。それでもくっつかないのなら――…



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