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2章『転生×オメガ=当て馬になる』

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「はい。では追加で此方の方をお願いします。期日は一週間後となっておりますので」
「ありがとうございます!」

工場で終えた製品を窓口に渡し、新たな仕事を貰う。今回も同じ部品だった。

再び貰った通い箱を車に乗せていた時、助手席に置いてあった携帯電話が鳴る。電話と言う事は在昌さんだ。先日在昌さんに契約してもらった携帯電話は悲しい事に在昌さんしか登録されていないのだ。

荷物を急いで詰め込み、電話に出る。

「はい!」
『あ、真緒ちゃん?今工場に居るよね?』
「あ、はい。頂いたお仕事が終わったので…。えと、何故それを」
「俺も丁度居るんだ」

電話の声と後ろから聞こえた声がリンクする。驚いて振り向けば、スーツ姿の在昌さんが小さく手を振って私の方へとやって来た。

「今日は会議があってたまたま工場に来てたんだ。偶然だね」
「そうなんですね。お疲れ様です。私は丁度お仕事が終わったので納品しに来たんです」
「へぇ、あの量をもう終わらせたんだ。器用なんだね」

スーツ姿の在昌さんが微笑みながら私の頭をぽん、と撫でる。

それにしても本当にスーツが似合うなぁ。毎日見るけれど、毎回見とれてしまう程スーツを着こなしている。スーツは在昌さんの為に生まれてきたんだ、きっと。

「そうだ。お昼なんだけど…」
「神崎重役!」

在昌さんの後ろから小柄な女性が小走りで此方にやって来る。
何故か在昌さんの表情が強ばる。

女性が近付くにつれ、私の心拍数が上がっていく。

守ってあげたくなる程の華奢で、豊満なバスト。一見学生に見えるベビーフェイス。口元のセクシーなほくろは…。

「……如月君」

間違い無い。桃ちゃんだ。
息を弾ませながら綺麗に整えられた指先で在昌さんのスーツの裾をくい、と引っ張る姿は、誰もが可愛い…と口に出してしまいたくなる程で。

目の前に現れた桃ちゃんは、オメガの私でも分かる程の圧倒的なオメガだった。

アルファに愛される為に産まれたような、存在。
甘い声。可愛らしい容姿。アルファが好みそうな体型。そして仄かに香る甘い香り。

「いきなり走って出て行かれるんですもん。桃、驚いちゃいましたよぅ」

身体をくねらせながら、自分の事を名で呼ぶ桃ちゃん。もしも私が身体をくねらせながら真緒ねぇ…なんて言い出した日には誰もが卒倒するレベルだ。
そんな幼稚ともとれる行動だが、桃ちゃんがすると色気を感じられるのだから神様は不公平だと思う。

失礼と思いつつも、まじまじと桃ちゃんを見ていた私に、大きな瞳が私の方へと視線を向ける。

「…神崎重役。この方は…?」

…うわぁ。めっちゃバリバリ警戒してる。
そりゃあそうだ。在昌さんという絶世の美形が私みたいなモブと一緒に居るのだもの警戒するわさ。

「…如月さんには関係の無い方なので」
「えぇー…。私は神崎重役の秘書ですよぉ?多少の友好関係を知る権利があると思うんですけどぉ」

桃ちゃんの態度に嫌なモノを感じつつも、在昌さんの口調には驚かされた。
オメ蜜ではこんなに冷たい口調で話す設定はどこにも無かった。寧ろ、優しい口調で真面目な性格の為、社員からはとっつきやすい重役だ、と良い意味で好かれていた。

「あ、あの、在昌さん…」
「ああ、ごめんね。真緒ちゃん、引き留めて。気を付けて帰るんだよ」
「は、はい。在昌さんもお仕事頑張ってくださいね」

どうやら在昌さんは桃ちゃんと私を関わらせたくないようだった。私に向ける表情がやや引きつっている。
私は精一杯の笑みを浮かべながら在昌さんに別れを告げれば、耳元で今夜のご飯のリクエストを囁いた。

ハンサムでイケボな男性が耳元でオムライス…と告げる様は何とも言い難い。
私はオッケーサインを指で作りながら、微かに感じる殺気に気を取られないよう、そそくさと車に乗り込んだ。

だが、油断してしまった。バックミラーに映る桃ちゃんとバッチリと目が合ってしまったのだ。

「ヒェッ……」

――…何という目つきをしているのだ。

私は咄嗟に目を逸らし、アクセルを踏み込んでその場を離れた。なんだかこの世界の桃ちゃんは私の知っている桃ちゃんではない気が、する。

オメ蜜の桃ちゃんは、健気で人を疑わない純粋な子だった。それに努力家でも有り、在昌さんの肩書きに頼らず日々努力して重役の専属秘書という職に就いたのだ。

「…桃ちゃんは在昌さんが好き、なんだよね」

だとしたら先程の態度はしょうがないのかも知れない。
恋する乙女だ。好きな男性の傍に知らない女、しかもオメガが居たら嫌だろう。私だって嫌だ。

この世界のヒロインは桃ちゃんなのだ。
いくら私の知らないオメ蜜だとしても、私にとっては異世界オメ蜜である。だとすると…

ヒロインの桃ちゃん。
ヒーローの在昌さん。

…私は?

「紛うことなき当て馬、じゃないか…!」



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