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1章『転生×オメガ=あほ顔になる』

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目を覚ましたら、知らない天井が広がっていた――…何て事は起きずに、私は現状を理解したまま朝を迎えた。
余程疲れていたのか、枕元に置いてある時計を見やれば11時を回っていた。気のせいだろうか。目を擦って見直しても時間は変わらず、11時のままだった。

「在昌さんっ…!!す、すみません!」

スライディングばりに急いでリビングに向かえば、ラフな格好をしてPCを操作していた在昌さんが出迎えてくれた。
眼鏡を掛けた姿が神々しい。目が潰れそうだ。その眼鏡は眼鏡として生まれてきた事に感謝すると良い。

「おはよう…んー、この時間はおそようかな?」
「お、おそようございます…、すみません、寝坊してしまって…」
「ふふ、良いよ。気にしないで、ね。ゆっくり休めたかな?」

立ち上がり、私の顔色を確認する。何故顔を近付けるのか。何故、頬をふにふにするのか。気に入ったのだろうか。
在昌さんの問いに力強く頷けば、在昌さんは美味しそうな珈琲を入れてくれた。
大きなマグカップを受け取り、案内されたソファーに身を沈め一口啜る。何故珈琲はこんなにも気持ちが落ち着く香りがするのだろうか。

「取りあえず…病院に行って貰おうと思うんだけど良いかな」
「病院、ですか…」
「うん。君がオメガだと俺は思うんだけど、昨日の様子だと納得してないよね。それに抑制剤も出して貰わないと」

確かに在昌さんの言う通りだ。何となく自分がオメガなのではと思ってはいるが、お医者さんに言って貰った方が納得する。
だけれど、保険証がないのだ。それに、身分証も無い。そんな私がお医者さんに見てもらえるとは思えないのだ。

「安心して。今日診てもらう先生は友人だから。先に真緒ちゃんの事は言ってあるよ。ごめんね。相談無しに伝えちゃって」

私の考える事は在昌さんにはお見通しだったみたいだ。

「お金は気にしないで。俺が払うって言っても頷かないだろうからお給料から天引きにするね」
「あ、ありがとうございます」

在昌さんに会って1日も経っていないのに、私の性格を把握しているようだった。そういえば、オメ蜜の在昌さんはとある有名企業のお偉いさんだったなぁ。部下から慕われている描写が羨ましく感じた。私の勤めていた会社の社長は……、うん。

「取りあえず着替え用意したから支度しておいで、脱衣所に用意したから」
「ありがとうございます」

在昌さんに頭を下げ、脱衣所に向かう。
足下に、見た事の無いショップの手提げ袋が置いてあった。わざわざ用意してくれたのだろうか。

「うわ…可愛い」

中身を取り出し、広げればパステルカラーのワンピースだった。
普段、スカートを着用しない私からするとハードルが高いが、在昌さんが用意してくれた物だ。似合っていなくても喜んで着ようではないか。

「ん…?」

袋にはまだ何か入っているようだった。覗けば可愛らしいピンク色の下着があった。何故かサイズもドンピシャで。

昨日のアレで分かったのだろうか、私の胸のサイズを…。そう思うと恥ずかしい。私も桃ちゃんみたいにバインバインだったら良いのだが、如何せんBカップのお胸である。

在昌さんは一体どんな表情でこの下着やワンピースを購入したのだろうか…。
私は在昌さんに感謝しながら、下着を身に着け、ワンピースに袖を通した、が。

「ファスナーが…」

ファスナーが背中にあるデザインだった。鋼鉄のように身体が硬い私にはどう足掻いても届かない。
流石に開けたまま街を繰り出す訳にもいかない。

私は恥を忍んで、在昌さんにお願いする事にした。

「あ、在昌さん…」
「ん?」
「あ、あの、ファスナーを閉めて頂いても宜しいでしょうか…」

ドアを少し開け、顔を出しながら在昌さんにお願いした。
在昌さんは悟ったようで、謝りながら私の元へと足を向けた。

「ごめん、気が回らなかったよね」
「い、いえ!素敵なお洋服をありがとうございます!」

私の後ろに立ち、ジーッとファスナーを上げてくれた。肌を見られる事に恥じらいを感じたが、全開で歩くよりかはマシだろう。

私は振り向いて、在昌さんにお礼を言おうとしたが、何故か身体が動かなかった。

「あ、在昌さん…?」

在昌さんの手が、私の肩を掴みながら首筋をすぅっと撫でる。こそばゆい感覚に私の身体は震えて。あ、と小さく声が漏れたと同時に首に何かの感触が。この濡れた感触は舌、だ。

「……っん、」
「――はぁ」

何かに耐えるかのように吐息を漏らしながら、私の身体を抱きしめた。微かに掛かる吐息がこそばゆい。


暫くの沈黙が流れた後、私から離れた在昌さんはごめん、と小さく呟いてリビングへと戻っていった。
いきなりされた抱擁に、今更になって呼吸が乱れる。いまだに背中に残る在昌さんの温もり。

私は急いで冷水で顔を洗った。このままだと昨日のような状況になりそうだった。何度も冷水を顔に浴びせる。そうすれば冷静を取り戻せるような気がしたから。



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