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★俺は元勇者
しおりを挟む「ノゾム、ぎゅーは?」
「……わかったよ」
付き合うようになってから、カナタは俺にスキンシップを要求してくるようになった。
「二人きりになったらハグ」という、約束をカナタはなかなか気に入っているらしく、お互いの部屋で遊ぶ時はいつもカナタから思い切り抱き締められる。
今日だって「もうすぐテストだから、勉強を教えて」と言うから部屋に来たのに、まだ教科書も開いていないうちから「約束は?」とカナタはすり寄ってきた。
まさか、「必ずお前を殺してやるからな。その時はこんなもんじゃない」と気絶するまで俺をいたぶってきた魔王と生まれ変わった先でこんな関係になるなんて……と複雑な気持ちで俺は毎日を過ごしている。
「も、もういいだろ……? 俺、今日はすごく汗をかいてるし……」
「まだ、ダメ。ふふっ、ノゾムってば恥ずかしいの?」
「……そりゃ恥ずかしいだろ」
石鹸や柔軟剤の力なのか、昔と違って現代人は、なぜかみんな男も女も良い匂いがするし……、とは言えずに黙っているとカナタが俺の額にそっと唇で触れた。
「キスは……? 嫌い?」
「え……、よくわからな」
い、まで言い切る前に、カナタの顔が近付いてきて、唇が重ねられた。
「んっ……」
ハッキリとそう言われたわけじゃないけど、最近カナタはもっともっと先へ進みたがっているような気がする。
他の家族が家にいる時は我慢しているようだけど、誰もいないと俺の体に触ってこようとするからだ。
普通の、人間の高校生はそういうものなんだろうか、とも思えるし、そうなのだとしたらカナタのそういった部分を出来るだけ受け止めてやりたい、という気持ちにもなる。
それに……俺自身も興味がないわけじゃない。ソワソワと落ち着かないようでいて、一度触れ合うと離れられなくなるような、不思議な時間だっていつも感じていた。
高校生として生きる自分の気持ちに正直になって、カナタと向き合うべきだって頭ではわかっている。それなのに、古い前世の記憶が「ダメだって! コイツが誰か忘れたのか!?」といつだって邪魔をしてくる。
「ん、んぅ……」
熱い舌で口の中を舐め回されて、くたりと力の抜けた体がそのまま床に押し倒される。ちゅ、ちゅ、と口付けられながら胸を撫で回されると、体はどうしても反応してしまう。
足をモゾモゾさせて勃起した性器を隠そうとしていると、わざとなのか太ももにカナタが固いモノを擦り付けてきた。
「わ……! えっ? えーっ……」
「嫌……?」
おっとりした口調の効果なのか、何を言ったとしても甘えているように聞こえるから、カナタはズルイ。モジモジと照れ臭そうにしながら、えへへ、と笑いかけられてなんだか俺まで恥ずかしくなってしまった。
「い、嫌じゃないけど……」
「ねえ、ノゾム」
一度、開きかけた口を閉じた後、カナタは困った様子でほんの短い間、何かを考えていた。それから、顔を上げると真っ直ぐ俺の目を見つめてきた。
「あんまり寂しいと、俺、何かを思い出しちゃうかも」
ひゅっ、と思わず息を呑んだ。顔つきも声色も、いつもとちっとも変わらないのに、カナタがどこか手の届かないほど遠い所に行ってしまうような気がした。
「だ、ダメだっ……! それだけは絶対ダメだ……!」
「ノゾム……? 冗談だって。慌てすぎだろ」
カナタの手がポンポンと俺の頭を撫でた。普段だったらやめろよ! と腹を立ててしまうような、子供を扱いされている、と感じる仕草でも今はすごく安心出来た。「本当に? 本当に何も思い出してないか?」と何度も確認していると、カナタに笑われてしまった。
「本当に冗談だって。……でも、したいな」
「……いいよ」
カナタが古い記憶を思い出さないですむのなら、それで構わなかった。
「本当?」
「……でも、初心者だから、少しだけ」
初心者、とカナタはわざわざ復唱した後、パチパチと瞬きを繰り返した。それから、「うん、わかった。少しだけ」と素直に頷いた。
◆
……前世の出来事とはいえ俺がこの手で殺してしまった、という負い目があるせいなのか、俺はカナタから「寂しい」「怖い」とすり寄られるとどうしてもそれを断ることが出来ない。
時々、これはカナタが言う「好き」とは違う何かなんじゃないかって思うと、すごく苦しい。こんな気持ちのまま、カナタが望むように先へ進んでいいのかわからないまま、モジモジと服を脱いだ。
「いっつも体育の時は一緒に着替えているのに、変な感じだね……」
「……うん」
二人ともパンツだけを身に付けた格好でいるのは、なんだかマヌケな光景なのに、いつもみたいにふざけ合ったり、笑ったりすることが出来なかった。
体育で着替える時は「昔と全然違う体つきだけど、やっぱりコイツは魔王だ……!」とカナタの体をジロジロ眺めていたけれど、こうして二人っきりの時に服を脱ぐのは初めてだったから本当はすごく緊張している。
「ノゾム、大丈夫……?」
カチコチになった俺の腕を擦りながら、カナタが心配そうな様子で首を傾げた。
本当にこのままいいんだろうか、という気持ちもまだ心の中からはいつまでも消えなくて、少しだけ不安だった。不安だけど……。
今は何の力も持っていないけれど、それでも俺は勇者の生まれ変わりなのだから、カナタの気持ちをちゃんと受け止めてやりたかった。
肉体にも恵まれず、魔法も使えない高校生へ生まれ変わった俺だけど、勇気だけは無くしていない。だって、厳しい冒険をやり遂げた元勇者だからな……と、自分を奮い立たせていると、カナタが思い切り抱き付いてきた。
「俺、ノゾムの顔つきが好きだな。いつでもキリッとしてて勇ましい……」
「えっ!? そうかな!?」
「うん。授業中に『プリントが一枚足りません!』とか、そんな事を言う時でも、いちいち凛々しくてすげー笑える……。可愛い」
「は……!?」
バカにすんな、と俺が暴れるとカナタはますます腕に力を込めた。そのまま、ぼすんとベッドに押し倒される。
「気持ちいい時も、ノゾムはやっぱりキリッとしてるの……?」
「へ……!? そんなこと知るかよ……あっ」
「ノゾム」
可愛い、とカナタの手のひらが俺の胸に触れる。俺の心臓がすごく早く鳴っている事に、気付いているんだろうけど、カナタはそれをいじってこなかった。真剣な顔で俺の体に手を伸ばしては時々様子を窺ってくる。
とても気を遣われているのがわかって、恥ずかしかったけれど、手を振り払うこともせずにじっとしていた。
「ん、んんっ……」
「ここ、気持ちいい……?」
「えっ……!? わ、あっ……!? あっ……」
額や頬にするのと同じように何度も乳首にキスされて、それだけで全身がゾクゾクした。気持ちが良いのに、「シャワーもしていないのに」「臭い、って思われたくない」と気が気じゃなかった。
「や、いやだっ、そこやだっ……」
「もー、ちょっとだけ……」
「ああっ……!」
ちゅう、と音を立てて乳首に吸い付かれて、顔も体も一気に熱くなる。怖くないよ、大丈夫だよ、と一生懸命宥めようとしてくる優しい声にコクコクと頷いた。
魔王だった頃は、ボコボコにされて動けなくなってしまった俺の服を簡単に引き裂いて、雑魚呼ばわりしてきたくせに……と思っていないと、恥ずかしくてきっと逃げ出してしまっていた。それくらい、温かくて、気持ちがいい行為だった。
「ノゾム……?」
「あ、ごめん……。緊張してぼんやりしてた……」
気を失ってしまった時はいつも目を覚ますと魔王はいなくなっていて、俺の側には金貨が何枚か残されていた。アレはどういう意味だったんだろう、「もっといい装備を買ってから挑んでこい」って事だったんだろうか。
魔王の生まれ変わりであるカナタには記憶が残っていないから確かめようのない事だった。
前世でも魔王には何度も体を見られている。あの頃は「いつ殺そうか」と、完全に獲物を見る視線を向けられていたのに、今のカナタの眼差しは、真っ直ぐで、優しい。カナタの前世が魔王である事は確かなのに、魔王とは違う、ちゃんとカナタはカナタなんだって安心出来る。
「んぅ……、いやだっ……」
「可愛い、ここ、好きなんだ」
唾液で濡れた乳首をぐりぐりと押し潰されたり、指の先で摘ままれたりして、触れられてもいない性器に先走りが滲んだ。誰かに乳首を吸われるのはもちろん初めてで、「このままだと、俺の頭はバカになってしまう」と感じるくらい気持ちがいい。
自分で押さえていないと変な声が出てしまうから、必死で口元を手で覆った。
「ノゾムも触って……?」
「うん……」
「……そっちじゃなくて」
カナタの真似をして胸に手を伸ばしたのに、「ここ」とパンツの上から勃起した性器を撫でるように促された。「触る場所を間違えてしまった……」と自分のミスを恥じているのがバレないように、何でもない顔でカナタの性器に触れ続けた。
もちろん心の中では「えっ……! めちゃくちゃ熱くて硬いな……!? わ、すご……」と初めての経験にいっぱいいっぱいになっていた。
「ね、ノゾム、俺の顔見て。ちゃんと俺だけを見て」
「うん……」
初めて知り合った時から、ずっとずっとカナタだけを見ていた。それなのに、なんだかすがるような言い方でカナタからは何度も念を押される。よくわからないまま頷くと、カナタは俺のパンツの中に手を突っ込んできた。
「あっ……」
「ちゃんと、見て。目も閉じないで……。俺のことを見てて」
「う……、んうっ……」
俺も、と今度は間違えないように慌ててカナタの真似をした。
俺もカナタもパンツは下ろしていないからお互いの性器がどうなっているのかは見えない。二人とも無言で硬く大きくなったペニスに夢中で手を伸ばした。
コスコスと手を上下に動かすと、自分の性器も同じように扱かれる。先走りを先っぽに塗り広げて、裏筋を刺激する。普段一人でする時とほとんど変わらない動きなのに、自分以外の手でしてもらうと、いつもの何倍も気持ちがよくて腰がビクビクと跳ねた。
「あっ、ああっ、……カナタ、あっ、だめ……、も、でるぅ……」
恥ずかしくて、気持ちがよくて、苦しいのに、カナタは俺が目を逸らすことは絶対に許してくれなかった。
普段だったら「もう、やだよ」と突っぱねてていた。だけど、「名前を呼んで、俺の目を見て」「誰に触られてるかわかる?」「もっと感じて」と囁かれながら、イケそうでイケない状態で焦らされて、俺は半分泣きながら、カナタの言うことに従った。
「あっ、あっ……」
右手でカナタのペニスを握りしめながら、小さな声をあげて、そのまま達してしまった。射精する瞬間のだらしなく蕩けきった顔を見られているのに、快感に抗うことが出来なかった。
絶頂に達する前、ほんの一瞬だけ、魔王の顔が脳裏にチラついた。自分自身から「体を許して本当に良かったのか」と責められているようにも感じられたけど、「とにかく、イキたい」という気持ちの前では、何もかもを忘れて、目の前のカナタの体にただしがみつく事しか出来なかった。
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