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★俺は魔王だったらしいね
しおりを挟む何歳の頃からそうだったのかはハッキリとは思い出せないけれど、俺の頭の中にはいつからか前世の記憶が甦っていた。
全部をちゃんと覚えているわけじゃない。朝起きた時に「ちゃんとストーリー性のある夢を見た気がするんだけどなあ……」という感覚と似ていた。所々しか思い出せないけれど、生まれ変わる前の自分の身に起こった事なんだってちゃんと理解は出来た。
俺は前世では、森の奥でひっそりと暮らすエルフとして育った。
エルフは非力でか弱い種族だったから、極力人間には見つからないように気を付けながら、仲間同士で協力して、食料を集め家を作り、幸せに暮らしていた。
時々、みんなの魔力を集めて生成した、プレシャスイオス、と呼ばれる特別な宝石を眺めては「綺麗だね」と喜ぶ。エルフの一族はそんなささやかな生活を続けていたようだけど、人間に見つかってしまって、俺以外の仲間は全員虐殺されてしまう。
「絶対に絶対に許さない」と世界中を憎んだ俺は、恐ろしい呪いの力を手に入れて、魔王として人間への復讐を誓った……、目を覆いたくなるような残酷な場面に「ふう」とため息を吐きながら、なんとか自分の事を思い出した。
きっと、珍しい貴重な宝石を持っていたから人間なんかに狙われてしまったんだろう。前世の俺は、仲間と生成した宝石を人間から取り戻そうと一生懸命だった。
九つの村を滅ぼし、仲間を殺した人間への復讐が完了した後は、人の目につかない場所にお城を立ててひっそりと暮らした。この頃は「寂しい、悲しい」という気持ちだけをずっと抱えて生きていた。
覚えていない部分がたくさんあることと、記憶はあくまでも記憶で、前世の自分と俺は全く別の人間だから、と感じていたのもあって、生まれ変わる前の出来事を「映画みたいだなあ」と感じていた。
元々、ぼーっとした性格をしているから、あまり過去に影響されずにすんでいるのかもしれない。
人を殺したり、村を焼いたりした事もぼんやりとは覚えている。でも、今の俺には申し訳無いけれど、どうすることも出来そうに無かった。
だから、時々は殺されてしまった仲間や自分が殺してしまった人々の事を思い出しては、心の中で手を合わせるようにしている。
高校の入学式でノゾムから「俺の事、覚えてるか!?」と聞かれた時は、本気で誰なのかわからなかった。
怒っているような顔で「俺だよ!」と言われてもどこで会ったのかは全然思い出せなくて、塾が一緒だったかなあ? それとも、からかわれている? くらいにしか考えていなかった。
だけど、いつでも俺のことをジロジロ見てくるノゾムの存在を不思議に感じているうちに、「あっ、コイツ、勇者の生まれ変わりなんだ」となんとなく気が付く事が出来た。
そうか、それで、いつも俺の事を見張っているのか……と納得は出来たけれど、「よう、久しぶり」と気軽に声をかけられる間柄では無いはずだから、ちょっとだけ困った。
一度気が付いてしまうと、勇者とのことをいっぱい思い出すことが出来た。古い記憶を取り出してみてわかったのは、たぶん、俺は……、魔王はきっと勇者の事がすごく好きだったんだろうな、ということだった。
他の事は覚えていなくても、勇者との事はしっかりと覚えているからだ。
なぜか、人間がエルフを虐殺した、という部分だけが歴史から消されてしまって、世界中から憎まれていた魔王はいつだって孤独だった。
そんな魔王の前に現れたのが勇者だった。
「くっそ。アイツ、絶対倒してやる……! クソ、クソ、クソ……!」
そう言って地団駄を踏んだ後、「聞かれてないよな!?」と慌てて辺りを見回す勇者の事をいつだって魔王は見ていた。
強くなったら殺してやる、と言うのも、きっと魔王が生き続ける唯一の理由だったのかもしれない。
小さな体に対して大きすぎる剣を持ち、勇気を振り絞って何度でも挑んでくる勇者に追い掛けられることだけが魔王の楽しみだった。
勇者が通りそうなルートを調べては、壊れかかっている吊り橋を補修したり、底無し沼の前に「キケン ヨルナ」の看板を立ててみたり……。
「くだらない理由で死なれるのは惜しいからな……。勇者は俺が……殺す……」とブツブツ呟きながら、勇者が来る前に必死で作業をしていた記憶は、自分の前世の事なのに笑えた。
それに、ノゾムには絶対に内緒だけど、魔王は時々、勇者を気絶させてはこっそり体に触っていたみたいだった。
「ん……、んぅ……」
一応、「どの程度鍛えたのか調べる」という名目ではあったみたいだけど、勇者を全裸にした後、こそこそとキスをしたり、胸を舐めたりして、くすぐったそうにする勇者の反応を魔王は楽しんでいた。
厳しい修行に励む勇者を毎日欠かすことなく観察しているんだから、調べなくたって成長しているのはわかりきっていたはずなのに。
しかも、慰謝料のつもりなのか、金貨を数枚置いて帰るところがすごくダサイ。いくら前世での出来事とは言え、思い出すだけで「やめてー」と顔を覆いたくなる。
前世で勇者のことをそんなふうに見ていた事が関係しているのかはわからないけれど、俺もノゾムのことをすぐに好きになってしまった。
「あのさっ、すげームシャクシャして地球を滅ぼしたいって思ったことある!?」
「自分の部屋に、虎の毛皮で出来たカーペットとか敷いてる!?」
そんな事を、本当に真面目な顔で聞いてくるから「何、コイツ。おもしろ」とノゾムと一緒にいるといつだって笑えた。
ノゾムは俺と違って、前世の記憶どころか人格さえもしっかり引き継がれているのか、「俺がこの世界を守らないと」という高い志を持って生きているようだった。
俺だって、前世の記憶の影響なのか、魔王を倒しにいくようなRPGゲームをプレイするのは全然気が進まない。どうしても「えー……、そんな……。殺す前提で冒険しなくたっていいじゃんか……」と複雑な気持ちになってしまう。
だから、ニンテンドースイッチの、動物達とのんびり過ごすゲームで遊ぶ方がずっと好きだ。
だけど、ノゾムの意志はきっと「現在の趣味や趣向に前世の記憶が少しだけ影響している」なんてものじゃない。「何かの時は、俺が魔王を止める」と本気で考えているみたいだった。
だから、俺はノゾムにずっと「俺も覚えているんだ」と本当の事を言わずに隠し続けている。
◆
「あっ……、いやっ、やだあ……。も、抜いて……」
四つん這いで、今にもシクシクと泣き出しそうなノゾムが可哀想で、体を傷つけないように、慎重に指を引き抜いた。
「ごめんごめん……、嫌だったね」
苦しいよな、と背中を擦ってやると、ノゾムが鼻を啜ってから、首を横に振った。
「上手く、出来ない……」
「……上手いとか、下手とか、そんなこと気にしないでいいよ。えっと……、俺達、難しい事をしているだけだ」
もう一度、すん、と鼻を啜った後、ノゾムはぺしゃんとうつ伏せになってしまった。
黙ったまま枕に顔を押し付けているノゾムの頭をそっと撫でる。こんな手触りだったかなあ、って首を傾げたくなった。
絶対絶対ノゾムが勇者の生まれ変わりであることは確かなのに、どれだけノゾムに触れても、勇者の髪の毛の質感や後頭部の丸みは思い出せない。
俺にはやっぱりノゾムだけだよ、と伝えたかったけれど我慢した。「生まれ変わる前のことは関係ないよね」なんて当たり前の事をあえて口にしたくなんかなかった。
上は制服のシャツ、下は何も着ていないという格好で、顔を枕に突っ伏したままのノゾムは無防備で、裸でいるよりもずっといやらしかった。
ぺちん、と、ついつい叩きたくなるような尻は、小さくて真っ白だった。顔さえ隠れていれば、お尻を見られようが恥ずかしくないってことなのかなー、とノゾムの気持ちが落ち着くのを静かに待った。
「……お、奥までぐりぐりされるのは、苦手だ」
「そっか、そっか。ごめんね」
うう、とまた顔を隠してしまうノゾムのこめかみに唇で触れる。
前に、「入ってくる時も、抜く時も、なんだか変な感じがして怖い」というノゾムに「そっかあ。元々は出すだけの場所だからね」と答えたら、すごく怒らせてしまって、しばらく口をきいてもらえなかった。
俺は平気でもノゾムにとってはそうじゃない事もあるんだって、その時に学んだから、ノゾムと抱き合う時はあまり焦らず慎重に事を進めるようにしている。
前世の俺は、「魔王」ということを差し引いたとしても、ノゾムの可愛がり方を間違えていた。普通に「仲良くなろう」と言える境遇じゃ無かった事には同情するけど……。
今の俺はただの高校生なのだから、ノゾムをうんと大切にする事が出来る。側に寝そべって「親、帰ってくるまで、今日はゆっくりしていようよ」とノゾムにタオルケットをかけてやった。
「はー……。悔しい。やる気はあるのにな、なかなか上手くいかない」
「痛いの?」
「痛いんじゃなくて……」
モジモジとしたまま、ノゾムはいつまでも話そうとしなかった。痛くなくたって気持ちが乗らないことはあるよなあ、と挿入した指が押し返される時の感覚を思い出しながら、のんびり言葉の続きを待った。
「……カナタの指、貸して」
「うん」
「指が……入ってきて、それで、撫でるみたいに、ゆっくり動くのは大丈夫……。いっぱい出たり入ったりすると、悔しいけど、死にそうになる」
恥ずかしそうにしながらも、ノゾムはやっぱりすごく一生懸命だった。自分の手のひらを軽く握りしめて作った小さな穴に俺の指を入れて、「わかる?」と頑張って伝えようとしてくる。
ただ指を挿入しているだけの時は、ぎゅうぎゅうと程よく締め付けてきて、出し入れを繰り返すと、途端に拳は硬く握り締められて、指が入らなくなってしまう。
こんな時でも、顔つきだけは凛々しかった。
「ふふっ……」
「どうして笑うんだよ……!?」
「すごくエロい気がするけど、笑える……。でも、可愛い」
「笑うなよお、人が真剣に解説してんのに!」
ノゾムは怒っていたけれど、どうしても我慢が出来なくて笑ってしまう。やっぱり俺はノゾムの事がすごく好きだ。
優しいノゾムはきっと、俺が言った「寂しいと、何かを思い出しちゃうかも」という言葉を信じてしまっている。どうしても、ノゾムを手に入れたかった、俺のついた嘘。
「ね、ノゾムが教えてくれたこと、してみてもいい……?」
「いいよ」
今度は、窒息しちゃうから、という理由でノゾムの事を仰向けに寝かせた。
ローションでぬるぬるになった指が入ってくる瞬間、ノゾムは「ぐ」と歯を食い縛っていた。自分の体に異物が入ってくることに対して、まるで「俺は勇者なんだから、これくらいは平気じゃないと……!」と必死で耐えているような顔つきだった。
「ここ……? 少しだけ? こう?」
「ん、んんぅ……」
まだ一度も「ここが、前立腺か」という場所を見つけきれた事が無い。少しだけ挿入した指を動かしながら、ノゾムの反応を気にしていた。
「カナタ、ゆっくり、そこ、撫でるだけでいいから……」
「気持ちいいの?」
「よく、わかんな……あっ、あっ……」
ノゾムのナカは温かくて、時々きゅうきゅうと指を締め付けてきた。そうか、無理にもっと解してやろうとか、慣らしてやろうとか、そんなふうに思っていたけど、受け入れるだけで精一杯のノゾムには、こうして触れているだけで今は充分だったのかもしれない。
「ノゾムがもっと気持ちよくなってるところが見たいな」
「へ……?」
「ねえ、好きだよ」
「あっ……!」
萎えてしまった性器に触れてやると、挿入したままの指への締め付けがますます強くなった。
「あっ、待って……」
「俺の顔見て、目を閉じないで……」
こんな時でもノゾムはたまに目の前の俺じゃない、別の何かに意識を飛ばそうとする。生まれ変わる前のお互いの事を気にしているのはわかっていた。
けれど、ノゾムがそのまま遠い所に行ってしまいそうで、ノゾムがノゾムでなくなってしまいそうで、俺はそれがすごく悲しい。
「んぅ、やだっ、いくっ……なんか、なか、変、やだっ……」
「こっち、見て」
ぎゅっと目を閉じたままのノゾムに対して、舌打ちしたい気持ちを堪えながら、無理やりキスをした。
必死で舌を伸ばして応えてくるノゾムの体がびくん、と跳ねる。俺の体に腕と脚を絡めるようにしてノゾムがしがみついて来る。きっと、この瞬間だけは、ノゾムは何もかもを忘れて「気持ちいい」だけしかわからなくなっているんじゃないかと思うと、涙が出そうなくらい嬉しかった。
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