俺だけ使えるバグで異世界無双

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4話 お帰り

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「逃げて!!!」

女性とは思えない力で突き飛ばされたが、
おかげで飛んでくる斬撃を回避できた。

「あぁん? なんだお前」

針山は俺を視認すると怪訝そうに
顔をしかめる。
元から荒れてる奴だったが、
人に向かって刃物を振るうような奴ではなかったはずだ。醸し出す雰囲気もまるで違う。

「あーいたなぁ。名前なんだっけ。
地味すぎて忘れたわ」

針山は一人で笑いだす

「今さら姿を現してどうしたんだ? まさか自分も仲間に入れてくれってか? ぎゃはははは!」

こいつはさっきから何を言ってやがる。

「転移石も持ってねぇ雑魚に興味ねぇんだよ。死にたくなかったら失せろ」

馬鹿にされるのは慣れっこだ。
こんなことを言われて傷つきはしない。

不敵な笑みを浮かべて
針山は愛に顔を向ける。

「最後の警告だ。大人しく転移石を寄越せ。
そうすれば、命だけは取らないでいてやる」

転移石を寄越す?
どういうことだ。

「嫌」

愛は針山をねめつける。

「あっそ......なら......無理やり転移石奪ってお前のこと無茶苦茶に犯してもいいってことだよなぁ!? 大人しく転移石を渡しとけばそれで済んだのによ!」

針山は愛に疾駆した。
愛はすかさず杖を構えるもあっという間に間合いを詰められた。

愛のギルド会員証には
職業マジシャンと書いてあった。
対して、針山は剣を持っているから近距離戦タイプだろう。
なら、圧倒的にマジシャンが不利なのは俺にも分かった。

吹き飛ばされた愛は悲鳴を上げながら地面に転がる。

「ギャハハハハハ!!!
前々からお前のこと犯してやりてぇって思ってたんだのなぁああ! こんないやらしい体しやがってよぉ!」

針山は興奮した様子で愛に股がる。

「い、いや!」

彼女はただのクラスメイトで、クラスメイトは俺的に赤の他人だ。
だが、彼女は俺を二度も助けてくれた。
それなのに、ここでただ彼女が犯されるのを傍観できるほど、俺はごみじゃない。
愛の痛々しい悲鳴が俺の体を奮い立たせる。

「おい! やめろよ!」

気がつけば叫んでいた。

「うるせえよ、陰キャが。
次その生意気な口開いたらまじで殺すぞ」

俺は逆方向に走り出した。

「ギャハハハハハ!!!
だっせぇ! ちょっと威嚇したら
逃げやがった」

違う。逃げたのではない。
俺は目の前の壁に何度も激突した。
何度も何度も何度も。

その様子に頭がおかしくなったのかと
針山は嘲笑する。

笑っとけ。

「なっ!?」

針山からは突然俺が姿を消したように見えただろう。

「どこ行きやがった!? あいつ!」

そんな慌てた様子の針山の両足を何かが
掴んだ。
針山が下に目を向けた頃にはもう
既に遅かった。
突然、針山が踏みしめていた地面が
底無し沼のような感覚に変わり、
下半身が地中に埋まった。

「な、なんだよこれ!?」

その様子を隣で見ていた愛も唖然としていた。

「今だ愛! 魔法かなんか撃て!」

俺の声が聞こえた愛ははっとして
杖を針山に向けた。

「お、おい!!! や、やめろ!!!」

針山は届かないのに大剣をぶんぶん振るう。

「地獄の炎に住まう黒炎の悪魔よ。
その眠りを解いて我に力を与えよ。
インフェルノ!!!!!!」

愛が叫んだと同時に杖の先端から黒い炎が針山を襲った。

「あああああああああ!!!! 熱い!!!! 熱い!!!! 助けて
くれええええええええええ」

埋まった体が地中から抜けず、
愛が魔法を解除するまで針山の断末魔は続いた。

魔法が解かれ、意識を失った針山の両手から大剣が地面に落ちた。

その振動を感知して俺は地中から
這い上がった。

「ど、どういうこと?」

愛は目を丸くしていた。

「それは貴方の魔法なの?」

「魔法? いや......魔法とかじゃないと思うけど、まぁでも魔法なのかな?
俺もよく分からん。分からんけど俺、物質を通過できるんだよ」

「物質を通過?」

「ああ、こうやって壁に激突するだろ?
それを十回繰り返せば.......ほら!」

「嘘......ありえない......」

さっき炎の魔法を使ったお前が何を言うか。

愛は壁の中にすっと入った俺を探すように、
壁に何か小細工がないか凝視していた。

「で、この物質の中にいる状態から地中の中に潜ることができる」

「そうなの? どうやって?」

「......え? あ、いやそれはちょっと」

見せたくない。壁に何度も激突してるのですら、傍から見ると奇行なのに。
地面に潜るのも同じだ。何度もその方向に激突すればいい。こうやって体をうつ伏せにして、体をちょっと浮かせては地面に着地の繰り返し。たぶん、陸に上がった魚みたいな動きが一番想像しやすいだろう。

そうやると、地面に潜れる。
地面の中は泳ぐ感覚だ。
それでさっきは針山の真下まで移動して、
両足を掴んだ。

これはここに来る道中で判明したことなのだが、俺が物質の中にいる状態で外の何かを引きずり込んだ場合、例えるならあの虎みたいなモンスターの尻尾だ。
その尻尾は俺が触れているときは外に存在している場合と変わりないが、俺が手を離した瞬間、その尻尾は引きずり込んだ物質の中に埋まった状態になり、微塵も動かせなくなる。

「これを使ってさっきは針山の下半身を
動かせなくしたってわけ」

「......なるほど。
とても面白い能力だと思うわ。
凄いわね、この能力を一人で
使いこなせるようになるなんて」

あ、あれ。なんかこんなに誉められるの初めてなんだけど。
て、照れる。
しかも、こんな綺麗な同級生に言われたら、
顔がにやけちゃう。

「でもその気持ち悪い顔はやめた方が
いいわよ」

「あ、すみません。
いや! そうじゃなくて、話戻すけど、なんでこの針山はお前を襲ってたんだよ。
同じクラスメイトだろ?」

「クラスメイトだからなに?
クラスメイトは赤の他人でしょ?」

分かるぅうううう。やっぱそうっすよね?
クラスメイトは赤の他人っすよね?
だから、赤の他人しかいない教室っていう空間の中で孤立しててもおかしくないってことよね? ね?

「まぁ正直、私たちがクラスメイトとかは
関係のない話なのよ」

「というと?」

「魔王を倒して、帰るための杖が壊れたことは話したわよね?」

「話した」

「貴方だったらこの場合、
これからどうする?」

「まぁ、とりあえず、住むとこ決めて
平和に暮らすかな」

「全うな意見ね。けど、私たちは転移石で
並外れた力を得た。そしたら、自分達はこの世界の人よりも優れているってかんがえない? 特に男子」

「考える」

「そんなとき、私たちは耳にしたの。転移石は何個でも体に埋め込めるって。そして、転移石を埋め込めば埋め込むほど、ステータスは跳ね上がると」

なるほど。ある程度分かったぞ。

「あーつまり、より優れた力を得ようと
クラスメイト同士で転移石を
奪い始めたってわけか」

「ちょっと冷静過ぎない?」

「え? だって、俺には関係のないことだもん。そもそも俺転移石貰ってないし」

「......まぁ確かにその通りね」

少々呆れた様子で愛は言った。

「なるほどね。だから、この針山はお前の転移石を奪おうと襲ってたわけか」

「ご名答。この猿の場合は己の性欲も混じっていたようだけど」

「ん? 待てよ。一つ疑問があるんだけどさ、転移石を奪われたらどうなるんだ?
まさか死ぬのか?」

「いいえ。ただ元の一般人に戻るだけよ」

「なぁんだ。なら別に気にすること
ねぇじゃん」

「本当にそう思う? こんな何も知らない土地で力を失うということがどれだけ危険を伴うのか想像できないの?」

「いや、想像も何も体験してきたけどね」

「そういえば、貴方、今までどこにいたの? 一人でどうやって生き残ってきたの?」

「おおお! 聞いてくれるか! うぅ......あれは辛く険しく......思い返すだけで
涙が出る物がた」

「あ、いいわ。魔法で過去を見るから」

そう言って、愛は俺の頭に触れた。

「メモリー」

「なんだ。そんなに便利な
魔法があったのかよ。それならそうと
早くい」

待てよ!? ちょっと待てよ!?
今こいつ過去見るって言ったか!?
てことは、俺がこの世界で経験してきたこと全部見るんだよな!?
全部だよな!?
つまり......

もう遅かったようだ。
愛はまるでゴミを見るような目で
俺を見ていた。

「ねぇ、成瀬」

「は、はい」

「もう高校生のくせに、
絶対に安全な場所から尻出して相手を挑発していた惨めな自分を見られた今、どんな気持ち?」

「...............................................................恥ずかしいです」

お帰り。失ったはずの俺の羞恥心。
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