異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫

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191.マルチェナ(8月17日)

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翌朝、マルチェナの門の外には死体の山が出来上がっていた。見張り中に積極果敢に撃っていたのはカミラとソフィアの組だったようだ。
今はそのカミラとソフィア、ビビアナとアリシアを伴って門の外を検分中である。イザベルは大事を取って休ませ、アイダとフェルは砦に残る者達の護衛だ。

「やはり魔石が無くなっている。これはもうただの死体だな」

「蝿が寄ってきていますわ。埋葬を急ぎませんと臭いが大変なことになりますわね……」

検視官よろしく幾つかの亡骸を調べたカミラとソフィアが首を横に振る。

「心臓の位置にあった魔石を砕いた結果、魔物化が解除されたということだろうか」

「いいえ。必ずしもそうではないようです。こちらの遺体には心臓が残っております。心臓であったものというほうが正しそうですが」

「でも1体だけ気になる奴がいた。ちょっと来てくれ」

カミラに連れられて折り重なった遺体の一つの前に立つ。その身体は青黒く、未だ屍食鬼の特徴を残している。他の遺体は胸部に弾痕があるが、この遺体だけは頭部が半ば弾けており首が折れているようだ。その姿にアリシアが目を背ける。

「こいつの魔石は残っているんだ。先に首が折れていたとしたら、もしかしたら頭部で発現した浄化魔法の効果が胴体までは至らなかったのかもしれない」

「ネクロファゴを元の人間の姿に戻すには、胴体に浄化魔法を撃ち込むしかないという事でしょうか」

「断定は出来ない。だがおそらくはそうなのだろう」

「頭部か首を破壊すれば倒せる。でもその場合は魔物化したままということですわね」

「そういうことになるな。死者の気持ちなどわからないが、どっちがいいんだろうな」

「私なら魔物として倒されるよりは人間として葬られるほうがいいです。絶対に」

「私もそうですわ。もし私がネクロファゴになってしまうような事があれば、他の誰かに危害を及ぼす前に打ち倒していただきたいと思います」

死体を魔物に変える外法の技、あるいは魔法ないしは何らかの感染症。
そんなものの効果によって死せる者があたかも生きているかのように動き回り次の被害者を生む。おそらく意識は無い。だが、もし意識があるとすればいったい何を思うのだろう。
理解はしていたが目の当たりにすると吐き気が込み上げてくる。

「焼くか。なあビビアナ、遺体は焼いてもいいのだろうか」

「えっと……火葬ということですか?浄化を完遂するのであれば焼くのが確実ですが……」

わざわざ聞いたのは埋葬の習慣は時代と地域によってまちまちだからだ。
日本においては縄文時代の遺跡からも火葬の跡が見つかるぐらいには火葬にも歴史がある。古墳時代には土葬が主流となり、平安時代には貴族や僧侶の間で再び火葬が行われるようになった。江戸時代末期には庶民の間でも火葬が一般的にはなったが明治時代には一旦火葬が禁止され、直後に禁止令が廃止になるなど紆余曲折を経て、現代の日本ではほぼ100%が火葬によって送られるようになっている。

「カズヤ、埋葬は亡骸を土に埋めて大地に還すものだ。だが戦場では大きな穴を掘って火を掛け埋めることもよくある。敵仲間問わず遺体を放置すれば魔物を生むし、病気の原因にもなるからな。今は戦場に準じていいと思う」

「私も賛成ですわ。ここに放置すればまたネクロファゴに戻るやもしれません。もし可能なら穴を掘って焼いて埋めてしまうのが最善かと」

カミラとソフィア、二人の元軍人は俺の質問の意図を汲み取ってくれたようだ。

「ビビアナ、アリシアも納得できるか?」

「はい。魔物の死骸は焼いて処理するものです。魔物……と口にするのは憚られますが、魔物になっていたのは事実です」

「私も同意しますわ。非常事態ですから。それにしても……」

ビビアナが門の方を睨み付ける。

「人の気配はするのに様子も見に来ないとは、なんと情けないことでしょうか。壁の向こうに投げ入れて目を覚まさせて差し上げようかしら」

ビビアナが悍ましいことを口走る。
攻城戦において籠城する側の士気を挫くために兵士の死体を投げ入れる例はあった。あるいは不衛生な環境下で伝染病を蔓延させる狙いもあったかもしれない。

「不要だ。幸か不幸か風は街に向かって吹いている。風下には大層な臭いが向かうだろう」

「あら。カズヤさんもお人が悪いですわ」

ビビアナが口に手の甲を当ててカラカラと笑って見せる。
その姿に俺は一抹の不安を感じた。

◇◇◇

悩んでいても仕方ない。
遺体のすぐそばに大きな穴を掘り、遺体を全て投げ入れる。
街の向こう側で倒した遺体はカミラとソフィアが回収してきてくれた。門に吊るされていた遺体も降ろして、然るのちに火魔法で焼く。
本来なら高温の炎で臭いすら焼き尽くすのだが、今回はデモンストレーションも兼ねている。炎の温度を調整し、更には風魔法で異臭を街に送り込む。
これでは俺が悪者だな……

風上に立って推移を見守りながら煙草に火を点ける。
異臭を追い払うように紫煙を吐き出していると、街の壁の上に動く影を見つけた。スキャン上では極小さい反応。人間、それも魔力の少ない人間で間違いないだろう。
ほぼ同時にビビアナも気付いたらしい。彼女もじっと壁の上を見つめている。

「あそこ、指差すなよ」

俺とビビアナの視線を追って、カミラ達もその人影を見つけたようだ。だが声を掛けるでもなく平然としている。

一際濃い煙が街に流れ込んだその時、人影が立ち上がりこちらに手を振ってきた。

◇◇◇

「おーい、お前さん方、狩人かぁ?」

いささか気の抜ける声は男の、それもある程度年長の男の声だ。人相風態までは逆光で見えない。
俺とカミラの目が合う。
カミラが任せとけとばかりに頷く。

「そうだ!マルチェナの住民か?代表者は無事か?」

「御領主様はご無事だぁ。我らが守っておる!」

御領主様と聞いて、そういえばそれぞれの街には統治者がいるのだなと改めて感じる。事あるごとに繰り返し“貴族と神殿には近づくな”と言われてきたからすっかり忘れていた。

「怪我人や体調を崩した者は?ネクロファゴに襲われた者はいないか?」

「今はいない。ただ食料と水が足りない。それで伏せっておる者は多い」

「そうか。我々はアルカンダラから派遣された魔物狩人カサドールだ。もうじき国軍がやってくる。それまで耐えられるか?」

「それはありがたい。どこの部隊だ?」

赤翼隊アラスロージャスだ。耳にした事ぐらいあるだろう」

アラスロージャスの名を聞いて人影が引っ込む。
そしてそのまま現れない。どうしたのだろう。

「仲間内で相談してるんだろう。襲われた者がいないのなら恐れることもあるまいに」

カミラが呟く。

「恐れる?どうしてですか?」

アリシアの質問の答えはなんとなく分かっている。だが俺が口に出す前にカミラがその答えを言葉にした。

「彼等はテハーレスを知っている。というかマルチェナの衛兵もテハーレスに出動したらしいからな。当事者と言ってもいい」

「村を焼き払った……」

「そうだ。そして次は自分達が焼かれるのを恐れている」

出動した衛兵隊も好きで凶行に及んだわけではない。魔物化の被害を食い止めるには正しい判断だっただろうし、俺や娘達が同じ現場に出会してもきっと同じ事をやっただろう。そもそも昨夜には屍食鬼を多数撃ち倒しているのだ。

まあとりあえず生存者が多数いることはわかった。嫌がらせも程々にしておこう。
遺体を焼いていた炎の温度を一気に上げて、煙や臭気までも燃やし尽くす。高温の青みがかった炎を噴き上げる穴は見ようによっては神々しくもあるのだが、さて、街の人々の目にはどう映るのだろう。
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