191 / 243
190.威力偵察②(8月16日)
しおりを挟む
ドローンが映し出す映像を頼りにイザベルが放ったAT弾は、少なくとも治癒魔法と浄化魔法、そしてそれら2つの重ね掛けではマルチェナの街に迫る屍食鬼に効果は無かった。
これが最後とばかりに更に貫通魔法の3重掛けをしたAT弾が屍食鬼に着弾した瞬間、これまでの3発で見られたよりも強い、金色の光が屍食鬼を包んだのである。
◇◇◇
「何が……」
倒れ込んだ1体を他の屍食鬼が一斉に取り囲む。
「アリシア、もっと近寄ってくれ」
「了解です」
「ねぇ、こいつの肌の色、普通になってない?」
「まさか。光の加減では?」
「違うよ!やっぱりそうだ。日焼けした肌みたいな色になってるよ!」
「そう言われれば痣のような色ではなくなっているな。カズヤ殿、どういうことだろう」
「わからない。イザベル、さっきの弾は奴の体内に食い込んだんだよな」
「うん。でも貫いてはいないよ。こう、こっちの肩から入って、だいたい心臓の位置で止まってるはず」
「心臓の……まさか……」
「どうしたカミラ。何か思い当たったか?」
「あの大きな魔石を直接浄化したんだとしたら、それでネクロファゴではなくなった可能性はあるかもしれない」
「なあ、浄化魔法ってのは“不死者”のような動く死体や骨だけの魔物を倒す魔法だと思っているんだが、間違いないか?」
「不死者……そうですわね。ネクロファゴも“不死者”には違いないので浄化魔法が効くのは当然ですわ」
「問題はさっきまで効かなかった浄化魔法が、どうして貫通魔法も併用したら効果があったかってことじゃないですか?あ、そろそろドローン戻していいですか?」
「いやアリシア、もうちょっと耐えてくれ。イザベル、すまないがもう1発試してもらえるか?浄化魔法と貫通魔法だけの効果を試してみたい」
「わかった。ビビアナ、お願い」
「大丈夫ですの?」
「まぁヤレると思う。じゃあ行くよ」
イザベルの固有魔法“必中”には1日で発動できる回数に制限がある。目視外から狙撃している今の距離でなら3~5回が限界らしい。そしてこれが5回目だ。1日という単位が24時間なのか、あるいは次の日の出でリセットされるのかは俺にはわからない。確かなのはしばらくの間、彼女の固有魔法を当てにできなくなるということだ。
イザベルが放ったAT弾は次の標的に着弾し、先程と同じように強い光を放った。
「どう?」
「さっきと同じですわ。紫色の肌から普通の肌の色に戻っていますわね」
「ねぇ!もうドローン戻すよ!」
返事を待たずにアリシアがドローンの舵を大きく切る。
偵察機や偵察衛星などないこの世界で、最大4kmもの距離を隔てた先の視界を確保できるドローンの優位性をアリシアは良く理解している。この機体を失うわけにはいかないのだ。
ドローンが戦域を離れるとほぼ同時にイザベルが倒れ込んだ。意識を失ったわけではない。直前に“必中”を使っていなければ貧血を疑うところだ。
「お兄ちゃん……疲れたぁ」
抱き起こす俺の首にしがみ付いて歯を立ててくるぐらいだから特に問題はないだろう。砦の中央部に張ったテントで少し休ませる事にする。
◇◇◇
ルイサにイザベルの介抱を頼み、皆のところに戻る。
カミラとソフィアが難しい顔をしていた。
「日が落ちると監視が難しくなるな。篝火でも焚きに行くか」
「そうですわね。火が焚かれていれば魔物の跋扈も防げるでしょうに。どうしてそんな事もしないのかしら」
「薪が尽きたか、そもそもまともな生者がいるのか?」
「女の子はいましたわ」
「あの子がネクロファゴでないという確証はないぞ」
「人間でないという確証もありませんわ」
ドローンを戻しイザベルを介抱している間にすっかり陽が落ちたのだ。日中はよく見えていたマルチェナの街の門がすっかり闇に包まれている。
「カズヤ!こう暗くては監視にも支障がある。何か策はないか?」
「そうですね……照明弾でもあれば……」
「しょうめいだん?」
「ああ。イルミナといったか。光魔法の効果を持続させれば代用できるかもしれない」
「イルミナは光球を打ち上げ自然落下させる魔法ですが、風魔法の力を借りれば上空に留まらせることも出来るかもしれませんわね」
「あら、私の出番ですの?」
そういえばアルマンソラで盗賊を捕らえた時、ビビアナの放ったイルミナの魔法は正しく照明弾のそれだった。
「ビビアナ、頼めるか?」
「もちろんですわ。私の光魔法があれば、そんじょそこらの有象無象は近寄れませんのよ!」
有象無象に一括りされるほどに弱い魔物ならばいいが、夏の虫のように光に引き寄せられる魔物はいないのだろうな。
ビビアナがPSG-1のマガジンを一撫でして構え、1発発射した。
数秒後に上空からの白い光で門の周囲が照らされる。
「これは軍でもなかなか見ない輝きですわね。まるで昼間のようです」
「あそこ、何体かいるな」
今度はカミラが三八式歩兵銃を構え撃ちはじめる。
カミラは近接戦闘のスペシャリストではあるが、こと狙撃に関しても超一流だ。射程だけならイザベルよりも短いが、有視界での見越し射撃の腕前だけなら“必中”を使わないイザベルよりも上かもしれない。
双眼鏡越しに屍食鬼の胸が弾けるのが見える。
「私も負けてられませんわ!」
今度はビビアナがPSG-1から貫通/浄化魔法と光魔法を交互に放つ。
「あらあら。対抗手段が見つかったらこれですか。まったく血の気の多い事ですわ」
2人の姿を見て呆れたようにソフィアが肩を竦めた。
この夜はイルミナを使えるビビアナ、ソフィア、アリシアを中心に見張りのシフトを組み、警戒と適時排除を行った。
街に生存者がいるのなら門を照らす強烈な光に気付いたはずだ。
これが最後とばかりに更に貫通魔法の3重掛けをしたAT弾が屍食鬼に着弾した瞬間、これまでの3発で見られたよりも強い、金色の光が屍食鬼を包んだのである。
◇◇◇
「何が……」
倒れ込んだ1体を他の屍食鬼が一斉に取り囲む。
「アリシア、もっと近寄ってくれ」
「了解です」
「ねぇ、こいつの肌の色、普通になってない?」
「まさか。光の加減では?」
「違うよ!やっぱりそうだ。日焼けした肌みたいな色になってるよ!」
「そう言われれば痣のような色ではなくなっているな。カズヤ殿、どういうことだろう」
「わからない。イザベル、さっきの弾は奴の体内に食い込んだんだよな」
「うん。でも貫いてはいないよ。こう、こっちの肩から入って、だいたい心臓の位置で止まってるはず」
「心臓の……まさか……」
「どうしたカミラ。何か思い当たったか?」
「あの大きな魔石を直接浄化したんだとしたら、それでネクロファゴではなくなった可能性はあるかもしれない」
「なあ、浄化魔法ってのは“不死者”のような動く死体や骨だけの魔物を倒す魔法だと思っているんだが、間違いないか?」
「不死者……そうですわね。ネクロファゴも“不死者”には違いないので浄化魔法が効くのは当然ですわ」
「問題はさっきまで効かなかった浄化魔法が、どうして貫通魔法も併用したら効果があったかってことじゃないですか?あ、そろそろドローン戻していいですか?」
「いやアリシア、もうちょっと耐えてくれ。イザベル、すまないがもう1発試してもらえるか?浄化魔法と貫通魔法だけの効果を試してみたい」
「わかった。ビビアナ、お願い」
「大丈夫ですの?」
「まぁヤレると思う。じゃあ行くよ」
イザベルの固有魔法“必中”には1日で発動できる回数に制限がある。目視外から狙撃している今の距離でなら3~5回が限界らしい。そしてこれが5回目だ。1日という単位が24時間なのか、あるいは次の日の出でリセットされるのかは俺にはわからない。確かなのはしばらくの間、彼女の固有魔法を当てにできなくなるということだ。
イザベルが放ったAT弾は次の標的に着弾し、先程と同じように強い光を放った。
「どう?」
「さっきと同じですわ。紫色の肌から普通の肌の色に戻っていますわね」
「ねぇ!もうドローン戻すよ!」
返事を待たずにアリシアがドローンの舵を大きく切る。
偵察機や偵察衛星などないこの世界で、最大4kmもの距離を隔てた先の視界を確保できるドローンの優位性をアリシアは良く理解している。この機体を失うわけにはいかないのだ。
ドローンが戦域を離れるとほぼ同時にイザベルが倒れ込んだ。意識を失ったわけではない。直前に“必中”を使っていなければ貧血を疑うところだ。
「お兄ちゃん……疲れたぁ」
抱き起こす俺の首にしがみ付いて歯を立ててくるぐらいだから特に問題はないだろう。砦の中央部に張ったテントで少し休ませる事にする。
◇◇◇
ルイサにイザベルの介抱を頼み、皆のところに戻る。
カミラとソフィアが難しい顔をしていた。
「日が落ちると監視が難しくなるな。篝火でも焚きに行くか」
「そうですわね。火が焚かれていれば魔物の跋扈も防げるでしょうに。どうしてそんな事もしないのかしら」
「薪が尽きたか、そもそもまともな生者がいるのか?」
「女の子はいましたわ」
「あの子がネクロファゴでないという確証はないぞ」
「人間でないという確証もありませんわ」
ドローンを戻しイザベルを介抱している間にすっかり陽が落ちたのだ。日中はよく見えていたマルチェナの街の門がすっかり闇に包まれている。
「カズヤ!こう暗くては監視にも支障がある。何か策はないか?」
「そうですね……照明弾でもあれば……」
「しょうめいだん?」
「ああ。イルミナといったか。光魔法の効果を持続させれば代用できるかもしれない」
「イルミナは光球を打ち上げ自然落下させる魔法ですが、風魔法の力を借りれば上空に留まらせることも出来るかもしれませんわね」
「あら、私の出番ですの?」
そういえばアルマンソラで盗賊を捕らえた時、ビビアナの放ったイルミナの魔法は正しく照明弾のそれだった。
「ビビアナ、頼めるか?」
「もちろんですわ。私の光魔法があれば、そんじょそこらの有象無象は近寄れませんのよ!」
有象無象に一括りされるほどに弱い魔物ならばいいが、夏の虫のように光に引き寄せられる魔物はいないのだろうな。
ビビアナがPSG-1のマガジンを一撫でして構え、1発発射した。
数秒後に上空からの白い光で門の周囲が照らされる。
「これは軍でもなかなか見ない輝きですわね。まるで昼間のようです」
「あそこ、何体かいるな」
今度はカミラが三八式歩兵銃を構え撃ちはじめる。
カミラは近接戦闘のスペシャリストではあるが、こと狙撃に関しても超一流だ。射程だけならイザベルよりも短いが、有視界での見越し射撃の腕前だけなら“必中”を使わないイザベルよりも上かもしれない。
双眼鏡越しに屍食鬼の胸が弾けるのが見える。
「私も負けてられませんわ!」
今度はビビアナがPSG-1から貫通/浄化魔法と光魔法を交互に放つ。
「あらあら。対抗手段が見つかったらこれですか。まったく血の気の多い事ですわ」
2人の姿を見て呆れたようにソフィアが肩を竦めた。
この夜はイルミナを使えるビビアナ、ソフィア、アリシアを中心に見張りのシフトを組み、警戒と適時排除を行った。
街に生存者がいるのなら門を照らす強烈な光に気付いたはずだ。
16
お気に入りに追加
1,731
あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる