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190.威力偵察②(8月16日)
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ドローンが映し出す映像を頼りにイザベルが放ったAT弾は、少なくとも治癒魔法と浄化魔法、そしてそれら2つの重ね掛けではマルチェナの街に迫る屍食鬼に効果は無かった。
これが最後とばかりに更に貫通魔法の3重掛けをしたAT弾が屍食鬼に着弾した瞬間、これまでの3発で見られたよりも強い、金色の光が屍食鬼を包んだのである。
◇◇◇
「何が……」
倒れ込んだ1体を他の屍食鬼が一斉に取り囲む。
「アリシア、もっと近寄ってくれ」
「了解です」
「ねぇ、こいつの肌の色、普通になってない?」
「まさか。光の加減では?」
「違うよ!やっぱりそうだ。日焼けした肌みたいな色になってるよ!」
「そう言われれば痣のような色ではなくなっているな。カズヤ殿、どういうことだろう」
「わからない。イザベル、さっきの弾は奴の体内に食い込んだんだよな」
「うん。でも貫いてはいないよ。こう、こっちの肩から入って、だいたい心臓の位置で止まってるはず」
「心臓の……まさか……」
「どうしたカミラ。何か思い当たったか?」
「あの大きな魔石を直接浄化したんだとしたら、それでネクロファゴではなくなった可能性はあるかもしれない」
「なあ、浄化魔法ってのは“不死者”のような動く死体や骨だけの魔物を倒す魔法だと思っているんだが、間違いないか?」
「不死者……そうですわね。ネクロファゴも“不死者”には違いないので浄化魔法が効くのは当然ですわ」
「問題はさっきまで効かなかった浄化魔法が、どうして貫通魔法も併用したら効果があったかってことじゃないですか?あ、そろそろドローン戻していいですか?」
「いやアリシア、もうちょっと耐えてくれ。イザベル、すまないがもう1発試してもらえるか?浄化魔法と貫通魔法だけの効果を試してみたい」
「わかった。ビビアナ、お願い」
「大丈夫ですの?」
「まぁヤレると思う。じゃあ行くよ」
イザベルの固有魔法“必中”には1日で発動できる回数に制限がある。目視外から狙撃している今の距離でなら3~5回が限界らしい。そしてこれが5回目だ。1日という単位が24時間なのか、あるいは次の日の出でリセットされるのかは俺にはわからない。確かなのはしばらくの間、彼女の固有魔法を当てにできなくなるということだ。
イザベルが放ったAT弾は次の標的に着弾し、先程と同じように強い光を放った。
「どう?」
「さっきと同じですわ。紫色の肌から普通の肌の色に戻っていますわね」
「ねぇ!もうドローン戻すよ!」
返事を待たずにアリシアがドローンの舵を大きく切る。
偵察機や偵察衛星などないこの世界で、最大4kmもの距離を隔てた先の視界を確保できるドローンの優位性をアリシアは良く理解している。この機体を失うわけにはいかないのだ。
ドローンが戦域を離れるとほぼ同時にイザベルが倒れ込んだ。意識を失ったわけではない。直前に“必中”を使っていなければ貧血を疑うところだ。
「お兄ちゃん……疲れたぁ」
抱き起こす俺の首にしがみ付いて歯を立ててくるぐらいだから特に問題はないだろう。砦の中央部に張ったテントで少し休ませる事にする。
◇◇◇
ルイサにイザベルの介抱を頼み、皆のところに戻る。
カミラとソフィアが難しい顔をしていた。
「日が落ちると監視が難しくなるな。篝火でも焚きに行くか」
「そうですわね。火が焚かれていれば魔物の跋扈も防げるでしょうに。どうしてそんな事もしないのかしら」
「薪が尽きたか、そもそもまともな生者がいるのか?」
「女の子はいましたわ」
「あの子がネクロファゴでないという確証はないぞ」
「人間でないという確証もありませんわ」
ドローンを戻しイザベルを介抱している間にすっかり陽が落ちたのだ。日中はよく見えていたマルチェナの街の門がすっかり闇に包まれている。
「カズヤ!こう暗くては監視にも支障がある。何か策はないか?」
「そうですね……照明弾でもあれば……」
「しょうめいだん?」
「ああ。イルミナといったか。光魔法の効果を持続させれば代用できるかもしれない」
「イルミナは光球を打ち上げ自然落下させる魔法ですが、風魔法の力を借りれば上空に留まらせることも出来るかもしれませんわね」
「あら、私の出番ですの?」
そういえばアルマンソラで盗賊を捕らえた時、ビビアナの放ったイルミナの魔法は正しく照明弾のそれだった。
「ビビアナ、頼めるか?」
「もちろんですわ。私の光魔法があれば、そんじょそこらの有象無象は近寄れませんのよ!」
有象無象に一括りされるほどに弱い魔物ならばいいが、夏の虫のように光に引き寄せられる魔物はいないのだろうな。
ビビアナがPSG-1のマガジンを一撫でして構え、1発発射した。
数秒後に上空からの白い光で門の周囲が照らされる。
「これは軍でもなかなか見ない輝きですわね。まるで昼間のようです」
「あそこ、何体かいるな」
今度はカミラが三八式歩兵銃を構え撃ちはじめる。
カミラは近接戦闘のスペシャリストではあるが、こと狙撃に関しても超一流だ。射程だけならイザベルよりも短いが、有視界での見越し射撃の腕前だけなら“必中”を使わないイザベルよりも上かもしれない。
双眼鏡越しに屍食鬼の胸が弾けるのが見える。
「私も負けてられませんわ!」
今度はビビアナがPSG-1から貫通/浄化魔法と光魔法を交互に放つ。
「あらあら。対抗手段が見つかったらこれですか。まったく血の気の多い事ですわ」
2人の姿を見て呆れたようにソフィアが肩を竦めた。
この夜はイルミナを使えるビビアナ、ソフィア、アリシアを中心に見張りのシフトを組み、警戒と適時排除を行った。
街に生存者がいるのなら門を照らす強烈な光に気付いたはずだ。
これが最後とばかりに更に貫通魔法の3重掛けをしたAT弾が屍食鬼に着弾した瞬間、これまでの3発で見られたよりも強い、金色の光が屍食鬼を包んだのである。
◇◇◇
「何が……」
倒れ込んだ1体を他の屍食鬼が一斉に取り囲む。
「アリシア、もっと近寄ってくれ」
「了解です」
「ねぇ、こいつの肌の色、普通になってない?」
「まさか。光の加減では?」
「違うよ!やっぱりそうだ。日焼けした肌みたいな色になってるよ!」
「そう言われれば痣のような色ではなくなっているな。カズヤ殿、どういうことだろう」
「わからない。イザベル、さっきの弾は奴の体内に食い込んだんだよな」
「うん。でも貫いてはいないよ。こう、こっちの肩から入って、だいたい心臓の位置で止まってるはず」
「心臓の……まさか……」
「どうしたカミラ。何か思い当たったか?」
「あの大きな魔石を直接浄化したんだとしたら、それでネクロファゴではなくなった可能性はあるかもしれない」
「なあ、浄化魔法ってのは“不死者”のような動く死体や骨だけの魔物を倒す魔法だと思っているんだが、間違いないか?」
「不死者……そうですわね。ネクロファゴも“不死者”には違いないので浄化魔法が効くのは当然ですわ」
「問題はさっきまで効かなかった浄化魔法が、どうして貫通魔法も併用したら効果があったかってことじゃないですか?あ、そろそろドローン戻していいですか?」
「いやアリシア、もうちょっと耐えてくれ。イザベル、すまないがもう1発試してもらえるか?浄化魔法と貫通魔法だけの効果を試してみたい」
「わかった。ビビアナ、お願い」
「大丈夫ですの?」
「まぁヤレると思う。じゃあ行くよ」
イザベルの固有魔法“必中”には1日で発動できる回数に制限がある。目視外から狙撃している今の距離でなら3~5回が限界らしい。そしてこれが5回目だ。1日という単位が24時間なのか、あるいは次の日の出でリセットされるのかは俺にはわからない。確かなのはしばらくの間、彼女の固有魔法を当てにできなくなるということだ。
イザベルが放ったAT弾は次の標的に着弾し、先程と同じように強い光を放った。
「どう?」
「さっきと同じですわ。紫色の肌から普通の肌の色に戻っていますわね」
「ねぇ!もうドローン戻すよ!」
返事を待たずにアリシアがドローンの舵を大きく切る。
偵察機や偵察衛星などないこの世界で、最大4kmもの距離を隔てた先の視界を確保できるドローンの優位性をアリシアは良く理解している。この機体を失うわけにはいかないのだ。
ドローンが戦域を離れるとほぼ同時にイザベルが倒れ込んだ。意識を失ったわけではない。直前に“必中”を使っていなければ貧血を疑うところだ。
「お兄ちゃん……疲れたぁ」
抱き起こす俺の首にしがみ付いて歯を立ててくるぐらいだから特に問題はないだろう。砦の中央部に張ったテントで少し休ませる事にする。
◇◇◇
ルイサにイザベルの介抱を頼み、皆のところに戻る。
カミラとソフィアが難しい顔をしていた。
「日が落ちると監視が難しくなるな。篝火でも焚きに行くか」
「そうですわね。火が焚かれていれば魔物の跋扈も防げるでしょうに。どうしてそんな事もしないのかしら」
「薪が尽きたか、そもそもまともな生者がいるのか?」
「女の子はいましたわ」
「あの子がネクロファゴでないという確証はないぞ」
「人間でないという確証もありませんわ」
ドローンを戻しイザベルを介抱している間にすっかり陽が落ちたのだ。日中はよく見えていたマルチェナの街の門がすっかり闇に包まれている。
「カズヤ!こう暗くては監視にも支障がある。何か策はないか?」
「そうですね……照明弾でもあれば……」
「しょうめいだん?」
「ああ。イルミナといったか。光魔法の効果を持続させれば代用できるかもしれない」
「イルミナは光球を打ち上げ自然落下させる魔法ですが、風魔法の力を借りれば上空に留まらせることも出来るかもしれませんわね」
「あら、私の出番ですの?」
そういえばアルマンソラで盗賊を捕らえた時、ビビアナの放ったイルミナの魔法は正しく照明弾のそれだった。
「ビビアナ、頼めるか?」
「もちろんですわ。私の光魔法があれば、そんじょそこらの有象無象は近寄れませんのよ!」
有象無象に一括りされるほどに弱い魔物ならばいいが、夏の虫のように光に引き寄せられる魔物はいないのだろうな。
ビビアナがPSG-1のマガジンを一撫でして構え、1発発射した。
数秒後に上空からの白い光で門の周囲が照らされる。
「これは軍でもなかなか見ない輝きですわね。まるで昼間のようです」
「あそこ、何体かいるな」
今度はカミラが三八式歩兵銃を構え撃ちはじめる。
カミラは近接戦闘のスペシャリストではあるが、こと狙撃に関しても超一流だ。射程だけならイザベルよりも短いが、有視界での見越し射撃の腕前だけなら“必中”を使わないイザベルよりも上かもしれない。
双眼鏡越しに屍食鬼の胸が弾けるのが見える。
「私も負けてられませんわ!」
今度はビビアナがPSG-1から貫通/浄化魔法と光魔法を交互に放つ。
「あらあら。対抗手段が見つかったらこれですか。まったく血の気の多い事ですわ」
2人の姿を見て呆れたようにソフィアが肩を竦めた。
この夜はイルミナを使えるビビアナ、ソフィア、アリシアを中心に見張りのシフトを組み、警戒と適時排除を行った。
街に生存者がいるのなら門を照らす強烈な光に気付いたはずだ。
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