上 下
191 / 238

190.威力偵察②(8月16日)

しおりを挟む
ドローンが映し出す映像を頼りにイザベルが放ったAT弾は、少なくとも治癒魔法と浄化魔法、そしてそれら2つの重ね掛けではマルチェナの街に迫る屍食鬼ネクロファゴに効果は無かった。
これが最後とばかりに更に貫通魔法の3重掛けをしたAT弾が屍食鬼に着弾した瞬間、これまでの3発で見られたよりも強い、金色の光が屍食鬼を包んだのである。

◇◇◇

「何が……」

倒れ込んだ1体を他の屍食鬼が一斉に取り囲む。

「アリシア、もっと近寄ってくれ」

「了解です」

「ねぇ、こいつの肌の色、普通になってない?」

「まさか。光の加減では?」

「違うよ!やっぱりそうだ。日焼けした肌みたいな色になってるよ!」

「そう言われれば痣のような色ではなくなっているな。カズヤ殿、どういうことだろう」

「わからない。イザベル、さっきの弾は奴の体内に食い込んだんだよな」

「うん。でも貫いてはいないよ。こう、こっちの肩から入って、だいたい心臓の位置で止まってるはず」

「心臓の……まさか……」

「どうしたカミラ。何か思い当たったか?」

「あの大きな魔石を直接浄化したんだとしたら、それでネクロファゴではなくなった可能性はあるかもしれない」

「なあ、浄化魔法ってのは“不死者”のような動く死体や骨だけの魔物を倒す魔法だと思っているんだが、間違いないか?」

「不死者……そうですわね。ネクロファゴも“不死者”には違いないので浄化魔法が効くのは当然ですわ」

「問題はさっきまで効かなかった浄化魔法が、どうして貫通魔法も併用したら効果があったかってことじゃないですか?あ、そろそろドローン戻していいですか?」

「いやアリシア、もうちょっと耐えてくれ。イザベル、すまないがもう1発試してもらえるか?浄化魔法と貫通魔法だけの効果を試してみたい」

「わかった。ビビアナ、お願い」

「大丈夫ですの?」

「まぁヤレると思う。じゃあ行くよ」

イザベルの固有魔法“必中”には1日で発動できる回数に制限がある。目視外から狙撃している今の距離でなら3~5回が限界らしい。そしてこれが5回目だ。1日という単位が24時間なのか、あるいは次の日の出でリセットされるのかは俺にはわからない。確かなのはしばらくの間、彼女の固有魔法を当てにできなくなるということだ。

イザベルが放ったAT弾は次の標的に着弾し、先程と同じように強い光を放った。

「どう?」

「さっきと同じですわ。紫色の肌から普通の肌の色に戻っていますわね」

「ねぇ!もうドローン戻すよ!」

返事を待たずにアリシアがドローンの舵を大きく切る。
偵察機や偵察衛星などないこの世界で、最大4kmもの距離を隔てた先の視界を確保できるドローンの優位性をアリシアは良く理解している。この機体を失うわけにはいかないのだ。

ドローンが戦域を離れるとほぼ同時にイザベルが倒れ込んだ。意識を失ったわけではない。直前に“必中”を使っていなければ貧血を疑うところだ。

「お兄ちゃん……疲れたぁ」

抱き起こす俺の首にしがみ付いて歯を立ててくるぐらいだから特に問題はないだろう。砦の中央部に張ったテントで少し休ませる事にする。

◇◇◇

ルイサにイザベルの介抱を頼み、皆のところに戻る。
カミラとソフィアが難しい顔をしていた。

「日が落ちると監視が難しくなるな。篝火でも焚きに行くか」

「そうですわね。火が焚かれていれば魔物の跋扈も防げるでしょうに。どうしてそんな事もしないのかしら」

「薪が尽きたか、そもそもまともな生者がいるのか?」

「女の子はいましたわ」

「あの子がネクロファゴでないという確証はないぞ」

「人間でないという確証もありませんわ」

ドローンを戻しイザベルを介抱している間にすっかり陽が落ちたのだ。日中はよく見えていたマルチェナの街の門がすっかり闇に包まれている。

「カズヤ!こう暗くては監視にも支障がある。何か策はないか?」

「そうですね……照明弾でもあれば……」

「しょうめいだん?」

「ああ。イルミナといったか。光魔法の効果を持続させれば代用できるかもしれない」

「イルミナは光球を打ち上げ自然落下させる魔法ですが、風魔法の力を借りれば上空に留まらせることも出来るかもしれませんわね」

「あら、私の出番ですの?」

そういえばアルマンソラで盗賊を捕らえた時、ビビアナの放ったイルミナの魔法は正しく照明弾のそれだった。

「ビビアナ、頼めるか?」

「もちろんですわ。私の光魔法があれば、そんじょそこらの有象無象は近寄れませんのよ!」

有象無象に一括りされるほどに弱い魔物ならばいいが、夏の虫のように光に引き寄せられる魔物はいないのだろうな。
ビビアナがPSG-1のマガジンを一撫でして構え、1発発射した。
数秒後に上空からの白い光で門の周囲が照らされる。

「これは軍でもなかなか見ない輝きですわね。まるで昼間のようです」

「あそこ、何体かいるな」

今度はカミラが三八式歩兵銃を構え撃ちはじめる。
カミラは近接戦闘のスペシャリストではあるが、こと狙撃に関しても超一流だ。射程だけならイザベルよりも短いが、有視界での見越し射撃の腕前だけなら“必中”を使わないイザベルよりも上かもしれない。

双眼鏡越しに屍食鬼の胸が弾けるのが見える。

「私も負けてられませんわ!」

今度はビビアナがPSG-1から貫通/浄化魔法と光魔法を交互に放つ。

「あらあら。対抗手段が見つかったらこれですか。まったく血の気の多い事ですわ」

2人の姿を見て呆れたようにソフィアが肩を竦めた。

この夜はイルミナを使えるビビアナ、ソフィア、アリシアを中心に見張りのシフトを組み、警戒と適時排除を行った。
街に生存者がいるのなら門を照らす強烈な光に気付いたはずだ。
しおりを挟む
感想 230

あなたにおすすめの小説

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

修学旅行のはずが突然異世界に!?

中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。 しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。 修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!? 乗客たちはどこへ行ったのか? 主人公は森の中で一人の精霊と出会う。 主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...