異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫

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53.アルカンダラに向かう(5月14日)

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何がなんだかさっぱりわからないという俺の顔に気付いたのか、アリシアが説明してくれる。

「えっとですね。この辺りは昔からアラーナの目撃情報があるんです。実際に襲われた人もいるとか。アラーナは人間に化けますから、アラーナではないかの確認を火打ち石でやるんです」

はい??アラーナって半人半魔の蜘蛛の魔物だったよな?それが人間に化ける?

「お嬢さん、それは説明になっていないぞ。アラーナ、つまり蜘蛛の魔物だが、他の生き物を捕らえて喰らう肉食という点で蜘蛛と同じだ。この肉食の生き物は総じて魔物になりやすい。おそらく魔素を体内に取り込む過程で、何らかの変質が起きるんだろう」

見かねたルイスさんが解説してくれる。
ふむ。そこまでは理解できる。アリシアやアイダ達も食事から魔力を補給している。イザベルは俺の首筋に噛み付いて補給しているようだが、結局は経口摂取なのだ。

「アラーナだが、最初は普通の蜘蛛だったのだろう。その蜘蛛が他の生き物、昆虫や小動物型の魔獣を喰らうことで、徐々に大きく強い魔物になっていった。しかもその過程で、喰らった他の生き物の姿に擬態する魔法を獲得した個体が現れた。一定数以上の人間を喰った個体は、人間に擬態することが出来るらしい」

人に化ける巨大な蜘蛛。それが半人半魔と言われる理由か。

「それでだ。アラーナが目撃された場所で、例えば向こうから誰か来たとしよう。その誰かがアラーナではないという確認を、どうやってやればいいのだろう?」

本性を現すまで待つことはできない。こちらが化けグモに負けないほどの武力か魔法を使えるなら別だが、ほとんどの場合はそう上手くはいかないだろう。

「その確認が、さっきの火打ち石なのですか?」

「その通りだ。殆どの魔物は本能的に火を嫌がる。もちろん自身が火を放つ魔物もいるが、アラーナの場合は小さな火花でも怯えるらしい。それで、アラーナが出没する地方では特に、互いに切り火をする習慣が生まれた」

切り火。日本でも厄除けのために同様の儀式を行う習慣が残っている。

「もちろん火魔法を行使できる者や、近くに焚き火などがあれば、わざわざ切り火で確認するまでもない。だがそんな事で貴重な魔力を消費するのもな」

「そのアラーナですが、やはり蜘蛛からアラーナに成長しているものなのでしょうか?例えば蜘蛛に魔石を喰わせたり大量の魔力を浴びせると、アラーナに変化するのでしょうか?」

魔物はいったいどこから生まれるのか。
元々は普通の生き物として生まれるのか、あるいはこの地に生まれた時から魔物なのか。
前者ならば、ハボーサのように突然100匹を超える魔物が大挙して現れたのは何故か。
後者のように、魔物から魔物が生まれるとすれば、大量発生の過程は想像できるのだが。

「あ!そういう事なら、私のお父さんに聞くのが早いかもしれません!」

突然アリシアが声を上げた。

「私のお父さんはアルカンダラで魔物の研究をしています。もしかしたらカズヤさんの疑問についての答えを知っているかもしれません」

「ほう……アルカンダラで魔物の研究を?失礼だがお父上のお名前は?」

なぜかルイスさんが反応した。

「父の名前はルイス・ガルセスです。そういえばルイスさんの家名とお父さんの名前が同じですね!」

「ガルセス殿か!俺が若い頃、それこそお前さん達ぐらいの年齢の頃に一緒に旅をした事がある。もう20年近く前の話だ。当時は荷馬車を連ねる隊商の一員だったから護衛として雇うカサドールの数も多かった。ガルセス殿とは名前が同じというきっかけで意気投合したのだ」

「えっ!?お父さんってカサドールだったんですか!?」

「聞いていなかったのか?お父上はカサドールの中でも数少ない魔導士だった。当時はまだ若い方だったが、お父上の博識と知恵は抜きん出ていた。俺の魔物の知識は、ほとんどがお父上の受け売りだ」

「そうだったんですね!父の下には時々お客様が訪ねて来るぐらいで、ずっと書斎にいる人だと思っていたので……ちょっとびっくりしました」

「お父上はご健在だろうか?是非お会いしたいものだ」

「はい。と言っても養成所に入ってからは会ってはいないので。手紙のやり取りはしていますが、元気なようです!」


そんな話を聞きながら、アルカンダラへの道を進む。
アップダウンの少ない道とはいえ、やはり緩やかに登っていっているようだ。

イザベルとアイダは相変わらず寄り道をしては全力ダッシュを繰り返し、ノイチゴや果物をみんなに振る舞ってくれる。そういえばアイダやアリシアもポケットに干し肉や堅焼きパンを忍ばせているし、摘み食いも大事な栄養補給なのだろう。

ともかく、アルカンダラに着いてからの行動方針が決まった。
まずはアリシア達の宿舎に行って、身なりを整える。
養成所への報告は翌日にして、アリシア達は宿舎に泊まる。その間、俺は一旦家に帰る。一時的にせよ離れ離れになることをアリシアとイザベルが嫌がるが、アイダの一言で大人しくなった。

「アリシア、それにイザベル。カズヤ殿も宿舎に泊まってもらうとして、誰が寮母さんと寮監を説得するんだ?」

「うへえ……ごめんお兄ちゃん。それ無理だ」

「うん……諦めます。でも絶対朝には戻ってきてくださいね!」

どうやら寮母さんと寮監さんは怖い人らしい。

養成所以降の予定は未定だが、計画としてはアリシアのお父上の話は聞きたいし、今後どうするにせよアルカンダラの事は知っておいて損はなさそうだし、知己は多い方がいい。修学旅行っぽく市内観光でもやるか。

これまでの道中では、特に魔物に出くわす事もなかった。何かの気配を遠くに探知はしたが、近づいてくるわけでもなかった。
昼頃に昼食休憩に入る。
当然のようにイザベルがアイダを伴って狩りに出かけた。俺とアリシアは火を起こして二人の帰りを待つ。

◇◇◇

手持ち無沙汰になった俺は、少し離れた場所で一服する。そういえば煙草もほとんど吸わなくなったが……隣を見るとルイスさんが近づいてきた。

「それは……cáñamoの葉を吸っているのか?」

カナーモ?何だそれは。

「カナーモは背の高い草だ。葉は手のひらのような形で縁がギザギザ。茎から取れる長い繊維は布の原料になっているだろう。お嬢ちゃんの誰かもカナーモの生地を身につけていたように思うが」

ああ!麻か。残念ながらこれは大麻ではない。煙草だ。
ということは、大麻を喫煙する習慣はあるのだろうか。

「これはタバコといって、カナーモではありません。俺の地元で取れる葉を乾燥させ風味を付けたものです。そのカナーモと言うのは、同じように煙を吸う物なのですか?」

「そうだ。もっとも誰でも扱うものではない。神職や魔導師が、己の限界を超えた場所に精神を高めるために使うと聞いている。お前さんもそうなのかと思ってな。ここでカナーモを使うということは、この先に何かの苦難があるのかと心配になっただけだ」

「それは無用のご心配をおかけしました。今のところ魔物の気配はありませんので、ご安心ください。そろそろあの2人も帰ってくるでしょう」

「そうか。わかった。それにしても、いつも4人で旅をしているのか?なかなか息の合ったパーティードだと思うが」

「そうですね…俺は知り合ってまだ2週間といったところです。あの子達は養成所からの友達のようですが」

「ほう……その短期間ですっかり心を許されたか。精神魔法を使ったのではあるまいな?」

「まさか。でも、人の心を操る魔法があるのですか?」

「鎮静や高揚、暗示、睡眠も精神魔法の一つだ。普通は自分に対して行使することが多いが、他者への攻撃で使うこともある。魔法とは知識量が勝負だ。自身がその魔法を使えなくても、その魔法に対する正しい知識があれば切り抜けられることもある。アルカンダラで特に予定が無いのなら、養成所に入って学ぶという選択肢もあるぞ?」

今さら学生に戻ると考えれば抵抗もあるが、社会人教育と考えればアリかもしれない。
とりあえず雰囲気など見てみてからだな。



焚き火の場所に戻ると、イザベル達が何かを捌いて串焼きにしていた。

「おかえり!すぐできるからちょっと待っててね!」

狩ってきたのはウサギのようだ。
アリシアが焼いているのは、小麦粉を薄焼きにしたピタか。

「カズヤ殿の調味料を少々使わせていただきました。ルイスさんもよかったらどうぞ」

出来上がった料理をアイダが配ってくれた。
ウサギ肉に醤油を塗って焼いたものを、ピタに挟んでいる。

「ほう…この調味料は初めて食べる味だ。香ばしくて肉の臭みを消している。どこで手に入るのだ?」

「俺の地元ですが、別にどこでも作れると思いますよ?」

「本当か!?是非売ってくれ!!液物なら俺が買い上げるから!」

ひょんなところで商談になってしまった。
醤油や味噌の作り方は知識としては知っている。
大豆も手に入るようだし、酵母さえ入手できれば、仕込むこと自体は難しくないかもしれない。

そんな感じで昼食を終えた俺達は、アルカンダラまでの残りの道中に戻る。
このペースなら、日が暮れる前にはアルカンダラに辿り着けるらしい。
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