兄がΩ 〜うっかり兄弟で番いましたが、今日も楽しく暮らしています。〜

文字の大きさ
上 下
52 / 86

○今年の目標。

しおりを挟む
 酒も煙草もやらない不便さを、正月二日から思い知らされ、挫けそうだ。親類が大集合した本家の宴席。俺は食いたくもねえご馳走を、ひたすら口に詰め込んだ。そうでもしねぇと、間が持たねぇ。
 ロースハムを茶で流し込んでいる最中、肩をツンツンとつつかれた。誓二せいじさんだ。
「ちょっと出ようよ。外の空気に当たろう」
 席を外すいい機会だ。俺は立ち上がり、誓二さんのあとに着いていった。
「もっとこっちに寄れば?」
「断る」
 煙草をくゆらす誓二さんから、一間くらいの幅を取って俺はしゃがむ。だが食いすぎて腹が苦しくて、すぐに立つ。
「アキが禁酒禁煙だなんて、どういう風の吹きまわしだか」
「番も出来たことだし、真面目に生きることにしたの。将来を考えて貯金もしなきゃ」
「Ωはそんな心配、しなくていい」
 誓二さんはぴしゃりと言った。またそれだ。ムカつくなぁ。
「与えるのはあくまでαの役目。Ωはそれを喜んで受け入れ、子を産み育てることに注力するのが務めだ。弟を立派なヒモに育て上げることではなく、ね」
 そんな嫌味を、穏やかな笑顔を崩さずに言う。
「あんたには関係ないだろ」
 一々、真っ向から突っかかるなんて、反抗期のガキみたいでカッコ悪いと自分でも思う。だがつい、イライラしちゃうんだよな。
「今は、Ω特有の情がお前を支配しているだけだ。なあアキ、本当は分かってるんだろう。お前の真の相手は俺だって。運命の番の絆は、何びとにだって切れやしないよ」
 反応するな、自制しろ。この人の言う世迷言なんか、言い返す価値もねぇ。この人は本気で俺のことが欲しい訳じゃない。ただ、自分が今までの人生で沢山のものを無くしたことを、「無くした甲斐があった」と思いたいだけなんだ。「運命の番」を得られれば全てが上手くいくって信じてるだけ。運命なんてそんなもん、あるわけがないのに。
 誓二さんは革靴の爪先で煙草をもみ消すと、ゆっくりした足取りで、俺に近づいた。
「悪かったよ。長い間、寂しい思いをさせて」
 まるでガキにするように、誓二さんは俺の頭の上に大きな手をぽんと置く。
「でも信じてくれ。それはお前を正式な番として迎えるための、準備をしていただけだから。年内にはお前を番にするのが、俺の2004年の目標」
 無理矢理にはしないから安心しろと言って、誓二さんは踵を返した。母屋に戻る誓二さんと入れ違いに、知玄が玄関から出てきた。
「お兄さーんっ」
 犬みたいにダッシュしてきて、俺がよろけるのにも構わず飛びついてきた。
「お兄さん、初詣に行きましょう!」
「お前、昨日ダチと年越し初詣に行ってたじゃん」
「お兄さんとは“初”詣でしょ」
 なんて言って、知玄は着ていたダウンを脱いで俺の肩に羽織らせた。袖に腕を通せば、知玄は少し屈んで、甲斐甲斐しくボタンを一個一個留めてくれた。が、それが終わった途端、プッと吹き出した。
「パッツパツですね」
「だろうよ。腕上がんないもん、ほれ」
 俺が腕を振って見せると、知玄は腹を抱えて笑った。俺はチビだが腕が筋肉で太いから、知玄の着るような細身のジャケットは、似合わんだろう。
「さて、行くか」
 我らが氏神のボロい神社まで。ほんの数分の道程を、俺達は歩き出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

処理中です...