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◯熱に浮かされて。
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自分がしんどいからというより、知玄に心配されるのが面倒で、親父に話をつけた。俺の代打として高志さんに来てもらうってことで。はぁ、持つべきものはプータローの先輩だな。
ついでに着信履歴を見たら、公衆電話からかかってきていた。誰だよ……と思ったのを最後に、意識がとんだ。
頭が重いのに、身体がふわふわして、暑かったり寒かったり。毛布を蹴飛ばしたと思ったら、いつの間にかすっぽりくるまってたりして。少し寝て、目が覚めての繰り返し。発情期の最高に酷かった時期みたいだ。
外からプラントの出す騒音と蝉のやかましい鳴き声が聴こえてくる。痛む頭にビンビン響く。自分の熱い息が毛布に跳ね返って顔にかかるのも不快だ。そしてまた、毛布を蹴飛ばす。
夢を見た。暗闇の中にテレビが点いている。野性動物のドキュメンタリー番組だ。肉食動物が草食動物を捕食するところ。俺は毛布に鼻の上までくるまってそれを観ている。こういう番組を観るのは久しぶりだ。家でも元カノの家でもダチん家でも、お笑いとかバラエティー番組ばかりだった。
「お前はこういうのが好きだね」
声は、背中に寄り添う胸から、心地よい振動として伝わってくる。俺は毛布の中でもぞもぞと寝返りを打った。あんたの寛げられた胸元に鼻面を押し込み肌の匂いを嗅ぐ。心地いいαの匂い。「運命の番」の匂い。はだけた毛布をあんたは丁寧に掛け直し、毛布の上から背中を撫でてくれる。
「ねぇ」
声が掠れている。一日中あんたの名前を呼んでいたせいだ。俺はあんたの手首を捕まえて、その掌を俺の首の急所に押し当てる。
「ここ咬んで。もう辛い、耐えらんない」
「ダメ。Ωになるのは嫌だって、自分で言ったんだろ?」
「意地悪」
「お休みの時間だ」
あんたは俺を毛布ごと抱き上げる。ソファの背後に置かれたマットレスに、俺があんたの匂いの着いたものを溜め込んで作り上げた寝床。そこに俺を降ろし、そのままあんたは俺に覆いかぶさる。首筋を熱い舌が這う。ぴちゃぴちゃと舐る音は動物が仔の毛を繕う音にも、獲物の骨から肉の繊維をこそげ取る音にも聴こえ、俺の思考をぐずぐずに溶かしていく。なのにあんたは俺の首に吸い痕を一つ残しただけで、
「番になるなら、お前が大人になってからな」
って言う。
こんな夢を見るって、相当弱ってるのかな。
汗をかいてべたべたな額に、冷たいものが押し当てられた。濡れタオルで顔を丁寧に拭かれる。瞼が冷やされると気持ち良い。もっとして欲しくてタオルを持つ手を掴んだ。細い手首……誰?
「お兄さん」
知玄か。ずっとそこにいたのか? 聞こうとしたが声が出なかった。目を開けると知玄の顔が思ったより至近距離にあった。
「だいぶ顔色が戻りましたね」
言われてみれば、寝る前より身体が楽になったようだ。俺が頷くと、知玄は満面の笑みを見せた。
「ところでお兄さん」
知玄は俺の手元を指差して言った。
「もしかして、電話かメール待ちですか? ずっと携帯、握り締めてますけど」
いいや。お前が側にいてくれるんならいいんだ。俺はシーツの上に携帯を置いた。
ついでに着信履歴を見たら、公衆電話からかかってきていた。誰だよ……と思ったのを最後に、意識がとんだ。
頭が重いのに、身体がふわふわして、暑かったり寒かったり。毛布を蹴飛ばしたと思ったら、いつの間にかすっぽりくるまってたりして。少し寝て、目が覚めての繰り返し。発情期の最高に酷かった時期みたいだ。
外からプラントの出す騒音と蝉のやかましい鳴き声が聴こえてくる。痛む頭にビンビン響く。自分の熱い息が毛布に跳ね返って顔にかかるのも不快だ。そしてまた、毛布を蹴飛ばす。
夢を見た。暗闇の中にテレビが点いている。野性動物のドキュメンタリー番組だ。肉食動物が草食動物を捕食するところ。俺は毛布に鼻の上までくるまってそれを観ている。こういう番組を観るのは久しぶりだ。家でも元カノの家でもダチん家でも、お笑いとかバラエティー番組ばかりだった。
「お前はこういうのが好きだね」
声は、背中に寄り添う胸から、心地よい振動として伝わってくる。俺は毛布の中でもぞもぞと寝返りを打った。あんたの寛げられた胸元に鼻面を押し込み肌の匂いを嗅ぐ。心地いいαの匂い。「運命の番」の匂い。はだけた毛布をあんたは丁寧に掛け直し、毛布の上から背中を撫でてくれる。
「ねぇ」
声が掠れている。一日中あんたの名前を呼んでいたせいだ。俺はあんたの手首を捕まえて、その掌を俺の首の急所に押し当てる。
「ここ咬んで。もう辛い、耐えらんない」
「ダメ。Ωになるのは嫌だって、自分で言ったんだろ?」
「意地悪」
「お休みの時間だ」
あんたは俺を毛布ごと抱き上げる。ソファの背後に置かれたマットレスに、俺があんたの匂いの着いたものを溜め込んで作り上げた寝床。そこに俺を降ろし、そのままあんたは俺に覆いかぶさる。首筋を熱い舌が這う。ぴちゃぴちゃと舐る音は動物が仔の毛を繕う音にも、獲物の骨から肉の繊維をこそげ取る音にも聴こえ、俺の思考をぐずぐずに溶かしていく。なのにあんたは俺の首に吸い痕を一つ残しただけで、
「番になるなら、お前が大人になってからな」
って言う。
こんな夢を見るって、相当弱ってるのかな。
汗をかいてべたべたな額に、冷たいものが押し当てられた。濡れタオルで顔を丁寧に拭かれる。瞼が冷やされると気持ち良い。もっとして欲しくてタオルを持つ手を掴んだ。細い手首……誰?
「お兄さん」
知玄か。ずっとそこにいたのか? 聞こうとしたが声が出なかった。目を開けると知玄の顔が思ったより至近距離にあった。
「だいぶ顔色が戻りましたね」
言われてみれば、寝る前より身体が楽になったようだ。俺が頷くと、知玄は満面の笑みを見せた。
「ところでお兄さん」
知玄は俺の手元を指差して言った。
「もしかして、電話かメール待ちですか? ずっと携帯、握り締めてますけど」
いいや。お前が側にいてくれるんならいいんだ。俺はシーツの上に携帯を置いた。
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